アーちゃん■MMO日記
[アーちゃん■MMO日記17-4]タマ目線
僕が憧れてるのは書記様だけど、それは恋愛対象としての好意ではない。
親愛とか敬愛とか、そんな感じ。
僕の気持ちを押し付ける気はないし、書記様になにかを強要する気もない。
ただ彼が幸せであれば、それだけで僕も幸福感に浸れるのだ……。
大切な人がいると聞かされたときは、驚いたし嬉しかった。
それがまさか、高橋先輩みたいな人だとは思わなかったけどね。
でも書記様が、ご自分の意思で選んだ方だし、僕たちがあーだこーだ言うのはおかしい。
親衛隊は勝手に書記様に憧れる集団であり、書記様の自由を束縛する権利はないのだ。
それが徹底されたのは、僕が中学三年のときだった。
こう言ってはなんだけど、僕は前々からそういう意識を持っていた。
だからこのときは、何をいまさらと思っていたのだ。
やがて高校に上がり、正式に入隊した折りに明かされた話は、僕を途轍もなく落胆させ、また再度襟を正すことにもなった。
それは、当時一年生だった生徒の身に降りかかった災難であり、たった一人の転校生により、親衛隊の暗部が浮き彫りになった出来事。
それを切っ掛けに親衛隊は変わったと、先輩たちは語ってくれた。
先輩たちにとっては、間違いなく恥部であり汚点である過去を、包み隠さず語ってくれた彼らを僕は尊敬する。
さて、難しい話はこのくらいにして、僕にとって大事なのは書記様であり、彼が幸せだと感じてくれること。
高橋先輩は、書記様にとってどういった存在なんだろう?
親友? 恋人? 家族? お母さんみたいな人?
どれもしっくりこないんだよなぁ。
全部ひっくるめた存在ていうのが、一番近いのかもしれないね。
「タキくんだっけ?」
「谷です」
「そうそう、タマくん」
「だから、谷です」
「さっきからそう言ってんじゃん」
「どこがですか」
「いいか、タマ」
「谷です」
このやり取りを、何度と繰り返したことか……。
高等部に上がる前から、僕は高橋先輩を知っていた。
会話だってしたことがある。
中等部と高等部は近い位置にあって、在校生の許可があれば、遊びに言っても構わないんだ。
あまりに頻繁だと、注意されちゃうけどね。
だから僕も、高等部には何度も行ったことがある。
そのときに、たまたま高橋先輩と話す機会があったというわけ。
最初、文化祭――中等部の生徒の見学は自由――で見たときは、イメージが違いすぎて愕然とした。
書記様が大切な人とおっしゃるくらいだから、とても愛らしい美少年を想像してたんだもの。
イメージが崩れたのはショックだったけど、だからといって、書記様の選んだ相手に文句を言うつもりはない。
でも、すごく気にはなった。
そうしたら、書記様はあの先輩のどこに惹かれたのかなとか、どんな人なのかなとか、そんなことばかり考えるようになっていたんだ。
分からないことや知りたいことは、調べないと気の済まない僕は、直接高橋先輩に問いかけてみた。
『書記様は、高橋先輩のどこに惹かれたんでしょうか?』
と。
それに対する高橋先輩の回答は、実に簡潔なもの。
『知るかっ』
それからは、先輩を見つけるたびに、声をかけるようになった。
でも、あくまでも、彼が一人でいるときだけ。
だって、親衛隊の隊員と親しくしてるせいで、高橋先輩に迷惑がかからないとも限らないもの。
どうやっても親衛隊のイメージは、いいものとは思えない。
今は変わったとはいえ、やはり過去の行いが消えるわけではないから。
そうやって知っていくたび、高橋先輩の印象は酷くなるばかりだった。
まず、せこい。そして、横暴。
口は悪いし態度だってよくないし、何より、人の名前を覚える気がまったくないんだよ。
僕をタマと呼び、犬のように扱い、書記様のお話をしてくれるって言うくせに、すぐに約束破るし、嘘付きだし……ああもう、いくらでも悪態がつけそうだよ。
それでも僕は諦めなかった。
高橋先輩ができるだけ書記様に会ってくださるよう務めたかったし、できるだけ先輩のことを理解したくもあったから。
