■浮気男と平凡君■-オムニバスな前提-
[峰岸照真の言い分3]
これからバイト先に連れていくという夏原さんに付いて店を出た。
そういえば、職種すら説明されていない。
「えっと、バイトのことなんも聞いてないんすけど」
「兄貴から聞いてないのか?」
「聞いてないっす」
正直に答えたら、夏原さんはたちまち不機嫌な顔をして携帯を取り出した。
え、なんかマズかった?
「お前は阿呆か!!」
「えっ!?」
お、俺!?
一瞬慌てたが、夏原さんが叫んでいる先は携帯。
「本当にお前は莫迦だな! なんで説明してないんだ!」
どうやら俺への説明不足に夏原さんはご立腹らしい。
「弟!」
つーか、夏原さんは俺のバイト先のバーテンダーってことだったよな。
ってことは、そこは飲み屋なわけだ。
だったら店長さんがいるわけで、新たなバイト君を迎えに行けと店長辺りに命じられ、夏原さんはなんの説明もないままに俺を迎えにきたってことか。
んで、その説明不足の店長と兄貴はお知り合い、と。
「おい! 照真!」
「は、はははい!」
電話との言い合いを続けていた夏原さんが、いきなり俺のことを呼びつけた。
突然の呼び捨てに、だが友人たちからもそう呼ばれているせいか、特に気にはならない。
気になるのは、どこまでも不機嫌丸出しの面のほうだ。
「なんでしょうか?」
焦ることもなくそう訊けば、夏原さんが無言で携帯を差し出す。
これは、代われってことだよな。
いきなり知らない人と話すのは、抵抗あるんですけど。
ちょっと迷っていたら、おもいっきり睨まれた。
「さっさとしろっ」
「はいはい」
俺とは違い、夏原さんは標準体型だ。
それはもう素晴らしく日本人らしい体型をしている。
大きすぎず小さすぎず、太くもなければ細すぎもしない。
まったくの中肉中背は、いっそ見事なほどだった。
だから凄まれても身の危険は感じないが、これから共に働くんだから敬意ってのを払わないとな。
多少頬を引き攣らせながら、夏原さんから携帯を受け取り耳に当てる。
「も、もしもし~?」
『照真? なんでお前が出るんだ!』
「あれ、兄貴?」
耳を擽る低音は、あろうことか兄貴の美声。
『仁はどうした!?』
「仁?」
って、誰だっけ?
あー、そういえば夏原さんがそんな名前だった気が。
「あ、ちょっと、置いてかないでよ」
その夏原さん、携帯を渡したかと思うと、俺を無視して歩いて行く。
真夏の午後1時。
ギラギラと射す陽光の下、その背中を見逃すことはない。
だから、急いで後を追いかけた。
さすがに案内人もなく目的の場所に着く自信が、俺にはないからだ。
住所も電話番号も、店名すら知らないんだもん。
『ちっ』
俺の状況が判ったのか判ってないのか、兄貴が強く舌打し苛立たしさを露わにしていた。
え、俺のせいなの?
「あのさ、さっぱり状況が見えないんだけど。つかさ、ちゃんとバイトできるわけ?」
『それに関しては安心しろ』
兄貴が言うなら大丈夫だろう、なんて納得しかけていたら、電話の向こうから慌しいやり取りが聞こえた。
どうやら兄貴は仕事中らしい。
『悪いが時間がないんだ。仁に代わってくれ』
「ちょっと、説明してよ」
『仁がしてくれる、いいから代われ』
「あっそ、ちょっと待ってよ。夏原さん、兄貴が代われって」
無事追いついて隣りに並び、いまだ不機嫌そうな相手に携帯を渡した。
夏原さんは黙って受け取り、そのまま、
「あーっ」
一瞬の躊躇もなく通話終了。
「俺が兄貴にどやされるじゃん」
「知るか。なんでもかんでも丸投げしやがって」
これからバイト先に連れていくという夏原さんに付いて店を出た。
そういえば、職種すら説明されていない。
「えっと、バイトのことなんも聞いてないんすけど」
「兄貴から聞いてないのか?」
「聞いてないっす」
正直に答えたら、夏原さんはたちまち不機嫌な顔をして携帯を取り出した。
え、なんかマズかった?
「お前は阿呆か!!」
「えっ!?」
お、俺!?
一瞬慌てたが、夏原さんが叫んでいる先は携帯。
「本当にお前は莫迦だな! なんで説明してないんだ!」
どうやら俺への説明不足に夏原さんはご立腹らしい。
「弟!」
つーか、夏原さんは俺のバイト先のバーテンダーってことだったよな。
ってことは、そこは飲み屋なわけだ。
だったら店長さんがいるわけで、新たなバイト君を迎えに行けと店長辺りに命じられ、夏原さんはなんの説明もないままに俺を迎えにきたってことか。
んで、その説明不足の店長と兄貴はお知り合い、と。
「おい! 照真!」
「は、はははい!」
電話との言い合いを続けていた夏原さんが、いきなり俺のことを呼びつけた。
突然の呼び捨てに、だが友人たちからもそう呼ばれているせいか、特に気にはならない。
気になるのは、どこまでも不機嫌丸出しの面のほうだ。
「なんでしょうか?」
焦ることもなくそう訊けば、夏原さんが無言で携帯を差し出す。
これは、代われってことだよな。
いきなり知らない人と話すのは、抵抗あるんですけど。
ちょっと迷っていたら、おもいっきり睨まれた。
「さっさとしろっ」
「はいはい」
俺とは違い、夏原さんは標準体型だ。
それはもう素晴らしく日本人らしい体型をしている。
大きすぎず小さすぎず、太くもなければ細すぎもしない。
まったくの中肉中背は、いっそ見事なほどだった。
だから凄まれても身の危険は感じないが、これから共に働くんだから敬意ってのを払わないとな。
多少頬を引き攣らせながら、夏原さんから携帯を受け取り耳に当てる。
「も、もしもし~?」
『照真? なんでお前が出るんだ!』
「あれ、兄貴?」
耳を擽る低音は、あろうことか兄貴の美声。
『仁はどうした!?』
「仁?」
って、誰だっけ?
あー、そういえば夏原さんがそんな名前だった気が。
「あ、ちょっと、置いてかないでよ」
その夏原さん、携帯を渡したかと思うと、俺を無視して歩いて行く。
真夏の午後1時。
ギラギラと射す陽光の下、その背中を見逃すことはない。
だから、急いで後を追いかけた。
さすがに案内人もなく目的の場所に着く自信が、俺にはないからだ。
住所も電話番号も、店名すら知らないんだもん。
『ちっ』
俺の状況が判ったのか判ってないのか、兄貴が強く舌打し苛立たしさを露わにしていた。
え、俺のせいなの?
「あのさ、さっぱり状況が見えないんだけど。つかさ、ちゃんとバイトできるわけ?」
『それに関しては安心しろ』
兄貴が言うなら大丈夫だろう、なんて納得しかけていたら、電話の向こうから慌しいやり取りが聞こえた。
どうやら兄貴は仕事中らしい。
『悪いが時間がないんだ。仁に代わってくれ』
「ちょっと、説明してよ」
『仁がしてくれる、いいから代われ』
「あっそ、ちょっと待ってよ。夏原さん、兄貴が代われって」
無事追いついて隣りに並び、いまだ不機嫌そうな相手に携帯を渡した。
夏原さんは黙って受け取り、そのまま、
「あーっ」
一瞬の躊躇もなく通話終了。
「俺が兄貴にどやされるじゃん」
「知るか。なんでもかんでも丸投げしやがって」