19年一本勝負さん参加録
カミングアウト・ハイキング
うららかというのは今日のような日のことをいうのだろう。
――久しぶりに会わね?
軽い調子のメールが来ていた。高校時代の部活仲間からだった。
せっかくなのでお花見なんてどうだ。じゃあ、来れるやつ集めてH山あたりの……、そそ、観光を兼ねてピクニックしようぜ。どっかの店でやる同窓会より楽しいんじゃないか?
あっさりとやることは決まった。
その後、彼が一斉に元部員たちに連絡を寄越したらしい。現在、H山のふもとのハイキングコースを彼らとともに行進している。
「いやあ、なんだか小学生に戻った気分だよな」
「俺、バナナ持ってきたぜ」
「せんせー、おやつにバナナは入りますかぁ? なんつって」
わははと愉快な笑い声があがる。
「なんだか、あのころに戻ったようだな」
すぐそばにいた悠真が俺の耳元で言った。
「なんだよ。お前なんか、高校の時からどこも変わっていねえじゃん」
「うわぁ、健司ちゃん、ひでぇっ」
悠真が演技じみた声をあげた。それを見て、由伊崎さんがくすくすと乾いた笑い声を漏らした。
「二人とも全然変わっていないわね」
「うっわ、ほら! 俺もそうだがお前もじゃん、健司!」
「特に悠真君は」
「……ガーン、なんちって。こう見えて健ちゃんって結構育ったのよ?」
由伊崎さんに悠真が俺の話をしだす。俺も会話に混じろうとした時、後ろから声をかけられて振り向いた。
「健ちゃん! おひさ」
「あ、芹沢さん」
「ねえ、あの二人って、卒業した後どうなったの?」
「二人?」
「悠真君とマキちゃんよ」
「さあ……」
由伊崎さんのことは知らないが、悠真のことなら知っている。というより卒業後に一人暮らしを始めた悠真の牙城に入り浸っている間になんつーかいろいろあって、気が付いていたら、くっついていた。物理的にも、精神的にも。
「えー、悠真君もマキちゃんも同じ大学じゃなかった?」
「そうだけど、学部が違うじゃん。俺、わかんないって」
俺は文学部。悠真は社会学部、由伊崎さんは確か福祉学部じゃなかっただろうか。
「ふーん、ま、そんなものか。いや、ね。あの二人、在学中に出来てたって噂があってさ」
「え?」
「どう見てもお似合いでしょ。マキちゃんは学年一の美少女だったし、悠真君もカッコいいし」
胸がチクリとする。そんなこと知らなかった。
「なんだが気になっちゃって。マキちゃんが悠真君と一緒にいるのを見てると」
芹沢さんとの会話が終わって、悠真へと視線を戻した時、俺はぎょっとした。
悠真と由伊崎さんは先に進んでいて遠くの桜の木の下にいた。敷く為のブルーシートが中途半端に投げ出されている。それだけじゃなくて。
木陰で――唇を合われていた。
「なっ、なっ、なにあれ!」
同じものをみたらしく芹沢さんの震えた声。
俺はしばらくの間、茫然としてしまったが、次第になんだがよくわからない気持ちがどっと吹き上がってきて――。
「悠真! 今の何なんだよ!」
思い切り、悠真に突きかかってしまった。
「え、おい、健司!?」
「ちょっとマキちゃん、今のなんなの?」
芹沢さんがも由伊崎さんに詰め寄っている。
「なんで、あんなとこでチューしてたわけ? あたしというものがありながら」
「そうだよ! 悠真は俺のことなんだと思っていたわけ?」
「えっ、ちょっと待てって、健ちゃん」
「セリちゃん、落ち着いてよぉ」
「じゃあ、なんで浮気なんてしたわけ?」
「えっ、浮気? ご、誤解、それは誤解だ、健ちゃん! 枝で隠れて見えていなかった字だけじゃないのか? 俺は由伊崎さんの髪についてた花びらを取ってあげてただけだって! 君以外に好きな人間なんていない!」
「してないしてない、本当よ! セリ以外に誰とわたしがするの?」
……。
我に返ってみると、周囲に他の部員たちが集まって俺たちを見ていた。
「修羅場だな」
と、元部長が言った。まじか、と誰かのこぼれた一人事が聞こえる。
「い、いや、これは……」
口ごもる俺。
完全に注目の的になってしまった。
「付き合っているの? 由伊崎と芹沢。それから、それとそれも」
それとそれとはなんだ。俺たちを物のように言うな、と思ったのだが。
「……うん」
脳みその回路がショートしてしまっていた俺はうなずいてしまった。横目に見ると芹沢さんも肯定している。
「ええええええええええええ!」
鳥の羽ばたく音が聞こえた。いきなり人間の驚叫が聞こえたから仕方がないだろう。
とんでもないカミングアウトになってしまったが、他の部員は笑って祝福してくれた。
うららかというのは今日のような日のことをいうのだろう。
――久しぶりに会わね?
