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Side:Tae


変なやつ

それが入学初日をともに過ごしたチェ・スヨンに対する印象だった。

職員室前で入部届を持って鉢合わせた時は、その身長と長い手足にきっとめちゃくちゃ上手いんだろうなと警戒していた。それはユリに対しても同じだったが。2人とも顔も整っていて漫画によくある、女子にモテそうなスポーツ女子という感じだった。教室へ帰る時も内気な私に盛んに話しかけてくれ、スヨンの中学時代のことや、ユリとのことを面白おかしく話してくれた。もちろん楽しかったのだが、正直予想外だった。もっと寡黙でクールなタイプだと思っていたのだ。なんとなく違和感を持ったまま教室に着いて、自分の席を探すとたまたまスヨンと隣だった。1番後ろだ!やったね!とハイタッチを交わし、席に座って登校してくる同級生たちを眺めていた。緊張が顔に表れている子もいれば、大人数に慣れているのだろう、まったく当たり前のように明るく挨拶して入ってくる子もいた。側から見たらきっと私は前者だろうし、スヨンは後者だろう。隣で朝ごはんだと言っておにぎりを食べ始めていたスヨンにチラリと目を向けると頬にご飯粒を1粒つけていた。


入学式や担任のHRは話を聞くばかりで全く面白くなかったため、寝ようかとも考えたが流石にまずいだろうと思い、先生の髪の毛の本数を数えて凌いだ。

…なんだろう、すごい右側から視線を感じる。チェ・スヨンだ。授業に集中しろよ。

学校生活での諸注意などわかりきったことをベラベラと話した後、やっと自己紹介が始まった。みんなで机を移動させて、顔が見えるように椅子を丸く並べなさいと指示を受け、居眠り中だったスヨンを起こして、手早く円をつくった。自分が何を言うか考えつつ、他の人の自己紹介を聞いていた。こういうのは1番初めの人が肝心でクラスの雰囲気を作ると言っても過言ではない。「4月7日なので、7番の人」と先生が指名したため、私の3つ左だった可哀想な男子が選ばれた。その子は最も簡単で面白みのない、ただ名前を言うだけの自己紹介をした。そこから時計回りに自己紹介が進んでいき、ギャルを数人挟んだため、空気は少し緩和されていたがまだ笑いを取りに行くには重たい感じだった。

「イ・スンギュです。正直自分の名前は古風で気に入らないのでサニーって呼んでください。私のキラキラな笑顔にぴったりでしょ!」

教室の空気を一気に変えた救世主は彼女だった。本当にキラキラな笑顔で、可愛いポニーテールを揺らして礼をした彼女は私にとって天使に見えた。誰よりも大きな拍手が送られ、みんなもこの空気感に不安を抱いていたのだろうと思った。そこからは笑いを狙った自己紹介も増え、みるみるハードルは下がっていった。

あっという間にスヨンの番まで回ってきたが、スヨンは口を半開きにしたままただ前を見つめていた。先生に4度ほど名前を呼ばれてやっと気づいたスヨンは、最初に挨拶したあの男子とさほど変わらない挨拶をして、クラスは失笑した。さっきまでめちゃくちゃ喋ってたのに、自分の番になるとそれかよ。ほんと変なやつ。

なんとも言えない空気で迎えた自分の番は、予め考えていたことを言って笑いをとった。まあ上出来だろう。


HRが終わり、なんとなくで教室を掃いた後、スヨンに引き摺られるようにして部室へ向かった。部室での会話や部活の進め方も、中学時代とはそれほど変わらず安心すると同時に、少し面白みがないようにも感じた。部室からコートまでの距離が遠くて面倒だな、と思いながらコートに目をやると人が二人見え、その一方はもう知り合っている人物だと気がついた。嬉しくなって名前を呼ぶと、振り返って小さく手を振ってくれた。先輩も一緒だったし、恥ずかしかったのだろうか。


部活が始まってからは、さっきまで飛び跳ねていた人たちだとは思えないほどみんな集中していた。それだけハンドに対して真摯に向き合っていると分かって嬉しかった。高校生になってやっとハンド部に入ってくれたティファニーが心配だったが、パスの名称を言われても当たり前のような顔でこなしていた。なぜできるのか聞くと、春休み中にハンドの解説動画を見漁って、自分なりに研究してきたらしい。ティファニーの行動力と飲み込みの速さにも感銘を受けたが、何より私たちと同じくらいの熱量でハンドのことを考えてくれていたのが嬉しかった。

新入生のポテンシャルチェックでは、ティファニーを除いた五人と二年生二人で一チーム、残りの二年生でもう一チーム作り試合をした。三年生の視線を感じながらだったので緊張したが、ユリとスヨンが見事な連携を見せ一点目が入った。中学時代も大活躍だったのだろうと尊敬の念を抱きつつスヨンを見ると、またどこか遠くを見つめていてやっぱり変な子だと思った。もう一度一年生側からの攻撃をしてくれと言われ、ボールをもらったユリがスヨンに声をかけパスを出した。その瞬間、スヨンの顔面にボールが当たるのを見た。スローモーションみたいに、ボールが顔にめり込んでいるようにも見えた。倒れたスヨンはケラケラと笑っていたが、耳まで真っ赤になっていた。すぐに立ち上がったが、鼻血が出ていたため保健室に連れて行かれていた。ユリもこんなことになるとは思いもよらなかったはずで、最初は焦っていたがスヨンが笑っているのを見て少し安心したようだった。これについてはただの事故であり、どちらに過失があるか突き詰めるべきでもない。部活と怪我は切っても切り離せない。


その後試合が再開され、ヒョヨンも豪速球を披露したし、私も何度か先輩を抜くことができた。先輩達はセンタークロスやバッククロスを使って攻めてきて、ほとんど止められなかった。鼻血ガールのおかげでこちらの人数が一人少なかったというのもあるが、先輩たちも上手かった。


部活が終わる頃になってスヨンが戻ってきた。片付けをして部室に戻ると自己紹介や連絡先交換が行われ、話が盛り上がるうちに時間が過ぎていった。ところでずっと気になっていたのだが、サニーはなぜ三年生とあんなに仲がいいのだろう。中学の先輩後輩なのか?となるとマネージャー歴四年目ということになるため、非常に頼り甲斐がある。選手もマネージャーもレベルが高いことが分かり、これからがもっと楽しみになった。


解散してから、ティファニーと自転車で帰った。彼女の家は私の通学路にあるので、いつも一緒に登下校してきたし、きっと高校生になっても続けると思う。彼女の家の前に着いて、今日の部活について聞いてみると、彼女は大きな声と満面の笑みで「ほんとに楽しかった!!」と言ってくれた。それなら良かったと微笑み返し、なにか分からないことがあれば言って欲しいと伝えると、サニーもそう言ってくれたと言っていた。ティファニーが頼れそうな人が自分以外にもいて嬉しく思うと同時に、少し寂しくも感じた。

子が巣立って行く時の親鳥の気分だった。
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