平凡君の日々彼此
[平凡君の日々彼此11]
とある休日の午後、アーちゃんに突然呼び出された。
休日は滅多にそんなことをしてこないから、かなり焦って部屋に向かえば、
「飯作って」
「は、い……?」
いまだパジャマのままのアーちゃんが、床に座り込みながら僕に命じる。
いや、お願いか?
「もうヤダ、揚げ物は見たくもないっ。アッくんの地味ーな飯食わせてー」
「……地味は、余計だよ」
揚げ物という単語だけで、だいたいの状況が分かった。
なぜかって、既にアーちゃん家の食卓では、揚げ物が一週間ほど続いていたからだ。
作ったのは、アキラ。
アーちゃんには目立った好き嫌いはなく、トマトだってピーマンだって普通に食べる。
チーズは欠かせないひとだけど、当然、フライ物だって食べるし、食に対しては優等生といえるかもしれない。
だけどさすがのアーちゃんも、一週間連続で揚げ物ばかり出されては耐えられないのだろう。
「アキラを怒らせるからだよ」
「謝りました!」
「でも、三日も経ってからでしょ。それまでは自分は悪くないって言ってたじゃない」
「実際、悪くねーもん」
アーちゃんが、ブスッと不貞腐れる。
本気で悪いとは思ってないみたいだ。
実際のところ、どちらが悪いかなんて当人たち以外には分からない。
アキラとアーちゃんが言い合いしてたのは一週間前だけど、僕たちが気付いたときには既に険悪な雰囲気になっていて、その原因について把握しきれなかったんだもの。
双方折れる事を知らないせいで険悪な空気はそのままに、結局アキラが押し黙って終わった。
それから続くアキラの揚げ物攻撃に、さすがのアッキーですら辟易して、結果、誰もアーちゃんの部屋には近寄らなくなってしまった。
「最初は、コロッケだったよね。次の日はエビフライだっけ?」
「メンチカツ、鶏の唐揚、とんかつ、あじフライ、エビかつ! そんでそこに用意されてるのが、牡蠣フライだとよ!!」
すごいな、ちゃんと覚えてるんだ。
などとアーちゃんの記憶力に感心しながらも、僕は至極当然のことを告げることにした。
「食堂で食べたらいいのに」
「俺の財布隠していきやがったんだよ!」
「アキラ、本気だね」
アーちゃんは胃をさすりながら、熱いコーヒーをがぶ飲みした。
相当胃が重たいみたいだ。
「お願いアッくん、簡単なものでいいから作って」
「自分で作ればいいのに」
そもそもアーちゃんだって、人並み以上に料理ができるんだから。
「キッチンに立つ気力がございません……」
まだ日中だというのに疲れ果てた様子で頼まれては、断るのも気が引ける。
なにより、とても気の毒に見えてしょうがない。
「えっと、本当に簡単なものでいいなら、すぐに作るけど……」
「いいの、簡単なものでいいの! そういうのを求めてんのっ」
すっごく期待されてるけど、ここで天麩羅とか出したらどうなるんだろう……。
やらないけどね。
「はい、どうぞ」
出汁巻き玉子に小松菜のおひたし、きんぴらごぼうに大根のお味噌汁をつけて鯖の煮付けをメインとして出した。
ありあわせのもので作ったにはしては、上出来と言っていいだろう。
アーちゃんはパアっと顔面を綻ばせ、いただきますもそこそこに箸を手にする。
僕は食べないから、対面でその様子を眺めるだけだ。
勢いよく胃袋を満たすアーちゃんに、ふと思ったことを口にする。
「あ、ねぇ、牡蠣フライはどうするの?」
「晩飯にする」
当たり前のことのように、言ってのけた。
そういえばアーちゃんは、文句を言いながらもアキラの用意した食事を残したことはなかったはずだ。
とはいえ、最初の三日間くらいしか知らないけど、その後もすべて食べきってたんじゃないだろうか。
「じゃあ、晩御飯は用意しなくていいね」
「うん、いい」
アキラの嫌がらせというか仕返しは、いつでもアーちゃんに地味なダメージを負わすけど、それでもへこたれずに同じ事を繰り返すアーちゃんは、やっぱりすごいと思う。
だけどなによりもすごく感じるのは、アキラへの思いやりというか愛情だった。
アーちゃんは誰にも負けないほどの強さで、アキラのことを想っているんだ。
そのせいか、結局は猛烈に甘くなるけど……って、それがダメな部分でもあるのかなぁ……。
でも甘さでいえば、アキラだってアーちゃんには負けてないと思うんだよね。
アーちゃんは見てないのかもしれないけど、僕は冷蔵庫の中を確認してそれを確信した。
豆腐にネギにナスに他にもたくさんの青野菜が並び、納豆までもが買い置きされていたから、きっと明日はアーちゃんの望む地味なメニューが並ぶことになるだろう。
ちなみに、ドリンクタイプの胃薬もあった。
「ホント、どっちも甘いよねー」
アーちゃんが、突然何言ってんだこいつ、みたいな顔で僕を見る。
ふふふと思わせぶりに笑い返せば、特に何も言わずに最後の一口を食べきった。
「ごちそーさん」
「お粗末さまでした」
とある休日の午後、アーちゃんに突然呼び出された。
休日は滅多にそんなことをしてこないから、かなり焦って部屋に向かえば、
「飯作って」
「は、い……?」
いまだパジャマのままのアーちゃんが、床に座り込みながら僕に命じる。
いや、お願いか?
