22.Sweet seduction
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「!」
ドラコにはフォーラが何を言っているのか、その真意を汲み取ることができた。ドラコがかつてフォーラに打ち明けたこと―――ドラコが近いうちに死喰い人として学生の内にフォーラの傍を離れるかもしれないことについて、あの時の彼女はどんな彼でも受け入れて応援すると言ってくれた。しかし本当は……今彼女が発した言葉こそが本心だったのかもしれない。そう思うとドラコは胸がズキズキと痛みを帯び始めた。
フォーラは腕の力を緩めて抱擁を僅かに解き、ドラコの肩に埋めていた顔を上げて彼と視線を合わせた。彼女の瞳は申し訳なさや羞恥の色、そして物悲しさを含んで潤んでいたものだから、ドラコは自分の腕の中で彼女を哀しませていることを直に目の当たりにして些かショックを受けた。
「ごめんなさい、私ったら、貴方のやりたいことや目標を応援するって言ったのに。それで貴方が幸せになるなら、それでいいって言ったのに………。
今のはただの我儘なの。つい口から零れてしまっただけ。何だか幸せ過ぎて、急に悲しいことも一緒に込み上げてきてしまって……。貴方を応援する気持ちは変わらないから安心して。だからどうかさっきの言葉は忘れて―――」
フォーラが途中まで言葉を発した時、ドラコの指が彼女の目元を光らせている涙をそっと拭った。そして彼はそのまぶたに一つ短いキスを落とした。
「僕の方こそすまない。……君の気持ちを考えずに、自分の野望を押し付けてばかりで……」
ドラコはフォーラの瞳を慈しむように見据え、再び彼女の髪をそっと撫でた。
「……以前君に僕の本心を打ち明けた時、僕は例のあの人たちがやろうとしていること―――魔法界をマグルから守るという目的の達成を手伝うことで、父上の喜ぶ姿が見たいと話したと思う。それに純血の将来のため、僕が少しでも早く彼らのところに身を置くべきだということも」
「ええ、そうだったわね……。」
フォーラは少々眉を下げて彼の話に耳を傾けていた。きっとドラコは、彼自身の意志が強固であることを改めて伝えようとしているのだろう。彼女はそのように悟った。
「正直、君と距離を置いていた期間や君と心を通わせて直ぐの頃は、勿論父上や純血のためにいつでも動くつもりだったし、それなりに固い決心だってしていた」
すると、不意にフォーラの髪に触れるドラコの手が止まった。ドラコが続けた。
「その筈だったのに」
フォーラはドラコの言葉にこれまでとは違う違和感を覚えていた。『筈だった』とは、一体どういうことだろう?
「……ドラコ?」
すると彼は次第にその表情を崩し、物悲しさや彼自身に対する呆れ、そして悔しさの色を濃くしているようだった。
「……僕だって、フォーラの言うとおり―――まだ学生だということに甘えて、いつか父上から声が掛かるその時まで何も知らない振りをして……何も気負わずに、君とずっとこうしていたい。片時も君から離れずに傍にいたい……。
こんなにも君からの幸福で心地いい感情を受け取ってしまって、だからって僕はこれまで自分で考え抜いて決心したことを捨てたいと思ってしまうなんて」
「!」フォーラはドラコの言葉に少々驚きを隠せずにいた。
フォーラは先程、ドラコに『死喰い人にならずに傍にいてほしい』という本音をうっかり投げかけた。しかしそれは実のところ、思わず口を突いて出たのではなくこのタイミングでわざと伝えた言葉だった。彼がいつかこういった甘い雰囲気に絆され、首を縦に振ってくれる可能性があるならば……。そのようなことを彼女は心の内に抱え、ずっと機会を伺っていたのだ。
しかしまさかドラコの口から本当に迷いの言葉が聞けるなんて。フォーラは出来うる限り最大限の優しい笑みを見せ、彼がしてくれたように彼女もドラコの髪をそっと撫で返した。
「私から貴方に言えることは、以前と変わらないわ。だって私にも誰にも、貴方の生き方を縛る権利が無いから……。だから私は、ドラコがやりたいことをして、その結果幸せになってくれれば本当にそれでいいのよ。それが例え、貴方の予定どおり死喰い人の道を進むことでも、考えを変えて私と一緒に日々をおくってくれることでも。
勿論、さっき零した言葉が私の本音の一つなのは、否定しないけれどね……。ずっと隠していて、ごめんなさい。」
ドラコはフォーラが彼の髪を撫でる手つきに身を委ねながら、迷いの色で彼女の瞳を見つめていた。
