★キラキラ 蘖(ひこばえ)の章★
[東峰■着ぐるみ]
4月5日に入学式を控えた我が中等部生徒会は大忙し……のはずだ。
だが、なぜか生徒会室には俺一人。
新生徒会の新会長である、俺ただ一人しか部屋にはいない。
「くそっ」
5日後の入学式準備で、実家から慌てて学園へと引き返してきたが、他の生徒会役員である右京はじめ、藤村も一条も未だ戻ってきてはいない。
「東峰、できるだけ早く戻りますので、それまでがんばってください」
「ごめーん、かいちょ。できるだけ早く戻るからー」
「……ごめん」
それぞれ、電話で謝罪はされたので、一応許してやる。
仕方ない、あいつらも良家の子息、どうしても実家での付き合いを優先せざるを得ないときがある。
その事情も知っているので、やむを得ずたった一人で新入生を迎える準備を始めた。
昨年度のうちに、ある程度は終わらせていたし、手順も心得ている。
かかる手間がそれほどではないのが救いだ。
「ま、毎年のことだからな…」
あいつらが戻って来たらこき使ってやると心に誓いながら、新入生代表挨拶をする入試首位の生徒を呼び出すことにした。
「……」
おっと、この沈黙は俺様だ。
この学園の特徴として、それなりの名家、それなりに金のある家、そういった者が多く入学してくる。
しかし、奨学制度、特待制度も充実していて、勉学を志す者への受け入れにも力を注いでいるのが特徴だ。
今年も学費その他免除の特待生が2名入学したと聞いている。
その内の一人が、今年度の首位なのだが…
「会長、どうかしましたか?」
「あ、い、いや…」
なんだこれは……
今俺の目の前にいる、今年度入試トップ合格者、佐藤晃12歳。
真新しい制服――うちの制服は中高デザイン違いのブレザーだ――に身を包んだその姿は、まるで……着ぐるみ。
「お前、サイズ間違ったのか…?」
「は?」
肩のラインは見事に腕側にズレ、ただでさえ長くなった袖を折ってはいるが、指先は辛うじて、本当に辛うじて確認できる程度。
ズボンは靴を覆い隠し、その裾は折ってはいても、まだかなり余っている。
ウェストにいたっては、ベルトで極限まで締めているだろうことが、上着の上からでも想像できるぞっ!
まさに服に着られた状態の、とてつもなくみすぼらしい格好をした男、いや少年、いやいやガキッ!
「あ、あぁ、制服ですか? 間違いではありません。これから成長するので、それを見越して大きめの物を購入いたしました」
「…と、特待生は、制服代も全て学園から支給されるはずだが」
「それは分かっておりますが、それら全て皆様の寄付金などで賄っていただいてますので、余計な出費は抑えたほうが良いかと…」
堅実…堅実なのだろう、おそらく…たぶん、いやいやしかし、これは酷すぎではないだろうか……どう見ても不恰好すぎるだろ。
この学園での価値観を物の見事に裏切っている。
「駄目だっ!」
「ひゃっ」
おもわず怒鳴ってしまった。
机の前で立ち尽くしていたガキが、飛び上がり悲鳴をあげてしまったぞ。
「あ、いや、すまん。だがそれは駄目だ。その格好で壇上にあがることだけは、許さん」
「はぁ、駄目…ですか、では別の方に……」
困りきった表情で、もそもそと、自分の制服を摘み上げるガキ。
くそ、頭痛がしてきやがった。
「連絡をしておくから、今からサイズを測ってこい」
「ですが、それでは…」
「3日で用意させる。制服代は全て俺が持つ。いいから今すぐ行ってこい」
「申請すれば制服代は、」
「いいから、すぐ行けっ!」
「ひゃいっ」
一度俺に頭を下げ、ガキは小走り――なのか?――で生徒会室を出て行った。
俺は机の上にある内線を使い、さっさと連絡を入れておく。
もちろん3日で仕上げるよう、しっかりと頼んでおいた。
念のため体操着も一緒に注文してしまったが。
