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■浮気男と平凡君■-オムニバスな前提-

[間宮貴璃の正論2]


浮気男のことは、綺麗さっぱり忘れよう。
そう決意したのは日曜日。

んで、今日は月曜日だ。
いつも通りに授業を終えた放課後、門を出たところで知らない人に声を掛けられた。
俺の名前を知っているってことは、実は知り合いなのかな?
どっかで会ったことあるのかな?
たとえそうであろうとも、覚えてないことを責められるいわれはない。

俺に声を掛けてきたのは、なんの特徴もない地味で平凡な顔の男性だったからだ。
どっからどう見ても普通。
とてつもなく不細工でもないし、ほんのちょっとでも格好良い部分があるわけでもない。
表情は硬く張り詰めた感じだけど、その印象に残らない様は、100人中100人が会ったことを忘れるだろうってくらいだもん。

あ、ひとのことは言えないか。
俺も結構平凡だしね。
でも友人は多いし、超イケメンの元彼もいたんだから、この人よりはマシかもしんない。
どう見ても相手は、恋人いない歴=年齢って感じだからね。

その知り合いなのか知り合いじゃないのか判らない人は、俺を人気のない公園に誘った。
おいおい、もしかして恐喝か!?
なんて、ビビッたりはしない。
相手は俺よりもチビで貧弱だったから、いざとなれば勝てそうだし。
仲間がいたらヤダな、とは考えたけどね。

着いた先には誰もいなかった。
でも、俺はかなり驚愕した。
その平凡男が発した言葉にだ。

なんでも、この平凡男はあの浮気男の浮気相手ということらしい。
頭を鈍器で殴られたような気がした。

なにがそれほどにショックだったかって、浮気相手が俺よりも格下だったってことにだ。
普通さ、浮気相手には、恋人にない部分を求めるんじゃないの。
俺みたいな平凡に嫌気がさしたんなら、美人で可愛いコと浮気するのが正解でしょ。
なのに、なんで俺以上に地味で平凡で、しかも貧乏臭いやつを選ぶかな。
これじゃ、俺を馬鹿にしてるのと同じだ。

俺が落ち込んだことに気付かない浮気相手は、あーだこーだとあいつの擁護を始めた。
あのさ、こういうときって、彼と別れてください、とか言うもんじゃないの。
しかし浮気相手は続ける。

「あの日は、麻婆豆腐の作り方を説明してて」

麻婆豆腐、俺の好物のひとつだ。
その作り方をあいつに教えていたわけだな、んで、なんでそれがキスになるんだ。

「君のことを、考えてたらしくて」

ほー、なるほど。
この平凡な人と一緒にいて、俺を思い出したわけか、なんとなく分かる気もする。
しかし、重ねられるのは少し嫌ってのが本音。
いくら平凡同士とはいえ、俺は服装にはめちゃめちゃ気を使ってるんだ。
一方浮気相手はというと、どっからどう見ても三枚いくらってシャツに、これまた○キュッパッ、という言葉の似合うジーンズという格好。
かなり年季の入った靴を見ても、みすぼらしいことこの上ないぞ。
これと重ねたとか、失礼すぎだろ。

「なかなか会えなくて、すごく寂しいって」

えっと、月一くらいで会ってたよな、うん、会ってた筈だ。
そんで、会う度にエッチしてたよな、うん、してた筈だ。
それでも寂しいのか。

「あの日もすごく会いたかったのに、会えなかったからって」

で、俺の好物の麻婆豆腐をエサに、日曜にもう一回誘うつもりだった、とこの浮気相手は教えてくれた。

結局のところ、全部俺を思ってしたことなわけだ。
しかし、肝心なところがいまだ謎。
この浮気相手は、あいつとどういう関係なわけ?

「バイト先が同じで」

待った待った待った。
バイトって、あいつはバイトなんかしてたのかよ。
俺もそうだけど、あいつだってそんなことはしなくていいご身分だ。
金には不自由してないんだからな。

「自分の稼いだお金で、誘うって」

あああ、思い出した。
あれは夏休みのことだ。
確か、旅行に行こうって誘われて、脛齧りの分際で何言ってんだって言ったんだよな。
それで、バイトか。

「――っていう、ホストクラブなんだけど」

待て待てーーー!!
それは聞き捨てならんぞ。
ホストクラブってことは、お酒飲みながら女を口説くとこだよな。

「あの、ボーイだから。接待はしてないよ」

あの見た目だから女どもに人気はあるが、ボーイの仕事、つまり酒を運んだり掃除したり以外は一切していないらしい。
ちなみに、この平凡浮気相手さんもボーイということだった。

「何度もホストを勧められてるけど、恋人がいるから嫌だってちゃんと断ってるし」

俺がいるから断るとか、偉いじゃん。

「だからね、ちゃんと話し合ってあげて」

平凡で地味だけど、とても優しい笑顔でそう言われて、首を振るなんて無理。
だから、俺より年上らしい相手に、素直に頷いた。
話を聞く限りじゃ、全部俺のせいみたいだし、あいつに悪気のないのもよーく理解できたしね。

俺の様子に、平凡さんはとても嬉しそうにしてくれた。
ホッと息なんか吐いちゃって、相当に心配していたのだと分かる。
この人、すっげー良い人かもしんない。

「あ、そろそろ行くけど、彼、今日は休みだから部屋にいると思うよ。それじゃ」

月水金の週三回出勤してるというあいつは、本日のバイトは休むことにしたらしい。
余程ショックだったってことかな。

平凡さんが消えた後、俺は迷うことなくあいつのマンションを目指した。
あいつの妹に返そうと思っていた合鍵を使い、オートロックを解除。
そしてエレベーターに乗り込んで、最上階をポチ。

二度目の使用は、少し緊張した。
さすがの俺も、一昨日の光景を思い出したからだ。
またあんなの見たら切れる!

だけど、室内にはあいつがひとりいるだけで、俺を見るなり土下座をしてきた。
頬には殴られた痕。
俺の兄ちゃんにつけられたソレは、バイトを休む理由としては正当すぎるほどのもんだった。

土下座しながら、キスまで至った理由を話していたけど、それは、あの平凡さんが語った内容とほぼ同じもんだった。
そして魔が差しただの、二度としませんなどと並べ立てられて、最後に愛してるとか言われたら、こりゃもう許すしかないよな。

だって、全部が全部、誤解のようなもんだから、怒ってても仕方ないしね。
但し、二度はないからな。

そう言ってやれば、安心したように抱きついてきたから、俺も背中に手を回す。

そもそもあの平凡さんと浮気なんて、イマイチ説得力に欠けるしね。
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