★中等部★
[将史■想定外ばかり*前]
初っ端から躓いた。
中等部に合格したのは想定内だが、それ以外はてんで想定外のことばかりだ。
まず、初穂が落っこちた。
いや、少し違うか、補欠での合格だったわけだから、ギリセーフ?
つか、どっちにしろアウトだ。
補欠ってことは、誰かが入学を辞退しない限り、順番は回ってこないってことだからな。
んで、今年の辞退者はいなかった、と。
初穂がいないなら意味はないってことで、俺も取り止めると堂々保護者に訴え出れば、返ってきた言葉は、ダーメー、という非常に軽いものだった。
高等部に期待しろとも言われたが、外部受験なんてもっと厳しくなるじゃんか!
そんで、次の想定外。
"本姓"での入学。
これには、ただ唖然とした。
本姓を名乗ることは嫌いじゃない、それが俺の姓であり、生なのだから、むしろ喜んで名乗る。
だが、良いのか?
そう尋ねる俺に、いつも飄々としている保護者にして養父は、良いんでないのー、なんてまたもや軽く口にした。
これが理由じゃないけど、受かった中学に大人しく入学することを決めた。
もちろん高等部に初穂が入学すること前提で、もしその時も駄目だった場合は即退学だ。
んで、次の想定外。
それは、入寮した日に気がついた。
まだ同室者が来ていない部屋で届いた荷物を確認していた時、担任となる教師に呼び出され、そして生徒会室へと案内されたときに気がついたのだ。
入学式に舞台の上で挨拶だとーーー!?
冗談じゃねぇ、目立つ行為は決して嫌いじゃないが、とりわけ好きでもねぇんだ。
そんな面倒なことは次席にでもさせろと、なにやら偉そうに踏ん反り返る相手に怒鳴りつけてやれば、相手は無言で表情を失くしていた。
それを肯定と受け取り、そのままやけに煌びやかな部屋を後にしてから、入試で点を取りすぎたことを反省した。
想定外はまだ続く。
反省しながら、これからお世話になる部屋に戻ってきてみれば、やけにちんまりした背中が居間をうろついていた。
すわ、泥棒か!? とはならない。
Sクラスとはいえ中等部の間は二人部屋ってことは、ちゃんと確認済み。
つまり、この物珍しげにあちらこちらを見回っているのは、これから三年間を共に過ごす同居人ってことだ。
俺に気がついたちんまいのは、振り向き様いきなり頭を下げてきた。
「ご、ごめんなさい」
はい? なんで謝罪されてんの?
「か、勝手に見るつもりじゃ、なくて、あの、その、」
「えっと、俺だけの部屋じゃねーし、好きにしていいんじゃねーの」
ちんまいのの手には、スクールマニュアルと寮内の地図が握られている。
どっから見ても上京したての田舎者って風情だ。
しかも、お家で切りました感丸出しのダッサイ髪型に、年季が入ってそうな黒縁眼鏡、つか、今時そんなフレームが売ってることに驚きだ。
あまりにも珍しくて、おもわず恐縮する相手から眼鏡を取り上げてしまった。
「な、なにを!?」
「あ、わりぃ」
これが漫画だったら、眼鏡を取ったら美少女ならぬ美少年って展開も有り得る。
が、現実はそうもいかないらしい。
どうしようもなく地味で平凡な素顔に、なんとなく生まれた罪悪感。
滅多にないことだが、謝罪の言葉がすんなりと出てきた。
◆
ちんまくて貧相でどうしようもなく地味な少年は、藤下雪(ふじしたせつ)と名乗った。
「俺はー、継埜将史(つぐやまさし)っての、よろしくねー」
継埜の名に、なんの反応も返さない相手。
それを不思議とは感じない。
そもそも継埜の名を知っている生徒なんて、この学園の4分の1にも満たないだろう。
その4分の1だって、なんとなくしか知るまい。
本当の意味で理解できているのは、片手に余る人数くらいだ。
簡単に自己紹介を済ませ、各自の部屋も決め、放り出したままの荷物を運び始める。
「あれ、藤下の荷物は?」
よくよく見れば、居間にある荷物は俺の物だけ。
まさか、日付を間違えて指定したのか?
