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2014年クリスマス

[イヴ5■アーちゃん]


口元以外にも唇を落としながら、着衣は極力乱さぬよう下着の中に手を差し入れた。
二次成長を迎えたのかどうか怪しい性器は、とっくに濡れそぼっている。
それを掌で包みこみ、ゆっくりとできるだけ焦らすようにして動かした。
アキラは時折鼻を鳴らし、俺の与える快楽に身を委ねきっている。

これは、セックスじゃない。

ボタン一つ外していないシャツの上から、立ち上がった乳首に唇だけで触れた。
上下の唇で軽く挟んでやれば、それだけでアキラの身体は反り返る。

こんなもの、言ってしまえば、アキラのマスターベーションでしかない行為だ。

今でこそ普通の人と同じ生活をしているが、アキラは深窓の御令嬢以上のお姫様として生活してきた。
生まれてから汚したことのない手は、自身の肌ですらほとんど触れたこともなく、ましてやオナニーなんてものはしたこともない。
さすがに今は、いろいろ自分でこなしているが、いまだ一人エッチとは無縁だ。

「…ん、あ…あっ」

吐き出されたものを掌で受け止めて、射精後の余韻に浸る相手に啄ばむようなキスをした。
そうすると、実に気持ちよさげな表情を見せる。

「はい、おしまい」

ティッシュでおざなりに拭いてたら、アキラがボーっとしたまま手を伸ばしてきた。
それの意味するところを知ってるから、苦笑するしかない。

「ア、アーちゃ、も…」

フラフラ彷徨う手を捕らえ、指先に軽くキスしてベッドに戻す。
自分が満足したあとは相手も、と考えられるのは、たぶんそう悪いことじゃない。
俺からすれば余計なことでしかないけど。

「寝てていいから」

置いといたワインを飲み干してから、バスルームに直行。
アキラを清めて下着を替えて、しなきゃならないことがまだある。
タオルをお湯で濡らしてる間に、脳内に方程式を呼び出すのも忘れない。

だって、男の子だもん。
なんだかんだ言っても、まだまだ性欲旺盛な10代だもの。
お箸が転がっても笑っちゃう年頃なのよ。
ムスコが半勃ちしてても、仕方なくね。
むしろその程度に抑えた俺って、すごくね。
自画自賛。よし、収まった。

固く絞ったタオルを持って寝室に行くと、アキラは賢者タイムからの睡眠に移行したようだ。
瞼を閉じた相手を起こさないように、下半身を拭き清める。
新しい下着を履かせズボンに足を通して、布団を掛け直して、はい終了。
ようやくゲームに集中でき、

「アーちゃん」

「ひぇっ!?」

「眠れませんよ」

「し、知りませんよ」

「どういたしましょうか?」

「その辺、走ってきたら」

「んま、この僕に運動をさせようだなんて、なんという残酷な方なのでしょう。見損ないました」

「知らねーよっ」

なんで今日は、こんなに寝ないんだ?

「んー」

頭を抱えたくなってきた俺をよそに、アキラは考える素振りを見せ、

「抱っこしてください」

「子供かよ!」

「ギュッてしてください」

「っ、……ギュッね。はいはい」

一瞬、東峰にしてもらえと言いかけて止めた。
何を言っても結果は同じだし、アキラがして欲しいというなら、断る理由なんかないようなもんだしね。



隣りに寝て肩に腕を回したら、嬉しそうにアキラが身を寄せてくる。
もともと甘えたがりだから、この反応は普通だ。
お望み通りのギュッをして、

「ちゃんと寝てちょーだいよ」

「分かっております」

その割りに、まったく眠気がさそうですね。

「お前さぁ」

「はい?」

「俺に、恋人とかできたら、どうすんの?」

なんでそんなことを訊いたのか、後から考えても分からない。
なんというか、そういう心境だったんだろうな。

「それは……」

「たとえばだからなっ」

「おもいっきり虐めます!」

「は、……はぁ!?」

「古今東西、巷を賑わしている嫁姑戦争など可愛く思えるほどの戦争をしかけますよ。当然でございましょう」

「え、そうなの……?」

おかしい。言ってることがまるっきりおかしい。
身近なところで言うと、アッキーと藤村がくっついたとき、どうだったっけ?
アキラはそれはもう嬉しがり、今も藤村との関係はすこぶる良好で、適度な親しさを維持している。

