アーちゃん■キャンパス日記-2015秋の特別編-
[アーちゃん■キャンパス日記-2015秋の特別編-2]
同じ理科三類生に、井上という結構なイケメンがいる。
さすがに東峰や藤村クラスとはいかないが、俺程度が持て囃される学内でなら、イケメンとして十二分に君臨できる奴だ。
だが坂本が怖いというだけあり、冷めた部分が目立つ男でもあった。
物事ははっきり言うし、好き嫌いが激しいうえ、相手によってはかなり辛辣になる。
例のミスキャンパスたちは、その後井上と付き合い、最近になってこっぴどく捨てられたらしい。
美貌と知性を武器に男を手玉に取るはずが、まさかまさかの二連敗で、現在の彼女たちには翳りが差しているそうだ。
ま、俺には関係ないけどね。
ようやく坂本から解放され、構内の食堂で昼食にありついた。
昼弁当の習慣は、とっくになくなっている。
どうということはない、セットメニュー。本日は、さんまの塩焼きだ。
「たまーに食いたくなるよな……」
たまに、あの頃の弁当が食いたくてたまらなくなる。
昔を懐かしむなんて、俺も年かね。
よくよく考えたら、食おうと思えばいつでも食えるんだけどね。
ただ、あの光景が、今はもう遠いというだけ。
「何をだ? ああ、さんまか」
「ん?」
「確かに、たまに食いたくなるよな。特にこの季節は」
勝手に俺の前に座ったのは、さっき坂本と話していた井上だった。
相変わらず、女にもてそうな顔とスタイルをしている。
ここに医学部が付加されたら、それはもう絶大な効果を発揮するだろう。
井上も医学部医学科に内定されてることだし、こりゃ来年が怖いな。
「あれ、坂本は?」
「坂本? なんでここで、坂本が出てくるんだ?」
「いや、だって、坂本が、お前に土下座するって」
坂本のことだ、逃げたのかもな。
「土下座? ああ、そういえば、廊下になんかあったな。マットだと思って、おもいっきり踏んづけてきた」
「相変わらず、容赦ないな」
井上は、正真正銘のクズだ。
俺も、そう。
クズはクズ同士気が合うのか、井上との仲はそれなりに良好といえた。
だがしかし、問題がないわけではない。
「そういやあ、今夜の夕食もさんまだろ。高橋って、そんなにさんまが好きなんだ」
「…………はぁ!?」
「やっぱ、DHA? あとは、ビタミンAD……E、だっけ?」
「おい、こら、待て待て待て、どこ情報だ何情報だ誰情報だ!?」
「あれ、違ってたか? さんまの栄養成分」
「合ってるよ! 合ってます! EPA、B2鉄分カルシウムもな、じゃなくて、なんで俺の夕飯知ってんだよ!」
「なんでって、カトウ、…サイトウだっけ? 地味な感じの、ほら」
「佐藤な、佐藤っ」
「そうそう、それ、そのコがお前に伝えてくれって。ちゃんと伝えたからな」
「え……は、はぁぁぁ!?」
なぜだか大学に立ち寄ったアキラが井上をとっ捕まえて、今夜のおかずを伝えるよう頼んだとか。
なにそれ、なにそれ!?
あまりの謎行動に、眩暈がしてきた。
「散歩ついでの買い物途中に立ち寄ったって言ってたぞ。あれ、買い物ついでの散歩途中だったかな?」
「どっちでもいいよ!」
あの出不精が、電車の距離をお散歩ですか。
しかもお買い物までしちゃったの?
