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2013年お正月

[戦いすんで……]


ブツブツ文句を言いながらも、アーちゃんは大人しくアキラの横に腰掛けた。
縁側に並ぶようにして、僕たちも順々に腰を下ろしていく。

さすがに冷えたのか、アーちゃんは枡に注がれた日本酒に真っ先に口をつけた。
いや、自棄酒のつもりかもしれない。
アッキーも黙って枡に口をつける。
僕とアキラは温かいお茶、アキは甘い甘いホットチョコレート、それぞれの好きな物で喉を潤した。

「ふう、さすがに遊び疲れましたね」

「あう、なのよ、なの」

遊び、そうだね、確かに遊び疲れたし、なぜだか精神的にもドッと疲れたよ。

「あ、準備ができたようですね」

アキラが背後を見やりながら口にした言葉に、僕はギョッと目を剥いた。

まままままさか、また何かで争うつもりなの!?

「お雑煮を食べないと、どうにもお正月という気分に浸れませんからね」

「お、お雑煮……お雑煮か……」

その言葉を聞いて、ホッと胸を撫で下ろした。

最初にお餅を食べたし、さきほどの双六でも餅を食べたり甘酒飲んだりと色々したから、かなりお腹は膨れているけど、少しくらいなら大丈夫だ。
やっぱりお雑煮は正月の風物詩だしね。

ならば場所を座敷に戻して、なんて腰を上げかけたら、アーちゃんとアッキーがなんとも複雑な表情で固まっていた。

「ちょ、ちょっと、今年もする気なの!?」

「お、俺は、いいっ」

「何を仰ってるのですか、毎年の恒例ですよ」

「いやいやいや、恒例にしなくていいし」

「貴様の家の慣例に従う必要など、微塵もない」

え、え、なに、なに!?

「むっ、一旦門を潜ったならば、すべてこちらの世に合わせるが決まり、さぁ、はじめますよ、椀子雑煮を!」

「わ、わんこ?」

座敷の奥に居並ぶ女性が、いつの間にやらたすきがけで和服の袖を縛り上げていた。
同じくたすきをかけた紋付の男性たちもいて、大きな大きなそれこそ4人くらいで持ち上げないといけないくらいの大盆を持ち運んできた。

「い、いったい、なに……?」

「一年の計は元旦にありです。我が家では、毎年お雑煮を椀子風にして食し、今年一年たくさんの食に恵まれるようにと、願をかけているのです」

「わ、わんこ……椀子!?」

椀子蕎麦というものを思い出した。
食べ終わった傍からどんどんと蕎麦が入れられてゆき、とにかく限界まで食べまくるという不思議な行事だ。

わんことは、その椀子のことなんだろうか。

確かに、男性たちの運んできた大盆には、これでもかといわんばかりに漆器が乗せられている。

「お餅は通常の4分の1の大きさですし、具も小さく切ってあります。医師も待機しておりますし、安心して食してください」

「するのよ、アッくん、なの」

「え、えっと、ぼ、僕は……」

「ささ渡辺殿、今さら遠慮など無用にございます」

「え、遠慮、とかじゃ……」

笑顔で検討外れのことを言う榊さんに、少し目眩がした。

「できるだけ量を稼げるようにと、あっさりとしたすまし仕立てではありますが、渡辺殿の慣れ親しんだお味があれば、すぐにご用意いたします」

新たに現れた男性陣の中から、一番偉いと思われる人が平伏しながら口にしてくれた好意の言葉に、僕の顔面は引き攣った。

「い、いえ、うちもすましなので……」

それは良かったとか、笑顔で言われちゃいました。

アーちゃんとアッキーが諦めたように座布団の上に座った。
アキもぴょんと飛び上がるようにして座る。
さすがに、僕ひとりが和を乱すなんて決してしてはいけないと、大人しく座布団に正座した。

アーちゃんとアッキーが、ごそごそと袴紐を弛めだす。
あ、そ、それ、どうやるのか、僕にも教えてよ!

「今年は新記録を期待しておる。各自そのような心積もりで挑め」

今日一番の笑顔で、アキラが……いや、雪客様が皆へと言葉を投げかけた。
僕は袴を弛めることを諦めて、仕方なくアーちゃんたちに習って器を持つ。

背後では別の器を手にした女性が、いつでもOKとばかりに気合を入れていた。

今年初めての参戦なんだから、どんな記録が出ても僕にとっては新記録だよね。

「では、はじめっ」

こんなときでも榊さんの声は渋く、とても聞き取りやすい落ち着いた声だと、感動する自分がいた……。
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