2014年クリスマス
[クリスマス2■アーちゃん]
100%ジョークのつもりが、瞳子さんは一瞬だけきょとんとし、すぐにベッドの中で見せる顔付きに変わる。
やだなぁ、食われそ。
さすがに栞がいるから大丈夫だと信じたいが、だったら三人でとか言い出す可能性がなきにしもあらず。
「ふふ、sexy...」
「そりゃ、どうも」
「and danger」
流暢な発音で、挑発する気満々ですね。
乗らないけど。
「俺は危険物ですか」
「似たようなものじゃない」
すかさず首に巻きついてきた両腕をもぎ離そうとしたら、唇に吸い付かれそうになった。
咄嗟に避けたら両腕の力が強まり、全力で押し倒してくる。
最近こんなのばっかだ。
放り出したいが、力任せに扱うのもどうかと悩む。
俺って結局、フェミニストなのかもね。
「ちょっと、瞳子さん」
何度も狙ってくる唇から逃げながら、焦って相手の名を呼んだ。
だけど件の相手は、余計に面白がるんだから、処置なしだ。
「そんなに、栞に見られたくないの?」
「俺はね、常識人なんですよ。あなたと違ってね」
ごくごく当たり前のことを言っただけ。
やってる相手に見られるってのは、かなり鬱になりそうだもん。
「ほら、いいかげん、離れて」
「いいわよ、お願いを一つ聞いてくれたら、すぐにでも解放してあげる」
「なに? チューとかはなしな」
「大丈夫大丈夫、簡単なことだから」
「だから、何よ」
いつ栞がくるかとハラハラしながら、そのお願いってやつを待った。
とんでもないことを言い出さないでくれと祈りながら。
「今度するとき、生でやりましょ」
「……は!?」
「だから、今度するときは、ゴムなしでしましょって言ってるのよ」
「や、やだよ!」
瞳子さんだって、誰が相手でも絶対にゴム付けるって言ってたじゃんか。
なのに、なんで突然そんなことを。
「あら、栞はよくて私はダメとか、そんな道理通らないわよ」
「げっ、」
瞳子さんの勝ち誇った笑顔に対し、俺は愕然としていた。
女同士って、そんなことまで話すの!?
「ぜ、善処します」
「それじゃ、だめー」
ぐったりと全体重をかけてくる肢体を、放り出す場所を探した。
ソファの背凭れから放り出す?
テーブルとソファの間に落としちゃう?
どっちも瞳子さん次第では、絶対無事とは言い切れまい。
俺の周りにいる女は、どいつもこいつも我が強い。
まともな女なんかほぼいない環境で育ったというのに、俺って女に対して優しすぎね?
乱暴しないと信じきって身を任せてくるから、余計に手も足も出せないってのもあるな。
「本気で怒るよ」
「もう遅いわよ」
「え?」
見れば、栞がそこに立っていた。
こういうシチュは、好きじゃない。
「瞳子、昭さんを困らせてはいけませんよ」
「はーい、ちょっと悪ノリしすぎちゃったわね」
あっさり退く身体。
今までの苦労は、なんだったのか。
「俺、帰るね」
「あら、そう。バイバイ」
瞳子さんはこっちを見もせずに、栞の傍に駆け寄った。
「栞、ちゃんと温まった? あら、ドライヤー使ったのね、えらいえらい。あんた、いっつも濡れたままで出てくるものね。
飲み物はどうする? 紅茶でよければすぐいれるけど、」
「栞、どうせ車で来てんだろ。乗せてってよ」
「いいですよ。準備しますので、少しだけ待っていてください」
「はいよ」
栞は瞳子さんとの会話を打ち切り、さっさと二階に駆け上がった。
たぶん荷物を取りに行ったんだろう。
待ってる間に、まだ残っていたコーヒーを飲むことにする。
「あ、あ、あんた……」
なんともオドロオドロしい声が聞こえてきた。
話の腰を折られたばかりか、愛しい相手まで奪い取られ鬼女と化した女がそこにいた。
「最初に仕掛けたのは、そっちだぜ。恨むなら自分を恨みな」
瞳子さんが何もしなければ、二人の蜜月を邪魔するつもりはなかったのにね。
「あ、あんたね、」
クワッと目を剥き、まさに襲いかからんばかり。
だが、肝心なことを忘れている。
「すぐ戻ってくるぜ」
「うっ」
俺の一言に、腕を振り上げた姿勢で硬直する瞳子さん。
面白いほどピタッと止まったなー。
案の定、栞はすぐに戻ってきた。