「僕の幸せ……」
ドラコはそのように零した後で一度その視線をフォーラから逸らし、再び彼女の方を見た。
「僕も、少しは自分の欲に正直になってもいいんだろうか。本当に?」
「!……ええ、勿論よ。」
ドラコはまだ息苦しさのような迷いを感じているようだった。しかしフォーラの変わらぬ慈愛に満ちた瞳によって、彼は少しの安堵感と共に頭を彼女の肩へと載せた。彼女はまだドラコがどう決心したか分からなかったが、変わらずドラコの髪を撫でながら彼のことをきゅっと抱き締めた。
(私は、私にしかできない方法で―――恋人としてドラコを死喰い人の道から遠ざけられるのなら、幾らでも私からの愛と嘘を伝えるわ。せめて学生の間だけでも彼が死喰い人になるのを遅らせることができるのなら、それだけでも十分彼の安全のためには意味があることの筈)
フォーラはドラコが軽く抱き締め返してくるのを受け入れながら、彼の髪に軽く口付けした。
(ドラコが死喰い人になるなんて、絶対に嫌よ。貴方は私の嘘に騙されたまま、私の傍で大人たちの戦いが終わるのを一緒に待つの。そうして時がきたら……私はとうとう本当の私を貴方に見せなくちゃ。そしてその後は―――)
その後のことは正直どうなるか分からない。マグル生まれの自分は、純血主義の彼の元を立ち去るつもりではいるが……。以前のフォーラならそのことを思って悲しい表情を露わにしてしまっていただろう。しかし今の彼女はそうではなかった。
(段々と、嘘で身を固めてしまうことにも慣れてきた気がする。まるで、嘘を使った変身術を自分自身にかけているみたいに)
フォーラがそのように思って内心は自虐的な笑みを零した時、不意にドラコがゆっくりと頭を上げ、何処か物欲しさと不安を混ぜたような瞳でじっと彼女を見つめた。彼女は相変わらず取り繕ったとは思えない優しい瞳をドラコに向けていた。そしてそれに促されるようにして、ドラコはもう一度彼女と唇を重ねたのだった。
ドラコにはフォーラが何を言っているのか、その真意を汲み取ることができた。ドラコがかつてフォーラに打ち明けたこと―――ドラコが近いうちに死喰い人として学生の内にフォーラの傍を離れるかもしれないことについて、あの時の彼女はどんな彼でも受け入れて応援すると言ってくれた。しかし本当は……今彼女が発した言葉こそが本心だったのかもしれない。そう思うとドラコは胸がズキズキと痛みを帯び始めた。
フォーラは腕の力を緩めて抱擁を僅かに解き、ドラコの肩に埋めていた顔を上げて彼と視線を合わせた。彼女の瞳は申し訳なさや羞恥の色、そして物悲しさを含んで潤んでいたものだから、ドラコは自分の腕の中で彼女を哀しませていることを直に目の当たりにして些かショックを受けた。
「ごめんなさい、私ったら、貴方のやりたいことや目標を応援するって言ったのに。それで貴方が幸せになるなら、それでいいって言ったのに………。
今のはただの我儘なの。つい口から零れてしまっただけ。何だか幸せ過ぎて、急に悲しいことも一緒に込み上げてきてしまって……。貴方を応援する気持ちは変わらないから安心して。だからどうかさっきの言葉は忘れて―――」
フォーラが途中まで言葉を発した時、ドラコの指が彼女の目元を光らせている涙をそっと拭った。そして彼はそのまぶたに一つ短いキスを落とした。
「僕の方こそすまない。……君の気持ちを考えずに、自分の野望を押し付けてばかりで……」
ドラコはフォーラの瞳を慈しむように見据え、再び彼女の髪をそっと撫でた。
「……以前君に僕の本心を打ち明けた時、僕は例のあの人たちがやろうとしていること―――魔法界をマグルから守るという目的の達成を手伝うことで、父上の喜ぶ姿が見たいと話したと思う。それに純血の将来のため、僕が少しでも早く彼らのところに身を置くべきだということも」
「ええ、そうだったわね……。」
フォーラは少々眉を下げて彼の話に耳を傾けていた。きっとドラコは、彼自身の意志が強固であることを改めて伝えようとしているのだろう。彼女はそのように悟った。
「正直、君と距離を置いていた期間や君と心を通わせて直ぐの頃は、勿論父上や純血のためにいつでも動くつもりだったし、それなりに固い決心だってしていた」
すると、不意にフォーラの髪に触れるドラコの手が止まった。ドラコが続けた。
「その筈だったのに」
フォーラはドラコの言葉にこれまでとは違う違和感を覚えていた。『筈だった』とは、一体どういうことだろう?
