平凡君の日々彼此-2014夏の特別編-
[平凡君の日々彼此-2014夏の特別編-3]
アーちゃんは、利香の出しっぱなしにしてたマンガを読み、飽きたらウトウトするというような過ごし方をしていた。
まったく緊張した様子がないのは、僕しかいないからかもしれない。
どちらにしろ、羨ましい性格だ。
そんなアーちゃんを放っておいて、僕は買い物に行ったり、軽く部屋を整理したりしていた。
そして、そろそろ夕飯の準備でもとキッチンに向かったとき、不意に外が曇ったかと思うとポツポツと降り始めた雨。
ついさっきまで晴天だったというのに……。
最近は、こういった雨が多くなっている。
確か、ゲリラ豪雨って言うんだっけ?
「アッくん、雨降ってきた」
「うん、そうだね」
「何暢気なこと言ってんの、洗濯物干しっぱなしでしょ」
「え? 洗濯物?」
アーちゃんが指差した先には、庭。
庭には、物干し竿があり、
「あ、ああああー」
「俺が取り込むから、夕飯よろしく」
「え? え、あ、う、うん」
返事が終わる前にアーちゃんは庭に飛び出して行き、手際よく洗濯物を取り込んで室内に放り込んでいった。
それを横目に、僕は今夜の夕食の準備を始める。
取り込み終わった途端、雨は一気に激しくなり、どしゃぶりの様相を見せていた。
「すごい降りだね」
「だねー」
アーちゃんが、取り込んだ洗濯物を畳みながら応える。
びっくりするほど、マメだ……。
こういったことは、寮ではほとんどアキラがしてるけど、アーちゃんも決して苦手なわけじゃない。
料理もできるし、掃除は……あまりしないほうだけど、するときはちゃんとするし、どちらかというとアーちゃんは家事全般が得意なタイプだと思う。
ただ、一人暮らしに向いてるかというとそうではない。
だって、早起きが苦手なんだもの。
普通ならお客様に洗濯物を畳ませるなんて絶対にさせないけど、アーちゃん相手だとそういう気分にはならなかった。
そもそもアーちゃんを客人扱いするのは、なんか違う感じがするし、長い寮生活と共に過ごした時間のせいで、僕から遠慮という二文字が消え去ってるんだと思う。
これはこれで、いいよね。
そんなことを考えてたら、玄関の扉が慌しく開けられた。
「オニイッ、帰ってるの!? 洗濯物取り込んでくれた!?」
利香だ。
バタバタと足音を立てながらリビングに飛び込んでくる。
「オニッ、!」
「お邪魔してまーす」
真っ先にアーちゃんを発見し、固まる妹。
アーちゃんが来ることは、お母さんを通じて知らされていても、初対面だから仕方ない。
「は、え、こ、ここここ、こん、こん、こんにち、は?」
こいうときどもるのは、もしかしたら遺伝なのかな?
「ねぇ、これも、俺が畳んでいいの?」
硬直する妹に向かって、アーちゃんがにっこりと微笑みかけ、おもむろに手を掲げた。
その先には、一枚の布切れがぶら下がっている……いや、違う、布切れじゃなくて……。
「キャー!! ダメー!!」
利香が雄叫びをあげながら、突如としてアーちゃんに飛び掛かった。
正確には勢いよく倒れこんだって感じで、アーちゃんは利香の体をしっかりとキャッチしてくれている。
利香の突然の奇行の理由は、なんてことはない、アーちゃんが掲げて見せたのが、利香の下着で、えっと……ブ、ブラジャーだったせいだ。
僕には平気で畳ませるくせに、さすがに初対面の男性には、人並みの羞恥心が働いたらしい。
◆
「渡辺利香です。兄がいつもお世話になってます」
アーちゃんが自己紹介をしたあと、ペコリと頭を下げ丁寧に挨拶し返した妹に、ポカンとしながら目を瞬かせた。
僕には、いつもいつも生意気な口を聞くくせに、この態度の違いはなんだろう?
他人と身内の違いといわれたらそれまでだけど、微妙に納得いかないのは、なぜ?
