21. Brief Kisses
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さて、ドラコもフォーラもこの一年の埋め合わせをするように、時間を見つけては近くで過ごした。ただしそれは先述の忙しさ故に限られた時間だったし、殆ど友人を交えた中でしか叶わなかった。そんな様子を特にパンジーやルニーは間近に見ていたのだが、彼女たちには、どうにも彼らが見えない何かに追われているように映っていた。ドラコが将来、魔法使いや魔女の地位をマグルから取り戻すため、死喰い人になることを望んでいる。そのことが無意識に彼らを急き立てているのだと思わずにはいられなかったのだ。
ところで、はたから見たドラコとフォーラは本当に互いのことを気遣っていた。例えばドラコの方は、フォーラが席から立ち上がる時にさり気なく手を差し伸べることがあったし、授業終わりに生徒でごった返す廊下では、ドラコが対向者の波の壁になるようにしてフォーラの隣を歩いたりしていた。
フォーラの方も、例えば先日はドラコの身に着けたネクタイが曲がっているのを手直ししていたし、彼が疲労困憊で尋問官親衛隊の仕事やクィディッチ練習から帰った時には、彼の頑張りを笑顔で褒め、紅茶を入れるなどして励ましていた。
そんな中、当然ながら二人はふとした時に随分距離が近くなる瞬間―――例えばキスできそうな程顔が近づくとか、手が触れ合いそうになるとか、そういう場面―――が時々あったのだが、その度に二人は周囲の目があることをハッと思い出し、どちらからでもなく照れたようにそっと物理的な距離を置いた。二人のそんな様子を一番間近に見ている友人たちは、本当にそわそわさせられていた。
「ああっもう、もどかしい!!」
フォーラとドラコが気持ちを確認し合った日から約一週間半が経とうとしていた頃。この日の最後の授業時間が自由時間となっていたパンジーとルニー、そしてドラコは、スリザリンの談話室の一角にあるテーブルに教科書や羊皮紙を広げていた。その勉強の最中、パンジーが身悶えするように自身の身体を抱きしめながら、先程の台詞を軽く叫んだのだった。
「二人がくっつく前からもどかしかったけど、恋人同士になってもやっぱりもどかしいわね」ルニーが羊皮紙から顔を上げ、ちらとドラコの方を見て、楽しそうに頷いた。
「突然何の話だ」ドラコが手元の教科書から視線を外し、疑問符だらけの表情で尋ねた。
「ねえドラコ、最近ずっと考えていたんだけど……」パンジーがルニーと目配せし、言葉を続けた。「ドラコとフォーラって、あまりにもお互いのことを大事にし過ぎじゃない?」
その問いかけにドラコは、大事にし合うことの何がいけないのかと、相変わらず疑問を抱えた顔をしていた。するとそんなドラコを見かねて、今度はルニーが単刀直入に質問した。
「その様子だとキスの一つも未だしていないんでしょ?」
ドラコはそれを聞いて、組みかけていた脚をピタリと止めてそっと下ろした。そして少々怪訝な表情で二人のことを見ると、いそいそと卓上の羊皮紙に向かって羽ペンを動かし始めた。
「ねえ、ドラコったら!確かに二人が仲直りした日、私たちは貴方に『フォーラを大事にしてあげて』って伝えたけど、何も恋人らしいことをするなとか、紳士的に丁重に扱いなさいとか、そういう意味で言ったんじゃないのよ」
「別に私たちが近くにいたって、手くらい繋げばいいのに。それに、挨拶程度の軽いキスならその辺のカップルだって道端でよくやってるのを見かけるし、そんな風に気楽に構えてみたらどう?」
パンジーとルニーが机の向こう側からドラコの方に身を乗り出し、ぐいぐいと言葉を投げかけてきた。次第に彼女たちの声があまりにも無視できない程にドラコの頭を占領してきたものだから、彼は羊皮紙から顔を上げないにせよ、消え入りそうな程の小声でとうとうポツリと返答した。
