2014年クリスマス
[クリスマス■アーちゃん]
翌日は、25日。
本来ならこの日こそが本番だというのに、この国では予備日と変わらない扱いだったりする。
罰当たりなことですな。
当初の予定では夕方だったが、東峰は根性で昼には寮に戻ってき、そのままアキラを攫って自室に篭った。
場所的にも日数的にも、そのまま帰省するほうが楽だってのに、俺らがギリギリまで残るからってわざわざ戻ってくるとは。
ほんと、バカだよね。東峰も、俺も。
晴れて自由の身になった俺は、朝食兼昼食のクラムチャウダーと諸々を食い終わり、シャワーを浴びて外出。
バスに電車にと乗り継いで、活気に満ちた街に到着したら、どこもかしこもカップルだらけの中を歩き、見慣れた豪華マンションに。
面倒な手続きしてエレベーターで上階までゆき、ドアを開けて靴を脱ぎかけてへたり込みそうになった。
アホほど広いフロアのタイルにちょこんと置かれたパンプス。
ヒールなんてほとんどないそれは、サイズといい趣味といい、瞳子さんとは縁のない代物だったんだ。
誰か来てるんでしょって?
その通り。
「メリークリスマース」
「メリクリ……」
「やっだー、テンション低いじゃなーい。若いんだから、もっと元気よく挨拶なさいよー」
「あなたは元気そうですね」
「ありがとー。私は、いつでもお元気よー」
この浮かれ具合、イラつくわー。
「あいつ、昨日は夜勤のはずでしょ。いつ来たの?」
「あらあら、僕のほうが栞のこと知ってんだぞアピールかな?」
「アホか」
うっかり口を滑らせても、いつもの平手は飛んでこなかった。
素晴らしき、栞効果。
「そうじゃなくて、夜勤なのに呼び出したのって聞いてんの」
「今朝来てくれたのよ。わざわざ、ね。もちろん催促なんかしてないわよー」
夜勤終わって、すぐに来たわけか。ご苦労さんだ。
おもいっきり、わざわざを強調してくれたが、はっきり言ってどうでもいい。
「着いてから軽く食事して、それからはずっと寝てるわ」
「ふうん」
広い広いリビングには、瞳子さんと俺しかいない。
栞は、客間で寝てるんだろう。
「ああ、そうそう、クリスマスプレゼントあげなきゃね」
「あざーっす」
そうだったそうだった、俺こそこんな所までわざわざ来たのは、そのためだというのに。
目的のブツはしっかりといただいておかねば。
瞳子さんが次々紙袋を持ってきては、順に俺の足元に投げ落とていく。
【BEAMS】【Paul Smith】【UNITED ARROWS】【nano・universe】etc...
これが結構な量で、俺の両手でギリギリ持てるかなってほどもあった。
「去年のものは、着れないんでしょ」
「うん、全然ムリ」
手前の一つを覗いたら、ぎっしりと春物が詰まっていた。
他もご同様だとすれば、かなり助かる。
身長が伸びたのはいいが、おかげさまでいままでの服ではサイズが合わず、すべて手離すことになったからな。
お財布事情を考えたら、そうそう気安く買い換えてられないっつーのに。
「無駄に大きくなったものねー」
「無駄って……なぁ」
「ん?」
「俺、変わった?」
「確かに変わり者ね」
「そうじゃなくて、成長してる?」
「そこまで大きくなっといて、気付けないほどおバカさんだったの?」
「だから、そうじゃなくて、」
「オス臭いガキが、オスになっちゃったわね」
「あんたは出会ったときから、メスだったね」
「当たり前じゃなーい」
皮肉ったつもりが、やけに嬉しそうにされて困惑。
これって、褒め言葉だったのかよ。
ウキウキにこにこご機嫌にジングルベルまで歌いだした瞳子さんには紅茶をいれて、自分用にコーヒーをいれていたとき、二階の寝室の扉が開いてギョッとした。
別にそこから現れた人物に驚いたわけじゃない。
いや、結局そいつが現れたから驚いたわけだけど、そういうんじゃないんだ。
俺とやりまくってるベッドに平気で栞を寝かせるとか、どういう神経してんだ!
