また巡る
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加州清光が帰ってきて暫く経った。そんなことがあった為あまり気は向かなかったが薬研も修行へと旅立った。女から預かった道具一式と気休め程度の女からの手紙をその小さな身体で精一杯持ち、また女は『頑張って。待ってる』と心底愛しそうに手を振った。足早に出た本丸から「あんたのこと嫌いになったかもね〜」なんて世間話が聞こえる。送った手紙はちゃんと届いてるだろうか、今頃泣いてるだろうか、と心配事は絶えなかったが薬研はまだ分かっていなかった。本丸に帰り、出迎えた女はまた泣きそうになっていたが『おかえり』とまた愛しそうに出迎えるのであった。修行前から何だかあの二人は何かと距離が近かったり主従関係と言うには少し可笑しいことに気がついた。鈍感な薬研は気づかなったが、思い返せば何かと加州清光が関係していた。それと同時に、自分が女をどれだけ慕っているかを思い知らされた。けれども薬研は誤魔化した。刀剣男子が主に特別な感情を抱くのはあまり珍しいことではない、だからあくまでも『主という存在を護りたい』ということにして落ち着かせた。薬研は女が笑っていればいいと考え、加州と居る時が一番瀟洒な佇まいであった。だから戦場へ向かう時、誰一振欠けぬよう女の肩を叩いた。
「そんな顔すんな。直ぐ戻るからよ」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
それは大きな雨雲のせいで薄暗く、小雨が降り始めた頃だった。敵の頭手前、加州は深手の怪我を負っていた。気休め程度の応急処置を施し、主の命令を待っていた。が、全くと言っていい程来る気配は無い。聞こえるのは砂嵐と微かな呻き声。怪我を負っているのは加州だけでは無い。鯰尾、薬研、珍しく蛍丸が中傷だ。それ以外は軽傷であったが気力も尽き何時までも隠れている建物の隅だって、今襲撃されても可笑しくはない。左腕から大量の血を流している女の大切な恋刀は今にも気を失いそうだった。
「…薬研、俺が折れたら、さ」
彼の息は微かに荒い。眼も何処か虚ろで天を仰いでいた。自身の手当も手付かずのまま、薬研は彼と言葉を交わした。
「折れたら大将の事、任せるとか言うんじゃねえだろうな」
「はは、察しがいいね」
「んな縁起でもねえ事言うな。だってあんたは」
最初で最後の一振なのだから。そのたった一言を紡げなかった自分自身は嫉妬してるのだろうか、と心底呆れた。耳障りな砂嵐の先から僅かに聞き取れる言葉は、何度も何度も繰り返された。
「…行…軍、して」
一同耳を疑った。ブチ、という音と共に切れた無線に全員が絶望した。と薬研は考えたが隣からトン、とブーツの音が聞こえた。
「隊長は俺だ。皆に無理強いするなんて、主は何かあるんじゃない?」
右手で掴んだ左腕に血が滲む。髪も乱れ女に結われた後髪も髪飾りも無くなっていた。薬研はそんな近侍の姿を見て仕方ないな、と呆れる程美しい彼の顔を眺めるのであった。
「そんな無茶ですよ!加州さんだけの命じゃ無いんですよ?!主さんも、何かの間違いですって!明らかに可笑しかったですし、なあ兄弟」
鼻声ながら鯰尾が説得させようとしてる。だが刀剣男子は主命を果たさなければならない。薬研も加州も主がこんな事をする筈がないと分かっていた。冷たくて緊迫した空気が流れる。鯰尾の問に応えるのに時間を要した骨喰が座ったまま口を開いた。
「…すまない兄弟。共感する事は出来ない。だが、俺達は主の命を果たすだけだ。ここに来た時点で決まった事だろう。」
そうして決戦へと赴いた。主からの無線は変わらず無音で皆只管戦闘に集中していた。案外支障はなく、次々と敵を倒した。だが、気がかりなのは加州の事。貧血気味でずっとフラフラしているし微かに呻き声が聞こえる。この男が折れれば、今度は自分に好意が向くかもしれない。彼に見せたあの純粋無垢な彼女の笑顔も、柔らかい身体も、全部全部薬研のものになる。けれど腹部を切りつけられたその時、その迷いは消えた。纏わりつく鉄の匂いと砂の味。倒れそうな加州の背中にそっと手を添えてやる。
「加州の旦那、大将の為に死んでやるなよ」
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「そんな顔すんな。直ぐ戻るからよ」
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それは大きな雨雲のせいで薄暗く、小雨が降り始めた頃だった。敵の頭手前、加州は深手の怪我を負っていた。気休め程度の応急処置を施し、主の命令を待っていた。が、全くと言っていい程来る気配は無い。聞こえるのは砂嵐と微かな呻き声。怪我を負っているのは加州だけでは無い。鯰尾、薬研、珍しく蛍丸が中傷だ。それ以外は軽傷であったが気力も尽き何時までも隠れている建物の隅だって、今襲撃されても可笑しくはない。左腕から大量の血を流している女の大切な恋刀は今にも気を失いそうだった。
「…薬研、俺が折れたら、さ」
彼の息は微かに荒い。眼も何処か虚ろで天を仰いでいた。自身の手当も手付かずのまま、薬研は彼と言葉を交わした。
「折れたら大将の事、任せるとか言うんじゃねえだろうな」
「はは、察しがいいね」
「んな縁起でもねえ事言うな。だってあんたは」
最初で最後の一振なのだから。そのたった一言を紡げなかった自分自身は嫉妬してるのだろうか、と心底呆れた。耳障りな砂嵐の先から僅かに聞き取れる言葉は、何度も何度も繰り返された。
「…行…軍、して」
一同耳を疑った。ブチ、という音と共に切れた無線に全員が絶望した。と薬研は考えたが隣からトン、とブーツの音が聞こえた。
「隊長は俺だ。皆に無理強いするなんて、主は何かあるんじゃない?」
右手で掴んだ左腕に血が滲む。髪も乱れ女に結われた後髪も髪飾りも無くなっていた。薬研はそんな近侍の姿を見て仕方ないな、と呆れる程美しい彼の顔を眺めるのであった。
「そんな無茶ですよ!加州さんだけの命じゃ無いんですよ?!主さんも、何かの間違いですって!明らかに可笑しかったですし、なあ兄弟」
鼻声ながら鯰尾が説得させようとしてる。だが刀剣男子は主命を果たさなければならない。薬研も加州も主がこんな事をする筈がないと分かっていた。冷たくて緊迫した空気が流れる。鯰尾の問に応えるのに時間を要した骨喰が座ったまま口を開いた。
「…すまない兄弟。共感する事は出来ない。だが、俺達は主の命を果たすだけだ。ここに来た時点で決まった事だろう。」
そうして決戦へと赴いた。主からの無線は変わらず無音で皆只管戦闘に集中していた。案外支障はなく、次々と敵を倒した。だが、気がかりなのは加州の事。貧血気味でずっとフラフラしているし微かに呻き声が聞こえる。この男が折れれば、今度は自分に好意が向くかもしれない。彼に見せたあの純粋無垢な彼女の笑顔も、柔らかい身体も、全部全部薬研のものになる。けれど腹部を切りつけられたその時、その迷いは消えた。纏わりつく鉄の匂いと砂の味。倒れそうな加州の背中にそっと手を添えてやる。
「加州の旦那、大将の為に死んでやるなよ」
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