峰岸照真の言い分
兄貴のコネで決まったバイトは、ホストクラブのボーイ。
雑用だけど、この際贅沢は言ってられない。
さっさと金貯めて、愛しい恋人と旅行したいもんね。
夏原さんに会った翌日、俺は再びホストクラブを訪ねた。
今度は正面入口ではなく裏口から入り、教えられたロッカールームの扉を開ける。
中では既に数人の男性が着替えを済ませていて、茶を飲みながら雑談に興じていた。
年代は様々で、服装からして俺と同じボーイだと推測される。
俺のことは伝えられていたのか、男性たちは特に不審がるでなく、次々に挨拶と自己紹介をはじめた。
その中の一際小さい男性が俺の教育係とのことだが、見た感じごく普通の、いや、真っ黒な髪のせいか、かなり地味な人だった。
「秋吉保(あきよしたもつ)です。わからないことがあったら、何でも聞いてください」
年齢は、俺とそう変わらないくらいか。
ボーイの制服を着てるからまだマシだが、どうしたって見劣りする容姿からも、先輩としての威厳は感じられない。
せめてもう少し身長があればいいが、それだってようやく俺の胸元あたりでは、ちびっ子の印象が否めないな。
「みね、……照真(てるま)です。よろしくお願いします」
苗字は教えなくていいと、夏原さんに言われていた。
フルネームを名乗らないなど怪しい限りだが、こういう世界ではそれも常識であるらしい。
先ほどから散々頂戴した自己紹介も、フルネームを名乗る者、名前だけの人、逆に苗字だけの人といろいろだった。
「ロッカーはここを使って」
「はい」
秋吉さんの指示のもと、ロッカーに荷物を入れる。
次にクリーニングから戻ったと思しき黒のボーイ服と、ビニールに入ったままの真新しいシャツ二着が渡された。
「これ、制服ね。サイズ合わなかったら言ってね。シャツはこれ。シャツはタグのところに名前書いて」
「名前?」
「クリーニングに出したとき、わかるようにね」
「自分で出すんじゃないの? あ、出さないんすか?」
咄嗟のタメ口を、秋吉さんは笑って聞き流した。
「他はどうか知らないけど、うちでは制服のクリーニングは店持ちだよ」
ふうん、そういうものなのか。
制服に袖を通したら、次は業務の説明だ。
他のスタッフが動き回る中、秋吉さんに店内の案内をしてもらいながら、いろいろと教えてもらう。
フロアの掃除や開店準備のこと、開店してからのあれやこれや。
内容は難しくなかったが、なにしろ初めての経験だ。
多少の不安が顔に出たか、秋吉さんが大丈夫だよと声をかけてくれた。
一通り説明が終わると、二階の事務所に連れて行かれた。
ここ、二階なんてあったのか。
事務所にはデスクとは別にソファセットがあり、そのソファではつい昨日会ったばかりの人物が寝ていた。
その人物とは、夏原仁(なつはらじん)。
俺の兄貴の元同級生にして、ここの雇われバーテンダーだ。
「仁さん。いつまで昼寝してるんですかっ」
秋吉さんに起こされた夏原さんが、不機嫌も露わに起き上がる。
「おはよう。あれ、来たんだ。ブッチすると思ってた」
おはようは秋吉さんに向けて、後半は俺に対してのものだ。
「来るでしょ。フツーは」
「いるんだよ、一度も出勤せず辞める奴がね。山ほど」
