★キラキラ 蘖(ひこばえ)の章★
[東峰■将来]
最低な行為だと自覚している。
卑怯な手段だと、理解している。
しかし、まったくもって後悔はしてねぇぞ。
FCにも根回しはしたし、これで暫くは大丈夫のはずだ。
「会長、なんか機嫌良いねー」
「ん、そうか?」
既に寮に戻る準備をしている藤村に指摘された。
通常の業務は滞りなく進み、早めに終了させたから、確かに気分が良いかもな。
「なーんか、やけに嬉しそうだしー」
「お前の仕事が早いからな、嬉しくもなるだろ」
「マジッ!? 俺すげー?」
「東峰、藤村が調子に乗りますよ」
「調子に乗ったら、その分上積みすればいいだけだ」
「うわ、厳しいねー。ほんじゃ、お先ー」
「お疲れ様です」
「ああ、お疲れ」
夕飯までは、各自好きなようにすごす。
今日のように早く終われば、自由な時間が増えるから、藤村には嬉しいことだろう。
もちろん、俺にとってもな。
佐藤には、しっかりとメールを打っておいた。
今頃はあの裏山で、俺を待っているに違いない。
「右京、俺も出るが、急ぎの物はもうないな?」
「ええ、大丈夫ですよ。お疲れ様です」
「お疲れ、お前も早く帰れよ」
出際に一条にもお疲れと声をかける。
返事は期待していないが、今日はこちらを見て、少し頷いた。
これは、なんとも幸先が良い。
急いで裏山に向かえば、佐藤はちゃんと俺のことを待ってくれていた。
脅しまがいの方法だが、これですれ違うことなく佐藤と会える。
もう少し慣れてきたら、部屋に呼ぶのもいいかもしれないな。
せめてものお詫びと、途中購入した缶コーヒーを渡せば、嬉しそうに受け取ってくれたことに、かなり安堵した。
「会長様、お話があるのですけど……」
やけに神妙な面持で、上目遣いに俺を見た。
膝に座っても、俺より目線が低いから、仕方ない。
「なんだ?」
なんだか、嫌な予感がするぞ。
「実は、僕の将来のことなんですけど」
将来? そうか、将来か……それはお互いにとって大事なことだ、しっかり考えないとな。
「僕は大学卒業後、実家に戻りひっそりと暮らす予定になっています。ですので、就職することはありません」
ひっそり、やけに年寄りじみてるな。
「家業を継ぐってことか?」
「いえ、特に商売はしていないので、それはありません。そうですね、田畑を耕しのんびり暮らす、というとこでしょうか」
「大学まで出てか?」
田畑、あまりにも似合わなすぎる話に、少々面食らってしまった。
「大学は趣味の範囲です。本当は高校までで良いと思っていたのですが、大学もなかなか楽しいとこだと勧められたので」
「お前、Sだよな?」
Sといえば、将来はそれなりの企業の要職に就くことを第一に考えるんじゃないのか?
そのつもりで、授業内容もかなり特殊なはずだぞ。
「Sになったのは、特待生だからです。特待生になったのは費用免除だからです。僕が学びたいと思っただけなので、家に負担を掛けたくなかったのです」
「そうか、それはそれで立派だと思うぞ」
将来云々はともかく、保護者に負担をかけまいと、勉学に励むのは良いことだと思う。
「あ、ですから、僕は就職はいたしません」
「佐藤がそれでいいなら、いいんじゃねぇか」
せっかくの優秀な頭脳が活かせないのは勿体無いと思うが、それが佐藤の選択なら問題ない。
いや、むしろ就職なんてしないほうが良い、絶対に。
「ご理解いただけたようで、安心しました」
そうだ、どんな危険があるか分からねぇのに、外に出て働く必要なんかねぇんだ。
いつでも家に居てくれたほうが安全な上、安心だからな。
よし、単独の外出は全面的に禁止だな、最近はなんでもネットで手に入るし、問題はないだろう。
「今までありがとうございました。こうやってお会いすることはもうありませんが、会長様のご多幸をお祈りしております」
「……?」
「あ、食事の約束をしておりますので、戻りますね。では、失礼します」
普段は鈍いくせに、こういうときはやけに素早い気がするのは、俺の気のせいか?
いや待て、今はそんなこと、どうでもいい。
昨日はすぐに捕らえることができた体は、反応が遅れたせいで既に遠くへと逃げ去っていた。
あの野郎! 意味の分からないことを言いやがって、そこまでしてこの俺を怒らせたいのか!?
