第二部
夫であるディア・クロウリーが珍しく静かに帰宅した。基本的に剽軽な鳥である彼は、ミュージカルのオープニングの様に芝居がかった調子で帰宅して、これまた舞台演劇よろしく女の腰を抱いて熱い抱擁とキスをするのが常だが、本日は妙に静かである。
確か、ナイトレイブンカレッジで総合文化祭、VDC(ボーカル&ダンスチャンピオンシップ)が行われた筈だ。原作通りに、ナイトレイブンカレッジチー厶はロイヤルソードアカデミーチー厶に敗北した。一票差で。女も来賓席にいたので知っている。
それが余程ショックだったのたろうか。しかし、言っては悪いが、負けるは毎年の事だろう。そんなに落ち込む事でもなくないか?
まあ、今年は人気俳優の『ヴィル・シェーンハイト』まで参加しているのだから、今年こそは勝てると思っていたのかも。私は結果を知っているので、何とも言えない気持ちで応援していたのだが。
静かにソファーに座ったクロウリーに温かいお茶を淹れてやり、その隣りに座る。黒い羽根が覆うその背中を撫でてやりながら声を掛ける。
「そんなに落ち込まないで。毎年の事でしょう?またチャンスはあるわよ」
「いえ、違うんです。実は、教員の皆さんが私を除け者にして、ミステリーショップの裏でVDCの打ち上げをしていたんですっ!」
そっちかぁ〜〜!!クロウリーは愚痴っぽく続ける。
「学園の閉門後に教員の皆さんが残っていたので、可笑しいなぁと思って話を聞いていたら、皆で集まって打ち上げしてたんですよ?私、誘われてませんがッ!いやぁ、分かりますよ?打ち上げの席に上司がいたら盛り下がりますからね、ええ、そりゃあ気のおけない同僚同士で飲んで歌ってってしたいですよねぇ!!私は呼ばれてませんけれどもッ!!その場を濁すために、流されてあげましたけれどもッ私、優しいのでッ!!ええん、私も呼ばれたかった!!」
バサバサと羽根を揺らしながらクロウリーは言う。子供みたいな拗ね方をしているが、これでもその教員達を率いる学園長なのだ。ごねつつも引いてきたのだから何だかんだいい上司である。小さく笑いながらハットを取って、形の良い頭を撫でてやる。落ち込んでいたせいか、羽根の沢山ついた上衣も鏡の装飾のついたシルクハットもそのままだ。後で掛けておかないと。
「あらあら。そうなのね。いいじゃないの。集まって悪口を言われるのも上司の仕事みたいなものよ」
「私、悪口を言われてるんですかッ?!」逆効果だったらしく、クロウリーはギャァァァと悲鳴を上げてソファーの背凭れに仰け反った。
「それはわからないけれども。どんな良い上司でも、職場で飲むときは上司への不満が一番盛り上がる話題じゃない?」
「うう!辛いッ」
今度は両手で顔を覆う。指先の金属飾りと仮面が当たってガチャガチャと音を立てた。
「いいじゃないの。既婚者だし、気を使ってくれたのよ。そう思っておきなさいよ。やたら部下と飲みたがる上司は嫌われるわよ」
ここは部下達の気持ちの代弁者となっておこう。女は経営側よりも平社員でいた期間の方が長いのでどうしてもそっちの目線に立ってしまう。教員達にも世話になっているので、こういう時は身内しか言えないことは代弁しておいてあげたい。クロウリーはクスンと鼻を啜る。そんなに寂しかったの?
