★キラキラ 蘖(ひこばえ)の章★
[東峰■ガキ]
入学式が終わってからは、佐藤に逢うことなどまったくなくなった。
土日はかなりきつかった。
授業がないせいで、一日中気になって気になって仕方なかったのだ。
もちろん裏山にも行った。
しかし、タイミングが悪いのか、会うことはできなかった。
1年の教室にいけば、騒ぎになるのは目に見えている。
同じく部屋も一般寮だから、目立って仕方ない。
ならばメールで呼び出そうかと考えたが、理由がねぇ。
そんなこんなで、再び土曜日がやって来た。
今日会えなければ、9日間会えなかったことになる・・・・・・なんでそんなことを考える必要があるんだ?
「馬鹿らしいっ!」
手にもっていた雑誌を放り投げ、ソファに思い切り凭れ掛かる。
できるだけ、他のことを考えることにしよう。
テーブルに放り投げた雑誌をもう一度手にし、記事に目を走らせることに集中する。
しかし、どれほど専心しても、鬱々とした気分は、まったく晴れることがない。
一番の問題は、この気鬱の原因が、さっぱり分からないことだ。
佐藤? 佐藤は関係ないだろう・・・いやいや、絶対に関係ないはずなんだっ!
結局今日もここへ来てしまった。
当然手には猫缶。
佐藤と逢えなかった日も、猫缶だけは必ず置いてきてたが、どうやら今日も空になっているようだ。
空いた缶は持参したビニール袋に入れ、新たな缶を置く。
すると、今日はあの猫が姿を現した。
いつもは佐藤から餌を貰えているのか、俺のときには姿を現さなかったのにだ。
つまり、今日はまだ貰えていない、ということだろうか?
猫が近づく前に距離を置き、離れた場所に座り込む。
猫が餌をがっつき始めたとき、俺の耳はしっかりと捉えたぞ、砂を踏むその音を。
「・・・・・・会長様?」
振り向くと、そこに佐藤が立っていた。
手にはしっかりと猫缶を持っている。
寮ではなく学校内だからか、休日だというのにちゃんと制服を着込んでいた。
俺は、当然私服だ。
「今日は会長様のご飯を食べているのですね。では、これは夜食に置いておくことにいたしましょう」
にっこり笑って、俺の隣りに腰をおろす。
9日振りに見たその笑顔に、なぜかホッと胸を撫で下ろした。
「毎日来てたのか?」
「はい、毎日来ておりました」
じゃあ、なんで逢わなかったんだ!?
その言葉を飲み込む。仕方ないタイミングの問題なのだ。
「会長様もよく来られていたようですね」
「・・・・・・ああ」
佐藤がふいにこちらを向いた。
もろに西日を受けたせいで、眩しそうに目を細めている。
少し体をずらし、それを遮る。
そして、何気なく視線を巡らし、俺はある一点に集中してしまった。
「おい、直接座り込んだら、制服が汚れるだろ」
「は?」
尻が直接地面に付いているのが気に入らない。
よく考えれば前もそうだった。
俺がいない間も、そうやって座り込んでいたに違いない。
「俺が買ってやった制服が汚れる」
「あ、そ、それは申し訳ないことを・・・・・・」
佐藤は慌てて立ち上がり、丁寧に砂を払った。
その様子を見ながら、黙って手を差し出す。
「・・・・・・??」
佐藤は意味が分からないと全身で表現してくれていた。
はっきり言おう、自分でも何をやっているのか、さっぱり分からん。
「立ってるのもしんどいだろ、ここ、座れ」
「は・・・・・・?」
動こうとしない相手の腕をとり、少々強引に引く。
さして抵抗も見せず、小さな身体は胡坐を掻く俺の膝に納まった。
そして、逃げないよう腰に腕を回し完璧に封じる。
「あ、あの、あの」
かなり焦っているようだが、放してはやらない。
「ここなら、汚れないし、疲れもしない。遠慮するな」
正直、制服が汚れようが汚れまいがどうでもいい、買ってやったなどと恩に着せる気もない。
だがそう言うことで、この行為に少しでも正当な理由ができると、なぜか思ってしまったのだ。
「え、遠慮とかではなく・・・僕は、その、子供ではないので・・・・・・」
なるほど、そっちの心配なのか。
当然と言えば、当然だろう、男が男にこうされたからといって、身の危険を感じたりはしねぇよな。
身の危険・・・・・・違う、これは単なる親切心だ!