「あ、せ、洗濯物、わたしが畳みます」
さすがに下着類はそうしてほしいところだけど、なにもアーちゃんからすべてを奪うほどの意気込みを見せなくてもいいんじゃないかな。
どうせ、ほとんど終わってるんだし。
だいたい利香は、自分の本を片付けるのが先決だよね。
「利香、洗濯物はアーちゃんにお願いして、自分の本を、」
「お客様に畳ませるわけにはいかないでしょっ」
「お、お客様って、アーちゃんは」
「あ、コーヒーも出してないじゃないっ、オニイ気が利かなさすぎっ」
「え、コーヒーって、だって…」
そんなもの、とっくに飲み終わってたし、そもそも飲みたくなったらアーちゃんは勝手にいれるよ。
訳もわからず責め立てられて、僕はもうあたふたするばかりだった。
そんな僕を尻目に、利香は戸棚からドリップパックを取り出し、コーヒーの準備をすすめていった。
普段は、自分の分ですらいれないくせに……。
「あ、そ、それはダメだろ」
利香が棚から取り出そうとしたのは、母お気に入りのカップだった。
とても高価な物で、滅多なことでは使用しないのを利香も知ってるはずだ。
「アーちゃんは、これ」
「え、普通のマグカップじゃん」
「そうだよ。さっきも使ってたから、それでいいの」
「えー」
不貞腐れながらも、大人しく僕の言葉に従ってくれたのは、ある意味奇跡かもしれない。
利香はたどたどしい手つきでパックをセットし、熱したお湯をマグカップに注ぎいれていく。
「ちゃんと回転させて」
「もう、うるさいっ」
「いれすぎだって」
「うるさいっ」
せっかく教えてるのに邪険に扱われながらも、利香がどうにかこうにか一杯のコーヒーを淹れたことにホッと胸を撫で下ろす。
もちろん僕の分もいれるなんて優しさは発揮されない。
僕は残ったお湯で、自分の分を注ぎいれた。
「あ、ミルクとお砂糖はいりますか?」
「どっちもいらないよ」
「オニイには、聞いてないっ」
「……」
あまりにも可愛げのない態度に、もうなんというか呆気にとられるしかなかった。
去年リフォームしたばかりの我が家のキッチンは、最近流行りのアイランドタイプでリビングと一体型になっている。
だからアーちゃんにも僕と利香のやり取りは丸見えで、だからなのか、少々困った様子ながらも「ブラックで」と声をかけることで、兄妹の不毛な会話に終止符を打ってくれたのだった。
◆
ありがとう、とアーちゃんが利香の手からコーヒーを受け取る。
すぐにアーちゃんの隣りにチョコンと腰を落とした利香が、やけに嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。
「利香ちゃん、畳んだやつを片付けてきてよ」
絶対に「えー」とばかりに不平不満を口にするだろうと思われた利香が、意外にも「はい」なんて言いながらすぐに立ち上がったものだから、目が点だ。
「そうそう、ついでにこれも片付けといて」
そう言いながら、アーちゃんがマンガ雑誌を纏めて渡せば、利香が真っ赤になりながら俯いた。
人が来るというのに、読みっぱなしで放置していた事実に、今さらながら恥ずかしくなったんだろう。
「いい暇つぶしになった。ありがと」
アーちゃんが特に責めるわけでもなく言えば、なぜだか利香が僕を睨む。
その目は、なぜ片付けとかなかったのかと言っていた。
もうっ、自分のことは自分でしなさい!
はぁと大きく溜息をついて、食事の準備を再開する。
利香は片付けの真っ最中だ。
「何作んの?」
「え、あ、簡単に、煮物と焼き魚、あと、酢の物くらいかな」
アーちゃんは酸っぱすぎるとあまり食べないから、甘めに作る予定だ。
「んじゃ、俺も手伝う」
「え、いいよ、座ってて」
「いいっていいって、暇だし」
お言葉に甘えて、二人並んで作業してたら、全てを片付け終えた利香が戻って来た。
アーちゃんが買ってきた○京バナ○を出してやろうとしたら、やけに驚いた表情でこんなことを言い出す。
「お料理、できるんですか?」
「うん、一応は。利香ちゃんは?」
できないってことは、道中で話したと思ったんだけどな。
もしかしたら忘れてるのかな。
「全然できないよ」
「オニイッ」
「え、なに?」
利香の鬼のような形相に、ビックリして○京バナ○を落としそうになった。
「ちょっとはできるようになったのっ」
「え、でも、全然手伝わないって、お母さん言ってたけど」
「もうっ、なんでそんなこと言うのよっ」
「わっ、なになに?」
なぜだか怒り狂う利香に、ぽかぽかと叩かれました。
アーちゃんは、利香の出しっぱなしにしてたマンガを読み、飽きたらウトウトするというような過ごし方をしていた。
まったく緊張した様子がないのは、僕しかいないからかもしれない。
どちらにしろ、羨ましい性格だ。
そんなアーちゃんを放っておいて、僕は買い物に行ったり、軽く部屋を整理したりしていた。
そして、そろそろ夕飯の準備でもとキッチンに向かったとき、不意に外が曇ったかと思うとポツポツと降り始めた雨。
ついさっきまで晴天だったというのに……。
最近は、こういった雨が多くなっている。
確か、ゲリラ豪雨って言うんだっけ?
