第四章・忌まわしき血と力
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楓「………そうですね。その時は、お願いしてもいいですか。
貴方に斬られるなら、それがいい」
沖田「………!」
目を見張る彼に小さく笑って、冗談ですよ。と言葉を付け加える。
沖田さんだってそのつもりで言ったのだ。
それを返さないわけがない。
少しだけ話をしたからか、先程よりは気分がいい。
楓「私は、結局…………一族の道具でしかないから」
皮肉じみた呟きは、彼の耳に届いたのかわからない。
しばらく沈黙が続いたあと、私の方から切り上げる。
これ以上夜風に当たりすぎたら、本当に風邪を引いてしまいそうだ。
楓「ごめんなさい。変な話をしましたね、忘れてください」
先に行きますね。と逃げるように立ち去ろうとすると、ぐん、と体が引っ張られる。
意外な人が腕を掴んだようだ。
いつもの“したり顔”ではない彼に、ドクン、と変に高鳴る。
沖田「……………」
楓「………えっ、と……沖田さん………?」
長い沈黙に耐えきれず、困惑したまま彼の顔をまじまじと見つめてしまった。
本人もどうして引き留めたのか分かっていないらしく、はぐらかすように掴んだ手を離す。
沖田「…………、ごめん。」
楓「いえ………。その、おやすみなさい」
沖田「うん。おやすみ………」
彼と別れ、部屋へと戻る。
障子を閉めてからというもの、糸が切れたかのようにへたりとその場で座り込んでしまった。
楓(…………なに、あれ…………?)
冷えてつめたくなった手のひらを両頬に当てれば、じんわりと熱を持っていかれる。
どうやら今の私は、暗闇で何もわからないけれど、茹でダコのように真っ赤になっているらしい。
どうりで、心臓がやけにうるさいわけだ。
それと同時に、私自身が面食いだったとは思いもよらなかった。まあ、人物としてはわりと似たような感じだったから共感みたいな、そういった憧れの方が強いと自負していたつもりだったのだが。
楓(…………あんなの、不意打ちじゃない………。)
イケメンにあんな呼び止められ方をされて、(心臓が)無事でいられる女はいないと思う。
………あー、でも稀に男気のある人は、どうとも思わないか。多分。
一息つきながら、改めて前を見据える。
僅かな月明かりに照らされた、物も少ない殺風景という言葉が似合う我が部屋に、少なからず苦笑が禁じ得ない。
同室であった千鶴は、土方さんに「小姓になるのだから各部屋を設ける」「男と一緒の部屋にするのは言語道断」等との理由により、今となっては一人、寝ている頃だろう。
楓(…………その方が、私としてはありがたいことだけどね)
同じ女子とはいっても、プライベートな部分には触れて欲しくない。
同室だからといって制限数が多いのでは、ただいたずらに不平不満を抱えてしまうことになるかもしれない。
…………誰しも、一人になりたいときはあるだろうから。
楓「……………最悪。変なのを思い出した。」
ぞわりと背筋に寒気を感じて、体を埋めるように抱き締める。
思い出したくもない、どうしようもないくらい酷くて辛い記憶。
咲桜が死んでから、私への当たりが前よりも酷くなった。
特に冬の夜。長野の冬は寒いだけじゃない。他所がどうだかは知らないけど、夜になればマイナス5℃や10℃は軽く越える。
その極寒な夜に、一着の服に裸足で蔵に閉じ込められた。
これは誰が見ても、ただの躾というより虐待に近いものだった。今までしてきたことも虐待なのだけど。
普通の子供であれば、ここまではしない。
悪いこと、嘘をついたりしたら『蔵に押し込むぞ』と親は怒る。
他の地域であれば、『悪いことをしたら鬼が出るぞ』だろうか。
蔵は窓も灯りも何もない、ただ先祖代々より保管してきた数多くの品が納められている、引き戸のみの建物。
田舎にある蔵なら尚のこと、虫やネズミも出るし、古い建物だから風で引き戸が軋む音も出てくる。
それが夜になれば暗闇も当然。
そんなところに入れられたら、真っ暗だ、至るところでカサカサの音がするわ、動物特有の眼光が見えるわ。
風も含めれば、夜の蔵はお化け屋敷に早変わりだ。
その怖さを知っているから、蔵に入りたくない子供は泣いて親に謝る。
昔も今も、その怖さは変わらない。
