19年一本勝負さん参加録

スイートテイスト

「全然、書けていないねえ。かわいそうだから、白岡、お前も反省文だ」
「えっ」
「下校途中にゲーセンはアウトだろ」
 僕は笑顔で白岡に原稿用紙を手渡した。

 流石、優等生なだけあって、なかなか流暢な文章だ。だが、ここに書かれている内容がどこまで本心かは不明だが。
「ほら、黒崎、起きろって。白岡はもう終わったぞ」
 黒崎は、というと、机につっぷして爆睡してしまった。無理やりに起こそうとしていた僕を白岡が「こいつ、一度寝たら一生起きませんよ」と止めたので、すこし妬けてしまう。
「先生、水性ペン持っていません?」
「ん? これでいいのか」
 言われたままに白岡にペンを手渡す。
「ふーん、なるほどね」
 僕は白岡の行動に、思わず笑みがこぼれた。

「しら……って、先生!」
「よう、お目覚めか」
 白岡が下校して三十分も経ってようやく眠りから目覚めた黒崎が、白岡の不在を確認して不満げに口元をとがらせた。
「くっそ、あいつ、もう帰ったのか」
「ああ、原田の家でゲーム大会だな」
「うー」
 僕の言葉にイライラが隠せない。まだガキだな、と僕は心の中でほくそ笑んだ。
「ところで、黒崎、お前、白岡のことが好きなんだな」
「えっ」
 目を丸くした黒崎が素っ頓狂な声を上げる。コロコロと表情が変わって、なかなか面白い。
「鏡を見て来い。顔に書いてある」
「えっ、え~っ!」
 慌てて黒崎が教室を飛び出した。廊下に張られている鏡を見たのだろう。黒崎の叫び声が聞こえた。
「なんじゃこりゃ!」
「ははは、白岡の恨み、果たされたり、だな」
 黒崎の額に大きく『バカ』と二文字。僕の水性ペンも大活躍だ。
「ニジセン! なんでだよ! なんで!」
 軽くパニックになりながら、耳の先まで赤い黒崎が僕に声を荒げる。
 『バカ』。
 たったその二文字しか書かれていないのに、どうして、白岡が好きだってバレたのかって?
 そんなの、分からない方が『バカ』じゃないか。
 あーあ。もう十年くらい若ければなあ、と思わずにはいられない。こんなやつにやるより、僕が奪い去ってやりたいくらいだよ。
 バカは必至こいて課題を終わらせると、顔も洗わずに彼の元へとすっとんで行った。
 本当に、可愛いバカたちだよ。
39/49ページ
スキ