「アッくん、雨降ってきた」
「うん、そうだね」
「何暢気なこと言ってんの、洗濯物干しっぱなしでしょ」
「え? 洗濯物?」
アーちゃんが指差した先には、庭。
庭には、物干し竿があり、
「あ、ああああー」
「俺が取り込むから、夕飯よろしく」
「え? え、あ、う、うん」
返事が終わる前にアーちゃんは庭に飛び出して行き、手際よく洗濯物を取り込んで室内に放り込んでいった。
それを横目に、僕は今夜の夕食の準備を始める。
取り込み終わった途端、雨は一気に激しくなり、どしゃぶりの様相を見せていた。
「すごい降りだね」
「だねー」
アーちゃんが、取り込んだ洗濯物を畳みながら応える。
びっくりするほど、マメだ……。
こういったことは、寮ではほとんどアキラがしてるけど、アーちゃんも決して苦手なわけじゃない。
料理もできるし、掃除は……あまりしないほうだけど、するときはちゃんとするし、どちらかというとアーちゃんは家事全般が得意なタイプだと思う。
ただ、一人暮らしに向いてるかというとそうではない。
だって、早起きが苦手なんだもの。
普通ならお客様に洗濯物を畳ませるなんて絶対にさせないけど、アーちゃん相手だとそういう気分にはならなかった。
そもそもアーちゃんを客人扱いするのは、なんか違う感じがするし、長い寮生活と共に過ごした時間のせいで、僕から遠慮という二文字が消え去ってるんだと思う。
これはこれで、いいよね。
そんなことを考えてたら、玄関の扉が慌しく開けられた。
「オニイッ、帰ってるの!? 洗濯物取り込んでくれた!?」
利香だ。
バタバタと足音を立てながらリビングに飛び込んでくる。
「オニッ、!」
「お邪魔してまーす」
真っ先にアーちゃんを発見し、固まる妹。
アーちゃんが来ることは、お母さんを通じて知らされていても、初対面だから仕方ない。
「は、え、こ、ここここ、こん、こん、こんにち、は?」
こいうときどもるのは、もしかしたら遺伝なのかな?
「ねぇ、これも、俺が畳んでいいの?」
硬直する妹に向かって、アーちゃんがにっこりと微笑みかけ、おもむろに手を掲げた。
その先には、一枚の布切れがぶら下がっている……いや、違う、布切れじゃなくて……。
「キャー!! ダメー!!」
利香が雄叫びをあげながら、突如としてアーちゃんに飛び掛かった。
正確には勢いよく倒れこんだって感じで、アーちゃんは利香の体をしっかりとキャッチしてくれている。
利香の突然の奇行の理由は、なんてことはない、アーちゃんが掲げて見せたのが、利香の下着で、えっと……ブ、ブラジャーだったせいだ。
僕には平気で畳ませるくせに、さすがに初対面の男性には、人並みの羞恥心が働いたらしい。
◆
「渡辺利香です。兄がいつもお世話になってます」
アーちゃんが自己紹介をしたあと、ペコリと頭を下げ丁寧に挨拶し返した妹に、ポカンとしながら目を瞬かせた。
僕には、いつもいつも生意気な口を聞くくせに、この態度の違いはなんだろう?
他人と身内の違いといわれたらそれまでだけど、微妙に納得いかないのは、なぜ?
