19年一本勝負さん参加録
バカップル談話
「バカバカバカバカ! 大嫌いなんだよ! なんでお前みたいなやつが下にいるんだっつーの!」
バカは彼の常套句だ。高速で発射された。
顔を真っ赤にさせながら威嚇の姿勢で牙を見せる子猫といったところか。可愛い。だから許そう。
「……可愛いな」
「な、なにっ!」
しまった。心の中で思っていたことが、声になって漏れてしまった。
彼はいつも私を邪険にする。ことあるごとに嫌いだと連発する。可愛いと私が思っていたことがバレてしまい、より距離が開いてしまうのではないかと内心焦る。
だが、彼の反応はとても面白い。吊り上った眉。そして風船のように膨らんだ頬。じわじわと潤んでくる長い睫に囲まれた大きな瞳。
そうやって涙目で私を見つめてくるところが可愛い。……いや、本人からしたら、睨んでいるつもりなのだろう。
「新条くん、すまなかった」
「うるせえ、どうせ、本心からの言葉じゃないんだろう。絶対に許さねえからな!」
涙目でそう言われても、逆にときめいてしまうではないか。私は、にやつこうとする自分の口元と戦うのに必死になる。
問題の発端は、「ジコチュー」というやつだ。
新条くんの姿を発見した。小動物のように小さい彼が、備え付けの台を使って本棚の一番上の本をとろうとしていた時だった。
私が声をかけたのに驚いて、彼がバランスを崩した。台から足を踏み外し、彼が転落する。そして、たまたま、本当にたまたまラッキーなことに、私の唇は彼の唇の感触を知ることになったのだった。
唖然とし、我に戻り、そして怒りを私にぶつけてくる彼。彼に嫌われたくない一心で何か言わなくてはと、必死に言葉を探して取り繕うとした。でも、口から出てきた言葉は、
『別に減るもんじゃないだろう』
そう言ってしまったのがいけなかったのか。
そして現在に至る、という訳だ。
「とにかく、もう、オレの前に姿を現すな! バカっ!」
思い切り平手打ちをされた。
何も言い返せない。去っていく彼の背中を見ているだけだ。
好きだ、新条くん。君だって、そうじゃないのか。それなのに君はいつもそうだ。むっつりとした顔か怒った顔のどちらかしか私には見せようとしない。それでも、君の表情はコロコロ変わるわけだが。
できることなら、「嫌い」から「好き」と素直に言ってもらいたい。
「そろそろ自覚したらどうなのだ」
彼の動きがぴたりと止まった。しまった。また思っていたことが声に出ていたみたいだ。
彼がずしずしと大股で、私の方に向かって歩いてくる。
「何だって? 今、何ていったんだよ、バカ! 気になって気になって仕方のない人間との初めての……それが! まさかの、こんな、味気のないシチュエーションとか、信じられねーだろ! バァァァカ!」
彼の常套句と共に、大声で彼の感情が高速で発射された。
……ごめん。その言葉だけでも、今、私は幸せだ。
「バカバカバカバカ! 大嫌いなんだよ! なんでお前みたいなやつが下にいるんだっつーの!」
バカは彼の常套句だ。高速で発射された。
顔を真っ赤にさせながら威嚇の姿勢で牙を見せる子猫といったところか。可愛い。だから許そう。
「……可愛いな」
「な、なにっ!」
しまった。心の中で思っていたことが、声になって漏れてしまった。
彼はいつも私を邪険にする。ことあるごとに嫌いだと連発する。可愛いと私が思っていたことがバレてしまい、より距離が開いてしまうのではないかと内心焦る。
だが、彼の反応はとても面白い。吊り上った眉。そして風船のように膨らんだ頬。じわじわと潤んでくる長い睫に囲まれた大きな瞳。
そうやって涙目で私を見つめてくるところが可愛い。……いや、本人からしたら、睨んでいるつもりなのだろう。
「新条くん、すまなかった」
「うるせえ、どうせ、本心からの言葉じゃないんだろう。絶対に許さねえからな!」
涙目でそう言われても、逆にときめいてしまうではないか。私は、にやつこうとする自分の口元と戦うのに必死になる。
問題の発端は、「ジコチュー」というやつだ。
新条くんの姿を発見した。小動物のように小さい彼が、備え付けの台を使って本棚の一番上の本をとろうとしていた時だった。
私が声をかけたのに驚いて、彼がバランスを崩した。台から足を踏み外し、彼が転落する。そして、たまたま、本当にたまたまラッキーなことに、私の唇は彼の唇の感触を知ることになったのだった。
唖然とし、我に戻り、そして怒りを私にぶつけてくる彼。彼に嫌われたくない一心で何か言わなくてはと、必死に言葉を探して取り繕うとした。でも、口から出てきた言葉は、
『別に減るもんじゃないだろう』
そう言ってしまったのがいけなかったのか。
そして現在に至る、という訳だ。
「とにかく、もう、オレの前に姿を現すな! バカっ!」
思い切り平手打ちをされた。
何も言い返せない。去っていく彼の背中を見ているだけだ。
好きだ、新条くん。君だって、そうじゃないのか。それなのに君はいつもそうだ。むっつりとした顔か怒った顔のどちらかしか私には見せようとしない。それでも、君の表情はコロコロ変わるわけだが。
できることなら、「嫌い」から「好き」と素直に言ってもらいたい。
「そろそろ自覚したらどうなのだ」
彼の動きがぴたりと止まった。しまった。また思っていたことが声に出ていたみたいだ。
彼がずしずしと大股で、私の方に向かって歩いてくる。
「何だって? 今、何ていったんだよ、バカ! 気になって気になって仕方のない人間との初めての……それが! まさかの、こんな、味気のないシチュエーションとか、信じられねーだろ! バァァァカ!」
彼の常套句と共に、大声で彼の感情が高速で発射された。
……ごめん。その言葉だけでも、今、私は幸せだ。