2014年クリスマス
[イヴ4■アーちゃん]
片付けるなんて言いながら、ほとんどそのまま放置しておいた。
PCは休止にしワインを並々いれたグラスだけ持って、部屋の電気を消してから暗い寝室に移動する。
アキラは待ちかねていたように、布団の半分を捲り上げ俺を手招いた。
嫌な予感しかしない。
サイドテーブルにグラスを置いてから恐々ベッドに入り、布団を上にかけ……たら余計なものまで付いてきた。
「おいおいおいおいおい」
「ずっと考えていたことがあるのです」
暗闇のなか、アキラが俺を見下ろす。
俺の腰に跨り胸元に手を置いて、相手によってはマウントポジションを取られたようなもの。
「い、言わなくていいからな、聞きたくない。その思考は永久に封印してろ」
「んもう、まだ何も言っていないのに、何を想像しているのですか?」
「想像したのと違ってても、聞きたくない、言うな」
「接吻だけに拘らず、前戯そのものを覚えるほうが手っ取り早いと思うのです」
「言うな、みなまで言うな、そこで止めろ」
「つまり、アーちゃんが受け役で僕が攻め役。それで練習すればよいかと」
「やめろやめろやめろ」
「しかもですね、いろいろ未達成で終えた場合でも、最悪、僕の脱童貞とあなたの脱処女をしてしまえば、」
「あああああ、あったまきた! 聞きたくないって、言ったよな!」
「きゃっ」
限界突破の勢いで飛び起きれば、アキラの体が横に転がる。
この程度の体重で、俺をどうこうできると思ってんのかよ!
「んな、つまんねー理由でやられてたまるか! 遊びですって言われたほうが、よっぽどマシなんだよ!」
きょとんと見上げてくるアキラに、一気に血の気が引いた。
やばい、なんかとんでもないこと口走った気がする。
「遊びならば、よいのですか?」
「ち、違います。そういう意味じゃありません」
「でも、よっぽどマシだとおっしゃっていましたよ」
「気のせいでしょ。聞き間違いじゃないですか」
いそいそと隣りに寝転び、背を向けつつ距離をとる。
サイアクだ。
ぶっ飛んだ思考の持ち主に、とんでもないお墨付きを与えることになっちまう。
このまま寝入ってしまおう。うん、そうしよう。
「今日のアーちゃんは、ヘンです」
寝てるフリをはじめた俺に、擦り寄ってくる身体。
もぞもぞと両腕を回してきて、背中に頬を押し当ててきた。
寝てるフリに徹するつもりが、前に回った冷たい指先を握りしめた時点で無駄になる。
「俺はいつも通りです。ヘンなのはあんただよ」
「僕は常にヘンですよ。生まれつきです」
「あっそ、自覚があってなによりだ」
「そうではなくて、アーちゃんばかりが、どんどんヘンになっていくのです。今日もやはりヘンでした。このところずっとヘンなのですよ」
「全然、身に覚えがないけど」
「そうですか? では自覚なくヘンになっているのですね。でも、そういうものなのでしょうね」
おかしな話だ。
そもそもヘンなことばかりしてんのは、そっちだってのに。
それに付き合う俺も相当頭がおかしいが、それだってアキラに合わせてるだけで。
「これからも、あなたはヘンになってゆくのですね……」
「なにが言いたいの?」
そのまま体勢を変えて、アキラと向かい合う。
アキラは少し驚いた顔をして、だけどすぐに胸元に顔を埋めてきた。
その髪を撫でていたら、
「ほら、やっぱりヘンです」
「は?」
意味が分からない。
「あのさー、俺はあんたと違って凡人なわけよ。もっと分かるように言ってくんないと察せないんだわ」
背後にある手が、ぎゅうぎゅうと落ち着きなく動かされる。
握られては開かれて、開いてはまた握られて。
「どんどん大きくなって、僕を軽々と扱うようになって、何をしても困った顔をするだけで、怒ることも減って……ね、ヘンでしょう?」
ちゃんと怒ってるっちゅーに。
いつだってめいっぱいご立腹してるっちゅーに。
単に、諦めるまでの時間が短くなっただけだっちゅーに。
「俺が成長したのが不満ってか。子供だなー」
「ほら、そういうところですっ」
「だって、マジでガキだなーって思うもん」
「むっ、ほんの少し大人びたというだけで、あなたなんてまだまだお子様ですよ」
「うん、そうね。でも、出会った頃と比べたら、かなり変わったんでしょ。自分では分かんねーけどさ」
「ええ、変わりました……これから先、もっともっと変わってゆく」
そんなのは俺だけじゃない。
アッキーだって、アキだって、アッくんだって変わったし、変わっていく。
東峰や葛西だって例外じゃない。
それは概ね成長と呼ばれるもので、体つきだけでなく内面も少しずつ変化していくものなんだ。
比べてアキラは、生まれたときからほぼ完成していた。
肉体はともかく、内面的な変化なんて、ほとんどなかったことだろう。これからだって期待できない。
こいつの変化なんて、東峰への恋心が新たに加わったくらいじゃないだろうか。
「俺の成長が、不満であり不安なわけね」
つまりは、そういうことなのね。
バカだなぁ、ホントバカ、手の施しようがないバカ。
でも、それもこれも、俺のせいかもね。
アッキーたちの変化=成長は、アキラにとっては喜ばしいことだらけだった。
それを望んでいたから。待っていたから。
では、俺は?