それは、早朝から図書室に来た先輩に、またもやコーヒーを奢り、いつも通り約束を反故にされた日のことだった。
休日の当番という一番損な役回りではあったけど、勉強する高橋先輩なんて珍しいものが見れて、少しだけ彼の印象が変わった。
滅多に選出されない特待生であり、常に次席をキープする秀才だというのは知ってたけど、それを実感することはこれまでなかった。
だってね、先輩の言動一つ一つが、ちょっとアホっぽいんだもの。
でも隣りに座ったときに見た参考書は、僕なんかには理解不能なレベルのものばかりだった。
ノートはかなり読みづらくて、こんなところで字の汚さに気付けたけど、それだって中身は――字の汚さは別にして――さっぱり理解できないものばかり。
もともとSの授業は大学レベルと聞いてたけど、それを猛烈に思い知った出来事だった。
ちょっと見直したけど、だからといって書記様のことをウヤムヤにした恨みは忘れない。
何か一つくらい見返してやりたいと思うのは、当然でしょ。
いろいろと目的がズレてきてるのは、自覚してますよ……。
学園に情報屋なんてのがあることを、この日初めて知った。
浜田先輩が言うには、知ってる人は知っていて、知らない人はまったく知らないというくらい、有名なんだそうだ。
意味はよく分からなかった。
最初に声をかけてきたのは、浜田先輩のほうだった。
なんでも、僕が高橋先輩ばかり見てるから、気になったということらしい。
小さく、金の臭いがした、とも呟いていた。
「お、お金、取るんですか?」
「世の中ギブアンドテイクだよ。俺は知りたい情報をキミに与える、キミはそれに見合うもの差し出す。当然だろ」
「見合うもの。お金じゃなくてもいいってことですか?」
「賢いねー、キミ。そう、情報に対して情報でもいいんだよ」
「はぁ、なるほど、それだとその情報をまた別の人に売れますものね」
「そうそう」
細い目の先輩に、ガシガシと頭を撫でられた。
なんとなく、高橋先輩と気が合う理由が垣間見えた気がする。
「で、キミは、高橋の何が知りたい?」
「え、別に」
「あれ……」
「んと、そういうの聞くのは、あまりよくないと思うので、いいです」
「ああ、そういうこと。イイコちゃんだねー」
その小バカにする言い方に、ちょっとだけムッとした。
でも相手は先輩だし、僕は親衛隊の看板を背負ってるから、なんとか表情に出さないよう堪えた。
「イイコちゃんとかじゃなくて、そういうのを他人に言い触らされるの、僕だったら嫌ですから」
「そっかそっか、まだまだ純粋なんだね。いいことだ」
完全に、バカにされてる。
こういうのが嫌だっていうのは、たぶん、僕が恵まれたお子様だからだろう。
社会に出て戦うことも、人を蹴落とし生き抜くことも、まだ何も知らない子供。
「た、高橋先輩は、利用したことあるんですか?」
「高橋は、お得意様の一人だよ」
「えっ」
「何を驚くの?」
「いや、だって、あの……あの人、すごくせこいじゃないですか、それでよくお金を払ったなって……」
その瞬間、浜田先輩が盛大に笑いだした。
声をかけられたときから奥の書庫に移動してたのが幸いして、誰にも見咎められることはなかったけど。
「面白い、キミ、マジで面白いわ。気に入った」
「あ、ありがとう、ございます」
「高橋とも、そのノリでやってんの?」
「え、そのノリって、コントじゃないですし、ノリとかは考えてないですけど」
まだ笑っている浜田先輩が、僕の肩をバンバン叩いてくる。
「よしよし、その調子なら大丈夫だろう」
「何がですか?」
「ホントはね、忠告したほうがいいのかなって考えてたんだけど、いやぁ、天然最強ってのはあながち嘘じゃなさそうだ」
「あの、お話が見えないんですが」
「キミさ、書記様んとこの隊員でしょ」
「え、なんで知って」
「ちょっと前から高橋の傍をうろつく隊員がいるってのは、俺の手帳に記入済みだよ」
「はぁ……」
