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★キラキラ 蘖(ひこばえ)の章★

[アーちゃん■継嗣]


中学二年生にして、俺を取り巻く環境は激変した。
すべては根こそぎ崩れ去り、新たに手にしたのは待ち侘びていた世界であり、渇望した力だった。
そうして舞い戻ってきた学園で、俺とアキラとアッキーは相変わらず中学生をやっている。
そりゃそうだ。実際、中学生だし。
アッキーが年上だったってのにはビックリしたけど、世俗に塗れた年数で考えたら、中学生ってのは妥当だな。

「アーちゃん、見てください。すごく可愛いです」

「ん?」

読んでいた本から顔を上げ、アキラが見ていたPCを覗き込んだ。
モニターは、子猫やら子犬やらの写真で埋め尽くされている。

「ああ、可愛いです。堪りませんね。モフモフですよモフモフ」

アキラさん、大興奮。
動物好きには、そりゃ堪らないでしょう。
かく言う俺も、嫌いではない。むしろ好きだ。
さすがに興奮はしないけど。

「子供というのは、どの種族も愛らしいものですね」

「そうね」

「もし、アーちゃんの赤さんが生まれたら……」

「はぁっ!?」

「もう、大声を出さないでください」

「なんだよ、俺の赤さんって!?」

「赤さんは赤ん坊、嬰児のことですよ」

「それは分かってる、そうじゃなくて」

「僕と雅人では、子供は期待できませんからね。アッキーも無理ですし、アキは……ま、おいおい考えるとして。
アーちゃんの子供というのが、一番自然かなと思い想像してみました」

「ないわー、それはないわー」

「もう、だから想像ですよ、想像」

「お得意の妄想か」

「むぅぅ、想像くらい、よいではないですか」

「ま、いいですけどね」

たかが妄想にケチをつけるのも無粋すぎる。
もともと東峰が相手でなくても、アキラには子を作る気などさらさらなかった。
だが求めないからといって、嫌いなわけではない。むしろ好きすぎるきらいがある。
どれくらい好きかっていうと、

「もし、東峰が誰か孕ませたら?」

「あ、それいいですね。雅人の子なら、僕の子も同然です。はぁ、そうなったら幸せでしょうね」

うふふと微笑うアキラが、無理をしてる様子はない。
そりゃそうだ。マジでそう思ってんだから。
しかし、見事に母体のことは忘れてるな。

「今度、雅人にお願いしてみましょうかね」

「止めときなさい。怒らせるだけだから」

あなたの身がやばそうだし、俺も血を見そうだしね。

「そうですか、では止めておきます」

珍しく素直な返事をいただけたことで、安心して読書に戻る。
アキラは動物たちに夢中なまま、お互い時間を潰した。

「アーちゃんの赤さんなら、男の子でも女の子でもさぞかしお可愛らしいでしょうね」

「は?」

まだやってたの?

「本音を言うと、アーちゃんによく似た男の子が欲しいです」

「なんで」

いもしない赤ん坊のことを考えるとか、これはこれで微笑ましいのかもしれない。
ま、これくらいの妄想なら、いいんでないの。

「アーちゃんがいなくとも寂しくないでしょう」

「なんで、俺がいない前提なのよ?」

「アーちゃんはお忙しいでしょうし、もしかしたら大切な相手がいるかもしれませんからね」

おいおい、それはありえないから。

「赤さんのことはお任せください。その分僕がたっぷりと愛情を注ぎますから。毎日胸に抱いて眠りますし」

「……」

「いっぱいいっぱい抱き締めて、可愛がって、たくさんたっくさん愛して、誰よりも幸せにしてあげます」

ですから赤さんのお世話はぜひ僕に、との戯言は、もう俺の耳に届いちゃいなかった。
最初こそ楽しそうに語るアキラに、こちらも楽しい気分を味わえた。
だがそれも、後になればなるほど、冷酷に醒めてゆく。

俺がいなくても、いいだと。
俺の子だから、愛するだと。

俺の血が流れてるというだけで、たかだかその程度のことで、無条件でお前に愛される対象となり得るのか――

「っざけ…な…」

「アーちゃん、どうかいたしましたか?」

「え、あ、なに?」

ハッとしたとき、心配そうに俺を窺うアキラの視線とぶつかった。
やばい。
なんかヘンなことを口走ったかも。

「怖いお顔をなさっておりましたよ、どうかなさったのですか?」

「怖い……? あ、いや、次のテストのこと考えてた」

「そうですか、次席キープは大変ですからね」

「次席言うなっ」

咄嗟に出た言い訳を、アキラは疑うことなく信じてくれた。
こういうところは、素直でありがたいと思える。

素直で残酷で、純粋にヒトに無関心な男の愛は、東峰が一手に請けることになった。
それでいい。
それだけで、いい。
その愛情を他に傾けるなど、決してあってはならないんだ。

だというのに――

俺のコピー品ごときに、その資格があるとでもいうのか。
簡単に与えられるというのか。
ふざけるなふざけるな、巫山戯るな!!

僅かだろうと欠片だろうと奪い取ろうとするのなら、そんなモノ、俺のこの手で消してやる――
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