「キスなら、とっくにした」
パンジーとルニーはドラコの発した声が空耳かと思った。しかし二人はドラコの俯いた姿勢から覗く耳や首が真っ赤に染まっているのを理解するや否や、互いに顔を見合わせ、自然と口角を上げていった。
「いつの間に!?」
パンジーとルニーが興味津々で身を乗り出して尋ねてくるものだから、ドラコはもうこの場から逃げ去ってしまいたかった。しかしこの後授業終わりにフォーラがここへ戻ってくることを思うと、そういうわけにもいかない。彼女の顔を一目見たら、ドラコはその後すぐにクィディッチの練習のために談話室を離れなければならなかった。
ドラコは暫く迷った後でとうとう机にかじり付くのを諦め、パンジーたちから視線を外しながらも顔を上げた。
「……フォーラと和解した時に」
ドラコは何故自分がこんなにも辱めを受けて正直に回答しているのかと、幾らか腑に落ちない様子だった。そして彼は一度口籠った後で、ツンと言葉を付け加えた。
「だけど、それっきりだ」
「ふ~~ん、なぁんだ、そうだったの」ルニーとパンジーがそわそわニコニコしながら相槌を打った。
「まあ二人きりになる十分な時間が無い事は、私たちもよく知っているからしょうがないけど」ルニーが続けた。「だけどキスも済ませてるなら、もう恋人らしいスキンシップを取るハードルは低くなった筈じゃないの?それなのに、二人にそういう触れ合いが少ないのは明らかじゃない?」
そのような質問に、最初ドラコはこれ以上この話をするのはもういいだろうと彼女たちをあしらった。しかし、パンジーとルニーが質問に回答するよう無言で訴えかけてくるのが、視界に入れずともひしひしと伝わってくるではないか。彼はこれまで二人に散々心配をかけた分、その償いをした方がいいような気にさせられた。そのため彼は何度か口を開いては閉じた後、渋々声を発したのだった。
「スキンシップのハードルがどうというより、僕としては人前でそういうことを彼女にしたくないだけだ」
ドラコの回答に、目の前の二人はその理由を促すような視線を向けた。すると彼は諦めの溜息をついた。
ところで、はたから見たドラコとフォーラは本当に互いのことを気遣っていた。例えばドラコの方は、フォーラが席から立ち上がる時にさり気なく手を差し伸べることがあったし、授業終わりに生徒でごった返す廊下では、ドラコが対向者の波の壁になるようにしてフォーラの隣を歩いたりしていた。
フォーラの方も、例えば先日はドラコの身に着けたネクタイが曲がっているのを手直ししていたし、彼が疲労困憊で尋問官親衛隊の仕事やクィディッチ練習から帰った時には、彼の頑張りを笑顔で褒め、紅茶を入れるなどして励ましていた。
そんな中、当然ながら二人はふとした時に随分距離が近くなる瞬間―――例えばキスできそうな程顔が近づくとか、手が触れ合いそうになるとか、そういう場面―――が時々あったのだが、その度に二人は周囲の目があることをハッと思い出し、どちらからでもなく照れたようにそっと物理的な距離を置いた。二人のそんな様子を一番間近に見ている友人たちは、本当にそわそわさせられていた。
「ああっもう、もどかしい!!」
フォーラとドラコが気持ちを確認し合った日から約一週間半が経とうとしていた頃。この日の最後の授業時間が自由時間となっていたパンジーとルニー、そしてドラコは、スリザリンの談話室の一角にあるテーブルに教科書や羊皮紙を広げていた。その勉強の最中、パンジーが身悶えするように自身の身体を抱きしめながら、先程の台詞を軽く叫んだのだった。