「書記様と高橋の関係も、もちろん知ってる。言わないけどね」
「それは、たとえば情報として欲してる人にも言わないってことですか?」
「難しいこと聞くねー。当たり障りない範囲、そう例えば、知り合いらしいよ、くらいで収めるかな」
「どうしてです?」
「怖いもん」
「親衛隊が?」
「まさかー」
「じゃあ、誰が?」
それについては、答えは得られなかった。
その代わり、と浜田先輩は、高橋先輩が意外と世話焼きで、彼の部屋は友人たちのたまり場になってると教えてくれた。
「高橋の部屋って、不思議と居心地がいいんだよねー」
「へぇ、落ち着いた感じなんですね。物が少ないのかな?」
「いや、そうじゃないよ。あいつ、ああ見えて物欲激しいから、物なんかありすぎるほどあるって感じだし」
「へぇ……」
そのとき脳裏に描かれたのは、まさに高校生男子そのものの汚部屋だった。
そういうところに集まって、ダラダラマンガ読んだりしてるんだろうな。
そりゃ、落ち着ける人には落ち着ける環境だろうね。
僕は、絶対に嫌だけど。
次に高橋先輩を目撃したのは、食堂でだった。
誓って言うけど、僕は彼をつけていたわけじゃない。
休日の図書委員は交代制で、僕の当番が終わったから昼食をとりにきただけなんだ。
いかにも外国人な先輩と一緒にいる彼を見つけて、会話が英語だったことに目を瞠った。
早口すぎたことと距離が遠すぎたことで、内容はほとんど聞き取れなかったけど。
だけど、高橋先輩が虐めっ子だという確証は得られた。
それをそのまま伝えたら、高橋先輩はやっぱり僕に意地悪をしてきた。
またもや缶コーヒーを買わせ、今回は味の注文までつけてきたのだ。
本当に、とんでもなく横暴な先輩だ。
ちゃんと会話したくて、どうにか付け入る隙はないかを考えてたら、知らぬ間に先輩の部屋の前まで来てしまった。
これは僕の失敗。
そんなことするつもりじゃなかったから、激しく後悔した。
だけど初めて立ち入った内部に興奮するのも止められず、結果、なぜだか部屋にお邪魔するという図々しさまで発揮した。
だけどここで、ピンときたよ。
高橋先輩のことだから、汚部屋を掃除させるつもりだってね。
彼なら、それくらい平気でやらせるはずだもの。
というのは、結局僕の勘違いだったし、いろいろと失礼なこともしてしまったし……。
浜田先輩のことは、きっと気分良くない話だよね。
だけどね、本当に水を出すところが、やっぱり高橋先輩なんだなぁと思っちゃった。
僕が憧れてるのは書記様だけど、それは恋愛対象としての好意ではない。
親愛とか敬愛とか、そんな感じ。
僕の気持ちを押し付ける気はないし、書記様になにかを強要する気もない。
ただ彼が幸せであれば、それだけで僕も幸福感に浸れるのだ……。
大切な人がいると聞かされたときは、驚いたし嬉しかった。
それがまさか、高橋先輩みたいな人だとは思わなかったけどね。
でも書記様が、ご自分の意思で選んだ方だし、僕たちがあーだこーだ言うのはおかしい。
親衛隊は勝手に書記様に憧れる集団であり、書記様の自由を束縛する権利はないのだ。
それが徹底されたのは、僕が中学三年のときだった。
こう言ってはなんだけど、僕は前々からそういう意識を持っていた。
だからこのときは、何をいまさらと思っていたのだ。
やがて高校に上がり、正式に入隊した折りに明かされた話は、僕を途轍もなく落胆させ、また再度襟を正すことにもなった。
それは、当時一年生だった生徒の身に降りかかった災難であり、たった一人の転校生により、親衛隊の暗部が浮き彫りになった出来事。
それを切っ掛けに親衛隊は変わったと、先輩たちは語ってくれた。
先輩たちにとっては、間違いなく恥部であり汚点である過去を、包み隠さず語ってくれた彼らを僕は尊敬する。
さて、難しい話はこのくらいにして、僕にとって大事なのは書記様であり、彼が幸せだと感じてくれること。
高橋先輩は、書記様にとってどういった存在なんだろう?
親友? 恋人? 家族? お母さんみたいな人?
