アーちゃん■キャンパス日記-2015秋の特別編-
[アーちゃん■キャンパス日記-2015秋の特別編-3]
井上は、正真正銘のクズだ。
それを本人自覚してるし、隠してもいない。
女子から貰った連絡先を「ヤリトモフォルダに入れる」とわざわざ宣言するくらいのクズ。
それでも同性の友人は多いし、女子からの好感度もたいして落ちてない。
井上になら弄ばれてもOKなどとホザク奴らのせいだけど、井上の人柄にもあるんだろう。
俺だって、なんだかんだでご友人してるしね。
せっかく昼飯食ったのに、午後の予定を丸っきり変更して家路についた。
帰宅するのは、アホみたいにお高い家賃の高層マンション最上階の一室だ。
同フロアにたった四戸しかなくて、その内二戸は俺とアキラたちの家であり、残り二戸は完全なる空室状態。
藤村が、入居するか悩んでたこともあったが、あっちはあっちでいい物件を見つけたらしく、そちらに住んでいる。
もちろん、アッキーも一緒にな。
なんつっても、都会のど真ん中だからな、どうしても喧騒と無縁とはいかなくて、静かな環境を好むアッキーには不人気だったらしい。
じゃあ葛西はどうかとなったが、こちらはこちらでご自身所有の物件に引っ越し完了済みだった。
当然、アッくんもご一緒だ。
結局、建物自体が東峰系列の持ち物だからと、このまま空室を維持させることにした。
バカ広いフロア内の住人がたったの三人とか、なんか薄ら寒いものを感じるよな……。
「ただいまー」
と声をかけても、出迎える声はない。
俺は、一人暮らしですからね。
「あれ、早くね? 午後も取ってたんじゃないの?」
「またサボりか」
「うわー、ダメダメな大学生だねー。日本の未来は暗いっ」
「こんな奴が医者になるとか、先々不安でしかないな」
他人様のリビングで、我が物顔で寛ぐ藤村と東峰に、さすがの俺も暫し固まった。
だが復活は早い。
なぜなら、これが初めてのことではないからだ。
「勝手に入るなって、何回言わせんだよ! プライバシーはどこいった!」
がっつり怒りを滲まる俺を、せせら笑う二人。
背中にムカつく声を聞きながら、書斎に駆け込む。
書斎……あ、なんかカッコイイぞ……庶民だから、こういう響きに弱いんだよ!
ちなみに、家の間取りは、4LDKSだ。
一室一室がかなり広めで、寝室、書斎、衣裳部屋、シアタールーム、あとは物置として活用している。
つまり、未使用部屋はゼロ。
とにかく、書斎に荷物を置いて、衣裳部屋で着替えを済ませ、寛ぐ二人の前を横切り、リビングの壁に張り付いた鍵のない扉を開け、叫ぶ。
「東峰はともかく、なんで藤村までいるんだよ!」
「勝手に付いてきたからだ」
「あ、あら、アッキーさん。おひさしぶりー……」
俺の家のリビングの先には、アキラと東峰の家のリビングがあった。
どう考えても異様な空間の創出者は、アキラさんである。
俺がアキラたちの隣りに住むのは、当然だと思っていた。
すぐに駆けつけられるし、東峰が長期不在の間は不安だしで、東峰からしても反対する意志はなかった。
だが、あくまでも隣りというだけで、決してプライバシー度外視の往来を許可したつもりはない。
それは、東峰にしてもそうだったはずだ。
しかし、忙しさにかまけ、住居と引っ越し日を決めただけで、あとはほぼ丸投げにしてたせいで、とんでもない結果になってしまった。
薄いのか分厚いのか微妙な扉で区切られた、俺と東峰の家。しかも鍵はないときた。
これではもう、一軒家と変わりないんじゃないだろうか……。
二世帯住宅だって、もう少し気の利いた造りにできるんでないの。
せめて鍵をつけろと、いまさらながらに言いたいよ。
「先に、ただいまでしょう」
「あ、はい、ただいま……」
「はい、おかえりなさい。また午後をおサボりになったのですか?」