「こっちから頼んだのに、そんなことしませんよ」
「意外と真面目なんだな。兄貴とはえらい違いだ」
「仁さん、照真君のお兄さんと知り合いなんですか?」
「うん、ちょっとした知り合い。頼まれて仕方なくの縁故採用だから、陰口言っても虐めてもいいよ」
「ちょっとっ」
「じゃあ、虐めちゃおっかな」
夏原さんの酷いセリフに、秋吉さんがクスクス笑って乗っかかる。
そうは言っても、実際そんなことしないだろう。
まだ一瞬しか見てないが、ここの従業員の雰囲気はとても良いものだった。
荒んだ空気がなくて、仲の良さが窺えるのだ。
だからって馴れ合ってる風でなく、仕事をする上での同僚意識が強い感じがした。
たぶん、働きやすい職場なのだろう。
「一通り聞いた?」
「はい、秋吉さんに教えてもらいました」
「どう? やれそう?」
「まだなんとも。でも、やりますよ。とりあえず今日は」
素直に応えたら、秋吉さんがクスッと笑う。
見た目地味なのに、結構気さくで明るい人だな。
「金曜で初日から大変だけど、無理せずやってくれ」
「やっぱ、金曜は客多いっすか?」
「うん、多い。慣れるまでこき使わないから、その点は安心しろ。保の言うこと聞いてりゃいいよ」
「わかりました」
地味で平凡な見た目に関わらず、秋吉さんはかなりのことを任せられているらしい。
おっと、見た目は関係ないか。
「照真とちょっと話すから、保は先に戻っててくれ」
「わかりました。それじゃ照真君、あとでね」
「はい」
二人っきりになった途端、夏原さんが盛大に伸びをした。
昼寝していたというが、テーブル上に散乱する書類から、夏原さんが仕事してたと思わせる雰囲気がある。
「なぁ、雇われバーテンダーって、売り上げ管理もするもんなの?」
「しないね、フツーは」
「だよね。そういうのって、店長とかがするんでしょ」
「一応、マネージャーらしいよ、俺は」
「単なる雇われバーテンダーじゃねーじゃん」
「もともとはそうなんだよ。そういう契約だったんだ。俺の知らない間に、肩書きが増えてたんだよ」
「夜の店って、そういうもんなの?」
「違うんじゃねーか」
「だよなっ」
「もとから俺がやってたことだから、まあいいんだけどな」
「なぁ、ここの店長って何やる人なの?」
「接客。たまにしか来ないけど、店長目当ての客は多いよ」
「兄貴の友人、だっけ?」
「そう。和真の元同僚で元ホスト」
なるほど、接客がうまいわけだ。
「そうそう、店長のこと言っておこうと思って、呼び出したんだ」
「なに?」
「ここの店長、遠山シリルっつー大成功ハーフなんだけど……」
「なんだけど?」
「はっきり言って、お前はあいつの好みだと思う」
「はい……?」
「今日はおそらく出勤する。いきなり口説いてくるかもしれないけど、怖いやつじゃないから」
「ちょっと待ってよ。店長って男でしょ。元ホストなんだよね」
「何を驚くんだ?」
「な、何って」
「お前の恋人も男なんだろ」
「な、な、なななんでっ、」
「和真が言ってた」
「っ――!」
クソ兄貴!
なんでそういうことをペラペラ喋るかな!
いくら両家公認とはいえ、赤の他人にばらす内容じゃないだろ!
