2016年節分-未完-
[アキ桃太郎2]
アキ太郎はスクスク育ち、やがて強い男の子へと成長いたしました。
山を駆けまわっては、山の動物たちとすもうのけいこ。
まさかりかついで熊にまたがっては、お馬のけいこ。
そんな日が続いたある日、おじいさんの胸に焦りが生じはじめました。
(まずい、このままじゃ、別の物語になっちまう……)
くどいようですが、おじいさんは意外と常識人なのです。
今日も今日とて、熊にまたがりハイドウドウのアキ太郎。
トレードマークは、おばあさん手作りの赤い腹掛けです。
ご丁寧にも真ん中には、大きく大きく『ア』の文字が。
いよいよもって取り返しがつかなくなる前に、おじいさんがアキ太郎に言います。
「そろそろ、鬼ヶ島に行ってみよーか」
「あう? どちて、なの?」
鬼ヶ島とは、その名の通り鬼が住む島です。
いきなりそんなところへ行けとは、いったいぜんたいどういうことでしょうか。
「いいかー、アキ太郎が毎日たらふく食ってるまんじゅうには、砂糖が使われてるんだ。
砂糖はな、この時代めちゃめちゃ貴重なわけよ」
「あ、あう?」
「しかもな、うちには余裕で三人前食らうのが約一名いるでしょー」
「あう、あう、あい」
「アキ太郎が、米米野菜魚の配分で食ってんならいいけど、いかんせん甘味甘味甘味肉ときた。
百姓のうちとしては、いろいろキツイのよねー」
「あ、あう、あうあうっ」
「つまりー、養いきれねー!」
「あ、あうあうあーーーー」
おじいさんの無慈悲な軌道修正により、アキ太郎は急遽鬼が島を目指すことになりました。
でも、本音は行きたくないのです。
ここで、おばあさんの作るおまんじゅうを食べてるほうが、ずっとずっと楽ですもの。
昔話のヒーローにあるまじきことを考えるアキ太郎に、おばあさんが言いました。
「鬼が島には南蛮より渡来したけぇきなるお菓子があるそうですよ」
「し、しろいの、なの?」
「ええ、ふわふわでとろけるほど甘いとか。ホッペタが落ちるかもしれませんね」
「あ、う、いくの、アキ、いくのよ」
「そうですか。では、気をつけて行ってらっしゃい」
「あい、なのよ」
「いいか、路銀はちょっとしかねーからな。なくなる前に、ちゃっちゃと鬼が島に行けよ」
「あい、なの」
珍しいことに、ケチなおじいさんがお小遣いをくれました。
おばあさんの作ってくれたリュックにキビ団子を入れて、これにて旅支度は完了です。
「いくの、なのっ」
おじいさんとおばあさんに別れを告げ、アキ太郎は勇ましく旅立ちました。
「一人で、大丈夫でしょうか……」
「結構しっかりしてるし、平気なんじゃねーの」
「でも……」
「方向音痴じゃねーし空気読めるし、平気平気」
「それはそうですけど、でも……」
「んな不安な顔されたら、俺も不安になるじゃねーか……」
「でしょ。不安でしょ」
「あいつのことだから、すぐに目的忘れそうだよな……」
「ですよね、ですよね、そういうところありますよね」
「よし、供でもつけるか」
「それは妙案です」
どこに持っていたのか、おじいさんが縄を取り出しました。
端っこをクルクルと輪っかにしたら、グルグルと振り回してひょーいと遠くへと飛ばします。
いわゆる投げ縄に見事引っかかったのは、一匹の猿でした。
「ウッキー」
それは、どこにでもいる普通の猿でした。
たまたまおじいさん家の柿の木にやってきた、平凡な猿でした。
10回会っても見分けが付きそうにない、なんの特徴もない単なる猿でした。
「ちょ、ちょっと、しつこいよ……」
「は?」
「な、なんでもない。……あの、ごめんなさい。この柿、返します」
意外となんでもこなすおじいさんの取り縄に捕まった猿は、柿を盗ったことを素直に謝罪しました。
とても殊勝なお猿さんに、おじいさんが、はぁと深い溜息をつきます。
「ったく、開き直って柿ぶつけるくらいの根性見せてよー」
「そ、そういうのは、猿カニ合戦の猿の役目かと」
「あっそ。じゃ、さっそくだけど、アキ太郎のお供をしてちょーだい」
「え、ええええ、僕がアキ太郎の、お供!?」
なんもかんもすっ飛ばしての本題に、猿はビックリ仰天です。
「おじいさん、どうしてこの方に目を付けたのですか?」
「え、なんとなく?」
「な、なんとなくで、僕を捕まえたの!?」
「たまたまそこにいたからだけど、なんとなく真面目そうだし、アキ太郎のストッパーにちょうどいいんじゃないの? 知らんけど」
「適当感がダダ漏れですが……まぁよいでしょう。ではお猿さん、いますぐアキ太郎を追いかけてください」
「ま、待って、待ってよ。いきなりそんな、」
「お猿さんでは不便ですね。せっかくですから、名前を付けましょう。
猿、サル、さる…モンキー……あなたのことは、アッくんと呼ぶことといたしましょう」