きっと望むとおりの姿にはなれなかったのだろう。
やはり守人としては、欠陥品か。
「知らぬ間に、あなたはステキな男性に成長していた。僕がそう思うのなら、周囲はもっと感じ取っていることでしょう」
ああ、なるほど。
そっちが本命なのか。
「周囲とか、どうでもいいよ。興味ない」
「あなたがどうでも、周りは放っておきませんよ。そのうち、目敏い誰かが猛烈アタックを仕掛けてきますよ。
あなたのようなウブな初心者は、あっという間に落ちちゃいますよ。そんな日がいつ来るのか、今日なのか明日なのか。
そんな風にビクビクしながら過ごすのはいやなのです。できればサクッと終わらせてほしいのです。
というわけで、さっさと誰かとくっついてください。この際、遊びでも可」
何を言ってんだろうね、こいつは。
早く誰かとくっつけとか、恋人作れとか言いながら、いざそうなったとき、一番辛いのは自分だと告白してさ。
口に出すな、そんなこと。
知ってるから。
知ってるんだよ。
お前の子供染みた独占欲を、俺も東峰もとっくの昔に承知済みだ。
無邪気に甘えてすぐに膨れてたくさん我儘言って、それでも絶対に離れないと分かったうえでの確信犯のくせに、いまさら怯えてるなんて自白するな。
結局こいつは、俺を縛り付けたいだけなんだ。
継埜守人ではなく高橋昭を、永遠に佐藤晃に縛り付けたくて堪らない。
東峰と同じだけの愛を、俺からも与えられないと不安になる、超絶我儘。
そんなお前を、俺たちは赦してる。認めてる。
だからこそ傍にいるってーのに……。
でも、それも当然か。
当のアキラだけが、自身の歪んだ想いに気付いてないのだから。
なのに嫌悪してやがる。
無自覚にも、己が底意を憎んですらいる。
それゆえにアキラは、いつでも必死だ。
奪われる前に自ら手離そうとして、自分以外の誰かに全力で俺を差し出す。
アッくんにも、そうだったな。
結局は葛西とうまくいったが、そうなってなければ何をしでかしてたかと空恐ろしい。
「遊びでも可とか、サイテーじゃん」
「あなたにはお似合いです」
「愛もないのに、セックスだけしろってか。相変わらずおかしなことばっか言う子だね」
「アーちゃんは、愛が欲しいのですか?」
「一般論を述べてんの」
「そうですか。ですが、あなたの場合、そんなことを言ってる暇は、」
「セックスなんて、急いでするもんじゃないでしょ」
「もうっ、だからいつまでも童貞で処女なのですよ。せっかくおもてになる外見なのですから、ここは相手を選ばず、」
「処女はともかく、童貞は適当に捨てるからいいの。焦ってねーし」
「そういう人に限って、」
「ああ、もう、うっさい子だなー」
「んま、んぅ、……」
うるさい口を口で塞ぐとか、どこの少女マンガよとは思うけど、確かにこれは黙らせるには効果的だ。
さっきまでのお手本のようなキスはせず、すぐに深く口付ける。
執拗に舌を絡ませれば、アキラは何度も喉を鳴らし、飲みきれなかった唾液が頬を伝っていった。
「つまんねーことばっか言ってると思ったら、欲求不満だったわけね」
濡れた口元を指で拭えば、アキラが涙目ですがりついてきた。
中心はとっくに芯が通っていて、モジモジ腰を揺らしている。
マジで、おもしろおかしいイキモノだよな、お前は。
「ううぅ……」
「さっきは出してないもんな」
一回ヌケば、スッキリして寝てくれるだろう。
片付けるなんて言いながら、ほとんどそのまま放置しておいた。
PCは休止にしワインを並々いれたグラスだけ持って、部屋の電気を消してから暗い寝室に移動する。
アキラは待ちかねていたように、布団の半分を捲り上げ俺を手招いた。
嫌な予感しかしない。
サイドテーブルにグラスを置いてから恐々ベッドに入り、布団を上にかけ……たら余計なものまで付いてきた。
「おいおいおいおいおい」
「ずっと考えていたことがあるのです」
暗闇のなか、アキラが俺を見下ろす。
俺の腰に跨り胸元に手を置いて、相手によってはマウントポジションを取られたようなもの。
「い、言わなくていいからな、聞きたくない。その思考は永久に封印してろ」
「んもう、まだ何も言っていないのに、何を想像しているのですか?」
「想像したのと違ってても、聞きたくない、言うな」
