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平凡君の日々彼此-2014夏の特別編-

[平凡君の日々彼此-2014夏の特別編-2]


電車がもっとも大きな駅に到着すると、乗客たちが一斉に出口を目指した。
僕たちも、ここで乗換えをしなくちゃならない。

「何線?」

「えっと、○○線」

「んじゃ、こっち」

「あ、うん」

あまり詳しくない僕は、大人しくアーちゃんの後に付いて行くだけだ。
電車のとき以上の人の多さに、下手すればはぐれそうだけども、アーちゃんの広い背中は常に僕の視界の中に収まっていた。
たぶん、ゆっくり歩いてくれてるってことだよね。
しかも頭一つ分飛び抜けてるから、ますます安堵感が増す。

人波に逆らわないように進み、もうすぐエスカレーターというところで、アーちゃんが振り返った。
視線を彷徨わせ、すぐ傍にいる僕を発見すると、そのままグイッと腕を引っ張られた。

「横か前歩いて」

「あ、うん」

僕の足が遅いから、迷惑かけてるのかもしれない。

「見えないから」

それは、僕の身長が低くて見えないって意味!?

「それって、」

「前向いてろって」

「わっ」

急に体がガクンと沈んだ。
片足が既にエスカレーターに乗ってたせいで、体勢を崩してしまったんだ。
危うく転げるところを、アーちゃんが後ろから支えてくれた。

「あ、ありがと…」

「どういたしまして」

意地悪な笑いは、僕に気を使わせないためのものなのだろう。



「利香ちゃんは、甘い物好き?」

乗り換えのホームを目指してる途中のショップの並ぶ場所で、アーちゃんが急に足を止め聞いてきた。

「あ、うん、結構好きだよ」

「ふーん、こういうの、いかにもっぽくて良くね?」

アーちゃんが手にしてたのは、東○バナ○だった。
確かに、いかにもって感じだ。
でも、

「手土産とか、いらないよ」

「俺が食いたいの」

そう言って、もっともポピュラーな物とバナナプリン味という味の想像がつかない物を手にとって、さっさとレジに行ってしまう。
アーちゃんは、何気ない風を装ってすごく気を使ってくれる。
普段の生活では、いいかげんでめちゃくちゃなとこばかり目立つのに、こうして一歩外に出ると別の面が際立つから、不思議だ。

次に乗った電車は空いていて、到着までゆっくりと座ることができた。
駅からはバスに乗り、ようやく実家に辿り着いた頃には、お昼はとっくに回っていた。

「へー、一戸建てなんだ」

「この辺りは、マンションのほうが少ないんだよ」

実家は、都心のはずれもはずれ、だけどギリギリ都内と言い張れるところに建っている。
田舎と言ってしまえばそれまでだけど、環境はそう悪くはない。

「散らかってると思うけど、上がって」

鍵を開けてから中に入り、アーちゃん用のスリッパを出す。
アーちゃんはお邪魔しますと一言告げてから、足を上げた。

「妹ちゃんは、お出かけ中?」

「うん、友達のとこに行ってるんだって。夕方までには帰ると思うよ」

「ふーん、どっかの出不精と違って、活動的でいいねー」

アーちゃんをリビングに案内してから、僕は和室にある仏壇にお線香をあげに行った。
軽く鈴を鳴らして手を合わせ、顔を上げたらアーちゃんが立っていた。

「どなたの?」

「あ、おばあちゃんとおじいちゃんの」

「そっか、俺もしていい?」

「う、うん、ありがと」

アーちゃんが、同じように手を合わせてくれる。
そんなことが、どことなく嬉しかった。

キッチンには、僕とアーちゃんのための昼食が用意されていた。
母の、簡単な物でゴメンなさいの手紙付きで。

「でも、夕飯は用意してないんだよね…」

冷蔵庫を覗けば、普段とそう変わらないだろうという状況だ。
つまり、僕が帰ってくるからと、なにかしら特別な材料が用意されてるわけではないということ。
これは、買い物に行かないといけないかな。

「とりあえず、食っちゃっていいの?」

「あ、うん、チンするね」



遅い昼食を終わらせて、ようやくゆっくりできるとソファに腰を下ろした。
久しぶりの我が家は、やっぱり落ち着きます。
でもアーちゃんからしたら、初めて来た他人の家なんだよね。
ここはできるだけ寛いでもらえるように、僕が気を使わないといけないんだ。

「アーちゃん」

「ん?」

僕の家では、パソコンはお父さんの書斎にしかない。
だからアーちゃんには退屈だろうと声をかけてみれば、

「なにしてるの?」

「なにって…見てわかんねー?」

「わかるけど…」

どっから見つけてきたのか、アーちゃんはマンガ雑誌を読んでいた。
それも、カーペットに寝転びながら、だ。
これまたどこから持ってきたのか、ご丁寧にクッションを枕にしている。

「く、寛ぎすぎだよっ」

「はぁ?」

もとからこの家の住人のような姿に、さすがの僕も呆れ返る。
やっぱりアーちゃんは、アーちゃんだ!

「その雑誌、どこから持ってきたんだよ?」

「そこに置いてあったけど」

「そこ?」

アーちゃんがおざなりに顎で指し示したのは、リビングの一角だった。
見れば、他にも数冊の雑誌が置きっ放しになっていて、ついでにマンガらしきものもあった。
綺麗好きなお母さんが、散らかしっぱなしで出かけるはずがない。
どう考えても、利香だ。

「もうっ、いつもいつも出しっぱなしにしてっ」

マンガを拾い、テーブルに重ねる。
戻ってきたら、ちゃんと片付けさせなきゃ。

「いいねー、いかにも女の子って感じで」

「どこがだよ!?」

「どこがって、普通の少女マンガ読んでるなんて、それだけで貴重じゃん」

「普通? 普通じゃない少女マンガなんかあるの?」

「あるある、めっちゃある!
つか、普通の場所にも侵食しはじめてるもんな、油断はできねーか」

「何言ってるんだよ?」

「アッくんの想像もつかない世界が、着実に少女たちを蝕んでるってこと」

「なにそれ? 有名な中二病ってやつ?」
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