「お待たせしました。行きましょうか」
「あいよ」
先に出口まで行き、靴を履きながら栞が来るのを待つ。
栞は瞳子さんにお礼やら謝罪を述べたあと、また時間ができたら連絡するという曖昧な約束をしていた。
「今日は、本当にごめんなさい」
「ううん、いいのよ。それよりも、忙しいのは分かるけど、休めるときはしっかり休んで、ちゃんとご飯食べて睡眠もたっぷり取って」
あなたは栞のオカンですか。
甲斐甲斐しい瞳子さんなんて、こんなときしかお目にかかれない稀少品だ。
「これからもっともっと寒くなるから、風邪には気をつけて暖かくして」
ドアを開けて外で待っていたが、いつまでたっても終わりが見えてこない。
さすがに遮るのも可哀想だし、気が済むまでやらせとこうと思ったら、
「瞳子、また連絡するので、そのときにでもゆっくり話しましょ。それじゃ、今日はありがとう。さよなら」
「う、うんうんうん、気をつけて。電話もメールもするけど、栞が忙しいときは、」
瞳子さんがいまだ喋ってるというのに、栞は無情にも扉を閉めた。
「さ、行きましょうか」
女同士の友情は(ry
荷物はすべて後部席に置いて、俺は助手席でシートベルトをする。
栞は当然運転席。
俺だって運転はできるが、さすがに無免許で公道を走るわけにもいかない。
「寮までですか? 駅のほうがよろしいですか?」
「あー、駅で」
「はい」
ゆっくりと動き出す車。
窓の外の浮かれた景色を眺めつつ、栞に言いたかったことを告げる。
「お前らさ、ペラペラペラペラ話しすぎ」
「お待たせして、申し訳ありませんでした」
「違う、それじゃなくて」
「どれのことでしょうか?」
「あー……」
生でやってるとかばらすなよと言えばいいだけだっつのに、どうも歯切れが悪すぎた。
どっかで、カマをかけられたかと疑ってるせいだな。
「お前がピル飲んでること、瞳子さんは知ってんの?」
「知ってますよ」
ああ、やっぱそうか。
「瞳子も飲んでますし」
「マジで!?」
「知らなかったのですか?」
「わざわざ聞かないでしょ」
「それもそうですね」
いろいろ合点はいったが、だからといって栞が言ってないとは限らない。
この二人ならば、話してても不思議じゃなさそうだもん。
「あ、そうだ。それ、サンキュ」
「はい? ああ、服ですか。一部出しましたが、ほとんど瞳子です。選んだのも瞳子ですし」
「ふうん。でも、あんがとな」
「はい」
「お前は欲しいもんとかあんの?」
「私、ですか? どうしてでしょう?」
「お返し、いちおうね」
「今のところは、特に」
「それでもなんかあるでしょ。アクセとか服とか靴とか」
「まったく」
「あ、そう」
栞の場合、遠慮してるのではなく本気で言ってるから、これ以上はムリ。
「そうだ、お願いしたいことがあるのですが、それではダメでしょうか」
「え…」
さっきの瞳子さんとのやり取りのせいで、ちょっとだけ警戒した。
「お正月に鷺視の御本家に行かれますでしょう。そのときに、お願いしたいことがあるのですが」
「あ、ああ、うん、なに?」
鷺視の名が出てホッとした。
とんでもないお願いじゃないってことだからな。
「末っ子は仕事が生き甲斐の喪女(もてない女)なので諦めるようにと、父に一言おっしゃってくださいませんか。昭様の御言葉ならば素直に聞くので」
「成久は、まだ諦めてないのね」
「女の幸せは子を産むことが口癖ですからね。なかなか」
「子供くらい産んでやれば」
「姉たちがたくさん産んでおりますよ」
「お前が産むことに意味があるんだろ」
「そうかもしれませんね。父の子だと断言できるのは、私くらいですからね」
「そういうことだ。でも、そのお願いは了解した。これでお返し完了な」
「はい、ありがとうございます」
うちの一族はもちろん、アッキーんとこもアキんとこも、出生に関してはいろいろとややこしいからね。
父親が分からないのが普通だもん。
今じゃDNA検査っつーのもあるけど、わざわざそんなこともしないしね。
血族の女が生めば、それはすべからく血族ってわけだ。
「やっぱ行き先変更」
「どちらに行かれますか?」
「ホテル」