ここはあの時とは違う。違うけれど、体感したあの恐怖が、どっと溢れ返るように押し寄せてくることが時々ある。
貴方に斬られるなら、それがいい」
沖田「………!」
目を見張る彼に小さく笑って、冗談ですよ。と言葉を付け加える。
沖田さんだってそのつもりで言ったのだ。
それを返さないわけがない。
少しだけ話をしたからか、先程よりは気分がいい。
楓「私は、結局…………一族の道具でしかないから」
皮肉じみた呟きは、彼の耳に届いたのかわからない。
しばらく沈黙が続いたあと、私の方から切り上げる。
これ以上夜風に当たりすぎたら、本当に風邪を引いてしまいそうだ。
楓「ごめんなさい。変な話をしましたね、忘れてください」
先に行きますね。と逃げるように立ち去ろうとすると、ぐん、と体が引っ張られる。
意外な人が腕を掴んだようだ。
いつもの“したり顔”ではない彼に、ドクン、と変に高鳴る。
沖田「……………」
楓「………えっ、と……沖田さん………?」
長い沈黙に耐えきれず、困惑したまま彼の顔をまじまじと見つめてしまった。
本人もどうして引き留めたのか分かっていないらしく、はぐらかすように掴んだ手を離す。
沖田「…………、ごめん。」
楓「いえ………。その、おやすみなさい」
沖田「うん。おやすみ………」
彼と別れ、部屋へと戻る。
障子を閉めてからというもの、糸が切れたかのようにへたりとその場で座り込んでしまった。
楓(…………なに、あれ…………?)
冷えてつめたくなった手のひらを両頬に当てれば、じんわりと熱を持っていかれる。
どうやら今の私は、暗闇で何もわからないけれど、茹でダコのように真っ赤になっているらしい。
どうりで、心臓がやけにうるさいわけだ。
それと同時に、私自身が面食いだったとは思いもよらなかった。まあ、人物としてはわりと似たような感じだったから共感みたいな、そういった憧れの方が強いと自負していたつもりだったのだが。
楓(…………あんなの、不意打ちじゃない………。)
イケメンにあんな呼び止められ方をされて、(心臓が)無事でいられる女はいないと思う。
………あー、でも稀に男気のある人は、どうとも思わないか。多分。
一息つきながら、改めて前を見据える。
僅かな月明かりに照らされた、物も少ない殺風景という言葉が似合う我が部屋に、少なからず苦笑が禁じ得ない。
同室であった千鶴は、土方さんに「小姓になるのだから各部屋を設ける」「男と一緒の部屋にするのは言語道断」等との理由により、今となっては一人、寝ている頃だろう。
楓(…………その方が、私としてはありがたいことだけどね)
同じ女子とはいっても、プライベートな部分には触れて欲しくない。
同室だからといって制限数が多いのでは、ただいたずらに不平不満を抱えてしまうことになるかもしれない。
…………誰しも、一人になりたいときはあるだろうから。
楓「……………最悪。変なのを思い出した。」
ぞわりと背筋に寒気を感じて、体を埋めるように抱き締める。
思い出したくもない、どうしようもないくらい酷くて辛い記憶。
咲桜が死んでから、私への当たりが前よりも酷くなった。
特に冬の夜。長野の冬は寒いだけじゃない。他所がどうだかは知らないけど、夜になればマイナス5℃や10℃は軽く越える。
その極寒な夜に、一着の服に裸足で蔵に閉じ込められた。
これは誰が見ても、ただの躾というより虐待に近いものだった。今までしてきたことも虐待なのだけど。
普通の子供であれば、ここまではしない。
悪いこと、嘘をついたりしたら『蔵に押し込むぞ』と親は怒る。
他の地域であれば、『悪いことをしたら鬼が出るぞ』だろうか。
蔵は窓も灯りも何もない、ただ先祖代々より保管してきた数多くの品が納められている、引き戸のみの建物。
田舎にある蔵なら尚のこと、虫やネズミも出るし、古い建物だから風で引き戸が軋む音も出てくる。
それが夜になれば暗闇も当然。
そんなところに入れられたら、真っ暗だ、至るところでカサカサの音がするわ、動物特有の眼光が見えるわ。
風も含めれば、夜の蔵はお化け屋敷に早変わりだ。
その怖さを知っているから、蔵に入りたくない子供は泣いて親に謝る。
昔も今も、その怖さは変わらない。
ここはあの時とは違う。違うけれど、体感したあの恐怖が、どっと溢れ返るように押し寄せてくることが時々ある。