「もうヤダ、揚げ物は見たくもないっ。アッくんの地味ーな飯食わせてー」
「……地味は、余計だよ」
揚げ物という単語だけで、だいたいの状況が分かった。
なぜかって、既にアーちゃん家の食卓では、揚げ物が一週間ほど続いていたからだ。
作ったのは、アキラ。
アーちゃんには目立った好き嫌いはなく、トマトだってピーマンだって普通に食べる。
チーズは欠かせないひとだけど、当然、フライ物だって食べるし、食に対しては優等生といえるかもしれない。
だけどさすがのアーちゃんも、一週間連続で揚げ物ばかり出されては耐えられないのだろう。
「アキラを怒らせるからだよ」
「謝りました!」
「でも、三日も経ってからでしょ。それまでは自分は悪くないって言ってたじゃない」
「実際、悪くねーもん」
アーちゃんが、ブスッと不貞腐れる。
本気で悪いとは思ってないみたいだ。
実際のところ、どちらが悪いかなんて当人たち以外には分からない。
アキラとアーちゃんが言い合いしてたのは一週間前だけど、僕たちが気付いたときには既に険悪な雰囲気になっていて、その原因について把握しきれなかったんだもの。
双方折れる事を知らないせいで険悪な空気はそのままに、結局アキラが押し黙って終わった。
それから続くアキラの揚げ物攻撃に、さすがのアッキーですら辟易して、結果、誰もアーちゃんの部屋には近寄らなくなってしまった。
「最初は、コロッケだったよね。次の日はエビフライだっけ?」
「メンチカツ、鶏の唐揚、とんかつ、あじフライ、エビかつ! そんでそこに用意されてるのが、牡蠣フライだとよ!!」
すごいな、ちゃんと覚えてるんだ。
などとアーちゃんの記憶力に感心しながらも、僕は至極当然のことを告げることにした。
「食堂で食べたらいいのに」
「俺の財布隠していきやがったんだよ!」
「アキラ、本気だね」
アーちゃんは胃をさすりながら、熱いコーヒーをがぶ飲みした。
相当胃が重たいみたいだ。
「お願いアッくん、簡単なものでいいから作って」
「自分で作ればいいのに」
そもそもアーちゃんだって、人並み以上に料理ができるんだから。
「キッチンに立つ気力がございません……」
まだ日中だというのに疲れ果てた様子で頼まれては、断るのも気が引ける。
なにより、とても気の毒に見えてしょうがない。
「えっと、本当に簡単なものでいいなら、すぐに作るけど……」
「いいの、簡単なものでいいの! そういうのを求めてんのっ」
すっごく期待されてるけど、ここで天麩羅とか出したらどうなるんだろう……。
やらないけどね。
「はい、どうぞ」
出汁巻き玉子に小松菜のおひたし、きんぴらごぼうに大根のお味噌汁をつけて鯖の煮付けをメインとして出した。
ありあわせのもので作ったにはしては、上出来と言っていいだろう。
アーちゃんはパアっと顔面を綻ばせ、いただきますもそこそこに箸を手にする。
僕は食べないから、対面でその様子を眺めるだけだ。
勢いよく胃袋を満たすアーちゃんに、ふと思ったことを口にする。
「あ、ねぇ、牡蠣フライはどうするの?」
「晩飯にする」
当たり前のことのように、言ってのけた。
そういえばアーちゃんは、文句を言いながらもアキラの用意した食事を残したことはなかったはずだ。
とはいえ、最初の三日間くらいしか知らないけど、その後もすべて食べきってたんじゃないだろうか。
「じゃあ、晩御飯は用意しなくていいね」
「うん、いい」
アキラの嫌がらせというか仕返しは、いつでもアーちゃんに地味なダメージを負わすけど、それでもへこたれずに同じ事を繰り返すアーちゃんは、やっぱりすごいと思う。
だけどなによりもすごく感じるのは、アキラへの思いやりというか愛情だった。
アーちゃんは誰にも負けないほどの強さで、アキラのことを想っているんだ。
そのせいか、結局は猛烈に甘くなるけど……って、それがダメな部分でもあるのかなぁ……。
でも甘さでいえば、アキラだってアーちゃんには負けてないと思うんだよね。
アーちゃんは見てないのかもしれないけど、僕は冷蔵庫の中を確認してそれを確信した。
豆腐にネギにナスに他にもたくさんの青野菜が並び、納豆までもが買い置きされていたから、きっと明日はアーちゃんの望む地味なメニューが並ぶことになるだろう。
ちなみに、ドリンクタイプの胃薬もあった。
「ホント、どっちも甘いよねー」
アーちゃんが、突然何言ってんだこいつ、みたいな顔で僕を見る。
ふふふと思わせぶりに笑い返せば、特に何も言わずに最後の一口を食べきった。
「ごちそーさん」
「お粗末さまでした」