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■浮気男と平凡君■-オムニバスな前提-

[峰岸照真の言い分1]


都心の一等地に建つ高層マンション。
その中にある親父名義の一室が、今の俺の住処だ。
大学に近いうえ繁華街からもほど近いってのは魅力的だけど、如何せん実家からはちょい離れている。
一人暮らしは憧れるが日々の食事はともかくも、掃除や洗濯なんてのを考えたら、やっぱ実家住まいのほうが楽だよな。
そう言ったら、週2日家政婦が通うことになった。

これで心置きなく恋人との逢瀬を楽しめるなんて思ったのも束の間、俺の幼馴染であり後輩、そして恋人という肩書きを併せ持つはずの貴璃(きり)は、たくさんいる友人たちとの遊びに夢中で、なかなか俺の部屋になんて訪ねてこなかった。
車で30分ほどの距離ってのが、ネックなんだろうか……。

迎えに行くし送るって言ってんのに、そんな恥ずかしいことは嫌だと言われた。
じゃあ休日に会おうと誘っても、友人との予定があり忙しいらしい。
貴璃いわく、今年で卒業だからそれまでの間に親睦を深めるとのこと。
付属校だから真面目にやってりゃ大学まで一直線、受験に追われることのない貴璃たちは、高校生活最後の年をを思い出作りに費やすつもりらしい。
ちなみに、俺は外部の大学を受けて合格した。一応名門と言われる私立大学だ。

恋人同士のはずなのに、幼馴染から進展しているのか怪しい関係は、ちょい寂しい。
あ、エッチはちゃんとしてるけどね。

親同士が親友で家も近所、小っさい頃からいつも一緒だった貴璃は、三人兄弟の末っ子で正義感に溢れた心優しい子供だった。
だけど、離れに住まう祖母ちゃんの前では、いつも泣いていた。
兄ちゃんも姉ちゃんも綺麗なのに、どうして俺はそうじゃないの、そう言っていつも祖母ちゃんに泣きついていた。
貴璃の家の離れには、当時貴璃の祖母ちゃんが住んでいて、俺もしょっちゅう通ってたんだ。
とても暖かくて綺麗なひとで、そして誰よりも優しい手を持っていた祖母ちゃんに、俺も貴璃も毎日のように抱き締めてもらっていた。

そんな祖母ちゃんの前でだけ、貴璃は泣いた。
自分が不細工なのが嫌だと、そう言ってわんわんと泣いた。
祖母ちゃんは困った様子で慰めながら、それでも貴璃を優しく撫でて、でも祖母ちゃんは貴璃が大好きよと告げる。

「顔なんて関係ないよ。俺も貴璃が好き」

俺も祖母ちゃんと一緒にそう告げた。
だって本当のことだったから。
貴璃の兄ちゃんも姉ちゃんも両親だって綺麗だけど、俺には貴璃のほうが遙かに可愛く見えたんだ。

「テルは綺麗だからそう言うんだ」

確かに俺も俺の家族も、そう言われることが多かった。
二家族の中では、ある意味貴璃だけが異質。
でも、俺には璃貴が、貴璃だけが可愛く見えて仕方なかったんだ。

「でもでも俺は貴璃が好きなんだ。大好きなんだっ」

あまりにも幼稚すぎて、ただ気持ちのままに叫ぶことしか出来なかった俺に、祖母ちゃんは微笑みながら言ってくれた。

「テル君も貴璃が大好きなのよね」

「うん、好き! 大好き! ずっとずっと好きだもん!」
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