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2012年ハロウィン

[アッくん]


廊下の角で敵を待ちます。
大好きな大好きな友人ですが、今日ばかりは敵なのです。
そこはかとなく漂う悲哀を、アキはグッと堪え見ない振りをします。

許せ友よ、男には戦わなければならないときがあるのだ……。

「とりっ、ああ、とりっ、なのよっ」

「わっ、なに、なに!?」

驚愕に見開かれたアッくんの瞳に、ズキンと胸が痛みました。
しかし、情けは禁物。

「とりっ、ああ、とりっ、なのよっ」

指をわきわきと動かしながら、相手を威嚇します。

「あ、ああ、そうか、今日はハロウィンだ」

「なの、なのよっ、するのよっ、なのっ」

菓子を出さねばいたずらするなどと、大事な友人を脅す自分は、なんと怖ろしく残酷なのか。
しかし、アキの帰りを待つアキラを思い浮かべることで、そんな考えは消し去ります。
ああ、やはり自分は非道なのかもしれない……。

「どうしよう、何も用意してないよ……」

「うう、ああ」

アキは涙が溢れそうになりました。
大切な友人を手に掛けることになる、そんな現実に胸が押し潰されそうになったのです。

そんなアキをどう思ったのか、心優しきアッくんはポケットの中をまさぐりはじめました。
それはきっと、アキとの争いを回避するための、決死の行動なのでしょう。

しかし、いくら探そうとも何も出てこない様子。
アッくんは、とても悲しげな表情でアキを見詰めます。

「する、するの、なの……」

戦いとは非情なもの、それは重々承知しています。
ですが、アッくんにアキと戦うことなどできるのでしょうか?
いいえ、きっと、いえ絶対に無理です。

彼ならアキにされるがまま、ただただ蹂躙されつづけるだけ。
そして、アキにいたずらされることになったのは、己に非があるからと自分を責めるに違いありません。

 『はい、ご武運を』

アキラの言葉が脳裏に蘇ります。
彼は、アキが大漁の獲物とともに、無事帰還するのを祈りながら待っているのです。

「う、ああ……」

アキはわきわきしていた手を引っ込めて、服をギュッと握り締めました。
大好きなアキラが夜鍋をして作ってくれた戦闘服。
アキのためだけに作ってくれた、世界にたった1つの戦闘服。
非情になりきれない自分には、これを着る資格はないのかもしれない……。

戦士の誇りである猫耳カチューシャに、アキの手がゆっくりと伸ばされました。

「あ、売店に行こうよ。ハロウィン用のお菓子が並んでたから、アキの好きなものを僕が買うよ。それでもいい?」

「あ、うあ」

何を言われているのか、アキは咄嗟に判断できませんでした。

「やっぱりハロウィンだから、かぼちゃがいいよね」

戦士の誇りを捨ててまで、友人を救おうとしたアキの行動に、アッくんは気付いたのかもしれません。

戦士であることをやめる必要はない。
アキの誇りを捨てる必要はない。
僕はアキのためなら、最大限の努力をするよ。

そう言われてる気がしました。

「あ、ああ、あいなのっ、いくのよ、なのよっ」

「うん、行こう」

アッくんのためならと、戦士である己を捨てようとしたアキに、再び戦う意志を取り戻させてくれたのも、やはりアッくんなのだ。

かつての敵から、今また友に戻りし二人は手を繋ぎあい、仲良く学園内の店に向かった。

「それでいいの?」

「あい、ありがと、なの、なのよ」

アキの両手には、パンプキンパイがしっかりと握られています。
アッくんは嬉しそうに頷きながら支払を済ませ、そのまま背中の黒猫に持たせてくれました。

「アキ、その格好すごく似合ってて、格好良いね」

「あ、うう、ありがと、なの」

やはりアッくんはアキのことを良く分かってくれています。

アキの胸と背中が、ホッコリと暖かくなる気がしました。
しかし、その余韻に浸る間もなく、次の戦場に向かわねばなりません。

満面の笑みに見送られながら、アキは振り返ることなく、その場を後にするのでした。


誰の所に行く?

アッキー

アーちゃん

ぱぱさん

ちゃらさん

凱旋
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