最低な行為だと自覚している。
卑怯な手段だと、理解している。
しかし、まったくもって後悔はしてねぇぞ。
FCにも根回しはしたし、これで暫くは大丈夫のはずだ。
「会長、なんか機嫌良いねー」
「ん、そうか?」
既に寮に戻る準備をしている藤村に指摘された。
通常の業務は滞りなく進み、早めに終了させたから、確かに気分が良いかもな。
「なーんか、やけに嬉しそうだしー」
「お前の仕事が早いからな、嬉しくもなるだろ」
「マジッ!? 俺すげー?」
「東峰、藤村が調子に乗りますよ」
「調子に乗ったら、その分上積みすればいいだけだ」
「うわ、厳しいねー。ほんじゃ、お先ー」
「お疲れ様です」
「ああ、お疲れ」
夕飯までは、各自好きなようにすごす。
今日のように早く終われば、自由な時間が増えるから、藤村には嬉しいことだろう。
もちろん、俺にとってもな。
佐藤には、しっかりとメールを打っておいた。
今頃はあの裏山で、俺を待っているに違いない。
「右京、俺も出るが、急ぎの物はもうないな?」
「ええ、大丈夫ですよ。お疲れ様です」
「お疲れ、お前も早く帰れよ」
出際に一条にもお疲れと声をかける。
返事は期待していないが、今日はこちらを見て、少し頷いた。
これは、なんとも幸先が良い。
急いで裏山に向かえば、佐藤はちゃんと俺のことを待ってくれていた。
脅しまがいの方法だが、これですれ違うことなく佐藤と会える。
もう少し慣れてきたら、部屋に呼ぶのもいいかもしれないな。
せめてものお詫びと、途中購入した缶コーヒーを渡せば、嬉しそうに受け取ってくれたことに、かなり安堵した。
「会長様、お話があるのですけど……」
やけに神妙な面持で、上目遣いに俺を見た。
膝に座っても、俺より目線が低いから、仕方ない。
「なんだ?」
なんだか、嫌な予感がするぞ。
「実は、僕の将来のことなんですけど」
将来? そうか、将来か……それはお互いにとって大事なことだ、しっかり考えないとな。
「僕は大学卒業後、実家に戻りひっそりと暮らす予定になっています。ですので、就職することはありません」
ひっそり、やけに年寄りじみてるな。
「家業を継ぐってことか?」
「いえ、特に商売はしていないので、それはありません。そうですね、田畑を耕しのんびり暮らす、というとこでしょうか」
「大学まで出てか?」
田畑、あまりにも似合わなすぎる話に、少々面食らってしまった。
「大学は趣味の範囲です。本当は高校までで良いと思っていたのですが、大学もなかなか楽しいとこだと勧められたので」
「お前、Sだよな?」
Sといえば、将来はそれなりの企業の要職に就くことを第一に考えるんじゃないのか?
そのつもりで、授業内容もかなり特殊なはずだぞ。
「Sになったのは、特待生だからです。特待生になったのは費用免除だからです。僕が学びたいと思っただけなので、家に負担を掛けたくなかったのです」
「そうか、それはそれで立派だと思うぞ」
将来云々はともかく、保護者に負担をかけまいと、勉学に励むのは良いことだと思う。
「あ、ですから、僕は就職はいたしません」
「佐藤がそれでいいなら、いいんじゃねぇか」
せっかくの優秀な頭脳が活かせないのは勿体無いと思うが、それが佐藤の選択なら問題ない。
いや、むしろ就職なんてしないほうが良い、絶対に。
「ご理解いただけたようで、安心しました」
そうだ、どんな危険があるか分からねぇのに、外に出て働く必要なんかねぇんだ。
いつでも家に居てくれたほうが安全な上、安心だからな。
よし、単独の外出は全面的に禁止だな、最近はなんでもネットで手に入るし、問題はないだろう。
「今までありがとうございました。こうやってお会いすることはもうありませんが、会長様のご多幸をお祈りしております」
「……?」
「あ、食事の約束をしておりますので、戻りますね。では、失礼します」
普段は鈍いくせに、こういうときはやけに素早い気がするのは、俺の気のせいか?
いや待て、今はそんなこと、どうでもいい。
昨日はすぐに捕らえることができた体は、反応が遅れたせいで既に遠くへと逃げ去っていた。
あの野郎! 意味の分からないことを言いやがって、そこまでしてこの俺を怒らせたいのか!?