軽い調子のメールが来ていた。高校時代の部活仲間からだった。
せっかくなのでお花見なんてどうだ。じゃあ、来れるやつ集めてH山あたりの……、そそ、観光を兼ねてピクニックしようぜ。どっかの店でやる同窓会より楽しいんじゃないか?
あっさりとやることは決まった。
その後、彼が一斉に元部員たちに連絡を寄越したらしい。現在、H山のふもとのハイキングコースを彼らとともに行進している。
「いやあ、なんだか小学生に戻った気分だよな」
「俺、バナナ持ってきたぜ」
「せんせー、おやつにバナナは入りますかぁ? なんつって」
わははと愉快な笑い声があがる。
「なんだか、あのころに戻ったようだな」
すぐそばにいた悠真が俺の耳元で言った。
「なんだよ。お前なんか、高校の時からどこも変わっていねえじゃん」
「うわぁ、健司ちゃん、ひでぇっ」
悠真が演技じみた声をあげた。それを見て、由伊崎さんがくすくすと乾いた笑い声を漏らした。
「二人とも全然変わっていないわね」
「うっわ、ほら! 俺もそうだがお前もじゃん、健司!」
「特に悠真君は」
「……ガーン、なんちって。こう見えて健ちゃんって結構育ったのよ?」
由伊崎さんに悠真が俺の話をしだす。俺も会話に混じろうとした時、後ろから声をかけられて振り向いた。
「健ちゃん! おひさ」
「あ、芹沢さん」
「ねえ、あの二人って、卒業した後どうなったの?」
「二人?」
「悠真君とマキちゃんよ」
「さあ……」
由伊崎さんのことは知らないが、悠真のことなら知っている。というより卒業後に一人暮らしを始めた悠真の牙城に入り浸っている間になんつーかいろいろあって、気が付いていたら、くっついていた。物理的にも、精神的にも。
「えー、悠真君もマキちゃんも同じ大学じゃなかった?」
「そうだけど、学部が違うじゃん。俺、わかんないって」
俺は文学部。悠真は社会学部、由伊崎さんは確か福祉学部じゃなかっただろうか。
「ふーん、ま、そんなものか。いや、ね。あの二人、在学中に出来てたって噂があってさ」
「え?」
「どう見てもお似合いでしょ。マキちゃんは学年一の美少女だったし、悠真君もカッコいいし」
胸がチクリとする。そんなこと知らなかった。
「なんだが気になっちゃって。マキちゃんが悠真君と一緒にいるのを見てると」
芹沢さんとの会話が終わって、悠真へと視線を戻した時、俺はぎょっとした。
悠真と由伊崎さんは先に進んでいて遠くの桜の木の下にいた。敷く為のブルーシートが中途半端に投げ出されている。それだけじゃなくて。
木陰で――唇を合われていた。
「なっ、なっ、なにあれ!」
同じものをみたらしく芹沢さんの震えた声。
俺はしばらくの間、茫然としてしまったが、次第になんだがよくわからない気持ちがどっと吹き上がってきて――。
「悠真! 今の何なんだよ!」
思い切り、悠真に突きかかってしまった。
「え、おい、健司!?」
「ちょっとマキちゃん、今のなんなの?」
芹沢さんがも由伊崎さんに詰め寄っている。
「なんで、あんなとこでチューしてたわけ? あたしというものがありながら」
「そうだよ! 悠真は俺のことなんだと思っていたわけ?」
「えっ、ちょっと待てって、健ちゃん」
「セリちゃん、落ち着いてよぉ」
「じゃあ、なんで浮気なんてしたわけ?」
「えっ、浮気? ご、誤解、それは誤解だ、健ちゃん! 枝で隠れて見えていなかった字だけじゃないのか? 俺は由伊崎さんの髪についてた花びらを取ってあげてただけだって! 君以外に好きな人間なんていない!」
「してないしてない、本当よ! セリ以外に誰とわたしがするの?」
……。
我に返ってみると、周囲に他の部員たちが集まって俺たちを見ていた。
「修羅場だな」
と、元部長が言った。まじか、と誰かのこぼれた一人事が聞こえる。
「い、いや、これは……」
口ごもる俺。
完全に注目の的になってしまった。
「付き合っているの? 由伊崎と芹沢。それから、それとそれも」
それとそれとはなんだ。俺たちを物のように言うな、と思ったのだが。
「……うん」
脳みその回路がショートしてしまっていた俺はうなずいてしまった。横目に見ると芹沢さんも肯定している。
「ええええええええええええ!」
鳥の羽ばたく音が聞こえた。いきなり人間の驚叫が聞こえたから仕方がないだろう。
とんでもないカミングアウトになってしまったが、他の部員は笑って祝福してくれた。