■浮気男と平凡君■-オムニバスな前提-
[峰岸照真の言い分2]
アルバイトの面接に、履歴書ってのは必要か?
答えはYES。
でも、兄の紹介なら? うーん、微妙?
手ぶらでいいと言われたから、素直に手ぶらで来たけど、本当に履歴書も何もなしでいいのかが不安。
そうは思われないけど、俺って意外に常識人なのよね。
夏休みにようやく会えた恋人は、旅行の誘いを無下にも断ってくれた。
理由は、親の脛齧りだから。
その言葉に、何の反論もできなかった。
貴璃がそう言うんなら、自分で稼いでみせるだけだ。
とはいえ今まで働いたことのない俺は、まずは大学のバイト募集に目を通すことから始めた。
家庭教師ってのが時給良かったんだけど、外見を理由に即アウト。
ん、仕方ない。
イケメンすぎるってのは、相手の親側にすれば不安要素でしかないもんね。
モデルでいいじゃん、なんて大学でできた悪友たちに勧められた。
悪いけど、そういう目立つことはしない主義だ。だからそれはパス。
肉体労働もパス。時給が安すぎるのもパス。
「ったく我儘なやつだな。あとはホストくらいしかないんじゃねーの」
そう言われて、兄貴の顔がすぐさま浮かんだ。
俺の8歳上の兄の持つ会社は、飲食関連も手掛けていたはずだ。
プライベート用――セフレ用とは別個に持つのは普通でしょ――の携帯から速攻電話すれば、兄貴は大袈裟に驚きながらもバイト先を斡旋してくれると約束してくれた。
で、そのバイト先の人と今から会うんだけど、待ち合わせ場所ってのがそこそこ有名なお洒落なカフェの店内。
ここも兄貴の会社が経営している店らしい。知らんかった。
あ、この店でバイトするわけじゃないから、あくまで待ち合わせの場所ってだけ。
つうかさ、先方さんの顔も名前も知らないんですけど。
連絡先も知らないんすけど、これって擦れ違ったらどうなるわけ?
「峰岸照真(みねぎしてるま)君?」
少々不安になりながら、注文したカプチーノに指をかけたところで、そう声をかけられた。
「はい、そうですけど…」
見上げながら返事をすれば、テーブルの横に立っていた男の人が、俺の前の椅子をひいて座った。
およそお洒落なカフェには不似合いというか、一人でこんな所に来るタイプに見えないというか、なんとも地味な服装で現れたごくフツーーーーの男性が、先方さんってことらしい。
兄貴のスーツ姿を見慣れているせいか、社会人はスーツってイメージがある。
バイト先の人が来るって聞いてたから、当然相手は社会人で、つまり俺よりもかなり年上なんだろうと想定していた。
なのに、現れたのはごくごく普通のシャツにジーンズって格好の平凡な男性で、なんだかいろいろ拍子抜け。
しかし相手はバイト先の人、不快な印象を与えないようにと、カップから手を離し背を正して相手の出方をじっと待つ。
「……なるほど」
ほどなくウィトレスがやってきて、モカを頼んだ男性が、上から下まで俺を眺めてからそう一言。
その"なるほど"ってのは、どういう意味なんだろうか。
「夏原仁(なつはらじん)だ。バーテンダーをやっている」
「は? バーテン?」
「時給1500円以上、肉体労働はパス、目立たず騒がず家から近く、夏は涼しく冬は暖か、月水金の週三日」
「あ、それ、兄貴に言った条件じゃん」
電話で告げた俺の希望を、夏原仁と名乗った相手が、完璧なまでの無表情でまんま口にしてくれた。
「勤務時間は一応16時からだけど」
「夏休みだし、余裕っすよ」
「休みが終われば、大学の方を優先で……もしかして短期か?」
そういえば、いつまでなんて考えてもいなかった。
だいたい俺の希望で働いたら、月いくらになるんだ?
「んー、期間は考えてないっす。適当?」
ちょうどそこで、夏原さんの注文したモカが運ばれてきた。
テーブルに置かれたモカのカップに手をつけた夏原さんに合わせ、俺も自分のカップに指をかける。
さすがは兄貴のツテ、特に何の問題もなくすぐさまバイトを始められそうだ。
にしてもこの夏原って人、俺にニコリともしやがらないとは、呆れるほどに無愛想なひとだな。
店内にいる客たちの視線はほぼ俺に向いていて、ウェイトレスなんか顔を真っ赤にしてた。
ウェイターまでもがうっとりと見る俺を前に、ここまで表情が動かない人は初めてかもしんない。
「莫迦兄弟」
「え、なんか言いました?」
「いや、別に」
ようやく飲むことができたカプチーノは、かなり美味かった。
さすが兄貴の店、これなら流行るはずだよな。
アルバイトの面接に、履歴書ってのは必要か?