「栞、もっと寝てていいのに」
栞以外の人間の気持ちなど汲む気のない瞳子さんが、聞いたこともない優しい声を出した。
「いえ、もう十分。昭さん、来られてたんですね。お久しぶりです」
「はい、どうも、です……」
すっごく、いたたまれない。
自分で言うのもなんだが、俺って結構常識人なんだよ。
俺がどっちとも寝てるなんてこと、瞳子さんも栞も了解してる。
初めていたした翌日には、瞳子さん自ら暴露してくれたからね。
それを聞いても栞は動じず、瞳子さんも俺に執着がないってことから、二人の友情はヒビどころか些細な変化もなかった。
さらに共通の話題が増えたってくらいか。
女の友情ってのは、つくづく謎だね。
「瞳子、お風呂借りますね」
「はいはい、着替えは出しておくから、ゆっくり入ってらっしゃい」
「ありがとう。昭さん、では」
「はいはい、ごゆっくりー」
できるだけ栞の顔を見ないようにして送り出した。
栞がバスルームに消えてもいたたまれない気持ちは消えず、なんだかなぁと一人ソファに座りずずっとコーヒーを啜る。
瞳子さんは自分の服の中からできるだけ地味なものを選び出し、いそいそとバスルームに運んでいた。
そんなこと、してもらったことねーや。
やがて瞳子さんもきて、ようやく俺のいれた紅茶に口を付ける。
「金持ってんだから、栞用の服くらい買って置いとけば」
「バカね。それだと返しに来るって過程がすっぽ抜けちゃうでしょ」
「結構策士なのね」
「ありがと」
「褒めてねーよ」
「そうそう、プレゼント、私と栞からだからね」
「え、あいつも金出してんの」
お返しは、二人分かよ。はー、メンド。
ま、それはおいおい考えるとして、そもそも瞳子さんへのお返しなんて決まってるもんな。
いずれ限界まで搾り取られるってだけだ。
問題は、栞か。
「そういえばさ、昨日はどうだったの? いい男はいた?」
話のネタに昨日のことを振ってみたら、瞳子さんが目に見えて不機嫌になる。
おもしろいくらい、分かりやすい反応だ。
瞳子さんだって、いちおうはいいとこのお嬢さん。
実はいろいろややこしい身の上だが、それは置いといて、明石元首相の孫で現職大臣の一人娘としては、そりゃあいろんなとこに顔出ししなきゃならないわけよ。
東峰たちのごとく、昨日は朝からパーティの掛け持ちをしていたわけだが。
「顔なんかまともに見てないわよ! だいたいね、集まりにかこつけて男を選ばせようって考えが浅はかなのよね。それに乗るような男なんか、願い下げだわ」
「ふうん、おじい様の作戦は、またもや失敗ってわけか」
「いろいろと繋ぎは取れたから、私的には成功ね」
「仕事に役立ちそうですね」
父親の名代という大義名分を押し付けてのパーティに、婿候補を何人も送り込むなんてのはよくある話だ。
せめて瞳子さんに選ばせてやろうってことだろうが、結婚そのものを毛嫌いしてるひとには何をやってもムリってもの。
可愛い可愛い孫娘がレズでビッチのど淫乱と知ったら、元首相はそうそうにあの世に旅立ちそうだな。
「そうそう、久々に東峰と葛西の御曹司を拝見したわ。ホント、いい男たちねぇ」
「ふうん」
「ああん、話す機会がなかったのが心残りよ」
「挨拶もできなかったの?」
「たかが議員の娘が気安く話しかけられるわけないでしょ」
「ふうん、そういうもんなんだ」
「そういうものなのよ。パパかママがいれば、あちらから声もかけてくださるだろうけど、たかが娘程度じゃねぇ。しかも、妾の子」
「そういうの、気にしない人たちだと思うけどね」
「学校が同じってだけで、よく知りもしないのに、何適当なこと言ってるのよ」
「ですね、テキトー言いました」
「本当に、夢のように綺麗だったわぁ。ああいう人たちに見初められる方も、相応の美しさなんでしょうね。
でなけりゃ、とてもじゃないけど横になんて並べないわよね」
意外とそうでもないですよ。
二人揃って地味嗜好ですしね。
しっかし、瞳子さんの目、キラキラしてんな。
少女マンガみたい。少女じゃないけど。
「そんなに良かった?」
「もうすごいのなんの。充分、眼の保養させていただきました」
「東峰の御曹司見て、どう思った?」
「突然、なによ」
「なんとなく感想が聞いてみたくて」
「ふふ、そうね。gorgeous あの方は、そうとしか表現できないわね」
「ふうん、葛西の御曹司は?」
「まさに正統派 handsome ね」
「俺は?」
「ん?」
翌日は、25日。
本来ならこの日こそが本番だというのに、この国では予備日と変わらない扱いだったりする。
罰当たりなことですな。
当初の予定では夕方だったが、東峰は根性で昼には寮に戻ってき、そのままアキラを攫って自室に篭った。
場所的にも日数的にも、そのまま帰省するほうが楽だってのに、俺らがギリギリまで残るからってわざわざ戻ってくるとは。
ほんと、バカだよね。東峰も、俺も。
晴れて自由の身になった俺は、朝食兼昼食のクラムチャウダーと諸々を食い終わり、シャワーを浴びて外出。
バスに電車にと乗り継いで、活気に満ちた街に到着したら、どこもかしこもカップルだらけの中を歩き、見慣れた豪華マンションに。
面倒な手続きしてエレベーターで上階までゆき、ドアを開けて靴を脱ぎかけてへたり込みそうになった。
アホほど広いフロアのタイルにちょこんと置かれたパンプス。
ヒールなんてほとんどないそれは、サイズといい趣味といい、瞳子さんとは縁のない代物だったんだ。
誰か来てるんでしょって?
