平凡君の日々彼此-2014夏の特別編-
[平凡君の日々彼此-2014夏の特別編-16]
当たり前のように、アーちゃんは僕を部屋に招きいれてくれた。
先に着替えるというから勝手に飲み物を用意して、リビングで大人しく待つ。
「アッくんがわざわざお出迎えなんて、もしかしてなんかあった?」
暫くすると、部屋着に着替えたアーちゃんが現れ、回答を用意してない質問をしてくれた。
「え、特に何もないけど、あ、そうだ、今日ね、アッキーの部屋にいったんだけどね」
もともと雑談がしたかっただけなのか、自分でもよく分からないまま、明石君と藤村先輩がいたことと、彼らと有意義にすごしたことを説明。
アーちゃんはPCを立ち上げて、画面を見ながら時折相槌を打ったりしながら、聞いてくれた。
「あいつら、意外に気が合うみたいだしね」
「明石君と藤村先輩が?」
「かたやアキのオカン、かたやアキの兄貴、自称だけどね。そういうとこが合うんじゃねーの」
「あはは、アキ繋がりなんだ。でも明石君は、その肩書きには不服だと思うよ」
「自称硬派だからねー、昭和の」
「あはは、ひどいなぁ」
どうってことない、いつもの日常がそこにある。
瞳子さんの言葉の正しさが、またここで証明されたんだ。
寮内の、アーちゃんの部屋。
それだけで、僕はもう惑わされることなく、アーちゃんを見ていた。
「あ、そうだ。夕飯どうするの?」
時計を見たら、もうとっくに6時を回っていた。
今から準備するには、少し遅いといえる時間だ。
でも、明日も休みだしなぁ……。
「飯? あー、飯ね、アッくんお腹空いてる?」
「えっと、アッキーのとこで結構食べたから、正直言うとそれほどは空いてない」
「じゃ、軽くにしよっか、俺もあんま食欲ないし」
「え、食欲がないって、どっか悪いの?」
もしかしたら、昨日の雨で風邪をひいたのかもしれない。
「違う違う、性欲が満たされると、食欲がなくなるって言うでしょ」
「し、知らないよっ、そんなこと!」
食パンの上に野菜を盛りつけ適当に卵やハムを乗せれば、オープンサンドのできあがりだ。
インスタントスープをつけて、これで簡単な夕食となった。
どう見ても軽食だけど、今の腹具合にはちょうどいい。
「そういえば、瞳子さんって弟さんがいるの?」
アーちゃんのパンを持つ手がピタリと止まる。
「なんで? そういう話、出たの?」
「え、出たというか…」
すぐに話が逸れたから、出たとも言い切れない。
「瞳子さんは四人兄弟の二番目。上に兄貴、下に弟が二人いるらしいよ」
「ふーん、そうなんだ」
瞳子さんは、お姉さんの立場だったわけか。
そう言われると、妙に納得してしまう雰囲気を持っている。
「一人娘なもんで、かなり甘やかされたらしいけど、根はすごくイイ人だよ」
「うん、わかる。とても包容力があるっていうか、相手の緊張を解くのが上手いっていうか」
「ついでに、洞察力にも優れてるしね」
「あ、うん、それも感じた。どことなく、アキラに似てるよね」
それは単なる感想であり、特別な意味があったわけじゃない。
だけど言ってから、しまったと顔に出したのは失敗だったかもしれない。
「あのノホホンに洞察力はないでしょ」
「あ、う、うん、そうかも、あはは、何言ってるんだろ、僕」
「そもそもあのお気楽さんに、包容力がありますか?」
「うーん、なくはないよ……と、思う」
煮え切らない言い方が、アーちゃんの琴線に触れたらしい。
アーちゃんは大笑いしながらも、呆れたように僕を見ていた。
「でも、でもね、アキラといると、こうほっこりするというか、安心するというか」
「警戒心を解くのは上手いかもね、つか、本人にそれがないから、釣られるんじゃねーの」
「あ、そう言われたらそうかも。寝てる猫を見てたら、こっちも和むとか、そんな感じかな」
今度こそ本気で笑い出したアーちゃんに、なんとなくホッとした。
余計な藪をつついたと、一瞬でもそう考えてしまったことがいけないことに思えたから。
◆
軽食を食べ終わったあとは、自然と泊まることになっていた。
そして、これも自然な流れというべきなのか、テーブルの上にはつまみが並び、晩酌セットが整えられている。
未成年のくせにと説教したいとこだけど、この間のことがあるから強く言えない僕がいた。
飲んだだけならともかく、酔って迷惑をかけたんだもの。
「ぼ、僕も飲んじゃうからねっ」
「ゲッ、マジ勘弁してください」
「ア、アーちゃんが飲むなら、飲むよっ」
アーちゃんが結構本気っぽかったから、逆に意地になってしまった。
だけどアーちゃんは、困った風を装いながらも、着々と飲む準備を進めている。
結局、この間の二の舞とでもいえばいいのか、はたまたミイラ取りがミイラというべきか、僕の手の中にはアーちゃんが用意してくれたグラスが……。
「あれ、日本酒なのに、氷が入ってるよ」
「うん、意外といけんのよ。ゆっくり溶かしてから飲みな」
なるほど、水で薄めて飲むってことか。
これなら弱い僕でも大丈夫かな?