「接吻だけに拘らず、前戯そのものを覚えるほうが手っ取り早いと思うのです」
「言うな、みなまで言うな、そこで止めろ」
「つまり、アーちゃんが受け役で僕が攻め役。それで練習すればよいかと」
「やめろやめろやめろ」
「しかもですね、いろいろ未達成で終えた場合でも、最悪、僕の脱童貞とあなたの脱処女をしてしまえば、」
「あああああ、あったまきた! 聞きたくないって、言ったよな!」
「きゃっ」
限界突破の勢いで飛び起きれば、アキラの体が横に転がる。
この程度の体重で、俺をどうこうできると思ってんのかよ!
「んな、つまんねー理由でやられてたまるか! 遊びですって言われたほうが、よっぽどマシなんだよ!」
きょとんと見上げてくるアキラに、一気に血の気が引いた。
やばい、なんかとんでもないこと口走った気がする。
「遊びならば、よいのですか?」
「ち、違います。そういう意味じゃありません」
「でも、よっぽどマシだとおっしゃっていましたよ」
「気のせいでしょ。聞き間違いじゃないですか」
いそいそと隣りに寝転び、背を向けつつ距離をとる。
サイアクだ。
ぶっ飛んだ思考の持ち主に、とんでもないお墨付きを与えることになっちまう。
このまま寝入ってしまおう。うん、そうしよう。
「今日のアーちゃんは、ヘンです」
寝てるフリをはじめた俺に、擦り寄ってくる身体。
もぞもぞと両腕を回してきて、背中に頬を押し当ててきた。
寝てるフリに徹するつもりが、前に回った冷たい指先を握りしめた時点で無駄になる。
「俺はいつも通りです。ヘンなのはあんただよ」
「僕は常にヘンですよ。生まれつきです」
「あっそ、自覚があってなによりだ」
「そうではなくて、アーちゃんばかりが、どんどんヘンになっていくのです。今日もやはりヘンでした。このところずっとヘンなのですよ」
「全然、身に覚えがないけど」
「そうですか? では自覚なくヘンになっているのですね。でも、そういうものなのでしょうね」
おかしな話だ。
そもそもヘンなことばかりしてんのは、そっちだってのに。
それに付き合う俺も相当頭がおかしいが、それだってアキラに合わせてるだけで。
「これからも、あなたはヘンになってゆくのですね……」
「なにが言いたいの?」
そのまま体勢を変えて、アキラと向かい合う。
アキラは少し驚いた顔をして、だけどすぐに胸元に顔を埋めてきた。
その髪を撫でていたら、
「ほら、やっぱりヘンです」
「は?」
意味が分からない。
「あのさー、俺はあんたと違って凡人なわけよ。もっと分かるように言ってくんないと察せないんだわ」
背後にある手が、ぎゅうぎゅうと落ち着きなく動かされる。
握られては開かれて、開いてはまた握られて。
「どんどん大きくなって、僕を軽々と扱うようになって、何をしても困った顔をするだけで、怒ることも減って……ね、ヘンでしょう?」
ちゃんと怒ってるっちゅーに。
いつだってめいっぱいご立腹してるっちゅーに。
単に、諦めるまでの時間が短くなっただけだっちゅーに。
「俺が成長したのが不満ってか。子供だなー」
「ほら、そういうところですっ」
「だって、マジでガキだなーって思うもん」
「むっ、ほんの少し大人びたというだけで、あなたなんてまだまだお子様ですよ」
「うん、そうね。でも、出会った頃と比べたら、かなり変わったんでしょ。自分では分かんねーけどさ」
「ええ、変わりました……これから先、もっともっと変わってゆく」
そんなのは俺だけじゃない。
アッキーだって、アキだって、アッくんだって変わったし、変わっていく。
東峰や葛西だって例外じゃない。
それは概ね成長と呼ばれるもので、体つきだけでなく内面も少しずつ変化していくものなんだ。
比べてアキラは、生まれたときからほぼ完成していた。
肉体はともかく、内面的な変化なんて、ほとんどなかったことだろう。これからだって期待できない。
こいつの変化なんて、東峰への恋心が新たに加わったくらいじゃないだろうか。
「俺の成長が、不満であり不安なわけね」
つまりは、そういうことなのね。
バカだなぁ、ホントバカ、手の施しようがないバカ。
でも、それもこれも、俺のせいかもね。
アッキーたちの変化=成長は、アキラにとっては喜ばしいことだらけだった。
それを望んでいたから。待っていたから。
では、俺は?