アキラとアッキーは、キッチンにて夕飯の準備中だった。
ついでに、洗濯物を片付けたりもしている。
「またってほど多くないと思うけど、そ、それよりも、なんで藤村が俺の部屋に、」
「あまりにも小難しいお話ばかりで盛り上がるものですから、お外で遊んで来なさいと言ったのですよ」
「へぇ、お外……」
哀しいことに、東峰が俺の部屋に入り浸るのは、ほぼ当たり前になっていた。
家事をしてるときに、あの巨体がゴロゴロしてると、いくら部屋が広くても邪魔に感じると、幾度となく俺の部屋に追い出されてくるのだ。
まだまだ新婚でもいいはずなのに、アキラの感覚が既に熟年夫婦の域に達してるのは、ざまあみろだった。
「今日は奏先輩のお車の、納車日だったのです。新車が来て、どうにも落ち着かなかったのでしょうね。
せっかくだからと、僕も初運転に誘っていただきまして、ドライブに行って参りました。
ついでに新鮮なお魚を購入し、雅人を拾って帰ってきたのですよ。今夜は、お刺身もありますからね。楽しみに待っていてください」
「へぇ、刺身ね……んで、メインがさんまですか」
「おや、伝わりましたか。井上新(いのうえあらた)君のことですから、てっきり伝え忘れると思っておりました。意外と律儀な方ですね」
「あっ……」
そうだそうだ、なんで午後のコマをサボったのか、思い出した。
「お、お夕飯の、準備中、ですよね。邪魔しちゃ悪いし、俺も、部屋に戻るね」
アキラの様子は普段と変わりないようだった。
ならば、余計な波風立てずに、このままやりおおせるのが無難だろう。
「アーちゃん」
「はいっ」
「おやつにケーキをご用意しておりますので、彼らの分も持って行ってくださいね」
「はい……」
井上は、正真正銘のクズだ。
それを本人自覚してるし、隠してもいない。
女子から貰った連絡先を「ヤリトモフォルダに入れる」とわざわざ宣言するくらいのクズ。
それでも同性の友人は多いし、女子からの好感度もたいして落ちてない。
井上になら弄ばれてもOKなどとホザク奴らのせいだけど、井上の人柄にもあるんだろう。
俺だって、なんだかんだでご友人してるしね。
せっかく昼飯食ったのに、午後の予定を丸っきり変更して家路についた。
帰宅するのは、アホみたいにお高い家賃の高層マンション最上階の一室だ。
同フロアにたった四戸しかなくて、その内二戸は俺とアキラたちの家であり、残り二戸は完全なる空室状態。
藤村が、入居するか悩んでたこともあったが、あっちはあっちでいい物件を見つけたらしく、そちらに住んでいる。
もちろん、アッキーも一緒にな。
なんつっても、都会のど真ん中だからな、どうしても喧騒と無縁とはいかなくて、静かな環境を好むアッキーには不人気だったらしい。
じゃあ葛西はどうかとなったが、こちらはこちらでご自身所有の物件に引っ越し完了済みだった。
当然、アッくんもご一緒だ。
結局、建物自体が東峰系列の持ち物だからと、このまま空室を維持させることにした。
バカ広いフロア内の住人がたったの三人とか、なんか薄ら寒いものを感じるよな……。
「ただいまー」
と声をかけても、出迎える声はない。
俺は、一人暮らしですからね。
「あれ、早くね? 午後も取ってたんじゃないの?」
「またサボりか」
「うわー、ダメダメな大学生だねー。日本の未来は暗いっ」
「こんな奴が医者になるとか、先々不安でしかないな」
他人様のリビングで、我が物顔で寛ぐ藤村と東峰に、さすがの俺も暫し固まった。
だが復活は早い。
なぜなら、これが初めてのことではないからだ。
「勝手に入るなって、何回言わせんだよ! プライバシーはどこいった!」
がっつり怒りを滲まる俺を、せせら笑う二人。
背中にムカつく声を聞きながら、書斎に駆け込む。
書斎……あ、なんかカッコイイぞ……庶民だから、こういう響きに弱いんだよ!