「まったくどこにもかすってねーな」
「ア、アッくん……あ、ありがとうございます、おばあさん。なんだか、しっくりきます」
「そうですか、それはよろしゅうございました。では、アキ太郎のこと、くれぐれも頼みましたよ」
「はい」
こうしてアッくんも旅立ちました。
すぐにアキ太郎に追いついて、さも偶然を装い声をかけます。
「アキ太郎さん、アキ太郎さん、どこへ行かれるのですか?」
「う? ……あ、あー、し、しろいの? あるの、とこ?」
ああ、鬼が島という名称をもう忘れています。
ですが、そこになにがあるのかを覚えてるあたり、まだマシかもしれません。
「それでは、背中にしょったキビ団子を一つ下さい。お供いたしますよ」
「ぬっ!? ぐあー、てき、てきなのよー、てきーーー」
アキ太郎からおやつを奪おうとは、なんと命知らずな猿なのか。
「ひ、ひぃぃぃぃ!! い、いらない、キビ団子いらないからー」
あわや大惨事寸前、アッくんはどうにかこうにか誤解をとくことに成功しました。
「う、おとも、いいのよ」
「あ、ありがと……」
旅のお供には少々心もとないですが、アキ太郎は気にしません。
なぜならアキ太郎はレベル1にして、ステータスのほとんどが150↑だからです。
うんのよさなど、255(8ビットの上限値)というツワモノです。
もとより、アッくんの戦闘力などあてにしていないのです。
でも、一緒にいたら楽しい。
それがお供を許した理由でした。
ですが、キビ団子は絶対にあげません。
これは、今のアキ太郎にとっては、唯一の甘味なのですから。
「じゃあ、僕は何を食べたらいいのかな……」
「う、だいじょぶ、なの。あい、おかね、なのよ」
「よかった、ちゃんと路銀持ってたんだね。おじいさんのことだから、てっきり渡してないと思ってたよ」
アキ太郎が無駄遣いしないよう、お金はアッくんが預ることにしました。
「思ったよりも、少ないね」
「う、あう……」
おじいさんがくれた路銀は、旅費というには少なくて、お小遣いの域を超えない額でした。
それでも、あのケチなおじいさんがくれただけ奇跡だ、と無理矢理納得させる一人と一匹でした。
「と、とにかく、鬼が島までがんばろうね」
「あい、なのよ。しろいの、なの」
「うん、けぇき、楽しみだね」
「なの、なのよ」
アキ太郎はスクスク育ち、やがて強い男の子へと成長いたしました。
山を駆けまわっては、山の動物たちとすもうのけいこ。
まさかりかついで熊にまたがっては、お馬のけいこ。
そんな日が続いたある日、おじいさんの胸に焦りが生じはじめました。
(まずい、このままじゃ、別の物語になっちまう……)
くどいようですが、おじいさんは意外と常識人なのです。
今日も今日とて、熊にまたがりハイドウドウのアキ太郎。
トレードマークは、おばあさん手作りの赤い腹掛けです。
ご丁寧にも真ん中には、大きく大きく『ア』の文字が。
いよいよもって取り返しがつかなくなる前に、おじいさんがアキ太郎に言います。
「そろそろ、鬼ヶ島に行ってみよーか」
「あう? どちて、なの?」
鬼ヶ島とは、その名の通り鬼が住む島です。
いきなりそんなところへ行けとは、いったいぜんたいどういうことでしょうか。
「いいかー、アキ太郎が毎日たらふく食ってるまんじゅうには、砂糖が使われてるんだ。
砂糖はな、この時代めちゃめちゃ貴重なわけよ」
「あ、あう?」
「しかもな、うちには余裕で三人前食らうのが約一名いるでしょー」
「あう、あう、あい」
「アキ太郎が、米米野菜魚の配分で食ってんならいいけど、いかんせん甘味甘味甘味肉ときた。
百姓のうちとしては、いろいろキツイのよねー」
「あ、あう、あうあうっ」
「つまりー、養いきれねー!」
「あ、あうあうあーーーー」
おじいさんの無慈悲な軌道修正により、アキ太郎は急遽鬼が島を目指すことになりました。
でも、本音は行きたくないのです。
ここで、おばあさんの作るおまんじゅうを食べてるほうが、ずっとずっと楽ですもの。
昔話のヒーローにあるまじきことを考えるアキ太郎に、おばあさんが言いました。
「鬼が島には南蛮より渡来したけぇきなるお菓子があるそうですよ」
「し、しろいの、なの?」
「ええ、ふわふわでとろけるほど甘いとか。ホッペタが落ちるかもしれませんね」
「あ、う、いくの、アキ、いくのよ」
「そうですか。では、気をつけて行ってらっしゃい」
「あい、なのよ」
「いいか、路銀はちょっとしかねーからな。なくなる前に、ちゃっちゃと鬼が島に行けよ」
「あい、なの」
珍しいことに、ケチなおじいさんがお小遣いをくれました。
おばあさんの作ってくれたリュックにキビ団子を入れて、これにて旅支度は完了です。
「いくの、なのっ」
