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アーちゃん■キャンパス日記-2015秋の特別編-

[アーちゃん■キャンパス日記-2015秋の特別編-4]


「で、どうよ、T大は?」

藤村は、毎度毎度似たようなことを聞いてくる。
どうもこうも普通の大学だと返すのも、毎度のことだ。

「理三といえば、どこかイカレタ連中の巣窟だからな。お前にはピッタリだ」

その通りではあるが、東峰に言われると腹立たしさ倍増だ。
T大理科三類なんて、どこかおかしな奴らが受かるものだと、俺だってそう思っている。
単純に頭がいいでは済まない連中ばかりだが、有名私大の教授を狙うなら理三卒は絶対と言っていいくらい。
他にも立身出世の道はいくらでも開いてるから、理三は特別といえるだろう。
俺には、あんま関係ないけど。

「そういえば、アキは?」

アキラから渡されたケーキを配りつつ、ついでに話題を変える。

「昨日からナベちゃんちにお泊り」

基本、アキの住処は、藤村とアッキーが同棲する家だった。
だが、アキの気の向くまま、いろんな場所で寝泊りしている。
俺の家にはないが、アキラとアッくんの家にはアキのための部屋が用意されてるくらいだしね。

「別宅回りか、優雅だねぇ……」

好きなときに好きな場所に行き、飯食って寝る。
まるで、ネコみたいだ。

負けじと、こちらも優雅なおやつタイムに突入する。
アキラが用意したケーキと俺がいれたコーヒーで、むさい男三人での語らいだ。
内容は、政治経済が中心だった。
こりゃアキラでなくとも、外に放り出したくもなるわな。

気が付けば夕飯時となり、アッキーが呼びにきて、全員で東峰の家に移動した。
藤村が「このドア、チョー便利」とか言い出すものだから、俺と東峰の機嫌は急降下。
対してアキラは鼻高々となったため、脳内で藤村を殴っておいた。

晩飯のメニューは、言ってたとおりの刺身盛り合わせと、脂の乗ったさんまだった。
昼にも食ったけど、この手のメニューは大好物なため、まだまだいける。
だがしかし、あまりにも複雑な心持ちでいたせいで、いまいち味がはっきりしなかった。
もったいない。

今夜は泊まるつもりなのか、藤村もアッキーも、東峰に勧められるままに飲んでいた。
アキラを除けば全員が酒好き。
俺も遠慮なく飲みまくり、そのおかげか午後からの複雑な悩みも消え去った。

今もって何も言い出ださないってことは、井上は余計な話などしてなかったってことだろう。
あいつのことだから、わざとああいう言い方をして、俺をからかったんだ。
まったく、悪ふざけの好きな男、

「アーちゃん」

変人の部分に目を瞑れば、アキラはそれもうできた嫁といえる。
家事は人並み以上にできるし、しかも嫌いじゃないってんだから、まさに良妻の鏡のようなやつだろう。
俺たちが飲んでる間にも、酒の肴をテキパキ用意してたくらいだし。
そんなアキラが、ようやく東峰の横に落ち着いたと思ったら、いきなり俺を名指ししてきた。

「はい?」

「今日は、たくさんお飲みになって構いませんからね。よろしければ、ロマネコンティをお出ししますよ」

「おいっ、それは、」

「だまらっしゃい。これはアーちゃんを慰めるための飲み会なのです。ロマネの一本や五本出し惜しみしてどうするのですか」

「へぇ、東峰さんたら、五本も持ってるのねー」

藤村に指摘されて、東峰の目が気まずそうにうろちょろ。
あのロマネコンティを五本も置いてるとか、さすがは東峰といったところだが、俺にはそれをツッコム余裕がない。

「慰めるって、え……?」

なにを?

「雅人、ロマネコンティを開けてくださいな。アーちゃん、飲みますよね?」

「あ、はい。いただきます」

ロマネコンティを断るはずがない。
だけど待てよ。まだ俺の疑問は解消してないぞ。

「なぁ、慰めるって、なんだよ?」

アキラたちに慰められるようなこと、何も起こってないけどなぁ……。

「アーちゃん、僕たち相手に無理をしなくともよろしいんですよ。さぁ、遠慮せず愚痴りなさい。
よくぞこれまで我慢しておりましたね。ですが、もう隠す必要はないのです。それは、恥ずかしいことでもなんでもないのですからね」

渋々ロマネコンティを用意した東峰だったが、俺を見る目は完璧バカにしたものだった。
アッキーは気の毒そうに俺を見ていて、藤村はおもしろくて堪らないって顔で俺を見ている。
全員のちぐはぐな視線に晒されて、さすがの俺も戸惑いを隠せない。
いったいなんだってんだ?