「承知いたしました」
100%ジョークのつもりが、瞳子さんは一瞬だけきょとんとし、すぐにベッドの中で見せる顔付きに変わる。
やだなぁ、食われそ。
さすがに栞がいるから大丈夫だと信じたいが、だったら三人でとか言い出す可能性がなきにしもあらず。
「ふふ、sexy...」
「そりゃ、どうも」
「and danger」
流暢な発音で、挑発する気満々ですね。
乗らないけど。
「俺は危険物ですか」
「似たようなものじゃない」
すかさず首に巻きついてきた両腕をもぎ離そうとしたら、唇に吸い付かれそうになった。
咄嗟に避けたら両腕の力が強まり、全力で押し倒してくる。
最近こんなのばっかだ。
放り出したいが、力任せに扱うのもどうかと悩む。
俺って結局、フェミニストなのかもね。
「ちょっと、瞳子さん」
何度も狙ってくる唇から逃げながら、焦って相手の名を呼んだ。
だけど件の相手は、余計に面白がるんだから、処置なしだ。
「そんなに、栞に見られたくないの?」
「俺はね、常識人なんですよ。あなたと違ってね」
ごくごく当たり前のことを言っただけ。
やってる相手に見られるってのは、かなり鬱になりそうだもん。
「ほら、いいかげん、離れて」
「いいわよ、お願いを一つ聞いてくれたら、すぐにでも解放してあげる」
「なに? チューとかはなしな」
「大丈夫大丈夫、簡単なことだから」
「だから、何よ」
いつ栞がくるかとハラハラしながら、そのお願いってやつを待った。
とんでもないことを言い出さないでくれと祈りながら。
「今度するとき、生でやりましょ」
「……は!?」
「だから、今度するときは、ゴムなしでしましょって言ってるのよ」
「や、やだよ!」
瞳子さんだって、誰が相手でも絶対にゴム付けるって言ってたじゃんか。
なのに、なんで突然そんなことを。
「あら、栞はよくて私はダメとか、そんな道理通らないわよ」
「げっ、」
瞳子さんの勝ち誇った笑顔に対し、俺は愕然としていた。
女同士って、そんなことまで話すの!?
「ぜ、善処します」
「それじゃ、だめー」
ぐったりと全体重をかけてくる肢体を、放り出す場所を探した。
ソファの背凭れから放り出す?
テーブルとソファの間に落としちゃう?
どっちも瞳子さん次第では、絶対無事とは言い切れまい。
俺の周りにいる女は、どいつもこいつも我が強い。
まともな女なんかほぼいない環境で育ったというのに、俺って女に対して優しすぎね?
乱暴しないと信じきって身を任せてくるから、余計に手も足も出せないってのもあるな。
「本気で怒るよ」
「もう遅いわよ」
「え?」
見れば、栞がそこに立っていた。
こういうシチュは、好きじゃない。
「瞳子、昭さんを困らせてはいけませんよ」
「はーい、ちょっと悪ノリしすぎちゃったわね」
あっさり退く身体。
今までの苦労は、なんだったのか。
「俺、帰るね」
「あら、そう。バイバイ」
瞳子さんはこっちを見もせずに、栞の傍に駆け寄った。
「栞、ちゃんと温まった? あら、ドライヤー使ったのね、えらいえらい。あんた、いっつも濡れたままで出てくるものね。
飲み物はどうする? 紅茶でよければすぐいれるけど、」
「栞、どうせ車で来てんだろ。乗せてってよ」
「いいですよ。準備しますので、少しだけ待っていてください」
「はいよ」
栞は瞳子さんとの会話を打ち切り、さっさと二階に駆け上がった。
たぶん荷物を取りに行ったんだろう。
待ってる間に、まだ残っていたコーヒーを飲むことにする。
「あ、あ、あんた……」
なんともオドロオドロしい声が聞こえてきた。
話の腰を折られたばかりか、愛しい相手まで奪い取られ鬼女と化した女がそこにいた。
「最初に仕掛けたのは、そっちだぜ。恨むなら自分を恨みな」
瞳子さんが何もしなければ、二人の蜜月を邪魔するつもりはなかったのにね。
「あ、あんたね、」
クワッと目を剥き、まさに襲いかからんばかり。
だが、肝心なことを忘れている。
「すぐ戻ってくるぜ」
「うっ」
俺の一言に、腕を振り上げた姿勢で硬直する瞳子さん。
面白いほどピタッと止まったなー。
案の定、栞はすぐに戻ってきた。