……そもそも未成年は、飲んじゃいけないんだけどね。
「もっと度数の低いのがあればいいんだけどね。残念ながらうちにあるのはこれだけだから」
そうなのだ。
アーちゃんの部屋には、アルコール度数が高めの日本酒しか置いていないんだ。
「アーちゃんはさ、瞳子さんからお酒の飲み方を教わったんでしょ」
「うん、ワインはね。でも、俺はもともとポン酒派だから」
「あ、そうなんだ」
瞳子さんには、確かにワインが似合っている。
アーちゃんはなんでも似合いそう、というよりなんでも飲みそうだ。
「そういえばさ、俺の本命にされそうになったんだって?」
「えっ、あっ、うっ!?」
いつもの雑談のノリで、サラッととんでもないことを言われた。
それってつまり、瞳子さんがあっさりと洩らしたってことだよね。
若干内容に問題がありそうだったのに、それでもアーちゃんに話して聞かせたってことは、瞳子さんはアーちゃんには隠し事をしないタイプってことなのかな?
いや、あの人のことだから、それを教えたときのアーちゃんの反応が見たかっただけかもしれない。
うん、こっちのほうがしっくりくる。
「あ、あの、ちゃんと、ちゃんと否定しといたから」
「なんで?」
「へ? なんでって、……なんで?」
「アッくんが本命で、何か問題あんの?」
「な、何言ってるんだよっ、そんな嘘を、」
「嘘? なにが?」
「はぁ!?」
まったく会話が噛み合ってない気がします……。
わざとかな?
それにしてはアーちゃんにふざけた様子は見えないし、だからといって本気というわけでもない。
ただ淡々とお酒を飲んでいるけだけで、これじゃただの世間話じゃないか。
動揺してる僕が、バカみたいだ。
当たり前のように、アーちゃんは僕を部屋に招きいれてくれた。
先に着替えるというから勝手に飲み物を用意して、リビングで大人しく待つ。
「アッくんがわざわざお出迎えなんて、もしかしてなんかあった?」
暫くすると、部屋着に着替えたアーちゃんが現れ、回答を用意してない質問をしてくれた。
「え、特に何もないけど、あ、そうだ、今日ね、アッキーの部屋にいったんだけどね」
もともと雑談がしたかっただけなのか、自分でもよく分からないまま、明石君と藤村先輩がいたことと、彼らと有意義にすごしたことを説明。
アーちゃんはPCを立ち上げて、画面を見ながら時折相槌を打ったりしながら、聞いてくれた。
「あいつら、意外に気が合うみたいだしね」
「明石君と藤村先輩が?」
「かたやアキのオカン、かたやアキの兄貴、自称だけどね。そういうとこが合うんじゃねーの」
「あはは、アキ繋がりなんだ。でも明石君は、その肩書きには不服だと思うよ」
「自称硬派だからねー、昭和の」
「あはは、ひどいなぁ」
どうってことない、いつもの日常がそこにある。
瞳子さんの言葉の正しさが、またここで証明されたんだ。
寮内の、アーちゃんの部屋。
それだけで、僕はもう惑わされることなく、アーちゃんを見ていた。
「あ、そうだ。夕飯どうするの?」
時計を見たら、もうとっくに6時を回っていた。
今から準備するには、少し遅いといえる時間だ。
でも、明日も休みだしなぁ……。
「飯? あー、飯ね、アッくんお腹空いてる?」
「えっと、アッキーのとこで結構食べたから、正直言うとそれほどは空いてない」
「じゃ、軽くにしよっか、俺もあんま食欲ないし」
「え、食欲がないって、どっか悪いの?」
もしかしたら、昨日の雨で風邪をひいたのかもしれない。
「違う違う、性欲が満たされると、食欲がなくなるって言うでしょ」
「し、知らないよっ、そんなこと!」
食パンの上に野菜を盛りつけ適当に卵やハムを乗せれば、オープンサンドのできあがりだ。
インスタントスープをつけて、これで簡単な夕食となった。
どう見ても軽食だけど、今の腹具合にはちょうどいい。
「そういえば、瞳子さんって弟さんがいるの?」
アーちゃんのパンを持つ手がピタリと止まる。
「なんで? そういう話、出たの?」
「え、出たというか…」
すぐに話が逸れたから、出たとも言い切れない。
「瞳子さんは四人兄弟の二番目。上に兄貴、下に弟が二人いるらしいよ」
