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ひねもすのたりのたり

[ひねもすのたりのたり4-完]


結論からいえば、アキのモヤモヤは病気ではなかった。
これにはかなりホッとさせられた。
アキラもアッくんも泣かなくていいし、アッキーが責任を感じる必要もなくなったのだから。
ただ、アーちゃんのハゲだけは捨てがたい。

「で、飯はどうすんだ?」

「うう、うう」

現在の時刻は、お昼を回ったくらいだ。
ちょうどお腹が空く時間帯で、例のグゥゥグゥゥという音の正体は、アキのお腹の虫だとわかっている。
よくよく考えたら、朝食後から何も食べていないのだ。
しかも午前中の運動量は、ハンパなかった。
そのせいで、奇妙なモヤモヤに襲われてしまったのだ。
お腹が空いてモヤモヤするのは必然で、それを忘れていた自分が真剣に恥ずかしい。

「うう、しろいの、するのよ」

「昼飯って言ってんだろが」

「ううう、ううう、しろいの、なの」

「寮戻ってからにするか」

「う、あい」

この空腹感で30分の道のりは、ちと辛いものがある。
それでも寮に戻って食べるという選択に、ノーと返す気にはならなかった。
明石だってたぶん、お腹が空いてるはずだ。
それでも外食を選ばなかった理由は、ひとえにアッキーの手料理が食べたいということだろう。
つまりは、アキと同じ理由。
無愛想で乱暴で、アキをないがしろにするどうしようもない男だが、アッキーの作る料理はどれもこれも美味しくて、いつでもどんなときでも食べたいと思わせる魅力があるのだ。

「じゃ、とっとと帰るか」

「あい、なの」

再び差し出された手を、今度はしっかりと掴んだ。
明石の手は、相変わらずゴツゴツして温かい。

「昼食と、ついでに晩飯も食わせろよ」

「あい、なのよ」

それはつまり、夜まで一緒にいるということだ。
アッキーがどう言うかは知らないが、アキが許したのだから構わない。
なんとなくだけど、それがちょっぴり嬉しい気もするし、夕飯がグラタンかお肉だとなお嬉しいと思える。

「で、肉出んのかよ」

「ないの、アキ、ないのよ、のよ」

「ったく、相変わらず使えねーな」

「あうっ」

「いてっ、チビ!」



帰ってきたら、アッキーがきょとんとしていた。
一人で出かけたはずのアキが、明石と帰ってきたのだから当然といえば当然の反応だろう。
だがそこはアッキー、特に追求もしてこなかった。
ただ、昼食を外で食べてこなかったことに対し、理不尽な怒りをみせてはいたが。

「そういやあ、結局なんだったんだ?」

「あう?」

たっぷりの昼食でモヤモヤを消し去ったあとの、ようやく迎えたおやつの時間。
アキは、邪道極まりないキャベツのパウンドケーキに舌鼓を打っていた。

「ダサい格好でつけてきたのは、なんでだって訊いてんだ」

「……あう?」

ダサい格好など、アキがするはずない。
いやいや、今はそういうことを気にしてる場合じゃなかった。
明石をつけただと?
そういえば、そんなことをしてたような……。
はて、いったいどうしてそんなことを?

「探偵ごっこか?」

「あう?」

探偵だと?
戦士アキが、人様の粗探しをするとでも?
たまにするが。

「訊いた俺が馬鹿だった。忘れろ」

「あい、なの」


女性については、アキ視点では謎のままです。
だからといって明石視点があるわけではございませんが。
というか、正体なんてわかりきってますよね。
はい、そうです。『明石のお姉さん』です。
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