「うちの店は、そういうのに寛容だから気にするな」
「そういう問題じゃ」
「何も恥じることはない。オーナーからしてそうなんだからな」
つまり、兄貴が性別選ばずエッチしまくってることを知ってるわけね。
元同級生だし、知っててもおかしくないか。
だからって、弟の恋人をばらすのとは、ちょっと違うだろ。
「文句は和真に言ってもらうとして、重要なのはこっからだ」
「どっからだよ!」
「お前が遠山に口説かれる確率は高い」
「そうかもね!」
「誘いに乗る乗らないは自由だが、あまりお勧めはしない」
「だから、俺には恋人が」
「でも、ばれなきゃいいってスタンスだろ?」
「うっ、な、なんで、それを?」
「間違いなく、血縁だな」
「兄貴と一緒にすんな」
「うるさい、バカ兄弟。とにかく、できれば断るのを勧める。バカ兄貴と別の意味でも兄弟になりたいなら、好きにしろ」
「ま、まさかっ」
「そのまさかだよ。遠山と和真は、一時付き合ってたんだ」
「うわー、元カレかよ……」
「表向きは円満に別れたが、遠山のほうは今でも未練たっぷりだからな。和真の弟と知れたら、いろいろとやばい、かもしれない」
「なんつうところを紹介するかなぁ……」
もし弟だとばれたら、もしかしたら兄貴の修羅場に発展するかもしれない。
しかも、俺を巻き込みつつとなったら、目も当てられないぞ。
そんなところを紹介するなんて、兄貴にしては危機感なさすぎだっつーの。
それでも、せっかく決まったバイト先を、みすみす手放したくないしな。
「遠山は和真の家族構成を知らない。和真の顔と身体が好きなだけで、プライベートはどうでもいいんだって」
「その店長さんは、今でも兄貴と連絡取り合ったりしてんの?」
「ほとんど、ないな」
「兄貴のとこに押しかけたりは?」
「ない。遠山は、そういうタイプじゃない」
「じゃあ、俺と兄貴が一緒のときに、バッタリなんて機会は、」
「まず、ないと思う。遠山によると、いずれ後悔した和真が、土下座で復縁を迫ってくるそうだから」
「なんだ、そりゃ。されるならともかく、あいつがそんなマネするわけないじゃん」
天と地が逆さまになっても、絶対にありえないと断言できるね。
「俺もそう思う。だが遠山が信じてる間は、平和だろ」
「仁さん、かなりの事情通だね。兄貴とは相当親しいの?」
「別に。フツー」
「全然、フツーじゃないよ」
「フツーはフツーだ」
「なんだそりゃ」
グチグチ言っても仕方ない、ここまで来たら腹を括ろう。
要は、弟だとばれなきゃいいんだろ。
んでもって、口説かれたら、適当に対処すれば済む話だ。
こんな容姿だから言い寄られるのには慣れてるし、断り文句ならスラスラ出てくる。
「恋人いるって、言ってもいいの?」
「恋人持ちのキャスト(ホスト)も珍しくない。客に知られなければ、それでいいさ」
やっぱ、そういもんなんだ。
「じゃあ、客には黙っとくけど、店の人には言っちゃうね」
雑用だけど、この際贅沢は言ってられない。
さっさと金貯めて、愛しい恋人と旅行したいもんね。
夏原さんに会った翌日、俺は再びホストクラブを訪ねた。
今度は正面入口ではなく裏口から入り、教えられたロッカールームの扉を開ける。
中では既に数人の男性が着替えを済ませていて、茶を飲みながら雑談に興じていた。
年代は様々で、服装からして俺と同じボーイだと推測される。
俺のことは伝えられていたのか、男性たちは特に不審がるでなく、次々に挨拶と自己紹介をはじめた。
その中の一際小さい男性が俺の教育係とのことだが、見た感じごく普通の、いや、真っ黒な髪のせいか、かなり地味な人だった。
「秋吉保(あきよしたもつ)です。わからないことがあったら、何でも聞いてください」
年齢は、俺とそう変わらないくらいか。
ボーイの制服を着てるからまだマシだが、どうしたって見劣りする容姿からも、先輩としての威厳は感じられない。
せめてもう少し身長があればいいが、それだってようやく俺の胸元あたりでは、ちびっ子の印象が否めないな。
「みね、……照真(てるま)です。よろしくお願いします」
苗字は教えなくていいと、夏原さんに言われていた。
フルネームを名乗らないなど怪しい限りだが、こういう世界ではそれも常識であるらしい。
先ほどから散々頂戴した自己紹介も、フルネームを名乗る者、名前だけの人、逆に苗字だけの人といろいろだった。
「ロッカーはここを使って」
「はい」
秋吉さんの指示のもと、ロッカーに荷物を入れる。
次にクリーニングから戻ったと思しき黒のボーイ服と、ビニールに入ったままの真新しいシャツ二着が渡された。