答えはYES。
でも、兄の紹介なら? うーん、微妙?
手ぶらでいいと言われたから、素直に手ぶらで来たけど、本当に履歴書も何もなしでいいのかが不安。
そうは思われないけど、俺って意外に常識人なのよね。
夏休みにようやく会えた恋人は、旅行の誘いを無下にも断ってくれた。
理由は、親の脛齧りだから。
その言葉に、何の反論もできなかった。
貴璃がそう言うんなら、自分で稼いでみせるだけだ。
とはいえ今まで働いたことのない俺は、まずは大学のバイト募集に目を通すことから始めた。
家庭教師ってのが時給良かったんだけど、外見を理由に即アウト。
ん、仕方ない。
イケメンすぎるってのは、相手の親側にすれば不安要素でしかないもんね。
モデルでいいじゃん、なんて大学でできた悪友たちに勧められた。
悪いけど、そういう目立つことはしない主義だ。だからそれはパス。
肉体労働もパス。時給が安すぎるのもパス。
「ったく我儘なやつだな。あとはホストくらいしかないんじゃねーの」
そう言われて、兄貴の顔がすぐさま浮かんだ。
俺の8歳上の兄の持つ会社は、飲食関連も手掛けていたはずだ。
プライベート用――セフレ用とは別個に持つのは普通でしょ――の携帯から速攻電話すれば、兄貴は大袈裟に驚きながらもバイト先を斡旋してくれると約束してくれた。
で、そのバイト先の人と今から会うんだけど、待ち合わせ場所ってのがそこそこ有名なお洒落なカフェの店内。
ここも兄貴の会社が経営している店らしい。知らんかった。
あ、この店でバイトするわけじゃないから、あくまで待ち合わせの場所ってだけ。
つうかさ、先方さんの顔も名前も知らないんですけど。
連絡先も知らないんすけど、これって擦れ違ったらどうなるわけ?
「峰岸照真(みねぎしてるま)君?」
少々不安になりながら、注文したカプチーノに指をかけたところで、そう声をかけられた。
「はい、そうですけど…」
見上げながら返事をすれば、テーブルの横に立っていた男の人が、俺の前の椅子をひいて座った。
およそお洒落なカフェには不似合いというか、一人でこんな所に来るタイプに見えないというか、なんとも地味な服装で現れたごくフツーーーーの男性が、先方さんってことらしい。
兄貴のスーツ姿を見慣れているせいか、社会人はスーツってイメージがある。
バイト先の人が来るって聞いてたから、当然相手は社会人で、つまり俺よりもかなり年上なんだろうと想定していた。
なのに、現れたのはごくごく普通のシャツにジーンズって格好の平凡な男性で、なんだかいろいろ拍子抜け。
しかし相手はバイト先の人、不快な印象を与えないようにと、カップから手を離し背を正して相手の出方をじっと待つ。
「……なるほど」
ほどなくウィトレスがやってきて、モカを頼んだ男性が、上から下まで俺を眺めてからそう一言。
その"なるほど"ってのは、どういう意味なんだろうか。
「夏原仁(なつはらじん)だ。バーテンダーをやっている」
「は? バーテン?」
「時給1500円以上、肉体労働はパス、目立たず騒がず家から近く、夏は涼しく冬は暖か、月水金の週三日」
「あ、それ、兄貴に言った条件じゃん」
電話で告げた俺の希望を、夏原仁と名乗った相手が、完璧なまでの無表情でまんま口にしてくれた。
「勤務時間は一応16時からだけど」
「夏休みだし、余裕っすよ」
「休みが終われば、大学の方を優先で……もしかして短期か?」
そういえば、いつまでなんて考えてもいなかった。
だいたい俺の希望で働いたら、月いくらになるんだ?
「んー、期間は考えてないっす。適当?」
ちょうどそこで、夏原さんの注文したモカが運ばれてきた。
テーブルに置かれたモカのカップに手をつけた夏原さんに合わせ、俺も自分のカップに指をかける。
さすがは兄貴のツテ、特に何の問題もなくすぐさまバイトを始められそうだ。
にしてもこの夏原って人、俺にニコリともしやがらないとは、呆れるほどに無愛想なひとだな。
店内にいる客たちの視線はほぼ俺に向いていて、ウェイトレスなんか顔を真っ赤にしてた。
ウェイターまでもがうっとりと見る俺を前に、ここまで表情が動かない人は初めてかもしんない。
「莫迦兄弟」
「え、なんか言いました?」
「いや、別に」
ようやく飲むことができたカプチーノは、かなり美味かった。
さすが兄貴の店、これなら流行るはずだよな。