きっと望むとおりの姿にはなれなかったのだろう。
やはり守人としては、欠陥品か。
「知らぬ間に、あなたはステキな男性に成長していた。僕がそう思うのなら、周囲はもっと感じ取っていることでしょう」
ああ、なるほど。
そっちが本命なのか。
「周囲とか、どうでもいいよ。興味ない」
「あなたがどうでも、周りは放っておきませんよ。そのうち、目敏い誰かが猛烈アタックを仕掛けてきますよ。
あなたのようなウブな初心者は、あっという間に落ちちゃいますよ。そんな日がいつ来るのか、今日なのか明日なのか。
そんな風にビクビクしながら過ごすのはいやなのです。できればサクッと終わらせてほしいのです。
というわけで、さっさと誰かとくっついてください。この際、遊びでも可」
何を言ってんだろうね、こいつは。
早く誰かとくっつけとか、恋人作れとか言いながら、いざそうなったとき、一番辛いのは自分だと告白してさ。
口に出すな、そんなこと。
知ってるから。
知ってるんだよ。
お前の子供染みた独占欲を、俺も東峰もとっくの昔に承知済みだ。
無邪気に甘えてすぐに膨れてたくさん我儘言って、それでも絶対に離れないと分かったうえでの確信犯のくせに、いまさら怯えてるなんて自白するな。
結局こいつは、俺を縛り付けたいだけなんだ。
継埜守人ではなく高橋昭を、永遠に佐藤晃に縛り付けたくて堪らない。
東峰と同じだけの愛を、俺からも与えられないと不安になる、超絶我儘。
そんなお前を、俺たちは赦してる。認めてる。
だからこそ傍にいるってーのに……。
でも、それも当然か。
当のアキラだけが、自身の歪んだ想いに気付いてないのだから。
なのに嫌悪してやがる。
無自覚にも、己が底意を憎んですらいる。
それゆえにアキラは、いつでも必死だ。
奪われる前に自ら手離そうとして、自分以外の誰かに全力で俺を差し出す。
アッくんにも、そうだったな。
結局は葛西とうまくいったが、そうなってなければ何をしでかしてたかと空恐ろしい。
「遊びでも可とか、サイテーじゃん」
「あなたにはお似合いです」
「愛もないのに、セックスだけしろってか。相変わらずおかしなことばっか言う子だね」
「アーちゃんは、愛が欲しいのですか?」
「一般論を述べてんの」
「そうですか。ですが、あなたの場合、そんなことを言ってる暇は、」
「セックスなんて、急いでするもんじゃないでしょ」
「もうっ、だからいつまでも童貞で処女なのですよ。せっかくおもてになる外見なのですから、ここは相手を選ばず、」
「処女はともかく、童貞は適当に捨てるからいいの。焦ってねーし」
「そういう人に限って、」
「ああ、もう、うっさい子だなー」
「んま、んぅ、……」
うるさい口を口で塞ぐとか、どこの少女マンガよとは思うけど、確かにこれは黙らせるには効果的だ。
さっきまでのお手本のようなキスはせず、すぐに深く口付ける。
執拗に舌を絡ませれば、アキラは何度も喉を鳴らし、飲みきれなかった唾液が頬を伝っていった。
「つまんねーことばっか言ってると思ったら、欲求不満だったわけね」
濡れた口元を指で拭えば、アキラが涙目ですがりついてきた。
中心はとっくに芯が通っていて、モジモジ腰を揺らしている。
マジで、おもしろおかしいイキモノだよな、お前は。
「ううぅ……」
「さっきは出してないもんな」
一回ヌケば、スッキリして寝てくれるだろう。