平凡君の日々彼此
[平凡君の日々彼此10-1]
『突飛な行動、突然の言いがかり』
これらの迷惑というか困った言動を、アキラはほぼ日常的に行っている。
最初は驚いた。その都度、頭を悩ませたりもした。
だけど、ふと気が付いたんだ。
僕が直接的な被害に遭うことは、ほぼないんだってことに。
だから放っておいてもいいんだってことにね。
「実に腹立たしいっ」
どのタイミングでスイッチが入ったのか、アキラがそんなことを言い出した。
「はい?」
それを真正面から受け止めたアーちゃんは、ただただ唖然と返すだけ。
それもいたしかたない。
彼はつい今しがた、お風呂から出たばかりなんだもの。
リビングに顔を出した途端の難癖に、なんのことやらさっぱりだろう。
でも安心して、それは僕たちも同じだから。
アーちゃんがお風呂に入ってる間、ずっと一緒にいた僕たちも、アキラが何に腹を立てたのかさっぱり分からないんだよ。
つまり、兆候なんかなかったってこと。
「あ、自慢、自慢ですね。自分の格好よさを自慢しているのですねっ」
「いえ、あの……状況が読めないんですが……」
呆れと戸惑いを見せながら、アーちゃんがなんとか返した。
だけど、どうやらそこまでのようです。
だから精一杯の勇気を出して、僕が代表して訊いてみることにした。
「ア、アキラ、どうかしたの?」
「アッくん、あれですよ、あれ。実に腹立たしいと思いませんか?」
「えっと、な、何が?」
アキラが力強く指差した先には、アーちゃんがいるだけだ。
暑いのか、片手にシャツを持ち、ハーフパンツを穿いただけのアーちゃんがね。
さっきまで濡れた髪を拭いていたけど、今その手は止まっている。
「もうっ、わかりませんか!?」
誰も察することができず、アキラが頬をプクッと膨らませた。
そして勢いよく立ち上がると、早足でアーちゃんの正面に立ったのだ。
その勢いのまま、わけが分からず硬直するアーちゃんの胸あたりをパチンと叩く。
「いってぇっ」
剥きだしの肌を叩かれたんだ、そりゃ痛いよね。
「これですよ、これっ」
痛いというアーちゃんの抗議は耳に届かなかったのか、アキラは続けざまに二回、同じ事を繰り返した。
パチン、パチンと。
アーちゃんには同情するけど、アキラのいわんとしてることをようやく察することができました。
「わ、分かった。筋肉だ、筋肉。アーちゃん、ズルイよっ」
「はぁ!?」
「そうです、その通りです。ズルイですっ、自慢ですっ」
「あ、あうう、なの、のよー、アーちゃん、わるいの、のよっ」
僕とアキまでが加わって、さすがのアーちゃんもオロオロしだし、唯一冷静なアッキーに助けを求めるような視線を送った。
だけどアッキーは、なるほどとばかりに一つ頷いたあと、無言を貫いた。
出会った頃に比べて、アーちゃんは目覚しく成長している。
成長期のせいだと分かってはいるけど、その成長たるや実に羨ましいレベルなのだ。
身長はグングン伸びていて、まさかまさかの80台に乗るつもりでいるのかもしれない。
それだけでも裏切られた気分なのに、運動なんかしないうえグウタラで不摂生のくせに、バランスのよい筋肉がついているという、許せないくらいに恵まれた体格になっているんだ。
しかも、見るからに足が長い。なんとなく、これが一番許せなかった。
アッキーは、その能力に見合わないほど細身で、失礼ながら筋肉がついてるようには見えない。
アキは、まぁ置いといて、アキラはとにかく細く華奢と言っていい体型だし、僕なんかもともと筋肉はないけど最近はポッチャリしてきている。
そんなキラキラ会会員のなかで、唯一男らしい肉体を手に入れたアーちゃんに、嫉妬したくなるのも分かる気がするんだ。
しかも湯上りに、堂々裸身を晒していれば、
「自慢ですっ」
のセリフにも一理あると言っていい……のかな?