おじいさんとおばあさんに別れを告げ、アキ太郎は勇ましく旅立ちました。
「一人で、大丈夫でしょうか……」
「結構しっかりしてるし、平気なんじゃねーの」
「でも……」
「方向音痴じゃねーし空気読めるし、平気平気」
「それはそうですけど、でも……」
「んな不安な顔されたら、俺も不安になるじゃねーか……」
「でしょ。不安でしょ」
「あいつのことだから、すぐに目的忘れそうだよな……」
「ですよね、ですよね、そういうところありますよね」
「よし、供でもつけるか」
「それは妙案です」
どこに持っていたのか、おじいさんが縄を取り出しました。
端っこをクルクルと輪っかにしたら、グルグルと振り回してひょーいと遠くへと飛ばします。
いわゆる投げ縄に見事引っかかったのは、一匹の猿でした。
「ウッキー」
それは、どこにでもいる普通の猿でした。
たまたまおじいさん家の柿の木にやってきた、平凡な猿でした。
10回会っても見分けが付きそうにない、なんの特徴もない単なる猿でした。
「ちょ、ちょっと、しつこいよ……」
「は?」
「な、なんでもない。……あの、ごめんなさい。この柿、返します」
意外となんでもこなすおじいさんの取り縄に捕まった猿は、柿を盗ったことを素直に謝罪しました。
とても殊勝なお猿さんに、おじいさんが、はぁと深い溜息をつきます。
「ったく、開き直って柿ぶつけるくらいの根性見せてよー」
「そ、そういうのは、猿カニ合戦の猿の役目かと」
「あっそ。じゃ、さっそくだけど、アキ太郎のお供をしてちょーだい」
「え、ええええ、僕がアキ太郎の、お供!?」
なんもかんもすっ飛ばしての本題に、猿はビックリ仰天です。
「おじいさん、どうしてこの方に目を付けたのですか?」
「え、なんとなく?」
「な、なんとなくで、僕を捕まえたの!?」
「たまたまそこにいたからだけど、なんとなく真面目そうだし、アキ太郎のストッパーにちょうどいいんじゃないの? 知らんけど」
「適当感がダダ漏れですが……まぁよいでしょう。ではお猿さん、いますぐアキ太郎を追いかけてください」
「ま、待って、待ってよ。いきなりそんな、」
「お猿さんでは不便ですね。せっかくですから、名前を付けましょう。
猿、サル、さる…モンキー……あなたのことは、アッくんと呼ぶことといたしましょう」
「まったくどこにもかすってねーな」
「ア、アッくん……あ、ありがとうございます、おばあさん。なんだか、しっくりきます」
「そうですか、それはよろしゅうございました。では、アキ太郎のこと、くれぐれも頼みましたよ」
「はい」
こうしてアッくんも旅立ちました。
すぐにアキ太郎に追いついて、さも偶然を装い声をかけます。
「アキ太郎さん、アキ太郎さん、どこへ行かれるのですか?」
「う? ……あ、あー、し、しろいの? あるの、とこ?」
ああ、鬼が島という名称をもう忘れています。
ですが、そこになにがあるのかを覚えてるあたり、まだマシかもしれません。
「それでは、背中にしょったキビ団子を一つ下さい。お供いたしますよ」
「ぬっ!? ぐあー、てき、てきなのよー、てきーーー」
アキ太郎からおやつを奪おうとは、なんと命知らずな猿なのか。
「ひ、ひぃぃぃぃ!! い、いらない、キビ団子いらないからー」
あわや大惨事寸前、アッくんはどうにかこうにか誤解をとくことに成功しました。
「う、おとも、いいのよ」
「あ、ありがと……」
旅のお供には少々心もとないですが、アキ太郎は気にしません。
なぜならアキ太郎はレベル1にして、ステータスのほとんどが150↑だからです。
うんのよさなど、255(8ビットの上限値)というツワモノです。
もとより、アッくんの戦闘力などあてにしていないのです。
でも、一緒にいたら楽しい。
それがお供を許した理由でした。
ですが、キビ団子は絶対にあげません。
これは、今のアキ太郎にとっては、唯一の甘味なのですから。
「じゃあ、僕は何を食べたらいいのかな……」
「う、だいじょぶ、なの。あい、おかね、なのよ」
「よかった、ちゃんと路銀持ってたんだね。おじいさんのことだから、てっきり渡してないと思ってたよ」
アキ太郎が無駄遣いしないよう、お金はアッくんが預ることにしました。
「思ったよりも、少ないね」
「う、あう……」
おじいさんがくれた路銀は、旅費というには少なくて、お小遣いの域を超えない額でした。
それでも、あのケチなおじいさんがくれただけ奇跡だ、と無理矢理納得させる一人と一匹でした。
「と、とにかく、鬼が島までがんばろうね」
「あい、なのよ。しろいの、なの」
「うん、けぇき、楽しみだね」
「なの、なのよ」
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