18年一本勝負さん参加録
セーターと鳥居
まぶしい大地に足を踏み入れる。
こんな日は、学校になど通いたくないものだ。大きな欠伸をしながら、いつもの待ち合わせ場所にまで、足を進める。
まぶしさの犯人は、雪だ。
昨晩降った雪が、そこらに白い絨毯を敷いていた。光を反射するそれで、あたりはいつも以上に光り輝いて見える。
いや、彼のような存在と待ち合わせているせいなのかもしれないが。
さびれた神社の鳥居の下。
本来なら赤かったはずのそれは経年劣化がすごく、むき出しの木材を毎日さらし続けていた。ようやく今日になって、白い帽子を被せてもらったらしい。
「先輩!」
彼の足音を雪がもみ消しす音。静かに近づいてきた彼はまず、おはようと微笑んだ。
「先輩、降りましたね? どうですか?」
子犬のような大きな瞳で俺を見つめる彼の名前は谷崎という。
一つ下の後輩。同じ天文学部に所属している。
栗色の髪は自前だそうだ。流石ハーフといった具合に白い肌と高い鼻。ただ今日は、そんな小奇麗な顔を赤くして、あごの先をマフラーで隠している。
「屋根がつぶれると思った」
「違います」
「は?」
わざとらしく不機嫌そうな顔をした彼に、俺は聞き返した。
「俺が、あげたでしょ」
「ああ、これ?」
俺は、外套の前をはだけ、制服の中に着込んだセーターを見せた。
ベージュの毛糸が原材料。
「まあまあ、あったかいかな」
ぶっきらぼうな対応にも彼は、コロコロと表情を変えて、さも大きな出来事のように喜ぶ。
「本当ですか! わあ、良かったです」
顔面に可憐な花を咲いた。彼の笑顔は真冬に咲く、癒しの花。
「今度はマフラーにしましょうね。先輩、何色がお好きで?」
上機嫌に俺を覗き込む彼。
「やめろよ。そういうの、女々しいんだよ、お前」
こうやって冷たくしても、やつは、調子を変えない。
「え~、ひどいじゃないですか。それでも先輩は、来てくれるって、俺、分かっているんですからね」
……とんだお調子者だ。
俺が辟易した表情をしていたところ、何かをひらめいた様子で彼が声を荒らげた。
「そうだ! 赤なんてどうです!」
「赤あ!?」
とんでもない発想だ。
「おい、やめろよ! そんなの俺に着せるつもりなのか! 俺はごめんだぜ!」
「絶対に似合いますよ、先輩。かわいいじゃないですか!」
どういう神経しているんだ、こいつ。
「やさしくて、かっこいい、ヒーローの色です」
つまり、なんなんだよ。俺のことをヒーローだとでも思っているのか。
やめてくれ。
勘違いしてしまうだろ。
「こらっ、もうすぐ大通りに出るんだから、近寄るな! いつも言ってるだろ!」
「ええ~」
分かりましたよ、と彼が半歩俺から遠ざかる。二人きりの時の距離感は終わりだ。
どくどくと打っていた鼓動は、彼の編んだセーターの中で、落ち着きを取り戻していく。
手編み。
俺のサイズに合わせて作ったのだから、どれほどの日数と手間がかかったのだろうか。
惜しげもなく俺に与えるそれは、一体……。
あったかいセーターは冷たい。
本当のことを教えてはくれないからだ。
なあ、お前は俺の事、本当はどう思っているんだ……?
ふと、俺は、今朝の鳥居の姿を思い出した。
雪は優しく、鳥居の上に覆いかぶさっていたのだが、それは、きっと、鳥居にとっては、冷たいものだ。
まぶしい大地に足を踏み入れる。
こんな日は、学校になど通いたくないものだ。大きな欠伸をしながら、いつもの待ち合わせ場所にまで、足を進める。
まぶしさの犯人は、雪だ。
昨晩降った雪が、そこらに白い絨毯を敷いていた。光を反射するそれで、あたりはいつも以上に光り輝いて見える。
いや、彼のような存在と待ち合わせているせいなのかもしれないが。
さびれた神社の鳥居の下。
本来なら赤かったはずのそれは経年劣化がすごく、むき出しの木材を毎日さらし続けていた。ようやく今日になって、白い帽子を被せてもらったらしい。
「先輩!」
彼の足音を雪がもみ消しす音。静かに近づいてきた彼はまず、おはようと微笑んだ。
「先輩、降りましたね? どうですか?」
子犬のような大きな瞳で俺を見つめる彼の名前は谷崎という。
一つ下の後輩。同じ天文学部に所属している。
栗色の髪は自前だそうだ。流石ハーフといった具合に白い肌と高い鼻。ただ今日は、そんな小奇麗な顔を赤くして、あごの先をマフラーで隠している。
「屋根がつぶれると思った」
「違います」
「は?」
わざとらしく不機嫌そうな顔をした彼に、俺は聞き返した。
「俺が、あげたでしょ」
「ああ、これ?」
俺は、外套の前をはだけ、制服の中に着込んだセーターを見せた。
ベージュの毛糸が原材料。
「まあまあ、あったかいかな」
ぶっきらぼうな対応にも彼は、コロコロと表情を変えて、さも大きな出来事のように喜ぶ。
「本当ですか! わあ、良かったです」
顔面に可憐な花を咲いた。彼の笑顔は真冬に咲く、癒しの花。
「今度はマフラーにしましょうね。先輩、何色がお好きで?」
上機嫌に俺を覗き込む彼。
「やめろよ。そういうの、女々しいんだよ、お前」
こうやって冷たくしても、やつは、調子を変えない。
「え~、ひどいじゃないですか。それでも先輩は、来てくれるって、俺、分かっているんですからね」
……とんだお調子者だ。
俺が辟易した表情をしていたところ、何かをひらめいた様子で彼が声を荒らげた。
「そうだ! 赤なんてどうです!」
「赤あ!?」
とんでもない発想だ。
「おい、やめろよ! そんなの俺に着せるつもりなのか! 俺はごめんだぜ!」
「絶対に似合いますよ、先輩。かわいいじゃないですか!」
どういう神経しているんだ、こいつ。
「やさしくて、かっこいい、ヒーローの色です」
つまり、なんなんだよ。俺のことをヒーローだとでも思っているのか。
やめてくれ。
勘違いしてしまうだろ。
「こらっ、もうすぐ大通りに出るんだから、近寄るな! いつも言ってるだろ!」
「ええ~」
分かりましたよ、と彼が半歩俺から遠ざかる。二人きりの時の距離感は終わりだ。
どくどくと打っていた鼓動は、彼の編んだセーターの中で、落ち着きを取り戻していく。
手編み。
俺のサイズに合わせて作ったのだから、どれほどの日数と手間がかかったのだろうか。
惜しげもなく俺に与えるそれは、一体……。
あったかいセーターは冷たい。
本当のことを教えてはくれないからだ。
なあ、お前は俺の事、本当はどう思っているんだ……?
ふと、俺は、今朝の鳥居の姿を思い出した。
雪は優しく、鳥居の上に覆いかぶさっていたのだが、それは、きっと、鳥居にとっては、冷たいものだ。