アーちゃん■MMO日記
[アーちゃん■MMO日記17-2]
『 』←英語だと思ってください
二時間ほど苦手な数学と格闘してから、おもいっきり背伸びをする。
知らない間に、図書室には人が増えていた。
俺のように勉強してるやつもいれば、大人しく読書してるやつもいて、その中に顔見知りを発見。
向こうも俺に気付き、細い眼をさらに細めて近づいてくる。
「さすがは我が校きっての秀才くん、こんな日にも勉強なのな」
「こんな日だからでしょ」
「なんだ、単なる暇人か」
断りもなく俺の隣りに腰を下ろす細い目の男は、総合情報科二年の浜田という。
友人というほど気が置けるわけでなく、知人と言い切れるほど知らない仲でもない浜田は、中等部時代から新聞部に籍を置いていて、現在は部長を務めていた。
うちの新聞部は、学園への貢献度が高い。
実施されるアンケートはほぼ請負ってるし、例のランキングを取り仕切ってるのもココだ。
学園行事の記録係も務めてるから、生徒会とは意外となあなあ。
そのせいか、部費も多めに充てられてるが、その分出費も多いからカツカツらしい。
あくまで、部としてはの話だけどね。
浜田個人は、それなりに潤ってやがる。
「おもろいネタでもあんの?」
「お前が喜びそうなのはないな」
「役に立たねー情報屋だな」
「知りたいことがあるなら調べてやるぜ。格安で」
そう言って、いつも持ち歩いてる黒い革製の手帳を取り出した。
中を見たことはないが、そこにはありとあらゆる情報が書き込まれてるって噂だ。
つまり新聞部部長は、学園の情報屋でもあるってこった。
学内の人間のことなら、パンツの趣味から恋人の有無まで調べてくれるらしい。
もちろん、金はかかる。
「特にねーな」
「なんだ、ただの貧乏人か」
うるさい、と短い足を蹴り上げる。
脛を擦り大袈裟に痛がる浜田に無視を決め込み、視線をノートに戻した。
浜田を追い払ったあとも勉強を続け、昼前に図書室を出た。
食堂で早めの昼食をとってから、部屋に戻るつもりでいる。
その頃なら、とっくに掃除は終わってるだろう。
自分の部屋なのに、なんで気を使わなけりゃなんねーんだ……。
食堂は図書室よりも賑わっていたが、時間帯と曜日のせいで、どこもかしこも空席だらけだった。
たっぷりの日差しが入る窓側に席を取り、本日のランチに目を通す。
おすすめは、春の山菜をふんだんに使用した春御膳。
春と言われても、いまいちピンとこない。
確かに暖かくはなってきたし、新入生もうろついてる。
春と言われたら、文句なく春だ。
しかし山奥という立地条件のせいで、夜ともなればまだまだ肌寒かった。
どっかの誰かさんが寒がりなもんだから、寝るときの毛布もいまだ手放せないくらいだ。
せめて味覚の上で春を満喫しようかなと思った矢先、価格を見て轟沈。
春御膳は早々に案から外して手頃な定食を物色してたら、俺の真ん前の椅子が引かれた。
空席だらけなのに、わざわざそこを選ぶ奴だ、まず顔見知りであろう。
案の定、そこには国際科二年の人見がいた。
「よう」
なんて、気軽に挨拶されたから、俺も手早くおうと返す。
今日は、よくよく知り合いに絡まれる日だ。
人見は俺が見てた画面を洋食に変更して、手早くハンバーガーとピザ、そして大量のフライドポテトを注文した。
傍らには、特大サイズのコーラ――飲み物はセルフ――が準備されていて、まんま、アメリカンな食事。
それもそのはず、この人見ってやつは帰国子女であり、米国人とのハーフでもある。
母親譲りのバタ臭い面に、くっきり二重でブラウンの瞳、鼻は高くて英語はペラペラ、つか英語のほうが母国語に近かった。
場合によってはもてそうな気もするが、人見は、いわゆる残念なハーフってやつだった。
しかも、いや、必然的に(?)ピザデブ寸前であり、このままなら将来メタボ必至であろう。
「Eat more vegetables」
「Potates are vegetables」
俺の、野菜を食えとの発言に、ポテトは野菜だろうとか、どこのテンプレ?