どれもしっくりこないんだよなぁ。
全部ひっくるめた存在ていうのが、一番近いのかもしれないね。
「タキくんだっけ?」
「谷です」
「そうそう、タマくん」
「だから、谷です」
「さっきからそう言ってんじゃん」
「どこがですか」
「いいか、タマ」
「谷です」
このやり取りを、何度と繰り返したことか……。
高等部に上がる前から、僕は高橋先輩を知っていた。
会話だってしたことがある。
中等部と高等部は近い位置にあって、在校生の許可があれば、遊びに言っても構わないんだ。
あまりに頻繁だと、注意されちゃうけどね。
だから僕も、高等部には何度も行ったことがある。
そのときに、たまたま高橋先輩と話す機会があったというわけ。
最初、文化祭――中等部の生徒の見学は自由――で見たときは、イメージが違いすぎて愕然とした。
書記様が大切な人とおっしゃるくらいだから、とても愛らしい美少年を想像してたんだもの。
イメージが崩れたのはショックだったけど、だからといって、書記様の選んだ相手に文句を言うつもりはない。
でも、すごく気にはなった。
そうしたら、書記様はあの先輩のどこに惹かれたのかなとか、どんな人なのかなとか、そんなことばかり考えるようになっていたんだ。
分からないことや知りたいことは、調べないと気の済まない僕は、直接高橋先輩に問いかけてみた。
『書記様は、高橋先輩のどこに惹かれたんでしょうか?』
と。
それに対する高橋先輩の回答は、実に簡潔なもの。
『知るかっ』
それからは、先輩を見つけるたびに、声をかけるようになった。
でも、あくまでも、彼が一人でいるときだけ。
だって、親衛隊の隊員と親しくしてるせいで、高橋先輩に迷惑がかからないとも限らないもの。
どうやっても親衛隊のイメージは、いいものとは思えない。
今は変わったとはいえ、やはり過去の行いが消えるわけではないから。
そうやって知っていくたび、高橋先輩の印象は酷くなるばかりだった。
まず、せこい。そして、横暴。
口は悪いし態度だってよくないし、何より、人の名前を覚える気がまったくないんだよ。
僕をタマと呼び、犬のように扱い、書記様のお話をしてくれるって言うくせに、すぐに約束破るし、嘘付きだし……ああもう、いくらでも悪態がつけそうだよ。
それでも僕は諦めなかった。
高橋先輩ができるだけ書記様に会ってくださるよう務めたかったし、できるだけ先輩のことを理解したくもあったから。
それは、早朝から図書室に来た先輩に、またもやコーヒーを奢り、いつも通り約束を反故にされた日のことだった。
休日の当番という一番損な役回りではあったけど、勉強する高橋先輩なんて珍しいものが見れて、少しだけ彼の印象が変わった。
滅多に選出されない特待生であり、常に次席をキープする秀才だというのは知ってたけど、それを実感することはこれまでなかった。
だってね、先輩の言動一つ一つが、ちょっとアホっぽいんだもの。
でも隣りに座ったときに見た参考書は、僕なんかには理解不能なレベルのものばかりだった。
ノートはかなり読みづらくて、こんなところで字の汚さに気付けたけど、それだって中身は――字の汚さは別にして――さっぱり理解できないものばかり。
もともとSの授業は大学レベルと聞いてたけど、それを猛烈に思い知った出来事だった。
ちょっと見直したけど、だからといって書記様のことをウヤムヤにした恨みは忘れない。
何か一つくらい見返してやりたいと思うのは、当然でしょ。
いろいろと目的がズレてきてるのは、自覚してますよ……。
学園に情報屋なんてのがあることを、この日初めて知った。
浜田先輩が言うには、知ってる人は知っていて、知らない人はまったく知らないというくらい、有名なんだそうだ。
意味はよく分からなかった。
最初に声をかけてきたのは、浜田先輩のほうだった。
なんでも、僕が高橋先輩ばかり見てるから、気になったということらしい。
小さく、金の臭いがした、とも呟いていた。
「お、お金、取るんですか?」
「世の中ギブアンドテイクだよ。俺は知りたい情報をキミに与える、キミはそれに見合うもの差し出す。当然だろ」
「見合うもの。お金じゃなくてもいいってことですか?」
「賢いねー、キミ。そう、情報に対して情報でもいいんだよ」
「はぁ、なるほど、それだとその情報をまた別の人に売れますものね」
「そうそう」
細い目の先輩に、ガシガシと頭を撫でられた。