「子供のくせに何言ってんだ。ガキは気にせず、甘えてりゃいいんだよ」
「ガキ・・・ですか」
「だろ、お前はまだチビのガキで、俺はお前よりもでかい大人だ」
「む、1学年しか変わりませんよ。それに、すぐに大きくなります」
プクッと頬を膨らますしぐさは、やはりガキだ。
黒い髪を掻き混ぜてやれば、佐藤はまたもや縮むと大騒ぎしだした。
どうやら俺の気鬱は、見事に消え去ってくれたらしい。
入学式が終わってからは、佐藤に逢うことなどまったくなくなった。
土日はかなりきつかった。
授業がないせいで、一日中気になって気になって仕方なかったのだ。
もちろん裏山にも行った。
しかし、タイミングが悪いのか、会うことはできなかった。
1年の教室にいけば、騒ぎになるのは目に見えている。
同じく部屋も一般寮だから、目立って仕方ない。
ならばメールで呼び出そうかと考えたが、理由がねぇ。
そんなこんなで、再び土曜日がやって来た。
今日会えなければ、9日間会えなかったことになる・・・・・・なんでそんなことを考える必要があるんだ?
「馬鹿らしいっ!」
手にもっていた雑誌を放り投げ、ソファに思い切り凭れ掛かる。
できるだけ、他のことを考えることにしよう。
テーブルに放り投げた雑誌をもう一度手にし、記事に目を走らせることに集中する。
しかし、どれほど専心しても、鬱々とした気分は、まったく晴れることがない。
一番の問題は、この気鬱の原因が、さっぱり分からないことだ。
佐藤? 佐藤は関係ないだろう・・・いやいや、絶対に関係ないはずなんだっ!
結局今日もここへ来てしまった。
当然手には猫缶。
佐藤と逢えなかった日も、猫缶だけは必ず置いてきてたが、どうやら今日も空になっているようだ。
空いた缶は持参したビニール袋に入れ、新たな缶を置く。
すると、今日はあの猫が姿を現した。
いつもは佐藤から餌を貰えているのか、俺のときには姿を現さなかったのにだ。
つまり、今日はまだ貰えていない、ということだろうか?
猫が近づく前に距離を置き、離れた場所に座り込む。
猫が餌をがっつき始めたとき、俺の耳はしっかりと捉えたぞ、砂を踏むその音を。
「・・・・・・会長様?」
振り向くと、そこに佐藤が立っていた。
手にはしっかりと猫缶を持っている。
寮ではなく学校内だからか、休日だというのにちゃんと制服を着込んでいた。
俺は、当然私服だ。
「今日は会長様のご飯を食べているのですね。では、これは夜食に置いておくことにいたしましょう」
にっこり笑って、俺の隣りに腰をおろす。
9日振りに見たその笑顔に、なぜかホッと胸を撫で下ろした。
「毎日来てたのか?」
「はい、毎日来ておりました」
じゃあ、なんで逢わなかったんだ!?
その言葉を飲み込む。仕方ないタイミングの問題なのだ。
「会長様もよく来られていたようですね」
「・・・・・・ああ」
佐藤がふいにこちらを向いた。
もろに西日を受けたせいで、眩しそうに目を細めている。
少し体をずらし、それを遮る。
そして、何気なく視線を巡らし、俺はある一点に集中してしまった。
「おい、直接座り込んだら、制服が汚れるだろ」
「は?」
尻が直接地面に付いているのが気に入らない。
よく考えれば前もそうだった。
俺がいない間も、そうやって座り込んでいたに違いない。
「俺が買ってやった制服が汚れる」
「あ、そ、それは申し訳ないことを・・・・・・」
佐藤は慌てて立ち上がり、丁寧に砂を払った。
その様子を見ながら、黙って手を差し出す。
「・・・・・・??」
佐藤は意味が分からないと全身で表現してくれていた。
はっきり言おう、自分でも何をやっているのか、さっぱり分からん。
「立ってるのもしんどいだろ、ここ、座れ」
「は・・・・・・?」
動こうとしない相手の腕をとり、少々強引に引く。
さして抵抗も見せず、小さな身体は胡坐を掻く俺の膝に納まった。
そして、逃げないよう腰に腕を回し完璧に封じる。
「あ、あの、あの」
かなり焦っているようだが、放してはやらない。
「ここなら、汚れないし、疲れもしない。遠慮するな」
正直、制服が汚れようが汚れまいがどうでもいい、買ってやったなどと恩に着せる気もない。
だがそう言うことで、この行為に少しでも正当な理由ができると、なぜか思ってしまったのだ。
「え、遠慮とかではなく・・・僕は、その、子供ではないので・・・・・・」
なるほど、そっちの心配なのか。
当然と言えば、当然だろう、男が男にこうされたからといって、身の危険を感じたりはしねぇよな。
身の危険・・・・・・違う、これは単なる親切心だ!
「子供のくせに何言ってんだ。ガキは気にせず、甘えてりゃいいんだよ」
「ガキ・・・ですか」
「だろ、お前はまだチビのガキで、俺はお前よりもでかい大人だ」
「む、1学年しか変わりませんよ。それに、すぐに大きくなります」
プクッと頬を膨らますしぐさは、やはりガキだ。
黒い髪を掻き混ぜてやれば、佐藤はまたもや縮むと大騒ぎしだした。
どうやら俺の気鬱は、見事に消え去ってくれたらしい。