19年一本勝負さん参加録
降りるまで
回る観覧車。頂上に上り詰めてしまえば、後は下りていくだけ。頂上の美しい夜景はだんだんと姿を変え、元の世界が戻ってくる。
「綺麗だな」
彼に声をかけられて、慌てて振り返った。窓の外の景色に魅了されていて、すっかり彼の存在を忘れていた。
「ふっ、今、俺のこと思い出したみたい」
「わ、悪かったって」
「いいよ。楽しそうで何よりです。……でも」
音もなく彼の手が伸びてくる。俺のむき出しの指先にそれが触れて、俺は思わず肩に力を入れてしまった。
実は昨夜、緊張してしまってなかなか寝付けなかった。案の定、寝坊してしまい、時間ギリギリに待ち合わせ場所に到着した。
無事に彼と会えたから良かったが、この季節に手放せない革製のお気に入りの手袋を自宅に忘れて来てしまったのだ。
「やっぱり冷たい」
すっかり夢中になっていて寒かったのを忘れていた。じんと温かい体温が握りしめられた彼の裸の手のひらから広がってきて氷のようだった皮膚を溶かしていく。
俺は慌てて手をひっこめようとしたが、彼の方が強い。びくとも動かない彼からは逃れることも出来ない。
「ダメ。下に着くまでしばらくあるから、握らせて」
「あほ。冷たいって言ったじゃん」
「だからだよ。あっためたい」
正真正銘の馬鹿じゃないか。
「帰りに手袋でも買って帰る?」
うっせ、ばーか。
一次創作bl版深夜の真剣一本勝負さん(@sousakubl_ippon)にお題をお借りしました。
2019.12.28 1h
お題:冷えた指先/観覧車/「笑いたきゃ笑えばいい」
回る観覧車。頂上に上り詰めてしまえば、後は下りていくだけ。頂上の美しい夜景はだんだんと姿を変え、元の世界が戻ってくる。
「綺麗だな」
彼に声をかけられて、慌てて振り返った。窓の外の景色に魅了されていて、すっかり彼の存在を忘れていた。
「ふっ、今、俺のこと思い出したみたい」
「わ、悪かったって」
「いいよ。楽しそうで何よりです。……でも」
音もなく彼の手が伸びてくる。俺のむき出しの指先にそれが触れて、俺は思わず肩に力を入れてしまった。
実は昨夜、緊張してしまってなかなか寝付けなかった。案の定、寝坊してしまい、時間ギリギリに待ち合わせ場所に到着した。
無事に彼と会えたから良かったが、この季節に手放せない革製のお気に入りの手袋を自宅に忘れて来てしまったのだ。
「やっぱり冷たい」
すっかり夢中になっていて寒かったのを忘れていた。じんと温かい体温が握りしめられた彼の裸の手のひらから広がってきて氷のようだった皮膚を溶かしていく。
俺は慌てて手をひっこめようとしたが、彼の方が強い。びくとも動かない彼からは逃れることも出来ない。
「ダメ。下に着くまでしばらくあるから、握らせて」
「あほ。冷たいって言ったじゃん」
「だからだよ。あっためたい」
正真正銘の馬鹿じゃないか。
「帰りに手袋でも買って帰る?」
うっせ、ばーか。
一次創作bl版深夜の真剣一本勝負さん(@sousakubl_ippon)にお題をお借りしました。
2019.12.28 1h
お題:冷えた指先/観覧車/「笑いたきゃ笑えばいい」
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