■■■
『サクランボの茎を舌で結べると、キスが上手い』
これって、よく聞く話だよね。
でも実際は、あまり関係はないらしい。
結ぶには茎を噛んだりとコツがあるそうで、練習すればできる人が多いんだそうだ。
器用だという意味合いから、そういう面白おかしい話になったのだろうということだった。
「ふーん、でも僕にはできないや」
「僕もできません」
本日のおやつ、山盛りに詰まれたサクランボを食べながらの話題は、ちょっぴりドキドキする内容となっていた。
「アーちゃんはお得意なんですがね」
「ふ、ふーん、そうなんだ……」
こういうとき、いつも話題に上る本人は、聞こえないフリでサクランボを食べていた。
「アーちゃん、やってみせてください」
「やだ」
専用の器に、種をプッと吹き出しての即答。
これは、言われることが分かってたんだろうね。
「もう、ケチくさいですよっ」
「ケチで結構」
言いながら、アーちゃんが次のサクランボを摘み上げた。
茎の部分を指で挟み、果実だけを唇でもぎ取って、茎のほうはなんの未練もなくポイ。
うん、普通の食べ方だ。
それを見て、アキラの頬がプクッと膨らんだ。
「嫌がらせですか?」
「意味わかんねー」
「少しばかりキスがお上手だからと、むぐ、むぐぐ」
咄嗟に伸びたアーちゃんの腕が、アキラの顔面を捉えた。
いや、正確には顔の下半分だけ、口元を見事に塞いでいたのだ。
だけど手遅れとも言える状況に、今度は僕が聞こえなかったフリをする。
「こ、このサクランボ、甘くて美味しいねー」
僕の、ちょっと苦しいセリフに、アーちゃんは笑顔で同意してくれた。
『突飛な行動、突然の言いがかり』
これらの迷惑というか困った言動を、アキラはほぼ日常的に行っている。
最初は驚いた。その都度、頭を悩ませたりもした。
だけど、ふと気が付いたんだ。
僕が直接的な被害に遭うことは、ほぼないんだってことに。
だから放っておいてもいいんだってことにね。
「実に腹立たしいっ」
どのタイミングでスイッチが入ったのか、アキラがそんなことを言い出した。
「はい?」
それを真正面から受け止めたアーちゃんは、ただただ唖然と返すだけ。
それもいたしかたない。
彼はつい今しがた、お風呂から出たばかりなんだもの。
リビングに顔を出した途端の難癖に、なんのことやらさっぱりだろう。
でも安心して、それは僕たちも同じだから。
アーちゃんがお風呂に入ってる間、ずっと一緒にいた僕たちも、アキラが何に腹を立てたのかさっぱり分からないんだよ。
つまり、兆候なんかなかったってこと。
「あ、自慢、自慢ですね。自分の格好よさを自慢しているのですねっ」
「いえ、あの……状況が読めないんですが……」
呆れと戸惑いを見せながら、アーちゃんがなんとか返した。
だけど、どうやらそこまでのようです。
だから精一杯の勇気を出して、僕が代表して訊いてみることにした。
「ア、アキラ、どうかしたの?」
「アッくん、あれですよ、あれ。実に腹立たしいと思いませんか?」
「えっと、な、何が?」
アキラが力強く指差した先には、アーちゃんがいるだけだ。
暑いのか、片手にシャツを持ち、ハーフパンツを穿いただけのアーちゃんがね。
さっきまで濡れた髪を拭いていたけど、今その手は止まっている。
「もうっ、わかりませんか!?」
誰も察することができず、アキラが頬をプクッと膨らませた。
そして勢いよく立ち上がると、早足でアーちゃんの正面に立ったのだ。
その勢いのまま、わけが分からず硬直するアーちゃんの胸あたりをパチンと叩く。
「いってぇっ」
剥きだしの肌を叩かれたんだ、そりゃ痛いよね。
「これですよ、これっ」
痛いというアーちゃんの抗議は耳に届かなかったのか、アキラは続けざまに二回、同じ事を繰り返した。
パチン、パチンと。
アーちゃんには同情するけど、アキラのいわんとしてることをようやく察することができました。
「わ、分かった。筋肉だ、筋肉。アーちゃん、ズルイよっ」
「はぁ!?」
「そうです、その通りです。ズルイですっ、自慢ですっ」
「あ、あうう、なの、のよー、アーちゃん、わるいの、のよっ」
僕とアキまでが加わって、さすがのアーちゃんもオロオロしだし、唯一冷静なアッキーに助けを求めるような視線を送った。
だけどアッキーは、なるほどとばかりに一つ頷いたあと、無言を貫いた。
出会った頃に比べて、アーちゃんは目覚しく成長している。
成長期のせいだと分かってはいるけど、その成長たるや実に羨ましいレベルなのだ。
身長はグングン伸びていて、まさかまさかの80台に乗るつもりでいるのかもしれない。
それだけでも裏切られた気分なのに、運動なんかしないうえグウタラで不摂生のくせに、バランスのよい筋肉がついているという、許せないくらいに恵まれた体格になっているんだ。
しかも、見るからに足が長い。なんとなく、これが一番許せなかった。
アッキーは、その能力に見合わないほど細身で、失礼ながら筋肉がついてるようには見えない。
アキは、まぁ置いといて、アキラはとにかく細く華奢と言っていい体型だし、僕なんかもともと筋肉はないけど最近はポッチャリしてきている。
そんなキラキラ会会員のなかで、唯一男らしい肉体を手に入れたアーちゃんに、嫉妬したくなるのも分かる気がするんだ。
しかも湯上りに、堂々裸身を晒していれば、
「自慢ですっ」
のセリフにも一理あると言っていい……のかな?
■■■
『サクランボの茎を舌で結べると、キスが上手い』
これって、よく聞く話だよね。
でも実際は、あまり関係はないらしい。
結ぶには茎を噛んだりとコツがあるそうで、練習すればできる人が多いんだそうだ。
器用だという意味合いから、そういう面白おかしい話になったのだろうということだった。
「ふーん、でも僕にはできないや」
「僕もできません」
本日のおやつ、山盛りに詰まれたサクランボを食べながらの話題は、ちょっぴりドキドキする内容となっていた。
「アーちゃんはお得意なんですがね」
「ふ、ふーん、そうなんだ……」
こういうとき、いつも話題に上る本人は、聞こえないフリでサクランボを食べていた。
「アーちゃん、やってみせてください」
「やだ」
専用の器に、種をプッと吹き出しての即答。
これは、言われることが分かってたんだろうね。
「もう、ケチくさいですよっ」
「ケチで結構」
言いながら、アーちゃんが次のサクランボを摘み上げた。
茎の部分を指で挟み、果実だけを唇でもぎ取って、茎のほうはなんの未練もなくポイ。
うん、普通の食べ方だ。
それを見て、アキラの頬がプクッと膨らんだ。
「嫌がらせですか?」
「意味わかんねー」
「少しばかりキスがお上手だからと、むぐ、むぐぐ」
咄嗟に伸びたアーちゃんの腕が、アキラの顔面を捉えた。
いや、正確には顔の下半分だけ、口元を見事に塞いでいたのだ。
だけど手遅れとも言える状況に、今度は僕が聞こえなかったフリをする。
「こ、このサクランボ、甘くて美味しいねー」
僕の、ちょっと苦しいセリフに、アーちゃんは笑顔で同意してくれた。