「僕の荷物は、これだけだから」
少し恥ずかしそうに、藤下は右手のスポーツバッグを掲げた。
まさか、その一個に着替えその他一切合財が入ってるんだろうか。
俺の荷物は5箱。
冬物はまだ必要じゃないからと、相当に減らした結果だ。
服関係で3箱、整髪料やらケア用品やらドライヤーやらで1箱、残り1箱はその他日用品。
対して同居人は、スポーツバッグ一個とな。
まぁ、コンディショナーですらまともに使ってなさそうな黒髪に、あまり滑らかそうではない地肌の様子からして、それも納得かもな。
しかも身につけてるシャツもズボンも、まるで誰かのお下がりかのように、くすんだ安物。
ただ全体的に汚れた感はなく、清潔感は溢れている。
こいつ、ひょっとしてオタク?
どこか不安そうに俺を見る藤下に、にっこりと笑いかけてやった。
それに安堵したように、藤下は自分の部屋へと消える。
よしよし、安心しろ。
俺はオタクには理解があるんだ。
なんせ俺の養父もオタクだし、養父の母親もとんでもないオタクだからな。
しかも友人にも強烈なのがいる、今さらどんなオタクがこようとも、まったくもって大丈夫だ。
◆
粗方荷物を片付けてから、藤下を昼飯に誘った。
藤下は暫し考え込んでから、頷いた。
少し困ってるように見えたのは、俺の気のせいかな。
食堂と呼ぶには抵抗のあるかなり豪華な広間は、ガランとしていた。
2年3年の中には、まだ春休みを満喫中のやつらが多いから、これは当たり前だな。
藤下を伴って適当な場所に腰を下ろしてから、テーブルに設置されているパネルを順々に見ていった。
メニューもかなり豪華で豊富だ。
早々に焼肉定食に決めた俺は、これまた各テーブルに設置されているピッチャーで水を入れた。
藤下の分も入れてやると、軽く頭を下げてきた。
「藤下はなんにすんの?」
「え、えっと」
扱いづらそうにパネルに触れながら、見ているページは定食系が並んでる箇所。
「ここの飯、かなり量があるらしいよ」
「そうなんだ」
「ま、ちょっとお高いけどね」
「う、うん、そうみたいだね」
悩みに悩んだ結果、藤下はうどんを頼んだ。
ビックリしたことに、単なる素うどん。
そんなメニューがあったのも驚きだが、それを頼む藤下に一番驚いた。
せめて、きつねくらいにしても良いんじゃねーの。
それほど待つこともなく運ばれてきた昼食に、結構空腹だった俺は早速箸をつけた。
こんもり盛られた肉は思った以上にボリュームがあり、厚さもある。
ちょうど良い焼き加減で、味付けも、
「美味い」
実家の飯も美味いが、ここの飯もかなり気に入った。
よし、通う。
「藤下もちょっと食ってみ」
成長期に差し掛かってる中学生が、うどんだけってのはありえない。
皿を差し出すようにしてやれば、藤下はちょっと戸惑いながらも小さい一切れを摘んだ。
「ありがとう」
はにかむように小さく微笑み、摘んだ肉を頬張る藤下。
眼鏡を取ったときのように、自然と手が伸びていた。
ちんまりとした不恰好な頭に。
眼鏡の奥で驚いたように目を見開く相手に、できるだけ優しく笑いかける。
「藤下って、小動物みてー」
「しょ、小動物!?」
「うんうん、ハムスター?」
「ハムスターって……」
不満気に唇を尖らせる姿も、なんか可愛い。
どう見ても可愛い要素のない地味な平凡君なのに、そう感じる自分を不思議とは思わなかったのが、不思議だった。
「つかさ、もっと食っちゃって」
「うん、ありがとう」
一緒に付いてきた漬物の皿を空け、そこに肉を乗せ藤下に渡してやった。
多少の遠慮を見せながらも素直に受け取る藤下に、人からの好意を受け慣れている印象を抱いた。
決して自らは望まず、だが与えられた物は感謝しつつ受け入れる、そんな印象。
「まーちゃん発見っ」
「うげっ」
しまった、油断した!
