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2012年ハロウィン

[ぱぱさん]


「とりっ、ああ、とりっ、なのよっ」

一般人の出入は禁止となっている生徒会室。
なぜ今日だけは入室可なのかは置いておき、中にはこの学園のボスとも呼ぶべき存在が、なにやら難しい顔で鎮座しておりました。

こんな大事な日にまで仕事とは、本当に頭が下がる思いです。
しかし、戦いとは得てして非情なもの、最初の掛け声は聞こえなかったようなので、再度音量を上げて叫びます。

「とりっ、ああ、とりっ、なのよっ!」

「ん? ああ、アキか……なんだ、その格好は?」

どうやらハロウィンという戦いに会長は気付いてないようです。
ならば次の手を仕掛けるのみです。

「あ、うう、するのよ、なのっ」

手をじわじわと動かしながら、相手を威嚇します。
普通の人間ならば、その動きを見ただけで擽られる様を想像し、耐え難い苦痛を味わうのです。

「なんだ? いや、それよりも、あれほど嫌がってたくせに、なんでこんなもん付けてんだ?」

「あ、うあ、うっ」

無遠慮にも、アキの戦士たる誇りである猫耳に触れてきました。

毎年毎年同じことをしているのに、毎年毎年どうでもいいという姿勢で臨むこの男。
さすがです。
さすがはアキラの旦那様、ある意味似た者夫婦なのだと、アキは今年も実感しました。

「とりっ、ああ、とりっ、なのよ! するのっ、なのっ!」

一歩引き下がりしっかりと猫耳を守りながら、菓子を寄越さなければいたずらすると、最後の勧告をします。

「あ? ああ、そうか、ひょっとしてハロウィンか?」

ひょっとしてとは、なんたること。
自分が最強の存在なのだと信じ込んでいる男は、興味のないイベントには、どこまでも無関心なようです。
本当に、呆れるほど傲慢だと、アキは内心かなり憤慨いたしました。

「ちょっと待ってろよ。……確か、右京が……ああ、あったあった。ほら」

かなりの強敵になると予想していた男は、あっさりと負けを認め、戸棚から取り出した四角い缶をアキに渡してくれました。

「あ、う」

意外に大きめの缶には見覚えがあります。
菓子好きなら名前くらいは知っているかもしれない、それくらい有名な老舗店のクッキー詰め合わせ缶です。

但し、会員にならないと買えないという、値段はおろか営業方針も高級感漂う店なのです。
これはおそらく1万円くらいだったはず。
しかし、値段に驚いてはいけません、これは中身に驚かないといけないのです。

とても高級感溢れる、20種類以上にも及ぶクッキーが、四角い缶の中にそれはもうぎっしりと、本当に隙間無くぎっしりと詰められているのです。
もちろん1つ1つ包装されてるわけではありません。
ある意味、とても庶民感覚です。
まるで菓子の掴み取りでもしたかのように、敷居なんて何もない缶の中に、本当に本当にぎっしりと詰められているという、良心的なのかそうじゃないのか、よく分からない有り難い品物なのです。

「右京が持ってきたんだが、問題ねぇだろ」

人様が買った物を、さも当然のような態度で敵に渡し、無駄な争いを回避する男に、アキは空恐ろしいものを感じました。

己のためならば、この男はきっと仲間ですら売り渡すに違いない。
いや、絶対にする。

しかしそこで、アキは自分の考え違いに気がつきました。

東峰雅人という人間は、己と"アキラ"のためならば、鬼にも蛇にも、悪魔にだって悦んでなる男なのです。
きっとこの男は、アキの凱旋を待つアキラの気配を、感じ取ったに違いありません。

「う、ああ、ありがと、なの、のよ」

やはり彼は、学園の王様である前に、アキラの旦那=パパなのです。
それはつまり、アキのパパでもあるのです。

「ぱぱさん、いれるの、なの、のよ」

背中を向けて催促すれば、ぱぱさんは笑顔のまま黒猫に缶を持たせてくれました。
背中がとてもホッコリとしてきます。

副会長に後でどやされる可能性は高いですが、それはぱぱさんお得意の「黙れ、俺がルールだ」が発動されることでしょう。
まさにジャイ○ンのようですが、それはアキが気にすることではありません。

「いくの、のよ」

「あんま食いすぎんじぇねぇぞ」

「あい、なの」

大きなお世話で送り出すぱぱさんに別れを告げ、アキは新たな戦場へと向かうのでした。


誰の所に行く?

アッくん

アッキー

アーちゃん

ちゃらさん

凱旋
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