また巡る
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薬研は酷く女を、女は酷く薬研を慕っていた。
その女の容姿は齢十四から十六程だろう、初鍛刀と初期刀の二振りを連れての初陣にてドロップした薬研は、当初あまり使われはしなかった。編成は歴の長い友人に勧められた短刀の中でもトップクラスの強さを持った二から四振りを育成し始めた。年端も行かない女が、なんの情報も無しにどうにかなるような仕事じゃないしな、と薬研は案外割り切り生活を送っていた。だがある日突然、彼は出陣要請が出される。
何故だと問うと彼女は「刀剣男子のことが余り詳しくないから少し調べたんだけど、私は貴方の事が気に入ったの。こんな私情でごめんね」と照れくさそうに身振り手振り心底楽しそうに話した。渡り廊下ですれ違った男女はふたり金木犀を眺めながら柔らかい空気に包まれていた。
「私の本丸に来てくれた子は皆大好きだよ。でもね、全員一度に知ることは出来ないからこうやって少しづつ知って、貴方からも何か知れたらいいなって思ってるの。あ、清光には秘密ね。なんか怒られる気がするから」
女の甘酸っぱい話が、少し切れ気味の唇から紡がれる。そこから暫くし、初期刀及び近侍を務めていた加州清光が修行に出ると言ったため、女は近侍を薬研藤四郎に変えた。見送りに出た女の落ち着いた表情は、もう一人前の審神者のように思えた。
「あいつも何か悟るところがあったんじゃねえか?帰りが楽しみだな」
「私も」と言うはにかんだ女の顔は、大変愛らしいと薬研は感じた。その日の仕事は世話焼きな近侍が全て終わらせていたため幸いにも二人はゆっくりできた。次の日の晩、『手紙が届いた』と片手間で知らせると女は瞳を零しそうな程丸くし、資料を机で二、三回整えていたその束は、ほんの少し空いた所から数枚立っていた薬研の足元に落ちた。
「おい大将、大丈夫か?」
膝を付いた薬研が女の肩を強く掴み揺すると大きな涙を一粒、潤んだ瞳からこぼれ落ちた。
『大丈夫』と大変弱々しく掠れた声で話した後、たった一枚の手紙に酷く泣きつき肩を震わせていた。この時薬研は直感的に『一人前の審神者でも人間でも無くて隠すのが上手で誤魔化す事にも長けていた。彼女の嘘は、神様でも見分けが極めて困難なんだな』、と感じた。薬研は泣く彼女の肩を寄せ、特別な感情を出すこともなく、ただ隣で彼女の髪を撫でるだけだった。
泣き疲れ机に突っ伏したまま寝ていた主が目を覚ましたのは約二時間後の事だった。淡いライトの下、薬研は温かい茶を用意しようと丁度戻ってきた時に女は目を覚ました。
「大将、たまにはあんたの話を聞かせてくれないか」
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夜と言うのは嫌でも感傷的になるもので、女は現世の生活が苦しいと語った。干渉的な両親も、少し面倒な友人も、自分より甘えて生きている親友も。審神者になり、あまり現世に出向かなくなり安心したけれど最低限の勉学に励め、と朝早くから転送ゲートへと向かう。そもそも政府の機関な筈なのにと薬研は考えたが、黙って彼女の言葉に耳を傾けた。
そこまで無理をし、行かなくても良いと誰もが思うだろう。だが先程述べた通り、彼女の嘘や誤魔化しは全く分からなかった。いや、本当は誰だって解るけれど、あまりにも一瞬の事に周りの人間は気づかない。自分より何倍も少ない齢の少女が、声を震わせ自己嫌悪に陥っていると思うと薬研の存在しないはずの心臓が酷く傷んだ。後に彼女は過去の話も織り交ぜながら話した。腫れ上がった瞼を袖で擦る姿は疲弊しきっていて眠たそうに鼻を啜っている。机を挟み向かい合って座っている薬研は女の隣に胡座を描き、命令するように太腿を叩いた。
「大将はよくやった。褒美をやらんとな。こっち来な」
女は少し戸惑った様子を見せながらも薬研の身体を強く抱き締め、倒れ込んだ。どくんと脈打つ胸は、薬研を安心させるには十分だった。
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