「貴女までッうぅ、分かってますけどぉ!」
「私と楽しく打ち上げしましょう。そんなにやりたいなら今度はうちに皆さんを誘ったら?まあ、それも部下的には負担だけどね」
「ウウッ妻が思いの外厳しいッ!」
「仕事とプライベートは上手く切り分けておいたら?後、部下と飲むならディアが全部払いなさいね。それくらいはしないと可哀想よ」
これも前時代的?でも上司と飲むのに金払うのは嫌でしょう。
「私と飲むのは刑罰か何かなんですか?!」
ぎゃぁと再び叫んだクロウリーは女の肩を掴む。その勢いに押されつつも女は口を窄める。
「一般的な部下の心情の代弁よ。私は飲みニケーションを否定はしないけど、あんまり多いと嫌よね」
「ウウッ私の考えが前時代的だと言われてるような気分です!」
「いいじゃないの。来賓席で見てたけど、NRCトライブのパフォーマンスは素敵だったわ。ディアの生徒達はみんな頑張った!貴方も学園長としてそれを見守ってあげた!それで良いじゃないの」
「うう、そうですね。ええ、トラブルはありましたが、ええ、何とか誤魔化せましたし……」
誤魔化したんだよなぁ。そうだよなロイヤルソードアカデミーの学園長であるアンブローズにバレそうだったもんな。
女は知らない振りをしつつも苦笑する。
「むしろ良かったじゃない。学園の先生達はみんな仲良しって事でしょう?足の引っ張り合いしてギスギスされるより余程いいわよ」
「貴女って、普段はふわふわしてるのに、時々、妙にシビアですよね」クロウリーが顔を上げて女の瞳を見る。不思議な光を放つクロウリーの仮面の奥を見返しながら女は首を傾げた。
「まあ、この世界では働いてないけど、元の世界ではそれなりに社会人経験もあるし……」
「んん、頼りになりますねぇ」
「そうかしら?」一般的な意見のつもりなのだが。
クロウリーの背を撫でながら言う。
「ワインを持ってきましょ。それから、おつまみも。美味しいチーズを買ってきてるのよ。二人でゆっくり飲みましょうね」
ごねるクロウリーの仮面にキスをしてやって席を立つ。ワインとおつまみを取りに行くのだ。クロウリーが立ち上がった女の腰を引き寄せて顔を埋める。そのまま顔だけを上げて言う。
「ハァ、貴女がいてよかったッ!そうじゃないと、この広い屋敷で私は部下に呼ばれなかった悲しみを胸に枕を濡らすしかありませんでした」
「オーバーね」まあ除け者にされたら傷付くよね。
クスクス笑いながら、お酒を取りに行く。老獪な魔法士の癖に妙に人間臭くて愛らしい。それがクロウリーの憎めない所だ。
確か、ナイトレイブンカレッジで総合文化祭、VDC(ボーカル&ダンスチャンピオンシップ)が行われた筈だ。原作通りに、ナイトレイブンカレッジチー厶はロイヤルソードアカデミーチー厶に敗北した。一票差で。女も来賓席にいたので知っている。
それが余程ショックだったのたろうか。しかし、言っては悪いが、負けるは毎年の事だろう。そんなに落ち込む事でもなくないか?
まあ、今年は人気俳優の『ヴィル・シェーンハイト』まで参加しているのだから、今年こそは勝てると思っていたのかも。私は結果を知っているので、何とも言えない気持ちで応援していたのだが。
静かにソファーに座ったクロウリーに温かいお茶を淹れてやり、その隣りに座る。黒い羽根が覆うその背中を撫でてやりながら声を掛ける。
「そんなに落ち込まないで。毎年の事でしょう?またチャンスはあるわよ」
「いえ、違うんです。実は、教員の皆さんが私を除け者にして、ミステリーショップの裏でVDCの打ち上げをしていたんですっ!」
そっちかぁ〜〜!!クロウリーは愚痴っぽく続ける。
「学園の閉門後に教員の皆さんが残っていたので、可笑しいなぁと思って話を聞いていたら、皆で集まって打ち上げしてたんですよ?私、誘われてませんがッ!いやぁ、分かりますよ?打ち上げの席に上司がいたら盛り下がりますからね、ええ、そりゃあ気のおけない同僚同士で飲んで歌ってってしたいですよねぇ!!私は呼ばれてませんけれどもッ!!その場を濁すために、流されてあげましたけれどもッ私、優しいのでッ!!ええん、私も呼ばれたかった!!」