「これ、制服ね。サイズ合わなかったら言ってね。シャツはこれ。シャツはタグのところに名前書いて」
「名前?」
「クリーニングに出したとき、わかるようにね」
「自分で出すんじゃないの? あ、出さないんすか?」
咄嗟のタメ口を、秋吉さんは笑って聞き流した。
「他はどうか知らないけど、うちでは制服のクリーニングは店持ちだよ」
ふうん、そういうものなのか。
制服に袖を通したら、次は業務の説明だ。
他のスタッフが動き回る中、秋吉さんに店内の案内をしてもらいながら、いろいろと教えてもらう。
フロアの掃除や開店準備のこと、開店してからのあれやこれや。
内容は難しくなかったが、なにしろ初めての経験だ。
多少の不安が顔に出たか、秋吉さんが大丈夫だよと声をかけてくれた。
一通り説明が終わると、二階の事務所に連れて行かれた。
ここ、二階なんてあったのか。
事務所にはデスクとは別にソファセットがあり、そのソファではつい昨日会ったばかりの人物が寝ていた。
その人物とは、夏原仁(なつはらじん)。
俺の兄貴の元同級生にして、ここの雇われバーテンダーだ。
「仁さん。いつまで昼寝してるんですかっ」
秋吉さんに起こされた夏原さんが、不機嫌も露わに起き上がる。
「おはよう。あれ、来たんだ。ブッチすると思ってた」
おはようは秋吉さんに向けて、後半は俺に対してのものだ。
「来るでしょ。フツーは」
「いるんだよ、一度も出勤せず辞める奴がね。山ほど」
「こっちから頼んだのに、そんなことしませんよ」
「意外と真面目なんだな。兄貴とはえらい違いだ」
「仁さん、照真君のお兄さんと知り合いなんですか?」
「うん、ちょっとした知り合い。頼まれて仕方なくの縁故採用だから、陰口言っても虐めてもいいよ」
「ちょっとっ」
「じゃあ、虐めちゃおっかな」
夏原さんの酷いセリフに、秋吉さんがクスクス笑って乗っかかる。
そうは言っても、実際そんなことしないだろう。
まだ一瞬しか見てないが、ここの従業員の雰囲気はとても良いものだった。
荒んだ空気がなくて、仲の良さが窺えるのだ。
だからって馴れ合ってる風でなく、仕事をする上での同僚意識が強い感じがした。
たぶん、働きやすい職場なのだろう。
「一通り聞いた?」
「はい、秋吉さんに教えてもらいました」
「どう? やれそう?」
「まだなんとも。でも、やりますよ。とりあえず今日は」
素直に応えたら、秋吉さんがクスッと笑う。
見た目地味なのに、結構気さくで明るい人だな。
「金曜で初日から大変だけど、無理せずやってくれ」
「やっぱ、金曜は客多いっすか?」
「うん、多い。慣れるまでこき使わないから、その点は安心しろ。保の言うこと聞いてりゃいいよ」
「わかりました」
地味で平凡な見た目に関わらず、秋吉さんはかなりのことを任せられているらしい。
おっと、見た目は関係ないか。
「照真とちょっと話すから、保は先に戻っててくれ」
「わかりました。それじゃ照真君、あとでね」
「はい」
二人っきりになった途端、夏原さんが盛大に伸びをした。
昼寝していたというが、テーブル上に散乱する書類から、夏原さんが仕事してたと思わせる雰囲気がある。
「なぁ、雇われバーテンダーって、売り上げ管理もするもんなの?」
「しないね、フツーは」
「だよね。そういうのって、店長とかがするんでしょ」
「一応、マネージャーらしいよ、俺は」
「単なる雇われバーテンダーじゃねーじゃん」
「もともとはそうなんだよ。そういう契約だったんだ。俺の知らない間に、肩書きが増えてたんだよ」
「夜の店って、そういうもんなの?」
「違うんじゃねーか」
「だよなっ」
「もとから俺がやってたことだから、まあいいんだけどな」
「なぁ、ここの店長って何やる人なの?」
「接客。たまにしか来ないけど、店長目当ての客は多いよ」
「兄貴の友人、だっけ?」
「そう。和真の元同僚で元ホスト」
なるほど、接客がうまいわけだ。
「そうそう、店長のこと言っておこうと思って、呼び出したんだ」
「なに?」
「ここの店長、遠山シリルっつー大成功ハーフなんだけど……」
「なんだけど?」
「はっきり言って、お前はあいつの好みだと思う」
「はい……?」
「今日はおそらく出勤する。いきなり口説いてくるかもしれないけど、怖いやつじゃないから」
「ちょっと待ってよ。店長って男でしょ。元ホストなんだよね」
「何を驚くんだ?」
「な、何って」
「お前の恋人も男なんだろ」
「な、な、なななんでっ、」
「和真が言ってた」
「っ――!」
クソ兄貴!