それが、友人と定めた相手の伴侶への、アキラの距離感だと受け取めていた。
だからこそ俺が恋人なりなんなり作っても、複雑な感情はあれど同じように距離を取るのだろうと思っていたら……。

「じゃ、じゃあさ、アキに恋人ができたら?」

「アキに? うーん、アキに恋人など、まだまだ早いと思いますが」

「たとえばの話」

「そうですね。アキの恋人なら、どんな方であっても可愛く思えるでしょうね。
もちろん、下手に口出しして毛嫌いされたくありませんからね。極力距離を置き、相談に来たときには乗る程度のお付き合いを心掛けたいと思います」

俺が思ってた通りの適度な距離感じゃん。
あれ、なんだ、この差。
いくらなんでも落差ありすぎだろ。
案外、俺の勘違いかもしれないな。よし、再チャレンジ。

「お、俺の恋人、だったら?」

「それはもう、生まれてきたのを後悔するくらい、虐めまくってやりますとも。ああ、楽しみです」

「へー、楽しみなんだ……」

誰だ、勘違いとか言ったのは!!
上辺でくらい、仲良くしたいとか言えないもんかね。

「嫁姑ごっこは、僕の夢ですからね」

「ふーん、夢なんだ……」

なんとも呆れたドリーマーだな、おい。
しかも、ごっこ、ごっこって。
ごっこの語感が与えるイメージを、完全に裏切っちゃってるよね。

「アーちゃん?」

「俺が困るとか、思わないの?」

「アーちゃんが、お困りになるのですか?」

「え、あ、いや、普通は、ほら、恋人と友人の板ばさみなんて、困るだろうし」

「板ばさみとは、両者の間に立ってどちらに付くこともできず、苦しむことですよ。アーちゃんは、どちらにも付かないおつもりなのですか?」

「え? あ、そりゃ、どっちかの味方、しちゃう、かもね? つか、するしかないんじゃないの? 知らんけど」

「ならば、問題ないではないですか」

「え!? あ、あんたが、それでいいなら、ね。……え、マジで、いいの?」

「は?」

たかがたとえ話で何やってんだかとは思うが、なんとなくお互い見詰め合った。
アキラの想定する未来と俺が想像した展開が、微妙に食い違ってるんじゃないの、これ。

「このような質問は無意味だと分かってはおりますが、あえてお聞きします。いざそうなったとき、アーちゃんはどちらを優先なさるおつもりでいるのですか?」

「え!? い、一般的には、恋人では、ないでしょうか……?」

あなたの東峰さんが、まさにそうではないですか。

「そうなのですか?」

「へ!? 違うの?」

「違うと思いますよ」

ええええ、そうなの!?
俺が間違ってたの!?

「じゃ、じゃあ、それが理由で、別れちゃったら?」

「次を探せばよいことです」

にっこりと締めくくられたが、こちらの目は点ですよ。

「アーちゃんも、早くいいひとが見つかるとよいですね」

はい!? そうくるか!?

「せっかくギリイケメンなのですから、さっさと恋人なりセフレなりを作って、僕の夢を叶えてくださいね」

セフレも範疇なの!?
まさか、セックスしたら範囲内?
拡大解釈もいいとこだよね。

「そろそろ眠くなって参りましたので、寝ます。おやすみなさい」

「はい…おやすみなさい」

どうせありえない未来なんだし、どうでもいっか。
あ! セフレもか、セフレ……どうすんだよ、おい。
にしても、生まれてきたのを後悔するくらいの虐めって、どんなことするつもりなんだか。
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