21. Brief Kisses
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それからの二人は、五年生になってからのこと―――主にドラコが何を思いながら、どんな意図でフォーラを突き放していたかについて振り返っていた。
ドラコは当時フォーラにしてきた数々の嫌がらせを思い出したくない様子で、苦虫を嚙み潰したような表情を見せた。
「僕は五年生になって直ぐアマンダ・スミスからの告白を了承したんだ。あれは君のことを本気で忘れたいと思ったからだった。―――だけど、そんなことは到底不可能だった。君に勝る人なんていないと酷く思い知らされた。
彼女のことはファーストネームで呼べなかった。自分から手を繋ぎたいと思えなかったし、キスなんかのコミュニケーションをすることも一切なかった。スミスには今でも申し訳無いことをしたと思っているが、どうしても君を想ってしまって、そういったことをできなかったんだ」
「そうだったの……。」フォーラは以前、ホグズミードの裏路地でドラコとアマンダが別れ際にそのようなやり取りをして、恋人関係を解消してしまった場面に遭遇した時のことを思い出した。
「僕の中で、それくらいフォーラの存在は本当に大きかった。
僕が君から離れている間に、君はあっという間に色んな男子生徒に声をかけられていて、正直気が気じゃなかったくらいだ。……まあ、それは今に始まったことではないか」
ドラコは少しだけ力なく笑ってみせた。するとフォーラが真剣な表情で言葉を返した。
「だけど私、誰のものにもならなかったわ。ドラコが心配する必要のない程、私にとっても貴方が一番だったから。」
改めてフォーラの考えを聞いたドラコは、先程の自嘲的な笑みをポカンとしたものに変えた。そしてその後直ぐに、嬉しさと羞恥心が湧き上がってくるせいで崩れそうになる顔を、咳払いして正さなければならなかった。
「その、……あ、ありがとう。……兎に角、僕としてはフォーラと距離を置いても、君が大切なことには変わりなかったんだ。だから、君がアンブリッジに防衛術の授業で杖を振りたいと頼み込んで拒否されたことも、何とかしてやりたいと思わずにいられなかった」
「えっ……」
フォーラは確かにそのようなことを年度初めの教室でアンブリッジに頼んだことがあった。しかしあの時あの場には、自分とアンブリッジしかいなかった筈だ。強いて言うなら話を終えて教室を出た時、馴染み深い香りがして、少し前までそこに誰かがいた可能性は察することができたが―――。
「もしかして、ドラコはその時廊下で話を聞いていた?」
「ああ……そうだ。君が防衛術を苦手なのはよく知っていたから、授業で杖を握らせるにはどうすればいいか頭を捻った。それで僕はアンブリッジに提案した。スリザリンの高学年生だけ、授業で杖を振らせてはどうかって」
「ドラコ、私のために……ありがとう。だけど、いくらドラコの頼みでも、アンブリッジ先生は首を縦に振らなかったのね。」
「いいや。縦に振ったさ。君も同じクラスのみんなも、五年生以上のスリザリン生は防衛術の授業で杖を握っている」
フォーラはドラコの予想外の返答に困惑した。
「だけど私、授業で杖を振った記憶は持ち合わせていないわ。いつも教室で誰もが教科書を読んでいるでしょう?」
「それなのに、君は杖の振り方が分かるし、呪文を使ったことのある感覚も持っている。防衛術を使うのは禁止されている筈なのに。違うかい」
フォーラは、言われてみれば確かにそのような感覚があると思った。本来なら防衛呪文に関して杖を振る自信などある筈ないのに、そんな不安は一切ないように感じる。
「君たちは確実に杖を振っているさ。あの教室の中での出来事は、一歩廊下に出れば忘れてしまう。だけど身体は授業でやった杖の動きを覚えている。そういう魔法があの女の教室にはかかっているんだ。授業の中で、僕が君の指導を何度か受け持ったこともあった」
「そんなまさか。だけど、どうしてドラコはそんなに教室でのことを覚えているの?」