なんでそういうことをペラペラ喋るかな!
いくら両家公認とはいえ、赤の他人にばらす内容じゃないだろ!
「うちの店は、そういうのに寛容だから気にするな」
「そういう問題じゃ」
「何も恥じることはない。オーナーからしてそうなんだからな」
つまり、兄貴が性別選ばずエッチしまくってることを知ってるわけね。
元同級生だし、知っててもおかしくないか。
だからって、弟の恋人をばらすのとは、ちょっと違うだろ。
「文句は和真に言ってもらうとして、重要なのはこっからだ」
「どっからだよ!」
「お前が遠山に口説かれる確率は高い」
「そうかもね!」
「誘いに乗る乗らないは自由だが、あまりお勧めはしない」
「だから、俺には恋人が」
「でも、ばれなきゃいいってスタンスだろ?」
「うっ、な、なんで、それを?」
「間違いなく、血縁だな」
「兄貴と一緒にすんな」
「うるさい、バカ兄弟。とにかく、できれば断るのを勧める。バカ兄貴と別の意味でも兄弟になりたいなら、好きにしろ」
「ま、まさかっ」
「そのまさかだよ。遠山と和真は、一時付き合ってたんだ」
「うわー、元カレかよ……」
「表向きは円満に別れたが、遠山のほうは今でも未練たっぷりだからな。和真の弟と知れたら、いろいろとやばい、かもしれない」
「なんつうところを紹介するかなぁ……」
もし弟だとばれたら、もしかしたら兄貴の修羅場に発展するかもしれない。
しかも、俺を巻き込みつつとなったら、目も当てられないぞ。
そんなところを紹介するなんて、兄貴にしては危機感なさすぎだっつーの。
それでも、せっかく決まったバイト先を、みすみす手放したくないしな。
「遠山は和真の家族構成を知らない。和真の顔と身体が好きなだけで、プライベートはどうでもいいんだって」
「その店長さんは、今でも兄貴と連絡取り合ったりしてんの?」
「ほとんど、ないな」
「兄貴のとこに押しかけたりは?」
「ない。遠山は、そういうタイプじゃない」
「じゃあ、俺と兄貴が一緒のときに、バッタリなんて機会は、」
「まず、ないと思う。遠山によると、いずれ後悔した和真が、土下座で復縁を迫ってくるそうだから」
「なんだ、そりゃ。されるならともかく、あいつがそんなマネするわけないじゃん」
天と地が逆さまになっても、絶対にありえないと断言できるね。
「俺もそう思う。だが遠山が信じてる間は、平和だろ」
「仁さん、かなりの事情通だね。兄貴とは相当親しいの?」
「別に。フツー」
「全然、フツーじゃないよ」
「フツーはフツーだ」
「なんだそりゃ」
グチグチ言っても仕方ない、ここまで来たら腹を括ろう。
要は、弟だとばれなきゃいいんだろ。
んでもって、口説かれたら、適当に対処すれば済む話だ。
こんな容姿だから言い寄られるのには慣れてるし、断り文句ならスラスラ出てくる。
「恋人いるって、言ってもいいの?」
「恋人持ちのキャスト(ホスト)も珍しくない。客に知られなければ、それでいいさ」
やっぱ、そういもんなんだ。
「じゃあ、客には黙っとくけど、店の人には言っちゃうね」