急に背後から襲われた俺は、危機一髪のところをなんとか耐える。
危うく焼肉と正面衝突するところだったぞ。
「洸夜(こうや)!」
「あ、焼肉だ。ちょっと頂戴」
さらに背中に体重をかけてきた相手に、仕方なく箸を渡してやる。
それが一番無難だし。
「ん、はっちゃんが作る方が美味しいね」
「こっちも充分うめーっつの」
遠慮なく肉を奪い、ついでとばかりに白飯まで食おうとする相手を、まずは俺の隣りに座らせることにした。
立ったまま食うなんて、あまりにも品が無さ過ぎる。
あ、しまった。
藤下がポカンとしている。
そりゃそっか、いきなり知らないやつが現れたわけだしな。
「藤下、こいつは、」
「将史!!」
そう、将史って、それは俺の名前じゃん!
「面倒なことは人に押し付けて、自分はのんびり昼食か。良いご身分だな」
うわ、まーた面倒くさいのが現れた。
しかも、なんか面倒くさそうなこと言ってるし。
「なによー、俺、なんかした?」
「新入生代表に、俺を推薦してくれたらしいな!」
「へ?」
ああ、あれか。
生徒会室で言ったことか。
ふーん、あの偉そうな男、俺の言葉をすんなり聞いたのね。
「いいじゃんか。どうせ来年は役員になるんだろ。今のうちに顔売っとけ」
「決め付けるな!」
「うっさいなー、もう。どうせ顔で選ばれんだから、お前に決定だよ」
「うん、もぐ、僕も、むぐむぐ、そう、思う」
俺の飯を完全に自分の物と勘違いしている洸夜が、横から賛同。
「だからといって、代表は別だろう」
「いいじゃない。晃人(あきと)の方が王道っぽくて、萌えるよ」
洸夜のオタク発言に、面倒くさい男――晃人は心底うんざりとしてみせた。
初っ端から躓いた。
中等部に合格したのは想定内だが、それ以外はてんで想定外のことばかりだ。
まず、初穂が落っこちた。
いや、少し違うか、補欠での合格だったわけだから、ギリセーフ?
つか、どっちにしろアウトだ。
補欠ってことは、誰かが入学を辞退しない限り、順番は回ってこないってことだからな。
んで、今年の辞退者はいなかった、と。
初穂がいないなら意味はないってことで、俺も取り止めると堂々保護者に訴え出れば、返ってきた言葉は、ダーメー、という非常に軽いものだった。
高等部に期待しろとも言われたが、外部受験なんてもっと厳しくなるじゃんか!
そんで、次の想定外。
"本姓"での入学。
これには、ただ唖然とした。
本姓を名乗ることは嫌いじゃない、それが俺の姓であり、生なのだから、むしろ喜んで名乗る。
だが、良いのか?
そう尋ねる俺に、いつも飄々としている保護者にして養父は、良いんでないのー、なんてまたもや軽く口にした。
これが理由じゃないけど、受かった中学に大人しく入学することを決めた。
もちろん高等部に初穂が入学すること前提で、もしその時も駄目だった場合は即退学だ。
んで、次の想定外。
それは、入寮した日に気がついた。
まだ同室者が来ていない部屋で届いた荷物を確認していた時、担任となる教師に呼び出され、そして生徒会室へと案内されたときに気がついたのだ。
入学式に舞台の上で挨拶だとーーー!?
冗談じゃねぇ、目立つ行為は決して嫌いじゃないが、とりわけ好きでもねぇんだ。
そんな面倒なことは次席にでもさせろと、なにやら偉そうに踏ん反り返る相手に怒鳴りつけてやれば、相手は無言で表情を失くしていた。
それを肯定と受け取り、そのままやけに煌びやかな部屋を後にしてから、入試で点を取りすぎたことを反省した。
想定外はまだ続く。
反省しながら、これからお世話になる部屋に戻ってきてみれば、やけにちんまりした背中が居間をうろついていた。
すわ、泥棒か!? とはならない。
Sクラスとはいえ中等部の間は二人部屋ってことは、ちゃんと確認済み。
つまり、この物珍しげにあちらこちらを見回っているのは、これから三年間を共に過ごす同居人ってことだ。
俺に気がついたちんまいのは、振り向き様いきなり頭を下げてきた。
「ご、ごめんなさい」
はい? なんで謝罪されてんの?