その通り。
「メリークリスマース」
「メリクリ……」
「やっだー、テンション低いじゃなーい。若いんだから、もっと元気よく挨拶なさいよー」
「あなたは元気そうですね」
「ありがとー。私は、いつでもお元気よー」
この浮かれ具合、イラつくわー。
「あいつ、昨日は夜勤のはずでしょ。いつ来たの?」
「あらあら、僕のほうが栞のこと知ってんだぞアピールかな?」
「アホか」
うっかり口を滑らせても、いつもの平手は飛んでこなかった。
素晴らしき、栞効果。
「そうじゃなくて、夜勤なのに呼び出したのって聞いてんの」
「今朝来てくれたのよ。わざわざ、ね。もちろん催促なんかしてないわよー」
夜勤終わって、すぐに来たわけか。ご苦労さんだ。
おもいっきり、わざわざを強調してくれたが、はっきり言ってどうでもいい。
「着いてから軽く食事して、それからはずっと寝てるわ」
「ふうん」
広い広いリビングには、瞳子さんと俺しかいない。
栞は、客間で寝てるんだろう。
「ああ、そうそう、クリスマスプレゼントあげなきゃね」
「あざーっす」
そうだったそうだった、俺こそこんな所までわざわざ来たのは、そのためだというのに。
目的のブツはしっかりといただいておかねば。
瞳子さんが次々紙袋を持ってきては、順に俺の足元に投げ落とていく。
【BEAMS】【Paul Smith】【UNITED ARROWS】【nano・universe】etc...
これが結構な量で、俺の両手でギリギリ持てるかなってほどもあった。
「去年のものは、着れないんでしょ」
「うん、全然ムリ」
手前の一つを覗いたら、ぎっしりと春物が詰まっていた。
他もご同様だとすれば、かなり助かる。
身長が伸びたのはいいが、おかげさまでいままでの服ではサイズが合わず、すべて手離すことになったからな。
お財布事情を考えたら、そうそう気安く買い換えてられないっつーのに。
「無駄に大きくなったものねー」
「無駄って……なぁ」
「ん?」
「俺、変わった?」
「確かに変わり者ね」
「そうじゃなくて、成長してる?」
「そこまで大きくなっといて、気付けないほどおバカさんだったの?」
「だから、そうじゃなくて、」
「オス臭いガキが、オスになっちゃったわね」
「あんたは出会ったときから、メスだったね」
「当たり前じゃなーい」
皮肉ったつもりが、やけに嬉しそうにされて困惑。
これって、褒め言葉だったのかよ。
ウキウキにこにこご機嫌にジングルベルまで歌いだした瞳子さんには紅茶をいれて、自分用にコーヒーをいれていたとき、二階の寝室の扉が開いてギョッとした。
別にそこから現れた人物に驚いたわけじゃない。
いや、結局そいつが現れたから驚いたわけだけど、そういうんじゃないんだ。
俺とやりまくってるベッドに平気で栞を寝かせるとか、どういう神経してんだ!
