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平凡君の日々彼此-2014夏の特別編-

[平凡君の日々彼此-2014夏の特別編-8]


アイスを食べた後は、たいがい喉が渇くもの。
自動販売機があったから、今度は僕が買いに行くことにした。
もちろん、僕のおごりです。

「何がいい?」

「茶」

「お茶だね。ちょっと待ってて」

道行く人たちの前を横切り、少し離れた自動販売機に辿り着いた。
先に購入してる人がいたから後ろで順番待ちをし、その間にお財布を用意する。

そこでふと頭を上げて、アーちゃんが待っている付近を流し見た。
すぐにボケッと座ってるアーちゃんを発見する。

茶髪の人なんていっぱいいるし、アーちゃんと似た服装の人もいっぱいいる。
身長だって、体型だって、似た人はいっぱいいっぱいいるのに、それでもすぐに目がいってしまうのは、なぜなんだろう?

「あ」

ビックリした。
何にかって?
一人で待ってるアーちゃんに、二人連れの女性が声をかけたことにだよ。
僕たちと同じ年くらいかな。
短いスカートに長い髪、ちょっと派手めないでたちだけどギャル風ではない二人が、アーちゃんに話しかけていた。

ひょっとして、逆ナンてやつ?
すごいなぁ、女の子から声をかけるなんて、勇気あるなぁ……。

とと、飲み物買わなくちゃ。

自動販売機に小銭をいれ飲み物を選びながらも、アーちゃんたちが気になった僕は、何度も何度も振り返りその様子を観察していた。
やがて女性たちが、アーちゃんから離れていく。
アーちゃんはもう二人を見ることもせず、あらぬ方向へと視線を移動させていた。

断ったのかな。

お茶二本を手に戻ってみれば、アーちゃんは何事もなかったかのような顔をして、僕からお茶をひったくった。
僕も素知らぬフリでお茶を一口、だけどやっぱり気になったから、

「ねぇ、さっき、」

「さて、映画の前に腹ごしらえといきますか」

「あ、うん」

スッと立ち上がるアーちゃんに続いて、僕も慌てて立ち上がる。
結局、自然とウヤムヤになってしまった。

「なんか、リクエストある?」

「んとね、パン」

「パン?」

「うん、なんとなく、そういう気分」

「バゲットとかそういうこと? それとも、マック的なやつ?」

「バゲットがいいなぁ」

「カスクルートでいい?」

「うんうん、そういうのがいい」

映画のあとは夕飯を食べて帰る予定だから、昼食は軽くでいい。
アーちゃんには思い当たるお店があるのか、僕に歩くよう促してきた。

歩いてると、周囲のお店がオシャレな雰囲気に変わってくる。

「ねぇ、アーちゃんは、よくこっちに出てくるの?」

「そりゃまぁ、服買ったり髪切ったり、普通に来るでしょ」

「えー、わざわざこっちまで来るの?」

電車に乗って、わざわざ!?
僕なんかからしたら、とんでもなく面倒なことだ。

「わざわざって、んな大層な移動時間じゃないでしょ。うちの学校のやつらなんか、普通に来てるよ」

「ふうん、そうなんだ」

「アッくんも、出不精だもんなー」

「うん、否定できない」

買い物なんか麓のお店で終わらせるし、散髪だってそうだ。
こんな都会のど真ん中まで来ることは、ほとんどないんだもの。

「ん…?」

いきなりアーちゃんが、空を見上げた。
釣られて僕も上を仰ぎ見る。

「どうしたの?」

「いま、ポツンとこなかった?」

空は眩しいほどに晴れ渡り、気温はどんどん上昇中。
どう見ても降っているようには見えない……のに、目まぐるしく雲が動いたかと思うと、あっという間に!!

「やっべ、降ってきた」

「わ、わわわ」

突然降りだした雨は、たったそれだけの会話中にもどんどん強くなっていた。
周囲の人たちが慌しく走り出す。
またしてもゲリラ豪雨だ。

「アッくん、そっから地下に入ろ」

「う、うん」

アーちゃんが、地下街に降りる階段を指差し走った。
僕もすかさず走る。雨に体を叩かれて、すごく痛い。
目を開けてるのも困難なくらいのどしゃぶりのなか、ようやく階段の入り口までさしかかって、ホッと息つきながら飛び込むようにして一段目を踏みしめた。

「わあっ!」

びっしょりと濡れていた階段で足がすべり、一気に体勢が崩れる。

「アッくん!」

とっさに手すりを持った。
だけども後ろのめりになった体は止めきれず、おもいっきり尻餅をついていた。

「いたたたた」

「大丈夫!?」

「う、うん…」

まだ入り口付近にいるせいで、殴りつけるように降る雨が、アーちゃんと僕の体を容赦なく濡らしていく。
下着までびしょぬれの勢いだ……。

「アッくん、立てる?」

「う、うん……いっ!」

手すりとアーちゃんの支えで立ち上がろうとしたら、右足に激痛が走った。
それは、お尻の痛みを忘れるほどの痛みで、もしかしたら捻ったのかもしれない。

「みせて」

「え」

アーちゃんが、僕のズボンの裾をめくりあげた。

「いたっ」

足首を弄られて、おもわず漏れる悲鳴。

「病院行く?」

「え、そんなにひどい?」

「念のため」

「うんと、ジッとしてたらあんまり痛くないんだけど……」

「病院は、好きじゃない?」

「うん、あんまり……」

もとからあまり好きじゃないけど、去年入院したこととか、それに至った経緯とかその後のこととか考えたら、あまりにもいい想い出がなさすぎて、できれば最後の最後にしていただきたいとろこだった。

「たぶん、捻挫。骨は大丈夫そうだし、様子見かな」

「よかったぁ、それじゃ早く行こうよ」

「はい?」

「え、だから、早くご飯食べないと、映画の時間が」

いつまでも雨ざらしでいるのも、風邪ひいちゃいそうだしね。

ハア、とアーちゃんがこれみよがしに息を吐いた。
すぐに携帯を取り出して、耳にあてながら階段を上り、僕の背中にピタリとくっつくように立つ。
それだと、雨がすべてアーちゃんに当たってしまうのに……。

「オレオレ」

繋がったのか、まるでどこかの詐欺手法のような第一声が聞こえてきた。
そんな僅かな時間の間にも、雨は豪雨という名に相応しいものとなってゆき、すぐ傍にいるアーちゃんの声すらもすぐに聞き取れなくなっていく。

「すごいなぁ……もしかしたら、利香のせいかなぁ……」

利香が早起きして、お手伝いしたせいかもしれないよね。
だとしたら、皆さんごめんなさい、だよ。

詰まらないジョークで気を落ち着かせてるうちに、アーちゃんの電話が終わる。

「アッくん、姫とおんぶどっちがいい?」

「え、どういう意味?」

「だから、姫抱きとおんぶ、どっちがいい?」

「な、なななな、なんだよ、それ!?」

「だって、歩けないでしょ」

「そ、そんなこと、いたっ」

「ほら、そんなことあるじゃん」

無理矢理立とうとして、結局は痛みに蹲ることになった。
ううと呻る僕の腰にアーちゃんの腕が添えられる。
そして、膝あたりを反対側の腕が彷徨ったとき、何をされるのか察知した。

「肩!」

「かた?」

「肩肩肩、肩貸して!」
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