しかも両手を広げてワーオとか、そんなアクションいらねーっつの。
人見の日本語の理解力は、英語を100とするならば、70くらい。
だから日本語でも問題ないが、より分からせるためにと英語で説教してやる。
野菜を食べろというのは、栄養のバランスを考えろって意味であり、フライドポテトが野菜かどうかの話じゃないってことを懇々と。
その間に、人見の注文にサラダを付け加え、ついでに春御膳一人前も追加した。
『おい、なんだよ春御膳ってのは、俺は頼んでねーぞ』
『うっせ、講習料だよっ』
運ばれた品を見て目を剥く人見を完無視して、いざ春の味わいに舌鼓を打つ。
はぁ、満足満足、舌も懐も。
飯を食ってる間、人見は合コンで知り合ったという女の話をしてくれた。
『ブスのくせにさー、まださせてくんないんだよ』
あけすけで下品な話題だが、早口の英語なのがまだマシか。
できれば俺じゃなく他の奴にしてほしいのだが、なぜだか人見はこの手の話題は俺にばかり振ってくる。
それもこれも、俺が童貞じゃないかららしい。
よく分からない理屈だ。
『なー、どうしたらいいと思う?』
『知らねーよ』
『奢ってやったのに、つれないなー』
『……お付き合いしてどれくらい?』
『は? ブスとお付き合い? ありえねー。三回会ったけど』
『……』
呆れて溜息つく俺を、人見が不思議そうに眺めていた。
このアホは、何回同じことを繰り返せば気が済むんだろうか。
『あのな、ブスだからって、男ならなんでもいいってわけじゃないのよっ』
『ブスのくせに相手選ぶとか、ありえんだろ』
『アホか。ブスだろうが美人だろうが、カレシでもない相手にホイホイさせたりしねーわ』
『オンナなんて、キスして押し倒したら勝手に股開くって、お前が言ったんじゃん』
あー、言ったかもね。かなり昔に、そういうこと言ったね、うん、言いました。
でもね、そこに至るまでには、いろんな前提があってだね……。
『やらせないブスと会うのは時間の無駄だな。連絡すんの止ーめた』
失敗ハーフのメタボ予備軍の分際で、人見はかなりのメンクイだ。
恋人にするなら、絶対に美人で可愛いコ。
それが長年の主張ではあるが、残念ながらいまだ恋人ができた例はない。
いずれ好みの相手とめくるめく夜を、と夢見てるうちに童貞を拗らせた結果、恋人とは別で即やらせてくれそうな相手をも探求していた。
そのために、合コンには積極的に参加するし主催する。
実は俺も、何度か呼ばれたことがあった。
言っとくが、出会いを求めてじゃない。
どの合コンも、単なる数合わせで参加させられたってだけ。
飲食代タダの魅力に逆らえるやつは、そうはいないでしょ。
『あーあ、やっぱ○女の女はダメだな』
○女なんて伏字になっちゃいるけど、決して怪しい単語ではない。
大人の都合で伏せちゃいるが、○○女子校という、ここらでは有名なミッション系お嬢様学校を指す略語だ。
そんなところの生徒とお知り合いとは、なかなか隅に置けないな。
『神田も、まだキスもしてないって言ってたし、やっぱお嬢様はお固いのな』
『神田も○女の生徒と付き合ってんの?』
ちなみに神田ってのも、俺の知人。
芸術科の二年で、声楽を専攻してる。
『ああ、かなりの美人だぜ。まさか、あいつに持ってかれるとはな、はぁ、もったいねー』
人見は、かなり口惜しそうにしていた。
その○○女子校との合コンに、神田も参加していて奪われたってことだろう。
あれ、○○女子校との合コン?