バサバサと羽根を揺らしながらクロウリーは言う。子供みたいな拗ね方をしているが、これでもその教員達を率いる学園長なのだ。ごねつつも引いてきたのだから何だかんだいい上司である。小さく笑いながらハットを取って、形の良い頭を撫でてやる。落ち込んでいたせいか、羽根の沢山ついた上衣も鏡の装飾のついたシルクハットもそのままだ。後で掛けておかないと。
「あらあら。そうなのね。いいじゃないの。集まって悪口を言われるのも上司の仕事みたいなものよ」
「私、悪口を言われてるんですかッ?!」逆効果だったらしく、クロウリーはギャァァァと悲鳴を上げてソファーの背凭れに仰け反った。
「それはわからないけれども。どんな良い上司でも、職場で飲むときは上司への不満が一番盛り上がる話題じゃない?」
「うう!辛いッ」
今度は両手で顔を覆う。指先の金属飾りと仮面が当たってガチャガチャと音を立てた。
「いいじゃないの。既婚者だし、気を使ってくれたのよ。そう思っておきなさいよ。やたら部下と飲みたがる上司は嫌われるわよ」
ここは部下達の気持ちの代弁者となっておこう。女は経営側よりも平社員でいた期間の方が長いのでどうしてもそっちの目線に立ってしまう。教員達にも世話になっているので、こういう時は身内しか言えないことは代弁しておいてあげたい。クロウリーはクスンと鼻を啜る。そんなに寂しかったの?
「貴女までッうぅ、分かってますけどぉ!」
「私と楽しく打ち上げしましょう。そんなにやりたいなら今度はうちに皆さんを誘ったら?まあ、それも部下的には負担だけどね」
「ウウッ妻が思いの外厳しいッ!」
「仕事とプライベートは上手く切り分けておいたら?後、部下と飲むならディアが全部払いなさいね。それくらいはしないと可哀想よ」
これも前時代的?でも上司と飲むのに金払うのは嫌でしょう。
「私と飲むのは刑罰か何かなんですか?!」
ぎゃぁと再び叫んだクロウリーは女の肩を掴む。その勢いに押されつつも女は口を窄める。
「一般的な部下の心情の代弁よ。私は飲みニケーションを否定はしないけど、あんまり多いと嫌よね」
「ウウッ私の考えが前時代的だと言われてるような気分です!」
「いいじゃないの。来賓席で見てたけど、NRCトライブのパフォーマンスは素敵だったわ。ディアの生徒達はみんな頑張った!貴方も学園長としてそれを見守ってあげた!それで良いじゃないの」
「うう、そうですね。ええ、トラブルはありましたが、ええ、何とか誤魔化せましたし……」
誤魔化したんだよなぁ。そうだよなロイヤルソードアカデミーの学園長であるアンブローズにバレそうだったもんな。
女は知らない振りをしつつも苦笑する。
「むしろ良かったじゃない。学園の先生達はみんな仲良しって事でしょう?足の引っ張り合いしてギスギスされるより余程いいわよ」
「貴女って、普段はふわふわしてるのに、時々、妙にシビアですよね」クロウリーが顔を上げて女の瞳を見る。不思議な光を放つクロウリーの仮面の奥を見返しながら女は首を傾げた。
「まあ、この世界では働いてないけど、元の世界ではそれなりに社会人経験もあるし……」
「んん、頼りになりますねぇ」
「そうかしら?」一般的な意見のつもりなのだが。
クロウリーの背を撫でながら言う。
「ワインを持ってきましょ。それから、おつまみも。美味しいチーズを買ってきてるのよ。二人でゆっくり飲みましょうね」
ごねるクロウリーの仮面にキスをしてやって席を立つ。ワインとおつまみを取りに行くのだ。クロウリーが立ち上がった女の腰を引き寄せて顔を埋める。そのまま顔だけを上げて言う。
「ハァ、貴女がいてよかったッ!そうじゃないと、この広い屋敷で私は部下に呼ばれなかった悲しみを胸に枕を濡らすしかありませんでした」
「オーバーね」まあ除け者にされたら傷付くよね。
クスクス笑いながら、お酒を取りに行く。老獪な魔法士の癖に妙に人間臭くて愛らしい。それがクロウリーの憎めない所だ。
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