「あ、あのー、」

「全員に行き渡りましたね。さあグラスをお持ちください。乾杯いたしましょう」

アキラに言われて、全員がワイングラスを持つ。
俺も、戸惑いながらも手に持った。

「アーちゃんを振った女性たちに、ささやかなバチが当たるのを願って、かんぱーい」

「かん、……はい!?」

結局、アキラと井上が、いろいろ盛り上がったというのは、事実だった。
ただし、大幅な変更と脚色された内容を、井上がさもおもしろおかしく話して聞かせた。

「天下のT大生で、パッと見は悪くないからとお声をかけていただくも、結局はすぐに振られて捨てられるとは……」

「い、井上が、そう言ったの?」

「ええ、井上君は本当に友達思いな方ですね。
あまりの空気の読めなさに、とうとう合コンへのお誘いもなくなり、今ではもてない男代表として生きておられるアーちゃんを、心配しておりましたよ」

「あっそう……そうなんだ……へぇ……」

い~の~う~え~。
病気うつされて、爛れ落ちて死ね!

「ですが、落ち込む必要はございません。今はダメでも、T大卒のお医者様というだけで、将来は約束されたも同然なのですからね。
年収1000万以上は確実。婚カツすれば、こちらが選び放題ですよ」

「はぁ……」

「さあ、元気を出して。今日はアーちゃんのために、飲み明かしましょう」

飲み明かすと言った本人が、一番最初にダウンした。
酒豪の中の一般人だから、これは仕方がない。
眠るアキラを寝室に運んだのは、東峰。
俺は藤村にいじられながら、せかっくのロマネコンティをチビチビ飲んでいた。
味がさっぱりわからないとか、もったいなさすぎて泣けそう……。



藤村とアッキーの寝床は、東峰家の客間に準備された。
あちらさんは、7室もあるからね。客を泊めるくらい余裕なんだ。

さすがに朝まで飲むことはなく、東峰は早々に寝室に退散し、藤村は入浴中。
俺とアッキーは、お片付けだ。

「ったく、ヒデー勘違いもあったもんだ」

見事なまでに、もてない男に祭り上げられた俺は、おかげさまで全然酔えなかった。
さすがに、酷すぎるだろ。
井上のやつ、一回しめとかないとな。

「勘違いで済んで、よかったんじゃないのか」

「もう少し言いようってもんがあるだろ。あれじゃあ、俺が可哀想すぎる」

「いいじゃないか。事実はどうあれ、現実は同じなのだから」

「あ、のなー……くそっ」

アッキーに言われるまでもなかった。
事実はどうあれ、俺の周囲に女の影はない。
もてないからと言われたら、そう信じるしかないくらいに。
逆に、そうだからこそいないと思われたほうが、俺にとっては気楽だろう。

「もういいよ。せいぜい勘違いしててくれっ」

「そう、そうやって開き直っておけ。これからもな」

「なんだよ、それ。それよりも、なんでアキラを阻止してくんなかったの?」

「お前の日常とやらに興味あると言われたら、止めるのも気の毒だ」

「せめてくだらない会話を止めさせようとか、思わなかった?」

「アホ面下げて真剣に聞くアキラに、野暮なマネはしたくない」

「アホ面とか言っちゃってるよ……」

「だがまぁ、なかなかの見物だったぞ」

「はいはい、そうですか」

「最後は憤っていたが」

「井上が?」

「いや」

「アキラが、何を怒るのよ? なんか失礼なことされた?」

だとしたら、マジでしめなきゃ。

「お前ほど、魅力的な男性は他にいないそうだ」

「は? なにそれ」

「それに気付けないのは、フシアナ。そんなのに引っかからなくて、逆に良かったんだと」

「なんじゃそりゃ」

「アキラにとっては、そうなのだろう。俺はフシアナのようだが」

「そりゃあ、藤村を選ぶくらいだしね」
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