ちなみに、家の間取りは、4LDKSだ。
一室一室がかなり広めで、寝室、書斎、衣裳部屋、シアタールーム、あとは物置として活用している。
つまり、未使用部屋はゼロ。
とにかく、書斎に荷物を置いて、衣裳部屋で着替えを済ませ、寛ぐ二人の前を横切り、リビングの壁に張り付いた鍵のない扉を開け、叫ぶ。
「東峰はともかく、なんで藤村までいるんだよ!」
「勝手に付いてきたからだ」
「あ、あら、アッキーさん。おひさしぶりー……」
俺の家のリビングの先には、アキラと東峰の家のリビングがあった。
どう考えても異様な空間の創出者は、アキラさんである。
俺がアキラたちの隣りに住むのは、当然だと思っていた。
すぐに駆けつけられるし、東峰が長期不在の間は不安だしで、東峰からしても反対する意志はなかった。
だが、あくまでも隣りというだけで、決してプライバシー度外視の往来を許可したつもりはない。
それは、東峰にしてもそうだったはずだ。
しかし、忙しさにかまけ、住居と引っ越し日を決めただけで、あとはほぼ丸投げにしてたせいで、とんでもない結果になってしまった。
薄いのか分厚いのか微妙な扉で区切られた、俺と東峰の家。しかも鍵はないときた。
これではもう、一軒家と変わりないんじゃないだろうか……。
二世帯住宅だって、もう少し気の利いた造りにできるんでないの。
せめて鍵をつけろと、いまさらながらに言いたいよ。
「先に、ただいまでしょう」
「あ、はい、ただいま……」
「はい、おかえりなさい。また午後をおサボりになったのですか?」
アキラとアッキーは、キッチンにて夕飯の準備中だった。
ついでに、洗濯物を片付けたりもしている。
「またってほど多くないと思うけど、そ、それよりも、なんで藤村が俺の部屋に、」
「あまりにも小難しいお話ばかりで盛り上がるものですから、お外で遊んで来なさいと言ったのですよ」
「へぇ、お外……」
哀しいことに、東峰が俺の部屋に入り浸るのは、ほぼ当たり前になっていた。
家事をしてるときに、あの巨体がゴロゴロしてると、いくら部屋が広くても邪魔に感じると、幾度となく俺の部屋に追い出されてくるのだ。
まだまだ新婚でもいいはずなのに、アキラの感覚が既に熟年夫婦の域に達してるのは、ざまあみろだった。
「今日は奏先輩のお車の、納車日だったのです。新車が来て、どうにも落ち着かなかったのでしょうね。
せっかくだからと、僕も初運転に誘っていただきまして、ドライブに行って参りました。
ついでに新鮮なお魚を購入し、雅人を拾って帰ってきたのですよ。今夜は、お刺身もありますからね。楽しみに待っていてください」
「へぇ、刺身ね……んで、メインがさんまですか」
「おや、伝わりましたか。井上新(いのうえあらた)君のことですから、てっきり伝え忘れると思っておりました。意外と律儀な方ですね」
「あっ……」
そうだそうだ、なんで午後のコマをサボったのか、思い出した。
「お、お夕飯の、準備中、ですよね。邪魔しちゃ悪いし、俺も、部屋に戻るね」
アキラの様子は普段と変わりないようだった。
ならば、余計な波風立てずに、このままやりおおせるのが無難だろう。
「アーちゃん」
「はいっ」
「おやつにケーキをご用意しておりますので、彼らの分も持って行ってくださいね」
「はい……」