「あんなのが、首位なのかよ…」
4月5日に入学式を控えた我が中等部生徒会は大忙し……のはずだ。
だが、なぜか生徒会室には俺一人。
新生徒会の新会長である、俺ただ一人しか部屋にはいない。
「くそっ」
5日後の入学式準備で、実家から慌てて学園へと引き返してきたが、他の生徒会役員である右京はじめ、藤村も一条も未だ戻ってきてはいない。
「東峰、できるだけ早く戻りますので、それまでがんばってください」
「ごめーん、かいちょ。できるだけ早く戻るからー」
「……ごめん」
それぞれ、電話で謝罪はされたので、一応許してやる。
仕方ない、あいつらも良家の子息、どうしても実家での付き合いを優先せざるを得ないときがある。
その事情も知っているので、やむを得ずたった一人で新入生を迎える準備を始めた。
昨年度のうちに、ある程度は終わらせていたし、手順も心得ている。
かかる手間がそれほどではないのが救いだ。
「ま、毎年のことだからな…」
あいつらが戻って来たらこき使ってやると心に誓いながら、新入生代表挨拶をする入試首位の生徒を呼び出すことにした。
「……」
おっと、この沈黙は俺様だ。
この学園の特徴として、それなりの名家、それなりに金のある家、そういった者が多く入学してくる。
しかし、奨学制度、特待制度も充実していて、勉学を志す者への受け入れにも力を注いでいるのが特徴だ。
今年も学費その他免除の特待生が2名入学したと聞いている。
その内の一人が、今年度の首位なのだが…
「会長、どうかしましたか?」
「あ、い、いや…」
なんだこれは……
今俺の目の前にいる、今年度入試トップ合格者、佐藤晃12歳。
真新しい制服――うちの制服は中高デザイン違いのブレザーだ――に身を包んだその姿は、まるで……着ぐるみ。
「お前、サイズ間違ったのか…?」
「は?」
肩のラインは見事に腕側にズレ、ただでさえ長くなった袖を折ってはいるが、指先は辛うじて、本当に辛うじて確認できる程度。
ズボンは靴を覆い隠し、その裾は折ってはいても、まだかなり余っている。
ウェストにいたっては、ベルトで極限まで締めているだろうことが、上着の上からでも想像できるぞっ!
まさに服に着られた状態の、とてつもなくみすぼらしい格好をした男、いや少年、いやいやガキッ!
「あ、あぁ、制服ですか? 間違いではありません。これから成長するので、それを見越して大きめの物を購入いたしました」
「…と、特待生は、制服代も全て学園から支給されるはずだが」
「それは分かっておりますが、それら全て皆様の寄付金などで賄っていただいてますので、余計な出費は抑えたほうが良いかと…」
堅実…堅実なのだろう、おそらく…たぶん、いやいやしかし、これは酷すぎではないだろうか……どう見ても不恰好すぎるだろ。
この学園での価値観を物の見事に裏切っている。
「駄目だっ!」
「ひゃっ」
おもわず怒鳴ってしまった。
机の前で立ち尽くしていたガキが、飛び上がり悲鳴をあげてしまったぞ。
「あ、いや、すまん。だがそれは駄目だ。その格好で壇上にあがることだけは、許さん」
「はぁ、駄目…ですか、では別の方に……」
困りきった表情で、もそもそと、自分の制服を摘み上げるガキ。
くそ、頭痛がしてきやがった。
「連絡をしておくから、今からサイズを測ってこい」
「ですが、それでは…」
「3日で用意させる。制服代は全て俺が持つ。いいから今すぐ行ってこい」
「申請すれば制服代は、」
「いいから、すぐ行けっ!」
「ひゃいっ」
一度俺に頭を下げ、ガキは小走り――なのか?――で生徒会室を出て行った。
俺は机の上にある内線を使い、さっさと連絡を入れておく。
もちろん3日で仕上げるよう、しっかりと頼んでおいた。
念のため体操着も一緒に注文してしまったが。
「あんなのが、首位なのかよ…」