「栞、もっと寝てていいのに」
栞以外の人間の気持ちなど汲む気のない瞳子さんが、聞いたこともない優しい声を出した。
「いえ、もう十分。昭さん、来られてたんですね。お久しぶりです」
「はい、どうも、です……」
すっごく、いたたまれない。
自分で言うのもなんだが、俺って結構常識人なんだよ。
俺がどっちとも寝てるなんてこと、瞳子さんも栞も了解してる。
初めていたした翌日には、瞳子さん自ら暴露してくれたからね。
それを聞いても栞は動じず、瞳子さんも俺に執着がないってことから、二人の友情はヒビどころか些細な変化もなかった。
さらに共通の話題が増えたってくらいか。
女の友情ってのは、つくづく謎だね。
「瞳子、お風呂借りますね」
「はいはい、着替えは出しておくから、ゆっくり入ってらっしゃい」
「ありがとう。昭さん、では」
「はいはい、ごゆっくりー」
できるだけ栞の顔を見ないようにして送り出した。
栞がバスルームに消えてもいたたまれない気持ちは消えず、なんだかなぁと一人ソファに座りずずっとコーヒーを啜る。
瞳子さんは自分の服の中からできるだけ地味なものを選び出し、いそいそとバスルームに運んでいた。
そんなこと、してもらったことねーや。
やがて瞳子さんもきて、ようやく俺のいれた紅茶に口を付ける。
「金持ってんだから、栞用の服くらい買って置いとけば」
「バカね。それだと返しに来るって過程がすっぽ抜けちゃうでしょ」
「結構策士なのね」
「ありがと」
「褒めてねーよ」
「そうそう、プレゼント、私と栞からだからね」
「え、あいつも金出してんの」
お返しは、二人分かよ。はー、メンド。
ま、それはおいおい考えるとして、そもそも瞳子さんへのお返しなんて決まってるもんな。
いずれ限界まで搾り取られるってだけだ。
問題は、栞か。
「そういえばさ、昨日はどうだったの? いい男はいた?」
話のネタに昨日のことを振ってみたら、瞳子さんが目に見えて不機嫌になる。
おもしろいくらい、分かりやすい反応だ。
瞳子さんだって、いちおうはいいとこのお嬢さん。
実はいろいろややこしい身の上だが、それは置いといて、明石元首相の孫で現職大臣の一人娘としては、そりゃあいろんなとこに顔出ししなきゃならないわけよ。
東峰たちのごとく、昨日は朝からパーティの掛け持ちをしていたわけだが。
「顔なんかまともに見てないわよ! だいたいね、集まりにかこつけて男を選ばせようって考えが浅はかなのよね。それに乗るような男なんか、願い下げだわ」
「ふうん、おじい様の作戦は、またもや失敗ってわけか」
「いろいろと繋ぎは取れたから、私的には成功ね」
「仕事に役立ちそうですね」
父親の名代という大義名分を押し付けてのパーティに、婿候補を何人も送り込むなんてのはよくある話だ。
せめて瞳子さんに選ばせてやろうってことだろうが、結婚そのものを毛嫌いしてるひとには何をやってもムリってもの。
可愛い可愛い孫娘がレズでビッチのど淫乱と知ったら、元首相はそうそうにあの世に旅立ちそうだな。
「そうそう、久々に東峰と葛西の御曹司を拝見したわ。ホント、いい男たちねぇ」
「ふうん」
「ああん、話す機会がなかったのが心残りよ」
「挨拶もできなかったの?」
「たかが議員の娘が気安く話しかけられるわけないでしょ」
「ふうん、そういうもんなんだ」
「そういうものなのよ。パパかママがいれば、あちらから声もかけてくださるだろうけど、たかが娘程度じゃねぇ。しかも、妾の子」
「そういうの、気にしない人たちだと思うけどね」
「学校が同じってだけで、よく知りもしないのに、何適当なこと言ってるのよ」
「ですね、テキトー言いました」
「本当に、夢のように綺麗だったわぁ。ああいう人たちに見初められる方も、相応の美しさなんでしょうね。
でなけりゃ、とてもじゃないけど横になんて並べないわよね」
意外とそうでもないですよ。
二人揃って地味嗜好ですしね。
しっかし、瞳子さんの目、キラキラしてんな。
少女マンガみたい。少女じゃないけど。
「そんなに良かった?」
「もうすごいのなんの。充分、眼の保養させていただきました」
「東峰の御曹司見て、どう思った?」
「突然、なによ」
「なんとなく感想が聞いてみたくて」
「ふふ、そうね。gorgeous あの方は、そうとしか表現できないわね」
「ふうん、葛西の御曹司は?」
「まさに正統派 handsome ね」
「俺は?」
「ん?」