「あの部屋でのことは、アンブリッジと僕だけが記憶を失わずに済むよう細工してあるんだ。―――その様子だと、どうやって僕があの女を説得したか知りたそうだな」
フォーラはコクコクと首を縦に振って、ドラコに続きを促した。ドラコが再び口を開いた。
「魔法大臣もあの女も、ダンブルドアが魔法省に盾突いているのを気に入っていないし、ダンブルドアが魔法省の乗っ取りを計画しているとすら思っている。それに魔法省は生徒が防衛術の授業を受けて力を持ち、ダンブルドアに加担するのを恐れていた。だから生徒にあの授業で杖を振らせなかった。
僕はそこを利用して、アンブリッジにこう言った。『貴女の出身寮と同じスリザリン生にきちんと防衛術を教えて、その中の選りすぐりを貴女を守る部隊に入れればいい』ってね。あの女は自分に味方してくれる人間に甘いし狡賢いから、きっと魔法省に内緒でこっそり僕の提案に乗ると思った。そうしたら案の定だった」
「確かに今思えば、アンブリッジ先生の親衛隊は防衛術の得意な生徒が多いように思うわ。だけど、それもこれも、今のドラコの言いっぷりだと……。つまり、私に防衛術をちゃんと習わせたかったから……私のためにしたことなの?」
フォーラは、まさかドラコがここまでしてくれていたとは信じられない様子で彼を見た。ドラコの方はあまり彼女と目を合わせる様子がなく、少々ぶっきらぼうに「ああ」と答えた。照れ隠ししている証拠だ。
「闇の帝王も復活したし、もし僕の目の届かないところで、フォーラが何かの拍子に自分の身を守れないとなったら……。なるべくそうなることは避けたかったんだ」
「全然知らなかったわ……。」フォーラが驚いたような呆気に取られたような表情で言った。
「ああ、だろうな。僕もあの女も、誰にも口外しなかったから」
ドラコはフォーラのために尽力したことを本人にとうとう打ち明け、少しばかり居心地悪そうに彼女を一瞬だけチラと見た。本来の予定では、彼自身がフォーラと距離を置くことで、この話が彼女に知られることは無い筈だった。彼はついこの間までヒール役を演じていただけに、自身の善良な部分を晒している状況が少々滑稽に思えた。
ドラコは当時フォーラにしてきた数々の嫌がらせを思い出したくない様子で、苦虫を嚙み潰したような表情を見せた。
「僕は五年生になって直ぐアマンダ・スミスからの告白を了承したんだ。あれは君のことを本気で忘れたいと思ったからだった。―――だけど、そんなことは到底不可能だった。君に勝る人なんていないと酷く思い知らされた。
彼女のことはファーストネームで呼べなかった。自分から手を繋ぎたいと思えなかったし、キスなんかのコミュニケーションをすることも一切なかった。スミスには今でも申し訳無いことをしたと思っているが、どうしても君を想ってしまって、そういったことをできなかったんだ」
「そうだったの……。」フォーラは以前、ホグズミードの裏路地でドラコとアマンダが別れ際にそのようなやり取りをして、恋人関係を解消してしまった場面に遭遇した時のことを思い出した。
「僕の中で、それくらいフォーラの存在は本当に大きかった。
僕が君から離れている間に、君はあっという間に色んな男子生徒に声をかけられていて、正直気が気じゃなかったくらいだ。……まあ、それは今に始まったことではないか」
ドラコは少しだけ力なく笑ってみせた。するとフォーラが真剣な表情で言葉を返した。
「だけど私、誰のものにもならなかったわ。ドラコが心配する必要のない程、私にとっても貴方が一番だったから。」
改めてフォーラの考えを聞いたドラコは、先程の自嘲的な笑みをポカンとしたものに変えた。そしてその後直ぐに、嬉しさと羞恥心が湧き上がってくるせいで崩れそうになる顔を、咳払いして正さなければならなかった。
「その、……あ、ありがとう。……兎に角、僕としてはフォーラと距離を置いても、君が大切なことには変わりなかったんだ。だから、君がアンブリッジに防衛術の授業で杖を振りたいと頼み込んで拒否されたことも、何とかしてやりたいと思わずにいられなかった」