『あ、そういやあの合コン、高橋も参加してなかったっけ?』
『いつのやつ?』
『春休みに入る前の、ほら、●●でやった、あれ』
聞き覚えのある店名は、パーティなんかで使用するカラオケ店(さすがに居酒屋なんかは使いません)のものだった。
そういえば、春休み前に行ったような覚えが。
『あー、行ったかな、行ったかも…』
『いたいた、思い出した。あんときお前いたわ。一番人気だった美優ちゃん、覚えてねぇ?』
『みゆちゃん……さあ?』
『あの清楚なお嬢様は、忘れねーだろ』
『清楚ねー、そんなのいたかな?』
『いたいた、実家が病院だっつー、超可愛いお嬢様がいたんだよ』
一瞬、箸を落としそうになった。
それに気付かず、人見は陽気に語り続ける。
ハンバーガー片手に、うーん、アメリカン。
『俺も美優ちゃん狙ってたのになー。くそっ、神田のやつ上手くやりやがって』
『へぇ、狙ってたんだー、残念だったねー』
限りなく棒読みに近い感想に、人見がアレって顔をした。
俺の態度も露骨だが、人見もアメリカンな外見の割りに空気が読める野郎だ。
『アレレ、まさか…』
『で、神田とそのお嬢様が、なんだって?』
『お固くて、キスもさせてくれない……』
『ふうん、処女じゃなかったよ』
「Oh,Jesus...」
言っておくが、合コンに参加したのは飲み食い放題に釣られたから。
女への関心はなく、会話にはほぼ参加してなかったと胸を張って言える。
当然、連絡先の交換なんかもしていない。
それでなぜに美優ちゃんかというと、いざ解散ってところで、男どもは誰を送っていくかで揉めていた。
今思えば、誰が美優ちゃんを送るかで争ってたわけだが、俺はそれを尻目にそうそうに消え、一人駅に向かっていたわけ。
そこに突然現れたのが、件の美優ちゃんだったのさ。
意気投合するほど話してもいないし、正直顔もうろ覚えだったが、さり気なく誘ってきたから、そのままホテルにチェックインした。
いたすことをいたしてから、連絡先は教えずにその場でバイバイ。
会ったのもやったのも、その一回限りだ。
『なんて酷いやつなんだ、お前はっ』
『いやいや、ブスは相手選ぶなとか、平気で言えちゃうお前には負けるよ』
『いいや、お前のほうが酷いぞ。俺がいまだに童貞なのに、なんでお前ばっかりっ』
『それよりもさ、あのお嬢、ああ見えてかなり遊んでるっぽいから、止めておけって神田に言っといてよ』
『畜生、畜生。お前、責任取って、年上のお姉さまでも紹介しろよっ』
『なんの責任だよ』
『畜生、チクショウッ、テクニックか? テクニックなのか!?』
やりたいだけってのを、前面に押し出してるせいでしょ。
でもこれを言ったところで、そんなことはないと否定されるのは目に見えてるし、面倒だから言わない。
『 』←英語だと思ってください
二時間ほど苦手な数学と格闘してから、おもいっきり背伸びをする。
知らない間に、図書室には人が増えていた。
俺のように勉強してるやつもいれば、大人しく読書してるやつもいて、その中に顔見知りを発見。
向こうも俺に気付き、細い眼をさらに細めて近づいてくる。
「さすがは我が校きっての秀才くん、こんな日にも勉強なのな」
「こんな日だからでしょ」
「なんだ、単なる暇人か」
断りもなく俺の隣りに腰を下ろす細い目の男は、総合情報科二年の浜田という。
友人というほど気が置けるわけでなく、知人と言い切れるほど知らない仲でもない浜田は、中等部時代から新聞部に籍を置いていて、現在は部長を務めていた。
うちの新聞部は、学園への貢献度が高い。
実施されるアンケートはほぼ請負ってるし、例のランキングを取り仕切ってるのもココだ。
学園行事の記録係も務めてるから、生徒会とは意外となあなあ。
そのせいか、部費も多めに充てられてるが、その分出費も多いからカツカツらしい。
あくまで、部としてはの話だけどね。
浜田個人は、それなりに潤ってやがる。
「おもろいネタでもあんの?」
「お前が喜びそうなのはないな」
「役に立たねー情報屋だな」
「知りたいことがあるなら調べてやるぜ。格安で」
そう言って、いつも持ち歩いてる黒い革製の手帳を取り出した。
中を見たことはないが、そこにはありとあらゆる情報が書き込まれてるって噂だ。
つまり新聞部部長は、学園の情報屋でもあるってこった。