「……ドラコ?」
すると彼は次第にその表情を崩し、物悲しさや彼自身に対する呆れ、そして悔しさの色を濃くしているようだった。
「……僕だって、フォーラの言うとおり―――まだ学生だということに甘えて、いつか父上から声が掛かるその時まで何も知らない振りをして……何も気負わずに、君とずっとこうしていたい。片時も君から離れずに傍にいたい……。
こんなにも君からの幸福で心地いい感情を受け取ってしまって、だからって僕はこれまで自分で考え抜いて決心したことを捨てたいと思ってしまうなんて」
「!」フォーラはドラコの言葉に少々驚きを隠せずにいた。
フォーラは先程、ドラコに『死喰い人にならずに傍にいてほしい』という本音をうっかり投げかけた。しかしそれは実のところ、思わず口を突いて出たのではなくこのタイミングでわざと伝えた言葉だった。彼がいつかこういった甘い雰囲気に絆され、首を縦に振ってくれる可能性があるならば……。そのようなことを彼女は心の内に抱え、ずっと機会を伺っていたのだ。
しかしまさかドラコの口から本当に迷いの言葉が聞けるなんて。フォーラは出来うる限り最大限の優しい笑みを見せ、彼がしてくれたように彼女もドラコの髪をそっと撫で返した。
「私から貴方に言えることは、以前と変わらないわ。だって私にも誰にも、貴方の生き方を縛る権利が無いから……。だから私は、ドラコがやりたいことをして、その結果幸せになってくれれば本当にそれでいいのよ。それが例え、貴方の予定どおり死喰い人の道を進むことでも、考えを変えて私と一緒に日々をおくってくれることでも。
勿論、さっき零した言葉が私の本音の一つなのは、否定しないけれどね……。ずっと隠していて、ごめんなさい。」
ドラコはフォーラが彼の髪を撫でる手つきに身を委ねながら、迷いの色で彼女の瞳を見つめていた。
「僕の幸せ……」
ドラコはそのように零した後で一度その視線をフォーラから逸らし、再び彼女の方を見た。
「僕も、少しは自分の欲に正直になってもいいんだろうか。本当に?」
「!……ええ、勿論よ。」
ドラコはまだ息苦しさのような迷いを感じているようだった。しかしフォーラの変わらぬ慈愛に満ちた瞳によって、彼は少しの安堵感と共に頭を彼女の肩へと載せた。彼女はまだドラコがどう決心したか分からなかったが、変わらずドラコの髪を撫でながら彼のことをきゅっと抱き締めた。
(私は、私にしかできない方法で―――恋人としてドラコを死喰い人の道から遠ざけられるのなら、幾らでも私からの愛と嘘を伝えるわ。せめて学生の間だけでも彼が死喰い人になるのを遅らせることができるのなら、それだけでも十分彼の安全のためには意味があることの筈)
フォーラはドラコが軽く抱き締め返してくるのを受け入れながら、彼の髪に軽く口付けした。
(ドラコが死喰い人になるなんて、絶対に嫌よ。貴方は私の嘘に騙されたまま、私の傍で大人たちの戦いが終わるのを一緒に待つの。そうして時がきたら……私はとうとう本当の私を貴方に見せなくちゃ。そしてその後は―――)
その後のことは正直どうなるか分からない。マグル生まれの自分は、純血主義の彼の元を立ち去るつもりではいるが……。以前のフォーラならそのことを思って悲しい表情を露わにしてしまっていただろう。しかし今の彼女はそうではなかった。
(段々と、嘘で身を固めてしまうことにも慣れてきた気がする。まるで、嘘を使った変身術を自分自身にかけているみたいに)
フォーラがそのように思って内心は自虐的な笑みを零した時、不意にドラコがゆっくりと頭を上げ、何処か物欲しさと不安を混ぜたような瞳でじっと彼女を見つめた。彼女は相変わらず取り繕ったとは思えない優しい瞳をドラコに向けていた。そしてそれに促されるようにして、ドラコはもう一度彼女と唇を重ねたのだった。