「えっ……」
フォーラは確かにそのようなことを年度初めの教室でアンブリッジに頼んだことがあった。しかしあの時あの場には、自分とアンブリッジしかいなかった筈だ。強いて言うなら話を終えて教室を出た時、馴染み深い香りがして、少し前までそこに誰かがいた可能性は察することができたが―――。
「もしかして、ドラコはその時廊下で話を聞いていた?」
「ああ……そうだ。君が防衛術を苦手なのはよく知っていたから、授業で杖を握らせるにはどうすればいいか頭を捻った。それで僕はアンブリッジに提案した。スリザリンの高学年生だけ、授業で杖を振らせてはどうかって」
「ドラコ、私のために……ありがとう。だけど、いくらドラコの頼みでも、アンブリッジ先生は首を縦に振らなかったのね。」
「いいや。縦に振ったさ。君も同じクラスのみんなも、五年生以上のスリザリン生は防衛術の授業で杖を握っている」
フォーラはドラコの予想外の返答に困惑した。
「だけど私、授業で杖を振った記憶は持ち合わせていないわ。いつも教室で誰もが教科書を読んでいるでしょう?」
「それなのに、君は杖の振り方が分かるし、呪文を使ったことのある感覚も持っている。防衛術を使うのは禁止されている筈なのに。違うかい」
フォーラは、言われてみれば確かにそのような感覚があると思った。本来なら防衛呪文に関して杖を振る自信などある筈ないのに、そんな不安は一切ないように感じる。
「君たちは確実に杖を振っているさ。あの教室の中での出来事は、一歩廊下に出れば忘れてしまう。だけど身体は授業でやった杖の動きを覚えている。そういう魔法があの女の教室にはかかっているんだ。授業の中で、僕が君の指導を何度か受け持ったこともあった」
「そんなまさか。だけど、どうしてドラコはそんなに教室でのことを覚えているの?」
「あの部屋でのことは、アンブリッジと僕だけが記憶を失わずに済むよう細工してあるんだ。―――その様子だと、どうやって僕があの女を説得したか知りたそうだな」
フォーラはコクコクと首を縦に振って、ドラコに続きを促した。ドラコが再び口を開いた。
「魔法大臣もあの女も、ダンブルドアが魔法省に盾突いているのを気に入っていないし、ダンブルドアが魔法省の乗っ取りを計画しているとすら思っている。それに魔法省は生徒が防衛術の授業を受けて力を持ち、ダンブルドアに加担するのを恐れていた。だから生徒にあの授業で杖を振らせなかった。
僕はそこを利用して、アンブリッジにこう言った。『貴女の出身寮と同じスリザリン生にきちんと防衛術を教えて、その中の選りすぐりを貴女を守る部隊に入れればいい』ってね。あの女は自分に味方してくれる人間に甘いし狡賢いから、きっと魔法省に内緒でこっそり僕の提案に乗ると思った。そうしたら案の定だった」
「確かに今思えば、アンブリッジ先生の親衛隊は防衛術の得意な生徒が多いように思うわ。だけど、それもこれも、今のドラコの言いっぷりだと……。つまり、私に防衛術をちゃんと習わせたかったから……私のためにしたことなの?」
フォーラは、まさかドラコがここまでしてくれていたとは信じられない様子で彼を見た。ドラコの方はあまり彼女と目を合わせる様子がなく、少々ぶっきらぼうに「ああ」と答えた。照れ隠ししている証拠だ。
「闇の帝王も復活したし、もし僕の目の届かないところで、フォーラが何かの拍子に自分の身を守れないとなったら……。なるべくそうなることは避けたかったんだ」
「全然知らなかったわ……。」フォーラが驚いたような呆気に取られたような表情で言った。
「ああ、だろうな。僕もあの女も、誰にも口外しなかったから」
ドラコはフォーラのために尽力したことを本人にとうとう打ち明け、少しばかり居心地悪そうに彼女を一瞬だけチラと見た。本来の予定では、彼自身がフォーラと距離を置くことで、この話が彼女に知られることは無い筈だった。彼はついこの間までヒール役を演じていただけに、自身の善良な部分を晒している状況が少々滑稽に思えた。