「か、勝手に見るつもりじゃ、なくて、あの、その、」
「えっと、俺だけの部屋じゃねーし、好きにしていいんじゃねーの」
ちんまいのの手には、スクールマニュアルと寮内の地図が握られている。
どっから見ても上京したての田舎者って風情だ。
しかも、お家で切りました感丸出しのダッサイ髪型に、年季が入ってそうな黒縁眼鏡、つか、今時そんなフレームが売ってることに驚きだ。
あまりにも珍しくて、おもわず恐縮する相手から眼鏡を取り上げてしまった。
「な、なにを!?」
「あ、わりぃ」
これが漫画だったら、眼鏡を取ったら美少女ならぬ美少年って展開も有り得る。
が、現実はそうもいかないらしい。
どうしようもなく地味で平凡な素顔に、なんとなく生まれた罪悪感。
滅多にないことだが、謝罪の言葉がすんなりと出てきた。
◆
ちんまくて貧相でどうしようもなく地味な少年は、藤下雪(ふじしたせつ)と名乗った。
「俺はー、継埜将史(つぐやまさし)っての、よろしくねー」
継埜の名に、なんの反応も返さない相手。
それを不思議とは感じない。
そもそも継埜の名を知っている生徒なんて、この学園の4分の1にも満たないだろう。
その4分の1だって、なんとなくしか知るまい。
本当の意味で理解できているのは、片手に余る人数くらいだ。
簡単に自己紹介を済ませ、各自の部屋も決め、放り出したままの荷物を運び始める。
「あれ、藤下の荷物は?」
よくよく見れば、居間にある荷物は俺の物だけ。
まさか、日付を間違えて指定したのか?
「僕の荷物は、これだけだから」
少し恥ずかしそうに、藤下は右手のスポーツバッグを掲げた。
まさか、その一個に着替えその他一切合財が入ってるんだろうか。
俺の荷物は5箱。
冬物はまだ必要じゃないからと、相当に減らした結果だ。
服関係で3箱、整髪料やらケア用品やらドライヤーやらで1箱、残り1箱はその他日用品。
対して同居人は、スポーツバッグ一個とな。
まぁ、コンディショナーですらまともに使ってなさそうな黒髪に、あまり滑らかそうではない地肌の様子からして、それも納得かもな。
しかも身につけてるシャツもズボンも、まるで誰かのお下がりかのように、くすんだ安物。
ただ全体的に汚れた感はなく、清潔感は溢れている。
こいつ、ひょっとしてオタク?
