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2016年節分-未完-

[アキ太郎]


昔々あるところに、ちょっとイケてるメンズのおじいさんと、ジミーなノホホンおばあさんが住んでいました。

「子供が欲しいですねぇ……」

「は……?」

「子供が欲しいと言ったのです」

「え……いまさら?」

「僕たちは夫婦なのですよ。子供を望むのは普通ではないですか」

「うーん、そう言われてもねー」

「こればかりは、願うだけでは駄目なのです。今夜あたり、励みましょう」

「いやいやいや、おじいさんおばあさんだよね。生理ないよね、勃たないよね」

「そんなもの、愛があればどうにでもなりますよ」

「いやいやいや、無理無理無理」

「僕を愛していないのですね」

「ぐっ、……あ、愛の問題じゃないから。ジジババだから、物理的に無理なのよ」

「何事も、なせばなりますよ」

「なりません。こればかりは、どうにもなりません」

「あなたのせいで、僕はいまだ生娘なのですよ。夜の生活が一度もないなんて異常です」

「え、そうなの? ふーん、そういう設定できたか……」

実は結構助平なおじいさんは、現在進行形で村の女子に手を出しまくっておりました。
あっちこっちに子種を蒔いてるなんて、おばあさんにだけは言えません。

「インポですか? インポですね。実はあなた、インポだったのですね!」

「あー、うん、それでいいんじゃね。うんうん、採用」

「あなたの食事は、うなぎ山芋すっぽんのみにいたしましょう」

「げ……」

たいそう仲睦まじい夫婦でしたが、子供は授かりませんでした。
こればかりは、やることやらないとどうしようもないのです。
今夜も神様にお願いして、二人は仲良く一つのお布団で就寝しました。



翌朝、おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
おばあさんがおじいさんのふんどしを洗っていると、上流からドンブラコドンブラコと大きな桃が流れてきます。

「まあ、なんて大きな桃なのでしょう。おじいさんへのお土産に、……」

おばあさんは狙ったように手元に流れてきた桃を、すかさず拾い上げ、ひろ、……拾えませんでした。

「あ、あー、は、早いです。無理です。もっとゆっくりと流れてくれなくては、いえ、止まってくれなくては、不可能です」

なんということでしょう。
受け止め損ねるなどありえないほどゆっくりと流れてきた桃を、おばあさんはあっさりと見逃してしまいました。
反射神経と運動神経が鈍いのかもしれません。

「そういえば、あの先は滝でしたね……」

ああ、どうしましょう。
このままでは、お話が終わっちゃいます。
おばあさんには、キッチリと拾い上げてもらわねば。

「そう言われましても……。おじいさん、僕はどうすればいいのでしょう……」

おばあさんは縋るような気持ちで、おじいさんに助けを求めました。
だけど悲しいかな、おじいさんは山で芝刈り中です。
ドンブラコ、ドンブラコと桃は流れ続けます。
泳げないおばあさんには、もう手の施しようがありません。
このまま誰にも拾われず、滝に飲まれることでしょう……。

「さようなら、桃さん。そこまで大きければ、しょせんは大味。さほど無念ではございません……」

「待て待て待てー!」

これはなんとしたことか。
山で芝刈り中のおじいさんが、突如現われたではないですか。
とっくに洗濯を再開していたおばあさんをよそに、サブサブ川に入りあっさりと桃を拾い上げました。

「こんなとこで終わらせんじゃねーっ」

意外と常識人なおじいさんの活躍で、桃は無事保護されました。
さっそく家に持ち帰り切ってみると、なんと中から元気の良い男の子が飛び出したではないですか。

「あうあうああーーー」

「まぁまぁまぁ、なんて愛らしい桃尻。ふぐりも実に可愛らしいこと。この子は、神様からの授かりものに違いありませんよ」

スッポンポンの男の子を前に、おばあさんはいたく喜んでおります。
が、おじいさんは冷静です。

「普通に、捨て子だと思いまーす」

「子供のいない僕たちに、こんなに愛らしい子を授けてくださるとは、神様も粋なことをなさりますね。
毎晩お願いしてた甲斐がありました」

「さぁて、警察に」

やはりおじいさんは冷静です。
が、この時代警察はございません。
そして、おばあさんを止められる人物もおりませんでした。

「僕たちの愛の結晶ですね。さっそく名前を付けなければ。ね、おじいさん」

「え……そ、そうですね……」

かんたんに日和るのは、悪いことではございません。
夫婦円満のコツなのです。

「どんな名前がよろしいですかねぇ……桃から生まれたわけですし、長男ですし……」

これはなんともわかりやすい。
やはりこういうものは、単純明快がよろしいと相場は決まっております。

「アキ太郎にいたしましょう」

「あい、なのよっ」

「桃はどこいった!」

「さあアキ太郎や、おまんじゅうを食べましょうね」

「あう、しろいの、なの」

「ええ、甘くて美味しゅうございますよ。ささ、たっぷりとおあがんなさい」

「たべるのよ、なの」

桃から生まれた男の子を、おじいさんとおばあさんはアキ太郎と名付け大切に育てました。
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