学内の人間のことなら、パンツの趣味から恋人の有無まで調べてくれるらしい。
もちろん、金はかかる。
「特にねーな」
「なんだ、ただの貧乏人か」
うるさい、と短い足を蹴り上げる。
脛を擦り大袈裟に痛がる浜田に無視を決め込み、視線をノートに戻した。
浜田を追い払ったあとも勉強を続け、昼前に図書室を出た。
食堂で早めの昼食をとってから、部屋に戻るつもりでいる。
その頃なら、とっくに掃除は終わってるだろう。
自分の部屋なのに、なんで気を使わなけりゃなんねーんだ……。
食堂は図書室よりも賑わっていたが、時間帯と曜日のせいで、どこもかしこも空席だらけだった。
たっぷりの日差しが入る窓側に席を取り、本日のランチに目を通す。
おすすめは、春の山菜をふんだんに使用した春御膳。
春と言われても、いまいちピンとこない。
確かに暖かくはなってきたし、新入生もうろついてる。
春と言われたら、文句なく春だ。
しかし山奥という立地条件のせいで、夜ともなればまだまだ肌寒かった。
どっかの誰かさんが寒がりなもんだから、寝るときの毛布もいまだ手放せないくらいだ。
せめて味覚の上で春を満喫しようかなと思った矢先、価格を見て轟沈。
春御膳は早々に案から外して手頃な定食を物色してたら、俺の真ん前の椅子が引かれた。
空席だらけなのに、わざわざそこを選ぶ奴だ、まず顔見知りであろう。
案の定、そこには国際科二年の人見がいた。
「よう」
なんて、気軽に挨拶されたから、俺も手早くおうと返す。
今日は、よくよく知り合いに絡まれる日だ。
人見は俺が見てた画面を洋食に変更して、手早くハンバーガーとピザ、そして大量のフライドポテトを注文した。
傍らには、特大サイズのコーラ――飲み物はセルフ――が準備されていて、まんま、アメリカンな食事。
それもそのはず、この人見ってやつは帰国子女であり、米国人とのハーフでもある。
母親譲りのバタ臭い面に、くっきり二重でブラウンの瞳、鼻は高くて英語はペラペラ、つか英語のほうが母国語に近かった。
場合によってはもてそうな気もするが、人見は、いわゆる残念なハーフってやつだった。
しかも、いや、必然的に(?)ピザデブ寸前であり、このままなら将来メタボ必至であろう。
「Eat more vegetables」
「Potates are vegetables」
俺の、野菜を食えとの発言に、ポテトは野菜だろうとか、どこのテンプレ?
しかも両手を広げてワーオとか、そんなアクションいらねーっつの。
人見の日本語の理解力は、英語を100とするならば、70くらい。
だから日本語でも問題ないが、より分からせるためにと英語で説教してやる。
野菜を食べろというのは、栄養のバランスを考えろって意味であり、フライドポテトが野菜かどうかの話じゃないってことを懇々と。
その間に、人見の注文にサラダを付け加え、ついでに春御膳一人前も追加した。
『おい、なんだよ春御膳ってのは、俺は頼んでねーぞ』
『うっせ、講習料だよっ』
運ばれた品を見て目を剥く人見を完無視して、いざ春の味わいに舌鼓を打つ。
はぁ、満足満足、舌も懐も。
飯を食ってる間、人見は合コンで知り合ったという女の話をしてくれた。
『ブスのくせにさー、まださせてくんないんだよ』
あけすけで下品な話題だが、早口の英語なのがまだマシか。
できれば俺じゃなく他の奴にしてほしいのだが、なぜだか人見はこの手の話題は俺にばかり振ってくる。
それもこれも、俺が童貞じゃないかららしい。
よく分からない理屈だ。
『なー、どうしたらいいと思う?』
『知らねーよ』
『奢ってやったのに、つれないなー』
『……お付き合いしてどれくらい?』
『は? ブスとお付き合い? ありえねー。三回会ったけど』
『……』
呆れて溜息つく俺を、人見が不思議そうに眺めていた。
このアホは、何回同じことを繰り返せば気が済むんだろうか。
『あのな、ブスだからって、男ならなんでもいいってわけじゃないのよっ』
『ブスのくせに相手選ぶとか、ありえんだろ』
『アホか。ブスだろうが美人だろうが、カレシでもない相手にホイホイさせたりしねーわ』
『オンナなんて、キスして押し倒したら勝手に股開くって、お前が言ったんじゃん』
あー、言ったかもね。かなり昔に、そういうこと言ったね、うん、言いました。
でもね、そこに至るまでには、いろんな前提があってだね……。