どこか不安そうに俺を見る藤下に、にっこりと笑いかけてやった。
それに安堵したように、藤下は自分の部屋へと消える。
よしよし、安心しろ。
俺はオタクには理解があるんだ。
なんせ俺の養父もオタクだし、養父の母親もとんでもないオタクだからな。
しかも友人にも強烈なのがいる、今さらどんなオタクがこようとも、まったくもって大丈夫だ。
◆
粗方荷物を片付けてから、藤下を昼飯に誘った。
藤下は暫し考え込んでから、頷いた。
少し困ってるように見えたのは、俺の気のせいかな。
食堂と呼ぶには抵抗のあるかなり豪華な広間は、ガランとしていた。
2年3年の中には、まだ春休みを満喫中のやつらが多いから、これは当たり前だな。
藤下を伴って適当な場所に腰を下ろしてから、テーブルに設置されているパネルを順々に見ていった。
メニューもかなり豪華で豊富だ。
早々に焼肉定食に決めた俺は、これまた各テーブルに設置されているピッチャーで水を入れた。
藤下の分も入れてやると、軽く頭を下げてきた。
「藤下はなんにすんの?」
「え、えっと」
扱いづらそうにパネルに触れながら、見ているページは定食系が並んでる箇所。
「ここの飯、かなり量があるらしいよ」
「そうなんだ」
「ま、ちょっとお高いけどね」
「う、うん、そうみたいだね」
悩みに悩んだ結果、藤下はうどんを頼んだ。
ビックリしたことに、単なる素うどん。
そんなメニューがあったのも驚きだが、それを頼む藤下に一番驚いた。
せめて、きつねくらいにしても良いんじゃねーの。
それほど待つこともなく運ばれてきた昼食に、結構空腹だった俺は早速箸をつけた。
こんもり盛られた肉は思った以上にボリュームがあり、厚さもある。
ちょうど良い焼き加減で、味付けも、
「美味い」
実家の飯も美味いが、ここの飯もかなり気に入った。
よし、通う。
「藤下もちょっと食ってみ」
成長期に差し掛かってる中学生が、うどんだけってのはありえない。
皿を差し出すようにしてやれば、藤下はちょっと戸惑いながらも小さい一切れを摘んだ。
「ありがとう」
はにかむように小さく微笑み、摘んだ肉を頬張る藤下。
眼鏡を取ったときのように、自然と手が伸びていた。
ちんまりとした不恰好な頭に。
眼鏡の奥で驚いたように目を見開く相手に、できるだけ優しく笑いかける。
「藤下って、小動物みてー」
「しょ、小動物!?」
「うんうん、ハムスター?」
「ハムスターって……」
不満気に唇を尖らせる姿も、なんか可愛い。
どう見ても可愛い要素のない地味な平凡君なのに、そう感じる自分を不思議とは思わなかったのが、不思議だった。
「つかさ、もっと食っちゃって」
「うん、ありがとう」
一緒に付いてきた漬物の皿を空け、そこに肉を乗せ藤下に渡してやった。
多少の遠慮を見せながらも素直に受け取る藤下に、人からの好意を受け慣れている印象を抱いた。
決して自らは望まず、だが与えられた物は感謝しつつ受け入れる、そんな印象。
「まーちゃん発見っ」
「うげっ」
しまった、油断した!
急に背後から襲われた俺は、危機一髪のところをなんとか耐える。
危うく焼肉と正面衝突するところだったぞ。
「洸夜(こうや)!」
「あ、焼肉だ。ちょっと頂戴」
さらに背中に体重をかけてきた相手に、仕方なく箸を渡してやる。
それが一番無難だし。
「ん、はっちゃんが作る方が美味しいね」
「こっちも充分うめーっつの」
遠慮なく肉を奪い、ついでとばかりに白飯まで食おうとする相手を、まずは俺の隣りに座らせることにした。
立ったまま食うなんて、あまりにも品が無さ過ぎる。
あ、しまった。
藤下がポカンとしている。
そりゃそっか、いきなり知らないやつが現れたわけだしな。
「藤下、こいつは、」
「将史!!」
そう、将史って、それは俺の名前じゃん!
「面倒なことは人に押し付けて、自分はのんびり昼食か。良いご身分だな」
うわ、まーた面倒くさいのが現れた。
しかも、なんか面倒くさそうなこと言ってるし。
「なによー、俺、なんかした?」
「新入生代表に、俺を推薦してくれたらしいな!」
「へ?」
ああ、あれか。
生徒会室で言ったことか。
ふーん、あの偉そうな男、俺の言葉をすんなり聞いたのね。
「いいじゃんか。どうせ来年は役員になるんだろ。今のうちに顔売っとけ」
「決め付けるな!」
「うっさいなー、もう。どうせ顔で選ばれんだから、お前に決定だよ」
「うん、もぐ、僕も、むぐむぐ、そう、思う」
俺の飯を完全に自分の物と勘違いしている洸夜が、横から賛同。
「だからといって、代表は別だろう」
「いいじゃない。晃人(あきと)の方が王道っぽくて、萌えるよ」
洸夜のオタク発言に、面倒くさい男――晃人は心底うんざりとしてみせた。