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★キラキラ 蘖(ひこばえ)の章★

[東峰■開き直る]


昨日からの怒りを引き摺りつつ、放課後すぐに佐藤の携帯にメールを打っておいた。
そして、できるだけ早く仕事を終わらせるために、急ぎの物以外は全て明日に回させ、三井や藤村が呆気にとられる中、大急ぎで例の場所まで向かった。

もし佐藤が来ていなければ、容赦なく保護者に連絡させて頂こうと決意して裏山に到着すれば、小さな背中がポツンと佇んでおり、かなり気持ちが癒されるのを自覚する。

挨拶もそこそこに、呼び出しに応じた佐藤をまずは逃がさないよう、がっちりと腕の中に確保した。
窮屈そうに身を捩るが、緩めてやることはしない。
そして、いつものように膝に座らせ、昨日の話を蒸し返していく。

「俺が、人材欲しさに傍に置いてると思ったのか?」

「ええ、まぁ…」

「確かにお前は優秀かもしれないが、はっきり言って、そんなことはどうでもいい」

むしろお前はどうしようもなく馬鹿だしな。

「えっと、では、どうして会長様は僕に拘るのでしょうか?」

いつかその質問はされると分かっていたが、改めて聞かれるとかなり困るな。
なんせ、理由なんて俺が聞きたいくらいなんだからな。

友人というのはもう使えねぇな。
こういうときは、話を変えるのが一番だ。

「最初に言ったろ、こうやってるのが楽しいんだ。お前も嫌じゃないと答えたじゃねぇか」

「ですが、FCの方が…」

「周りの人間なんか関係ないだろ」

「……面倒ごとは嫌です」

「俺を無視するほうが、もっと面倒なことになると思うが」

暗に保護者のことを仄めかし、ニヤリと笑ってやる。
佐藤は一瞬顔を強張らせ、諦めたように小さく溜息を吐いた。

「どちらに転んでも同じだというなら……開き直るしかないですね」

暫く考える仕草をしたあと、いきなり佐藤が宣言した。
その表情は先ほどまでと打って変わって、実に穏やかなものに変わっている。

「もともと僕も楽しんでいたのですから、それを我慢する必要もないですね」

にこりと、口元を綻ばせた。
それは、FCたちが現れるまで、いつも見せてくれていたものだった。

佐藤の見た目は他と比べて、決して秀でているわけではない。
可憐でもなく、ましてや美しいわけでもない、平凡で藤村たちに謂わすと地味な容姿。
そんな地味で平凡な佐藤が笑ってくれるだけで、俺の胸は温かいものでいっぱいになる。

「でも、できるだけFCの人たちには知られないようにしましょうね」

返事代わりに真黒な髪を撫でれば、佐藤は気持ち良さそうに目を細めた。
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