なんとなく、高橋先輩と気が合う理由が垣間見えた気がする。
「で、キミは、高橋の何が知りたい?」
「え、別に」
「あれ……」
「んと、そういうの聞くのは、あまりよくないと思うので、いいです」
「ああ、そういうこと。イイコちゃんだねー」
その小バカにする言い方に、ちょっとだけムッとした。
でも相手は先輩だし、僕は親衛隊の看板を背負ってるから、なんとか表情に出さないよう堪えた。
「イイコちゃんとかじゃなくて、そういうのを他人に言い触らされるの、僕だったら嫌ですから」
「そっかそっか、まだまだ純粋なんだね。いいことだ」
完全に、バカにされてる。
こういうのが嫌だっていうのは、たぶん、僕が恵まれたお子様だからだろう。
社会に出て戦うことも、人を蹴落とし生き抜くことも、まだ何も知らない子供。
「た、高橋先輩は、利用したことあるんですか?」
「高橋は、お得意様の一人だよ」
「えっ」
「何を驚くの?」
「いや、だって、あの……あの人、すごくせこいじゃないですか、それでよくお金を払ったなって……」
その瞬間、浜田先輩が盛大に笑いだした。
声をかけられたときから奥の書庫に移動してたのが幸いして、誰にも見咎められることはなかったけど。
「面白い、キミ、マジで面白いわ。気に入った」
「あ、ありがとう、ございます」
「高橋とも、そのノリでやってんの?」
「え、そのノリって、コントじゃないですし、ノリとかは考えてないですけど」
まだ笑っている浜田先輩が、僕の肩をバンバン叩いてくる。
「よしよし、その調子なら大丈夫だろう」
「何がですか?」
「ホントはね、忠告したほうがいいのかなって考えてたんだけど、いやぁ、天然最強ってのはあながち嘘じゃなさそうだ」
「あの、お話が見えないんですが」
「キミさ、書記様んとこの隊員でしょ」
「え、なんで知って」
「ちょっと前から高橋の傍をうろつく隊員がいるってのは、俺の手帳に記入済みだよ」
「はぁ……」
「書記様と高橋の関係も、もちろん知ってる。言わないけどね」
「それは、たとえば情報として欲してる人にも言わないってことですか?」
「難しいこと聞くねー。当たり障りない範囲、そう例えば、知り合いらしいよ、くらいで収めるかな」
「どうしてです?」
「怖いもん」
「親衛隊が?」
「まさかー」
「じゃあ、誰が?」
それについては、答えは得られなかった。
その代わり、と浜田先輩は、高橋先輩が意外と世話焼きで、彼の部屋は友人たちのたまり場になってると教えてくれた。
「高橋の部屋って、不思議と居心地がいいんだよねー」
「へぇ、落ち着いた感じなんですね。物が少ないのかな?」
「いや、そうじゃないよ。あいつ、ああ見えて物欲激しいから、物なんかありすぎるほどあるって感じだし」
「へぇ……」
そのとき脳裏に描かれたのは、まさに高校生男子そのものの汚部屋だった。
そういうところに集まって、ダラダラマンガ読んだりしてるんだろうな。
そりゃ、落ち着ける人には落ち着ける環境だろうね。
僕は、絶対に嫌だけど。
次に高橋先輩を目撃したのは、食堂でだった。
誓って言うけど、僕は彼をつけていたわけじゃない。
休日の図書委員は交代制で、僕の当番が終わったから昼食をとりにきただけなんだ。
いかにも外国人な先輩と一緒にいる彼を見つけて、会話が英語だったことに目を瞠った。
早口すぎたことと距離が遠すぎたことで、内容はほとんど聞き取れなかったけど。
だけど、高橋先輩が虐めっ子だという確証は得られた。
それをそのまま伝えたら、高橋先輩はやっぱり僕に意地悪をしてきた。
またもや缶コーヒーを買わせ、今回は味の注文までつけてきたのだ。
本当に、とんでもなく横暴な先輩だ。
ちゃんと会話したくて、どうにか付け入る隙はないかを考えてたら、知らぬ間に先輩の部屋の前まで来てしまった。
これは僕の失敗。
そんなことするつもりじゃなかったから、激しく後悔した。
だけど初めて立ち入った内部に興奮するのも止められず、結果、なぜだか部屋にお邪魔するという図々しさまで発揮した。
だけどここで、ピンときたよ。
高橋先輩のことだから、汚部屋を掃除させるつもりだってね。
彼なら、それくらい平気でやらせるはずだもの。
というのは、結局僕の勘違いだったし、いろいろと失礼なこともしてしまったし……。
浜田先輩のことは、きっと気分良くない話だよね。
だけどね、本当に水を出すところが、やっぱり高橋先輩なんだなぁと思っちゃった。