『やらせないブスと会うのは時間の無駄だな。連絡すんの止ーめた』
失敗ハーフのメタボ予備軍の分際で、人見はかなりのメンクイだ。
恋人にするなら、絶対に美人で可愛いコ。
それが長年の主張ではあるが、残念ながらいまだ恋人ができた例はない。
いずれ好みの相手とめくるめく夜を、と夢見てるうちに童貞を拗らせた結果、恋人とは別で即やらせてくれそうな相手をも探求していた。
そのために、合コンには積極的に参加するし主催する。
実は俺も、何度か呼ばれたことがあった。
言っとくが、出会いを求めてじゃない。
どの合コンも、単なる数合わせで参加させられたってだけ。
飲食代タダの魅力に逆らえるやつは、そうはいないでしょ。
『あーあ、やっぱ○女の女はダメだな』
○女なんて伏字になっちゃいるけど、決して怪しい単語ではない。
大人の都合で伏せちゃいるが、○○女子校という、ここらでは有名なミッション系お嬢様学校を指す略語だ。
そんなところの生徒とお知り合いとは、なかなか隅に置けないな。
『神田も、まだキスもしてないって言ってたし、やっぱお嬢様はお固いのな』
『神田も○女の生徒と付き合ってんの?』
ちなみに神田ってのも、俺の知人。
芸術科の二年で、声楽を専攻してる。
『ああ、かなりの美人だぜ。まさか、あいつに持ってかれるとはな、はぁ、もったいねー』
人見は、かなり口惜しそうにしていた。
その○○女子校との合コンに、神田も参加していて奪われたってことだろう。
あれ、○○女子校との合コン?
『あ、そういやあの合コン、高橋も参加してなかったっけ?』
『いつのやつ?』
『春休みに入る前の、ほら、●●でやった、あれ』
聞き覚えのある店名は、パーティなんかで使用するカラオケ店(さすがに居酒屋なんかは使いません)のものだった。
そういえば、春休み前に行ったような覚えが。
『あー、行ったかな、行ったかも…』
『いたいた、思い出した。あんときお前いたわ。一番人気だった美優ちゃん、覚えてねぇ?』
『みゆちゃん……さあ?』
『あの清楚なお嬢様は、忘れねーだろ』
『清楚ねー、そんなのいたかな?』
『いたいた、実家が病院だっつー、超可愛いお嬢様がいたんだよ』
一瞬、箸を落としそうになった。
それに気付かず、人見は陽気に語り続ける。
ハンバーガー片手に、うーん、アメリカン。
『俺も美優ちゃん狙ってたのになー。くそっ、神田のやつ上手くやりやがって』
『へぇ、狙ってたんだー、残念だったねー』
限りなく棒読みに近い感想に、人見がアレって顔をした。
俺の態度も露骨だが、人見もアメリカンな外見の割りに空気が読める野郎だ。
『アレレ、まさか…』
『で、神田とそのお嬢様が、なんだって?』
『お固くて、キスもさせてくれない……』
『ふうん、処女じゃなかったよ』
「Oh,Jesus...」
言っておくが、合コンに参加したのは飲み食い放題に釣られたから。
女への関心はなく、会話にはほぼ参加してなかったと胸を張って言える。
当然、連絡先の交換なんかもしていない。
それでなぜに美優ちゃんかというと、いざ解散ってところで、男どもは誰を送っていくかで揉めていた。
今思えば、誰が美優ちゃんを送るかで争ってたわけだが、俺はそれを尻目にそうそうに消え、一人駅に向かっていたわけ。
そこに突然現れたのが、件の美優ちゃんだったのさ。
意気投合するほど話してもいないし、正直顔もうろ覚えだったが、さり気なく誘ってきたから、そのままホテルにチェックインした。
いたすことをいたしてから、連絡先は教えずにその場でバイバイ。
会ったのもやったのも、その一回限りだ。
『なんて酷いやつなんだ、お前はっ』
『いやいや、ブスは相手選ぶなとか、平気で言えちゃうお前には負けるよ』
『いいや、お前のほうが酷いぞ。俺がいまだに童貞なのに、なんでお前ばっかりっ』
『それよりもさ、あのお嬢、ああ見えてかなり遊んでるっぽいから、止めておけって神田に言っといてよ』
『畜生、畜生。お前、責任取って、年上のお姉さまでも紹介しろよっ』
『なんの責任だよ』
『畜生、チクショウッ、テクニックか? テクニックなのか!?』
やりたいだけってのを、前面に押し出してるせいでしょ。
でもこれを言ったところで、そんなことはないと否定されるのは目に見えてるし、面倒だから言わない。