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ひねもすのたりのたり

[ひねもすのたりのたり5-1]


アキの通う王道学園にも、当然のごとく夏休みがある。
その間、寮からも学校からも、完全に人が消える。
生徒も先生も、帰省するからだ。

アキにとっての故郷とは、アッキーの住む御山だ。
母が亡くなってからずっとずっとお世話になってる家は、もともとアキにとっても地元といえる場所にあり、幼い頃から何度も行き来していたことで、アキにとっては既に自分の家と変わらなかった。

アキとアッキーは、だいたい夏休みの二日目か三日目くらいに帰省している。
荷物はたいして持って帰らない。
必要な物は、あっちにほとんど揃っている。

アッキーと一緒に電車に乗り、途中、おみやげを購入するのが慣わしだ。
めったに山を降りない人たちに、アキおすすめのお菓子を食べさせてあげたい。
本当は、ご相伴に預かりたい。もっと本音を言えば、見せるだけで済ませたい。
だが、アッキーがおみやげだと言い張るから、自分専用も買ってもらうことで満足している。

駅に着くと、必ず車が待っている。
バスもあるけど、基本面倒くさがりのアッキーは、待つのをとことん嫌っていた。
学校ではちゃんとバスを待つくせに、こういうところは我儘だと思う。

山を登っていくとでっかいでっかい、それはもうでっかいお屋敷が見えてくる。
しかも、一棟二棟ではない。
アッキーの実家は、下世話な言い方をすればお金持ちだ。
どれくらいかというと、アキが毎日お腹いっぱいのケーキとA5ランクの牛肉食べ放題をしても、破産しないくらいのお金持ち。
その割りに、満足しきるまでのケーキもお肉も食べさせてくれず、あろうことかトマトやキャベツを勧めてくるから、内情は苦しいのかもしれない。
まぁ、アキには割りとどうでもいいことだった。

家に着くと、まずは自分の部屋で荷解きをする。
たいした荷物はないが、アキお気に入りのパンツはタンスに仕舞っておかなければならない。
アッキーが手伝ってくれないせいで、とても手間のかかる作業だ。
それから、皆と少し談笑する。
アッキーの家には、たくさんのお仲間なる人たちが住んでいて、アキにとってはもう家族も同然だった。
おみやげのお菓子をお茶請けに、学校の報告を兼ね、いかにアッキーが怠け者かを伝えておく。

成績表は、ジジさん(アッキーのおじい様)に渡す。
場合によっては、その後お説教だ。
酷いときにはお尻ペンペンされるが、めったに赤点を取らないアキはそうそう叩かれたりはしない。
心配なのは、アッキーのほうだった。
彼は本当に怠け者なのだ。
嫌いな科目はほとんど授業に出ないうえ、試験など端からやる気を見せない。
点数がギリギリのときもあれば、うっかり白紙で出すときもあり、成績は常に極端になりがちだった。
悪いときは、当然ジジさんのお叱りが待っている。
なんのために学校に通ってるのかから始まり、拳や蹴りが炸裂するのだが、すべてを無表情で躱すアッキーのせいで、余計にジジさんの怒りを招くことになる。
激しい攻防の末、血管が切れそうなジジさんと、涼しい顔をしたアッキーが睨みあうのだが、あまりにも恐ろしい親子喧嘩(?)を間近で見ていたアキは、毎度恐怖で固まることになる。
自分のことではないのに、あまりにも理不尽だ。

いくら叱ろうとも、アッキーの耳に説教(馬の耳に念仏と同義)と悟ったジジさんは、ある日を境に物で釣るという作戦に出た。
ようやく、レベルアップしたのだ。
それはアキにも適用され、見事成果を上げたのは言うまでもないこと。
ただし、アッキーからの要求が、毎年毎年跳ね上がったことは、計算外だったかもしれないが。

適当に夏を満喫しつつ暫く経つと、アキラとアーちゃんがやって来る。
二人が泊り込むのは実に喜ばしいことだが、ここぞとばかりに夏休みの宿題をやらされるのが難点だった。
しっかりと隣りについて、絶対に逃がすまいと張り切るのは、おおむねアーちゃんで、アキラもアッキーもこのときばかりはアーちゃんの肩を持つのが気に食わない。
この間はおやつがご褒美制になるのも、解せなかった。

しかしながら、夏休みとは遊ぶための休暇であり、それをアーちゃんたちも理解している。
日々の宿題が終われば、いろんなところに連れて行ってくれるのだ。

広い山でキャンプをすれば、アキは川で泳ぎ、アーちゃんは川釣りを楽しむ。
食事はアキの大好きなバーベキューで、アキラとアッキーが準備をしてくれた。

ちょっと車を走らせれば、青い青い海が待っている。
アキは興奮して泳ぎまくり、たまにビーチボールで遊んだり。
アーちゃんはたいてい甲羅干しをしているか、ふっと姿を消してしまうか、はたまたアキとビーチボールで遊ぶか泳ぐかのどれか。
アキラとアッキーは水着にすらならず、ほぼビーチパラソルから出てこない。
たまに海の家に引きこもり、焼きそばカレーライスその他諸々を、海の定番ですねなどと言いながら食している。
あ、これはアキラだけだった。
前世は河童に違いないとまで言われるアキは、クタクタになるまで泳ぐのが大好きだ。
そして、必ずかき氷とアイスキャンディを食べるのがルールだった。

そうしてお盆の時期、アキの大好きな夏祭りがやってくる。
縁日と花火は、夏のもっとも重要なイベントだ。
アキラが毎年買ってくれるジンベエさんを着こなし、支払い担当のアーちゃんといざ出陣。
もちろんアッキーもアキラも一緒に。

まずは金魚すくいでバトル。
その後、定番の綿菓子を入手する。そうそう、りんご飴を忘れてはいけない。
ラムネ、チョコバナナ、ベビーカステラ……ああ、極楽極楽。

そして、ようやくにして花火の時間がやってくる。
実はこの時間帯、アキたちは帰宅している。
少し距離があるが、アッキーの家は花火を見るのに最適な位置にあるのだ。
わざわざ人混みで見るのを避け、アキたちはお家でのんびりと花火見学をする決まりだった。

最後の花火が終わると、アキはちょっぴり寂しくなる。
そして、どことなくしんみりしょんぼり気分で、冷たいスイカを頬張るのだ。
このときのスイカは、少し甘じょっぱい味がした。
去りゆく夏の流した涙の味か……、んなわけないっ!!

「うがー!」

「あ、悪い悪い。俺のこっちだった」

アーちゃんが、自分の分と間違えて塩をかけたらしい。
なんたること、しんみり気分が台無しではないか。

お盆を過ぎると、アキラとアーちゃんのお泊りは終了する。
彼らは夏休みの終わりまで、パパさんの別荘に滞在するのだ。
アキもたまに遊びに行くし、どうせ夏休みが終われば寮で会えるのだから、寂しくなんかない。

これが、中学一年生から始まった、キラキラ会の定番の夏休みだった。
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