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2014年クリスマス

[前提の話■アッくん]


アキラのおかしな言動もさほど気にならなくなっていたとある日のこと。

「ちょっとクセ毛で柔らかい自然な茶髪は、パーマ、カラーリング不要でなおかつワックス未使用のままメンズヘアカタログに登場できるレベル。
少したれ眼のわりに甘さ控えめ精悍な目元にすっきり通った鼻筋、薄すぎず厚すぎない唇は、相手に酷薄な印象も軽薄な印象も与えない。
綺麗なひし形の小顔で肩幅は実に広く男らしいうえ、中等部後半から雨後の竹の子のごとく伸びた身長は、気が付けば80の大台。
固い胸筋、割れた腹筋、なのにムチムチマッチョからは程遠い細身なスタイルは、足の長さも相俟って実にうらめし、羨ましい限り」

PCを触っていたアーちゃんの膝に、いきなり向かい合わせに乗りつけたアキラは、アーちゃんの髪やら目やら鼻に触れ、最後には胸元お腹を叩くようにして、ひとつひとつ謎の解説をしていた。
そんなアキラを、アーちゃんは恐々と眺めている。
下手に何か言えばとんでもない結果になりそうで、アーちゃん本人はもちろん誰も何も言い出せなかった。

「宝の持ち腐れとはこのことです!!」

「いてっ」

突然パチーンと両頬を叩かれて、アーちゃんが悲鳴を上げた。

「どうしてそれを活用なさらないのですか!」

「意味が、分かりません」

「まさか、僕の言っていることが分からないなどとおっしゃいますか!?」

「……はい」

「きぃぃっ、情けない!」

「……」

「だからあなたはもてないのです! どんな言語もすぐに理解し、複雑な数式も解けるくせして、男心も女心も理解できないとは情けない、実に嘆かわしい!!」

「……」

アーちゃんは迷惑そうにしながらも、勝手に憤慨するアキラを止めようとはしない。
そればかりか、膝の上で興奮するアキラがバランスを崩さないように、両腕を彼の腰に回していた。
甘い。やはりアーちゃんは、どうしようもなくアキラに甘い。

「活用なさらないのなら、僕にお寄こしなさい!」

「そうしたいのはやまやまですが、こればかりは……」

「ああ、もうっ、どうして天はかように無意味なことをなさるのか! アーちゃんのような喪男(もてない男)に、このような外見は不要なのですっ。
ビザデブで十分なのですっ。だというのにこの始末……宝の持ち腐れどころか、とうに腐れて爛れておるわっ」

「ちょ、痛いってば!」

今度はパーンと頭を叩く。
もちろんアーちゃんの苦情なんか、アキラの耳には入っていない様子。

「比較対象が役員である学園でならばともかく、一般レベルでは決して悪くはない、いえ、ギリイケメン」

「ギリで悪かったな」

「性格の面ではフォローのしようもありませんが、そんなもの初対面では気付かれるはずもなく」

「そっちを褒めろよ」

「ましてや貧乏であることも、咄嗟には判断できぬはず」

「たまに枯渇するだけで、万年金欠みたいに言うな」

「そんなあなたが、どうして喪男なんぞに……」

「……」

「アーちゃんの、まさにリア充のごとき外見を真に欲しているのは、この僕だというのに!」

たまに理解不能の単語を交えながらの長い口上が、ようやく終了しました。
結局、自分こそアーちゃんのようになりたかったっていう愚痴なんだよね。
僕だって同じ気持ちだから、アキラの愚痴もそこそこ支持する。
だけど、そこそこ、だけだ。

「で、それを聞いて、俺はどうすればいいわけ?」

だよね。
そんなこと、アーちゃんに言われてもどうしようもできないよね。
じゃあ、交換、とはいかないだけに。

またいろいろと難癖つけるのかと、アーちゃんも含め皆がビクビクしていたなか、アキラは急に立ち上がりフイッとキッチンに行ってしまった。
全員が、あれ? って顔をしていると、コップを手に戻ってくる。

「いっぱい話したせいで、喉が渇いてしまいました」

そう言ってアーちゃんの隣りに座り、牛乳が入ったコップをテーブルに置く。
アキラから拗ねてる気配は伝わらず、まるで何事もなかったような表情をしていた。

「さほどミルクをお飲みではなかったのに、アーちゃんは随分と伸びましたね」

マウスに触れようとしていたアーちゃんの手が、ピタッと止まる。
ソーッと隣りのアキラを窺いながら、また言いがかりをつけられるのかと警戒している様が、ありありと見て取れた。

「やはり体質なのでしょうね。あと、遺伝も」

「で、でしょうね……」

どうということはない会話が、逆に不気味に思えた。
アーちゃんもありえないものを見る目付きで、しばしアキラを観察していた。

「ゲームなさらないのですか?」

「し…ます……」

「久々に、僕もしてみましょうかね」

「どうぞ……」

いったいなんだったんだろうとは思うけど、忘れたほうがいい気がします。
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