意味分かんねーよ。
「五月祭で会ったとか言われても、覚えてるわけねーってのな。それで俺のフルネーム呼ぶとか、なにあのコ。マジコエーんだけど」
「記憶力がいいからねぇ……で、一人だった?」
「いや、なんか無愛想なやつと一緒だった」
アッキーか。
アッキーも五月祭に来てたなんて、井上が覚えてるわけないよな。
もちろん、アッくんも来たしアキも来たけど。
「なんで立ち寄ったか、言ってなかった?」
「聞いてない。いや、言ってたかな? どうだろ? 言ってたような、聞いてないような。いや、やっぱ言ってたかな?」
「どっちでもいいわ!」
「五月祭のときにも思ったけど、高橋の友人って変わってるな」
「自他共に認める変人どもですからね」
「あの地味なコが、お前の飯作ってんの?」
「たまにね、たまにっ」
「ルームシェア?」
「まぁ、そんな感じ」
「だから誰も呼ばないのか。家の場所すら教えねーもんな、お前」
「まあね」
「ルームメイトがいて、いろいろ不便じゃね?」
「別に。え、まさかお前、部屋に連れ込んでんの?」
「いや、さすがにそれはないけど」
「だよなぁ……。おい、余計なことベラベラ喋ってねーだろな」
アキラたちが五月祭にきたとき、知人たちとの接触は最小限に抑えていた。
だが、今日みたいな接触をされたら、何を言われるか分かったもんじゃない。
「余計なことって?」
「よ、余計なことは、余計なことだ」
「高橋君は、ミスキャンパス二人を弄んだクズでーす、とか?」
「人のこと言えねーだろがっ」
「高橋と穴兄弟とか、笑える」
「笑えねーっ」
「そういえばさ、薬理の助教とはどういったご関係なわけ?」
「ちょっとした知り合いなんです」
「黒子の位置を知ってるお知り合いね。高橋君って、クズだね」
「お前に言われたくねーし。管理しきれないほどセフレがいて、6科類制覇して、それでも足りなくて男にも手出すとか、マジクズ」
「ははは、もしかしたら、俺たちってご同類?」
「俺は見境なくサカリません。まして男なんか、キモイだけだ」
「結構いけるぜ。しつこくないし、妊娠しないし、結婚してとか絶対に言わない。女よりいいかもな」
「いつか刺されるぞ」
「気をつけようっと……とまぁ、こんな話題で盛り上がりました。サイトウ君と……あれ、カトウ君だっけ?」
「死ね、クズ野郎っ」
同じ理科三類生に、井上という結構なイケメンがいる。
さすがに東峰や藤村クラスとはいかないが、俺程度が持て囃される学内でなら、イケメンとして十二分に君臨できる奴だ。
だが坂本が怖いというだけあり、冷めた部分が目立つ男でもあった。
物事ははっきり言うし、好き嫌いが激しいうえ、相手によってはかなり辛辣になる。
例のミスキャンパスたちは、その後井上と付き合い、最近になってこっぴどく捨てられたらしい。
美貌と知性を武器に男を手玉に取るはずが、まさかまさかの二連敗で、現在の彼女たちには翳りが差しているそうだ。
ま、俺には関係ないけどね。
ようやく坂本から解放され、構内の食堂で昼食にありついた。
昼弁当の習慣は、とっくになくなっている。
どうということはない、セットメニュー。本日は、さんまの塩焼きだ。
「たまーに食いたくなるよな……」
たまに、あの頃の弁当が食いたくてたまらなくなる。
昔を懐かしむなんて、俺も年かね。
よくよく考えたら、食おうと思えばいつでも食えるんだけどね。
ただ、あの光景が、今はもう遠いというだけ。
「何をだ? ああ、さんまか」
「ん?」
「確かに、たまに食いたくなるよな。特にこの季節は」
勝手に俺の前に座ったのは、さっき坂本と話していた井上だった。
相変わらず、女にもてそうな顔とスタイルをしている。
ここに医学部が付加されたら、それはもう絶大な効果を発揮するだろう。
井上も医学部医学科に内定されてることだし、こりゃ来年が怖いな。
「あれ、坂本は?」
「坂本? なんでここで、坂本が出てくるんだ?」
「いや、だって、坂本が、お前に土下座するって」
坂本のことだ、逃げたのかもな。
「土下座? ああ、そういえば、廊下になんかあったな。マットだと思って、おもいっきり踏んづけてきた」
「相変わらず、容赦ないな」
井上は、正真正銘のクズだ。
俺も、そう。
クズはクズ同士気が合うのか、井上との仲はそれなりに良好といえた。
だがしかし、問題がないわけではない。
「そういやあ、今夜の夕食もさんまだろ。高橋って、そんなにさんまが好きなんだ」
「…………はぁ!?」
「やっぱ、DHA? あとは、ビタミンAD……E、だっけ?」
「おい、こら、待て待て待て、どこ情報だ何情報だ誰情報だ!?」
「あれ、違ってたか? さんまの栄養成分」
「合ってるよ! 合ってます! EPA、B2鉄分カルシウムもな、じゃなくて、なんで俺の夕飯知ってんだよ!」
「なんでって、カトウ、…サイトウだっけ? 地味な感じの、ほら」
「佐藤な、佐藤っ」
「そうそう、それ、そのコがお前に伝えてくれって。ちゃんと伝えたからな」
「え……は、はぁぁぁ!?」
なぜだか大学に立ち寄ったアキラが井上をとっ捕まえて、今夜のおかずを伝えるよう頼んだとか。
なにそれ、なにそれ!?
