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Side:Yul
入学初日のHRで女の子が好きだとカミングアウトしてから、自分の周りが急に明るくなった気がした。自分の性的嗜好を隠し続ける苦しみから逃れ、クラスのみんなにも受け入れてもらえた私を締め付けるものはもう何も無かった。女の子はみんなバイだとよく言われているが、実際にそうだったようで、私はたくさんの女子からメッセージを貰い連絡が絶えることはなかった。
スヨンと一緒に入部したハンド部にも私のタイプの小動物系の女の子がいてワクワクした。「サニー」という彼女の笑顔や性格にぴったりの名前を持つ彼女をとても気に入った私は、スヨンに会いにきたと嘘をつき、何度も二組を訪れては彼女を観察した。クラスの人たちは私がサニー目当てで来ているとは気付かなかったようで、私とスヨンが恋仲だという噂が立ちはじめた。ついにはサニー本人からも揶揄われるようになり面倒だった。他人の恋愛を愚推するのは人間の性だと思うし、自分も他者に対して行うこともあるため構わなかったが、その相手がスヨンだというのは不服だった。どうせ噂になるのならサニーとが良かったのでアピールを開始した。
彼女とできるだけ多くの時間を過ごそうと策略し始めてから手強いライバルがいることに気がついた。
スヨンとティファニーだ。
彼らがサニーに好意を持っているかは分からなかったが、サニーと一緒に過ごす時間の確保において、言い方は悪いが彼らは本当に邪魔だった。激戦となる放課後は今の状態、つまり週に数回スヨンとサニーと駅まで歩くことで我慢するとすれば、使える時間は朝だけだった。運よく早めに登校するタイプだったサニーを駅まで迎えに行くことを新しい日課とした私は、今まで憂鬱だった早起きが得意になった。学校に着いてからは、彼女のクラスである二組で二人で喋った。彼女の家族のことや趣味の話、中学時代などについて多くのことを教えてもらい、ハンド部の中では私が一番仲がいいと自負していた。
ポツポツと登校してくる二組の生徒は、私たちの時間を邪魔してしまったのではないかと不安そうな表情を浮かべていてなんだか面白かった。むしろ目撃されたかった私は、数人がチラチラと此方を見ているのに気付きつつ、サニーの髪を手櫛で直してみたり、ほっぺを摘んだりしてみた。されるがままの彼女は小動物のようでかわいかった。
私の思い通り、今度は私とサニーが噂になり始めた。
しかしそれは長くは続かなかった。
その日もいつもとと同様にサニーと戯れあっていた私は、せっかく体育があるのに雨が降っていて残念がって机に突っ伏したサニーを見つめていた。最近怒ったり拗ねたりする姿を見せてくれるようになった彼女を微笑ましく思い、至近距離で眺めていたところに、珍しく早めに登校してきたスヨンがやってきた。距離の近い私たちに気付いたスヨンは、サニーがスヨンを見ていないのをいいことに、私に対して嫌悪感を全力で表現した。スヨンがこんなにも怒っている姿は初めて見た。サニーの斜め前の席だったスヨンは、自分の席に荷物をドサリと音を立てて置くと、サニーの挨拶に返事もせず教室を出て行った。驚いた顔のサニーの頭を少し撫でてから、私は立ち上がってスヨンを追った。
嫌なことがあればスヨンはいつも屋上へ続く階段へと向かう。それは中学時代の経験から学んだことだった。きっとそれは高校生になっても変わらないだろうと思い階段へ走る。屋上に続くのは西階段か東階段かどちらだっただろうと悩みつつも、とりあえず西階段へ向かうと、歩き方から苛立ちを見せつけているような見慣れた長身が目に入った。土壇場で勘の良さを見せた自分を褒めて大声でスヨンの名前を呼ぶと、スヨンは階段を二段飛ばしで駆け上がった。どうせ屋上のドアは開いてないんだから、階段を上がり切ったら行き止まりということに気づかないあたりがスヨンらしいと思いつつ、ゆっくり階段を上がると案の定開かない扉に凭れ掛かるスヨンを見つけた。
「おはよう」
「…最近早く登校してると思ったら、好きな子に会うためだったんだ」
目も合わせず挨拶も無視して投げつけられた言葉に驚いたが、ここで私が冷静でなければいけないと自分を律する。
「なんでサニーの挨拶返さなかったの」
「それは、だって、なんかそっちが良い感じだったから」
焦っているのか、纏まらないらしい思考を普段より子どもっぽく話すスヨンに思わず笑ってしまう。
「怒ってるのはサニーにじゃなくて私にでしょ。それともあの子にも非があると思ってるわけ?」
あえてスヨンが困るように問うと少し悩んだ後、真っ直ぐな目を向けられて少し怯んだ。
「ユリはあの子とどういう関係なの?」
「まあそれなりに仲良しかな」
「はっきり言って」
「スヨンが思ってるような関係じゃないよ。それに私はもうあの子からは手を引こうと思ってる」
正直に自分の考えを述べるとスヨンは目も口も大きく開いて驚きを隠さなかった。
「サニーはユリのタイプど真ん中じゃないの?」
「ドストライクだよ、ほんと」
「じゃあなんで急に…」
「んー私の周りには他にもたくさん女の子がいるし、親友との友情を壊すのも嫌だからね」
そう言ってウインクをするとスヨンは気分を害したと言って吐くフリをした。
やっといつものスヨンに戻ってくれた。
「そろそろ教室帰ろうよ。スヨンに挨拶無視されてサニーちょー悲しんでたよ」
「ほんと?!帰ったら全力で謝らなきゃ」
「土下座でもした方がいいんじゃない?」
「もうスライディング土下座しかない」
「動画とってもいい?」
「んー今回だけ特別だよ?」
前を歩くスヨンの肩を叩くとゲラゲラと笑って教室へ入った。
先ほどとは打って変わっていつも通りのとても楽しそうなスヨンに驚いているだろうサニーに近づいてウインクする。目の前にスライディング土下座してきたスヨンと私のウインクを交互に見てサニーは状況が掴めないままのようだったが、とにかく事は丸く収まった。
スヨンとサニーがまた楽しく話し出したのを見届けて、私は自分のクラスへ帰る。
ドタイプの女の子からは手を引くことになったが、私の心はひどく晴れていた。
なんといっても私は無類の恋愛ドラマ好きだったし、キューピッドになりたかったのだ。
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