「二人がくっつく前からもどかしかったけど、恋人同士になってもやっぱりもどかしいわね」ルニーが羊皮紙から顔を上げ、ちらとドラコの方を見て、楽しそうに頷いた。
「突然何の話だ」ドラコが手元の教科書から視線を外し、疑問符だらけの表情で尋ねた。
「ねえドラコ、最近ずっと考えていたんだけど……」パンジーがルニーと目配せし、言葉を続けた。「ドラコとフォーラって、あまりにもお互いのことを大事にし過ぎじゃない?」
その問いかけにドラコは、大事にし合うことの何がいけないのかと、相変わらず疑問を抱えた顔をしていた。するとそんなドラコを見かねて、今度はルニーが単刀直入に質問した。
「その様子だとキスの一つも未だしていないんでしょ?」
ドラコはそれを聞いて、組みかけていた脚をピタリと止めてそっと下ろした。そして少々怪訝な表情で二人のことを見ると、いそいそと卓上の羊皮紙に向かって羽ペンを動かし始めた。
「ねえ、ドラコったら!確かに二人が仲直りした日、私たちは貴方に『フォーラを大事にしてあげて』って伝えたけど、何も恋人らしいことをするなとか、紳士的に丁重に扱いなさいとか、そういう意味で言ったんじゃないのよ」
「別に私たちが近くにいたって、手くらい繋げばいいのに。それに、挨拶程度の軽いキスならその辺のカップルだって道端でよくやってるのを見かけるし、そんな風に気楽に構えてみたらどう?」
パンジーとルニーが机の向こう側からドラコの方に身を乗り出し、ぐいぐいと言葉を投げかけてきた。次第に彼女たちの声があまりにも無視できない程にドラコの頭を占領してきたものだから、彼は羊皮紙から顔を上げないにせよ、消え入りそうな程の小声でとうとうポツリと返答した。
「キスなら、とっくにした」
パンジーとルニーはドラコの発した声が空耳かと思った。しかし二人はドラコの俯いた姿勢から覗く耳や首が真っ赤に染まっているのを理解するや否や、互いに顔を見合わせ、自然と口角を上げていった。
「いつの間に!?」
パンジーとルニーが興味津々で身を乗り出して尋ねてくるものだから、ドラコはもうこの場から逃げ去ってしまいたかった。しかしこの後授業終わりにフォーラがここへ戻ってくることを思うと、そういうわけにもいかない。彼女の顔を一目見たら、ドラコはその後すぐにクィディッチの練習のために談話室を離れなければならなかった。
ドラコは暫く迷った後でとうとう机にかじり付くのを諦め、パンジーたちから視線を外しながらも顔を上げた。
「……フォーラと和解した時に」
ドラコは何故自分がこんなにも辱めを受けて正直に回答しているのかと、幾らか腑に落ちない様子だった。そして彼は一度口籠った後で、ツンと言葉を付け加えた。
「だけど、それっきりだ」
「ふ~~ん、なぁんだ、そうだったの」ルニーとパンジーがそわそわニコニコしながら相槌を打った。
「まあ二人きりになる十分な時間が無い事は、私たちもよく知っているからしょうがないけど」ルニーが続けた。「だけどキスも済ませてるなら、もう恋人らしいスキンシップを取るハードルは低くなった筈じゃないの?それなのに、二人にそういう触れ合いが少ないのは明らかじゃない?」
そのような質問に、最初ドラコはこれ以上この話をするのはもういいだろうと彼女たちをあしらった。しかし、パンジーとルニーが質問に回答するよう無言で訴えかけてくるのが、視界に入れずともひしひしと伝わってくるではないか。彼はこれまで二人に散々心配をかけた分、その償いをした方がいいような気にさせられた。そのため彼は何度か口を開いては閉じた後、渋々声を発したのだった。
「スキンシップのハードルがどうというより、僕としては人前でそういうことを彼女にしたくないだけだ」
ドラコの回答に、目の前の二人はその理由を促すような視線を向けた。すると彼は諦めの溜息をついた。