あまりの謎行動に、眩暈がしてきた。
「散歩ついでの買い物途中に立ち寄ったって言ってたぞ。あれ、買い物ついでの散歩途中だったかな?」
「どっちでもいいよ!」
あの出不精が、電車の距離をお散歩ですか。
しかもお買い物までしちゃったの?
意味分かんねーよ。
「五月祭で会ったとか言われても、覚えてるわけねーってのな。それで俺のフルネーム呼ぶとか、なにあのコ。マジコエーんだけど」
「記憶力がいいからねぇ……で、一人だった?」
「いや、なんか無愛想なやつと一緒だった」
アッキーか。
アッキーも五月祭に来てたなんて、井上が覚えてるわけないよな。
もちろん、アッくんも来たしアキも来たけど。
「なんで立ち寄ったか、言ってなかった?」
「聞いてない。いや、言ってたかな? どうだろ? 言ってたような、聞いてないような。いや、やっぱ言ってたかな?」
「どっちでもいいわ!」
「五月祭のときにも思ったけど、高橋の友人って変わってるな」
「自他共に認める変人どもですからね」
「あの地味なコが、お前の飯作ってんの?」
「たまにね、たまにっ」
「ルームシェア?」
「まぁ、そんな感じ」
「だから誰も呼ばないのか。家の場所すら教えねーもんな、お前」
「まあね」
「ルームメイトがいて、いろいろ不便じゃね?」
「別に。え、まさかお前、部屋に連れ込んでんの?」
「いや、さすがにそれはないけど」
「だよなぁ……。おい、余計なことベラベラ喋ってねーだろな」
アキラたちが五月祭にきたとき、知人たちとの接触は最小限に抑えていた。
だが、今日みたいな接触をされたら、何を言われるか分かったもんじゃない。
「余計なことって?」
「よ、余計なことは、余計なことだ」
「高橋君は、ミスキャンパス二人を弄んだクズでーす、とか?」
「人のこと言えねーだろがっ」
「高橋と穴兄弟とか、笑える」
「笑えねーっ」
「そういえばさ、薬理の助教とはどういったご関係なわけ?」
「ちょっとした知り合いなんです」
「黒子の位置を知ってるお知り合いね。高橋君って、クズだね」
「お前に言われたくねーし。管理しきれないほどセフレがいて、6科類制覇して、それでも足りなくて男にも手出すとか、マジクズ」
「ははは、もしかしたら、俺たちってご同類?」
「俺は見境なくサカリません。まして男なんか、キモイだけだ」
「結構いけるぜ。しつこくないし、妊娠しないし、結婚してとか絶対に言わない。女よりいいかもな」
「いつか刺されるぞ」
「気をつけようっと……とまぁ、こんな話題で盛り上がりました。サイトウ君と……あれ、カトウ君だっけ?」
「死ね、クズ野郎っ」