「ふーん、そうなんだ」
瞳子さんは、お姉さんの立場だったわけか。
そう言われると、妙に納得してしまう雰囲気を持っている。
「一人娘なもんで、かなり甘やかされたらしいけど、根はすごくイイ人だよ」
「うん、わかる。とても包容力があるっていうか、相手の緊張を解くのが上手いっていうか」
「ついでに、洞察力にも優れてるしね」
「あ、うん、それも感じた。どことなく、アキラに似てるよね」
それは単なる感想であり、特別な意味があったわけじゃない。
だけど言ってから、しまったと顔に出したのは失敗だったかもしれない。
「あのノホホンに洞察力はないでしょ」
「あ、う、うん、そうかも、あはは、何言ってるんだろ、僕」
「そもそもあのお気楽さんに、包容力がありますか?」
「うーん、なくはないよ……と、思う」
煮え切らない言い方が、アーちゃんの琴線に触れたらしい。
アーちゃんは大笑いしながらも、呆れたように僕を見ていた。
「でも、でもね、アキラといると、こうほっこりするというか、安心するというか」
「警戒心を解くのは上手いかもね、つか、本人にそれがないから、釣られるんじゃねーの」
「あ、そう言われたらそうかも。寝てる猫を見てたら、こっちも和むとか、そんな感じかな」
今度こそ本気で笑い出したアーちゃんに、なんとなくホッとした。
余計な藪をつついたと、一瞬でもそう考えてしまったことがいけないことに思えたから。
◆
軽食を食べ終わったあとは、自然と泊まることになっていた。
そして、これも自然な流れというべきなのか、テーブルの上にはつまみが並び、晩酌セットが整えられている。
未成年のくせにと説教したいとこだけど、この間のことがあるから強く言えない僕がいた。
飲んだだけならともかく、酔って迷惑をかけたんだもの。
「ぼ、僕も飲んじゃうからねっ」
「ゲッ、マジ勘弁してください」
「ア、アーちゃんが飲むなら、飲むよっ」
アーちゃんが結構本気っぽかったから、逆に意地になってしまった。
だけどアーちゃんは、困った風を装いながらも、着々と飲む準備を進めている。
結局、この間の二の舞とでもいえばいいのか、はたまたミイラ取りがミイラというべきか、僕の手の中にはアーちゃんが用意してくれたグラスが……。
「あれ、日本酒なのに、氷が入ってるよ」
「うん、意外といけんのよ。ゆっくり溶かしてから飲みな」
なるほど、水で薄めて飲むってことか。
これなら弱い僕でも大丈夫かな?
……そもそも未成年は、飲んじゃいけないんだけどね。
「もっと度数の低いのがあればいいんだけどね。残念ながらうちにあるのはこれだけだから」
そうなのだ。
アーちゃんの部屋には、アルコール度数が高めの日本酒しか置いていないんだ。
「アーちゃんはさ、瞳子さんからお酒の飲み方を教わったんでしょ」
「うん、ワインはね。でも、俺はもともとポン酒派だから」
「あ、そうなんだ」
瞳子さんには、確かにワインが似合っている。
アーちゃんはなんでも似合いそう、というよりなんでも飲みそうだ。
「そういえばさ、俺の本命にされそうになったんだって?」
「えっ、あっ、うっ!?」
いつもの雑談のノリで、サラッととんでもないことを言われた。
それってつまり、瞳子さんがあっさりと洩らしたってことだよね。
若干内容に問題がありそうだったのに、それでもアーちゃんに話して聞かせたってことは、瞳子さんはアーちゃんには隠し事をしないタイプってことなのかな?
いや、あの人のことだから、それを教えたときのアーちゃんの反応が見たかっただけかもしれない。
うん、こっちのほうがしっくりくる。
「あ、あの、ちゃんと、ちゃんと否定しといたから」
「なんで?」
「へ? なんでって、……なんで?」
「アッくんが本命で、何か問題あんの?」
「な、何言ってるんだよっ、そんな嘘を、」
「嘘? なにが?」
「はぁ!?」
まったく会話が噛み合ってない気がします……。
わざとかな?
それにしてはアーちゃんにふざけた様子は見えないし、だからといって本気というわけでもない。
ただ淡々とお酒を飲んでいるけだけで、これじゃただの世間話じゃないか。
動揺してる僕が、バカみたいだ。