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平凡君の日々彼此

[平凡君の日々彼此15]


アーちゃんの部屋に泊まるのに、特に理由なんてない。
話し込んでるうちになんとなく、いつもそんな感じ。
今回も、その流れだった。

夕飯が終わったら、アーちゃんがお酒を出してきた。
僕とアキとで説教するも当然耳を貸すはずもなく、結局アッキーと二人で飲みだした。
そうして、あれよあれよというまに、アキは睡魔に捕らわれて、僕もうとうと舟を漕いでいたのだ。



不意に、意識が浮上してくる。
ゆっくりと。
半分以上、夢心地な気分のまま、うっすらと瞼を開く。
細い視界で、リビングの灯かりが最小になってることを知った。

アッキーがアキを担いで自室に戻ったのは、なんとなく覚えている。
だけど、その後の記憶がなかった。
毛布が掛けられているから、たぶん、そのまま寝ちゃったんだ。

アーちゃんたちも寝たのかな。
じゃあ、僕もこのまま目を閉じちゃおうかな。
そんなことをボウッと考えてたとき、リビングの薄明かりの下、アキラとアーちゃんがいまだ起きてるのに気が付いた。

アーちゃんのことだから、まだまだ飲む気なんだろうなぁ。
それに付き合うなんて、アキラは優しいなぁ。

僕の位置からは、アキラの後頭部しか見えなくて、その表情を察することはできない。
だけど、小さな声でボソボソ喋り、たまにクスクス笑う声が聞こえたから、楽しんではいるのだろう。
さすがに眠すぎて、僕も参加という気分にはならないけど。

楽しそうな二人をボンヤリ眺めてたら、アキラの正面にいたアーちゃんが動きだした。
アキラの後頭部に手を添えて、ゆっくりと顔を近づけ……。

「っ……!?」

くちゅといやらしい音がして、咄嗟に悲鳴を噛み殺した。
アキラの鼻から抜けたような声を聞かなくとも、目の前の出来事を理解するのは容易い。

以前、アーちゃんが語っていたことは、本当だったのだ……。

口付けはどんどん激しさを増し、いつしかアキラはアーちゃんに抱き締められていた。
どこから見ても、愛し合う者同士の交わす口付けは、とてもいやらしくて、そのくせ胸が痛むほど高潔に見えた。
これは、二人の秘め事だ。
僕なんかが、見ていいものじゃない。

遅きに失したが、瞼を堅く閉じ合わせることで、彼らの姿を視界から抹消する。
なかったことにしてしまいたい。
彼らの邪魔は、したくない。
そんな気持ちで、このまま意識を手離せたらと祈りながら。

やがて立ち上がる気配がして、続いて寝室のドアの開閉音がした。
どうやら、寝室に行ったらしい。
二人が消えたことでホッとしながらも、眼を開ける勇気はなかった。
リビングには僕以外いないというのに、それでも寝たフリを続けていたのだ。
いますぐ朝になってくれたらいいのに……。

暫くそうしていると、寝室のドアが再度開かれる音がした。
誰か、出てきたんだ。
足音からして、たぶんアーちゃんだろう。
ジッとしてて良かった。

アーちゃんと思しき気配は、テーブルの上を片付けていた。
食器をキッチンへと運び、それが終わると今度は僕の傍へとやって来る。
緊張しながらも、必死で寝たフリを続けた。

「アッくんも、おやすみのチューされたい?」

「わぁっ」

耳に息が当たるほどの至近距離で囁かれて、内容よりもそのことにびっくりした。
僕の狸寝入りなど、アーちゃんにはとうにお見通しだったのだ。

「オプションで、添い寝も付けてあげるよ」

「い、いいっ…いらない……」

観念して、後ろめたさとともに顔を上げた。
そんな僕を見て、アーちゃんはニヤニヤ笑っている。

「あら、残念。じゃあ、自力で寝てちょうだい」

泊まったときは、だいたいソファベッドを借りている。
今回も、アーちゃんが手際よく調えてくれました。

「はいどうぞ」

「あ、ありがと……」

「どういたしまして」

ノソノソとベッドに移動したら、アーちゃんが布団を掛けてくれた。
ついでに、ポンポンと上から叩いてもくれる。
まるで、子供にするみたいに。

「アーちゃんは、寝ないの?」

「寝るよー」

「ん、んと……ごめんね。えっと、お、おやすみ、なさい……」

枕に顔を押し付けながら、相手を見もせずに伝える。
何に対しての謝罪かは言わないし、訊かれもしない。
ただなんとなくだけど、アーちゃんがいつもの意地悪な笑みを浮かべてる気がした。

「電気、消すよ」

「うん、お願い…します」

部屋が完全に暗くなると、急激に眠くなってきた。
もともと眠くて堪らなかったせいなのか、それとも暗闇に安堵したからだろうか。

「おやすみ」

アーちゃんが、最後にくしゃりと髪を撫ぜてくる。
それを心地よく感じながら、睡魔の誘惑に逆らうことなく身を任せた。
このまま朝まで、ぐっすりと眠れそうだ。
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