「あ、せ、洗濯物、わたしが畳みます」
さすがに下着類はそうしてほしいところだけど、なにもアーちゃんからすべてを奪うほどの意気込みを見せなくてもいいんじゃないかな。
どうせ、ほとんど終わってるんだし。
だいたい利香は、自分の本を片付けるのが先決だよね。
「利香、洗濯物はアーちゃんにお願いして、自分の本を、」
「お客様に畳ませるわけにはいかないでしょっ」
「お、お客様って、アーちゃんは」
「あ、コーヒーも出してないじゃないっ、オニイ気が利かなさすぎっ」
「え、コーヒーって、だって…」
そんなもの、とっくに飲み終わってたし、そもそも飲みたくなったらアーちゃんは勝手にいれるよ。
訳もわからず責め立てられて、僕はもうあたふたするばかりだった。
そんな僕を尻目に、利香は戸棚からドリップパックを取り出し、コーヒーの準備をすすめていった。
普段は、自分の分ですらいれないくせに……。
「あ、そ、それはダメだろ」
利香が棚から取り出そうとしたのは、母お気に入りのカップだった。
とても高価な物で、滅多なことでは使用しないのを利香も知ってるはずだ。
「アーちゃんは、これ」
「え、普通のマグカップじゃん」
「そうだよ。さっきも使ってたから、それでいいの」
「えー」
不貞腐れながらも、大人しく僕の言葉に従ってくれたのは、ある意味奇跡かもしれない。
利香はたどたどしい手つきでパックをセットし、熱したお湯をマグカップに注ぎいれていく。
「ちゃんと回転させて」
「もう、うるさいっ」
「いれすぎだって」
「うるさいっ」
せっかく教えてるのに邪険に扱われながらも、利香がどうにかこうにか一杯のコーヒーを淹れたことにホッと胸を撫で下ろす。
もちろん僕の分もいれるなんて優しさは発揮されない。
僕は残ったお湯で、自分の分を注ぎいれた。
「あ、ミルクとお砂糖はいりますか?」
「どっちもいらないよ」
「オニイには、聞いてないっ」
「……」
あまりにも可愛げのない態度に、もうなんというか呆気にとられるしかなかった。
去年リフォームしたばかりの我が家のキッチンは、最近流行りのアイランドタイプでリビングと一体型になっている。
だからアーちゃんにも僕と利香のやり取りは丸見えで、だからなのか、少々困った様子ながらも「ブラックで」と声をかけることで、兄妹の不毛な会話に終止符を打ってくれたのだった。
◆
ありがとう、とアーちゃんが利香の手からコーヒーを受け取る。
すぐにアーちゃんの隣りにチョコンと腰を落とした利香が、やけに嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。
「利香ちゃん、畳んだやつを片付けてきてよ」
絶対に「えー」とばかりに不平不満を口にするだろうと思われた利香が、意外にも「はい」なんて言いながらすぐに立ち上がったものだから、目が点だ。
「そうそう、ついでにこれも片付けといて」
そう言いながら、アーちゃんがマンガ雑誌を纏めて渡せば、利香が真っ赤になりながら俯いた。
人が来るというのに、読みっぱなしで放置していた事実に、今さらながら恥ずかしくなったんだろう。
「いい暇つぶしになった。ありがと」
アーちゃんが特に責めるわけでもなく言えば、なぜだか利香が僕を睨む。
その目は、なぜ片付けとかなかったのかと言っていた。
もうっ、自分のことは自分でしなさい!
はぁと大きく溜息をついて、食事の準備を再開する。
利香は片付けの真っ最中だ。
「何作んの?」
「え、あ、簡単に、煮物と焼き魚、あと、酢の物くらいかな」
アーちゃんは酸っぱすぎるとあまり食べないから、甘めに作る予定だ。
「んじゃ、俺も手伝う」
「え、いいよ、座ってて」
「いいっていいって、暇だし」
お言葉に甘えて、二人並んで作業してたら、全てを片付け終えた利香が戻って来た。
アーちゃんが買ってきた○京バナ○を出してやろうとしたら、やけに驚いた表情でこんなことを言い出す。
「お料理、できるんですか?」
「うん、一応は。利香ちゃんは?」
できないってことは、道中で話したと思ったんだけどな。
もしかしたら忘れてるのかな。
「全然できないよ」
「オニイッ」
「え、なに?」
利香の鬼のような形相に、ビックリして○京バナ○を落としそうになった。
「ちょっとはできるようになったのっ」
「え、でも、全然手伝わないって、お母さん言ってたけど」
「もうっ、なんでそんなこと言うのよっ」
「わっ、なになに?」
なぜだか怒り狂う利香に、ぽかぽかと叩かれました。