「お待たせしました。行きましょうか」
「あいよ」
先に出口まで行き、靴を履きながら栞が来るのを待つ。
栞は瞳子さんにお礼やら謝罪を述べたあと、また時間ができたら連絡するという曖昧な約束をしていた。
「今日は、本当にごめんなさい」
「ううん、いいのよ。それよりも、忙しいのは分かるけど、休めるときはしっかり休んで、ちゃんとご飯食べて睡眠もたっぷり取って」
あなたは栞のオカンですか。
甲斐甲斐しい瞳子さんなんて、こんなときしかお目にかかれない稀少品だ。
「これからもっともっと寒くなるから、風邪には気をつけて暖かくして」
ドアを開けて外で待っていたが、いつまでたっても終わりが見えてこない。
さすがに遮るのも可哀想だし、気が済むまでやらせとこうと思ったら、
「瞳子、また連絡するので、そのときにでもゆっくり話しましょ。それじゃ、今日はありがとう。さよなら」
「う、うんうんうん、気をつけて。電話もメールもするけど、栞が忙しいときは、」
瞳子さんがいまだ喋ってるというのに、栞は無情にも扉を閉めた。
「さ、行きましょうか」
女同士の友情は(ry
荷物はすべて後部席に置いて、俺は助手席でシートベルトをする。
栞は当然運転席。
俺だって運転はできるが、さすがに無免許で公道を走るわけにもいかない。
「寮までですか? 駅のほうがよろしいですか?」
「あー、駅で」
「はい」
ゆっくりと動き出す車。
窓の外の浮かれた景色を眺めつつ、栞に言いたかったことを告げる。
「お前らさ、ペラペラペラペラ話しすぎ」
「お待たせして、申し訳ありませんでした」
「違う、それじゃなくて」
「どれのことでしょうか?」
「あー……」
生でやってるとかばらすなよと言えばいいだけだっつのに、どうも歯切れが悪すぎた。
どっかで、カマをかけられたかと疑ってるせいだな。
「お前がピル飲んでること、瞳子さんは知ってんの?」
「知ってますよ」
ああ、やっぱそうか。
「瞳子も飲んでますし」
「マジで!?」
「知らなかったのですか?」
「わざわざ聞かないでしょ」
「それもそうですね」
いろいろ合点はいったが、だからといって栞が言ってないとは限らない。
この二人ならば、話してても不思議じゃなさそうだもん。
「あ、そうだ。それ、サンキュ」
「はい? ああ、服ですか。一部出しましたが、ほとんど瞳子です。選んだのも瞳子ですし」
「ふうん。でも、あんがとな」
「はい」
「お前は欲しいもんとかあんの?」
「私、ですか? どうしてでしょう?」
「お返し、いちおうね」
「今のところは、特に」
「それでもなんかあるでしょ。アクセとか服とか靴とか」
「まったく」
「あ、そう」
栞の場合、遠慮してるのではなく本気で言ってるから、これ以上はムリ。
「そうだ、お願いしたいことがあるのですが、それではダメでしょうか」
「え…」
さっきの瞳子さんとのやり取りのせいで、ちょっとだけ警戒した。
「お正月に鷺視の御本家に行かれますでしょう。そのときに、お願いしたいことがあるのですが」
「あ、ああ、うん、なに?」
鷺視の名が出てホッとした。
とんでもないお願いじゃないってことだからな。
「末っ子は仕事が生き甲斐の喪女(もてない女)なので諦めるようにと、父に一言おっしゃってくださいませんか。昭様の御言葉ならば素直に聞くので」
「成久は、まだ諦めてないのね」
「女の幸せは子を産むことが口癖ですからね。なかなか」
「子供くらい産んでやれば」
「姉たちがたくさん産んでおりますよ」
「お前が産むことに意味があるんだろ」
「そうかもしれませんね。父の子だと断言できるのは、私くらいですからね」
「そういうことだ。でも、そのお願いは了解した。これでお返し完了な」
「はい、ありがとうございます」
うちの一族はもちろん、アッキーんとこもアキんとこも、出生に関してはいろいろとややこしいからね。
父親が分からないのが普通だもん。
今じゃDNA検査っつーのもあるけど、わざわざそんなこともしないしね。
血族の女が生めば、それはすべからく血族ってわけだ。
「やっぱ行き先変更」
「どちらに行かれますか?」
「ホテル」
「承知いたしました」