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★キラキラ 蘖(ひこばえ)の章★

[御船■佐藤君]


FCを仕切っているのは、FC会長である神崎先輩、、副会長の井上先輩、そして4名の幹部たち、僕は4人の幹部の一人だった。

佐藤君に忠告した翌日、会長以下幹部までが、東峰様に呼び出された。
内容は分かりきっている。
佐藤君のことをFCに告げたのは、僕だ。
だから相応の覚悟を持って、東峰様の面前に立ったつもりだった。

東峰様はまず、昨日のことは佐藤君から聞いたのではないと告げられた。
つまり佐藤君は、告げ口の類はしなかったというわけだ。
この時点で、全員の気勢が、やや削がれた感があった。
続いて、叱責を覚悟していた僕たちに、東峰様はまたもや意外なことを仰った。
佐藤晃という生徒は、今年の入試首位者であり、実に優秀な生徒だということ。
将来なんらかの使い道があるかもしれないと、僕たちにそう説明したのだ。
その場にいた全員が、やはりという雰囲気になっていた。

東峰様は他の方々とは違う。
僕たちのような崇拝者を厭う気持ちは持っていないのだ。
いずれは東峰家を背負う立場にある彼は、ご自身いかに避けようとも、周囲に群がる人間を排除するなど到底不可能だとご承知なのだろう。
それらを上手くコントロールし、利用するほうが得策。それが、彼の出した結論なのだ。

そんな彼からはっきりと告げられたことで、佐藤晃は利用価値のある人間だと、FCたちは認識したようだった。
今後、東峰様の青田買いともいえる行動を、邪魔する可能性は低いだろう。
先輩たちがそう考えるなか、僕だけはそういう風に考えられなかった。
皆には詳細を伏せていたが、あの裏山での東峰様を知る限り、とてもそんな理由に思えなかったからだ。
佐藤君の身体を腕に収める東峰様は、実にお幸せそうだった。
先輩たちがあれを見ていれば、とてもじゃないけど、これほど簡単に納得しなかったろう。

だけど僕は、それを報告していない。
ただ彼らが、こっそり会っているようだと伝えるにとどめたのだ。
彼らの逢引場所ですら、教えてはいなかった。
なぜか。
それは僕自身もまた、神崎先輩たちに疎まれているせいかもしれない。
幼い頃から東峰様とは顔見知りで、父が彼のお父上の下で働いていることが、先輩たちのお気に召さなかったんだ。
お情けで、名前だけの幹部にはしてもらえたが、まったく相手にはされていない。
だから意趣返しのつもりで、黙っているのだろうか?
自分のことだというのに、そこに明確な答えは得られなかった。

東峰様のお話に納得した神崎先輩は、佐藤君に忠告はしたものの、今後は何もしないと約束した。
そうして僕だけが腑に落ちないまま数日が経ち、GWも最終日となった日曜に、偶然にも見てしまったんだ。
佐藤君と見知らぬ少年が、特別棟から出てくる瞬間を。

おそらく東峰様の部屋に行っていたのだろう。
たぶん、東峰様が佐藤君を誘ったのだ。そして佐藤君は、友人を連れ東峰様のもとを訪れた。
なぜだか胸の奥がモヤモヤし、すぐにその場を走り去った。
自室に戻ってからもモヤモヤは消えず、益々色濃く渦巻いていく。
そうして、こんなことをしてはいけないと、頭の隅では理解しているのに、体が勝手に動き出し、彼らのいつもの逢引場所に向かってしまった。

最初に現れたのは、佐藤君だった。
佇立する僕に、怯むことなく声をかけてくる。

「御船先輩も、猫がお好きですか?」

その屈託ないさまに、こちらの方が動揺した。

「ちゃんと、理解してくれなかったみたいだね!」

搾り出すようにして叫んだ結果の、脈絡のないセリフ。
佐藤君は驚くというようりも、呆気にとられてるように見えた。

「先輩は…会長様の恋人なのでしょうか?」

「な、」

自分の言葉に少し後悔していたとき、思い掛けないことを問われた。

「もしそうでしたらお腹立ちも尤もかと。ですがご安心を、僕と会長様は単なる先輩と後輩で、」

その瞬間、頭に血が昇ったのか、逆に血の気が引いたのか、とにかく頭の中は真っ白で手だけが動いていた。
そして、呆然と頬を押さえる佐藤君を、目の当たりにすることになる。

すぐに東峰様が現れ、居た堪れなくなった僕はその場を逃げ去った。
恐ろしくて、東峰様がどのような表情をなさっていたかは、確認していない。
きっと、いや確実にお怒りになっておいでだろう。
明日には呼び出され、お叱りを受けるかもしれない。
叱責されるなら、まだマシだ。
もし……そう考えるだけで、訳の分からない恐怖に押し潰されそうになった。



そして翌日。
驚いたことに、東峰様からの呼び出しはなかった。
まるで昨日のことなどなかったかのように、平穏に一日が終了してしまったのだ。
僕の胸に、またあの恐怖が迫ってきていた。
あの行為を不問に付すというならば、それ即ち、東峰様の中から、僕の存在そのものが排除されるということではないのか?

昨夜の恐怖の正体が、はっきりと掴めた。
それこそが、最も恐れている事態なのだ。

もしも、僕という存在がなかったことになってしまったら……。

「僕見たんです!」

甲高い声に、一気に現実に引き戻される。
放課後、FC本部として使用されている空教室でのこと、神崎先輩相手に2年生の会員がなにやら訴えかけていた。

「あの1年生、特別棟から出てきたんですよ。絶対におかしいです」

「特別棟ってことは、まさか会長様の部屋にまで行ってるってこと!?」

神崎先輩の大声で、会員たちがざわめきたった。
なんてことだ、僕以外にも目撃した生徒がいたのか。

「いくら利用価値があるにしても、ちょっと行き過ぎじゃないですか!?」

「注意くらい、したほうがいいんじゃないですか!?」

会員たちが口々に喚く。
これは、とんでもないことになったのかもしれない。

「そうだね、あんまり調子に乗られても困るから、注意くらいはしたほうがいいかもね」

それは、FC会長たる神崎先輩のお言葉。
彼が言えば、それは決定事項となる。
注意という名の忠告の現場には、幹部である僕も付き合わなければならないだろう。
佐藤君と顔を合わせると考えただけで、またもや僕は恐怖に打ち震えた。
だけどこれが、今の僕の役割なのだ。
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